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番外編や短編集

             おとぎ戦国のハロウィン

季節は木々が赤く深まり始めた秋。豊臣秀吉が治める大阪城下町はいつもに増して賑わっていた。市場や旅籠の玄関や瓦屋根には見慣れない橙色のカボチャや、米俵に白い布を被し、黒と赤の染料で顔が塗られたお化けの置物やコウモリの陶器が飾ってあった。
「これがヨーロッパの祭り、ハロウィンか。本場での祭りも見てみたいな」
関東の大名、北条氏政に仕える客将の湘(しょう)は偵察で大阪に来ていた。彼は海洋族と人間の混合種なので、軽々と相模国から大阪まで泳げてしまう。
「戦とは無縁な風景だな。おや?」
湘は見覚えのある眼鏡の青年を見つけ彼の元へ向かった。

「飴は誤って飲み込まないように気をつけて下さい」
信濃の真田家に仕える青年、千里(せんり)は三角帽子とえんじ色の衣を身に着け、子供達に色とりどりの飴を配っていた。湘はさり気なく近づき、そっとカボチャ型の籠に手を入れたが、千里に腕を掴まれた。
「残念・・やはり私の気配に気づいていたか、千里」
湘は千里の隙の無い反応を潔く認めた。
「いくら湘さんであれど、こっそり取るのはいけません。飴欲しいと言ってください」
千里は淡々と注意した。二人は故郷や仕える主人は異なるが、共に日ノ本を闇から護る勇士である。
「湘さんもハロウィンを見に大阪へ来たのですか?」
「ああ。秀吉公が開くハロウィンなるものがどんな物か調べに来たのだよ。氏政殿に教えたいと思ってな」
湘は、本当は豊臣の情勢を調べに行ったら、たまたまハロウィン祭りの最中だったので、そういう事にしておこうと話を合わせた。
「それにしても、随分と慣れているようだが平安末期にはハロウィン文化は伝わっていないよな?」
「その頃はまだ、宋か高麗としか貿易していません」
千里は平安末期に陰陽師に造られた人造戦士。三百年以上も封印され現在に目覚めた。湘はそんな彼が適応力と知能が高いとはいえ、西洋の祭りに抵抗無く楽しめるのに感心していた。
「ハロウィンは見た事の無いカボチャや仮装を見られ興味深いです。カボチャが食用ではないのは残念でしたが」
食べる事が大好きな千里は珍しく残念そうな顔をしていた。湘は苦笑いしながら言った。
「飾り用のカボチャだからな。実用性が無いから日ノ本では育てないだろう」
その後、湘も紺色の長布を身につけ、吸血鬼風に仮装し千里と一緒に飴を配った。


大阪城の庭園では天下人秀吉を始め、各大名や町人も紅葉狩りをしながら宴を楽しんでいた。花壇には秋桜やケイトウなど秋の花が植えられ、所々にカボチャやお化けの陶器が飾っていた。出雲の渡神官、桜龍(おうりゅう)は庭園で蝶やトンボの式神を出現させ花々をより一層引き立たせた。
「綺麗に咲いているなー。この花はモトスさん達が植えたのかな」
桜龍は紅葉の木を見ながら戦友の事を考えていると、風と共に紅葉の葉が舞い散った。風の正体は、忍びのモトスだった。
「俺の気配に気づくとは、ただ宴を楽しんでいるだけではないようだな」
モトスは千里と共に真田昌幸に仕える忍びの男。何時もの軽鎧に黒装束ではなく、西洋輸入の緑色のローブを着て奇術師のような姿に仮装していた。
「モトスの旦那も宴を盛り上げていますね。今のも手品ってやつですかい?」
「そうだな。忍軍で忍術を応用させた手品を披露している。桜龍も花に合う蝶やトンボを出現させているな」
「この宴を華やかに盛り上げたいから、練習頑張りましたよ。旦那も花壇の植え込みとかお疲れ様です」
桜龍は式神の蝶をモトスの手に乗せると彼は朗らかに笑った。
「まだまだ戦は続くだろうけど、この一時は穏やかに過ぎて欲しいですね」
桜龍は愉快に舞っている秀吉や歓声を浴びせている家来達を見ながら呟いた。モトスも昌幸とその息子、信之と幸村の笑顔を見て、「そうだな」と答えた。そんな中、秀吉達の前に黄金色の西洋鎧を着た逞しい男が漆塗りの器を皆に見せていた。
「あれは、球磨(きゅうま)ではないか。あの者も大阪に来ていたのだな」
「ああ、クマちゃんは今、豊臣兵の武術指南役として雇われているんですぜ。あと、料理も手伝っているみたいだ」
球磨もまた、桜龍達と共に戦う勇士である。九州の肥後国から戦と報酬を求め旅する傭兵だ。秀吉は猿のように愛嬌のある笑顔を向け球磨に言った。
「おお!!カボチャで練り切りを作ったか球磨よ。何とも繊細で可愛らしい」
「結構器用なのだな。球磨は」
秀吉の重臣、石田三成が顔には出さないでいるが感心していた。すると、昌幸がニヤッとしながら、三成に尋ねた。
「三成殿、もしや作り方を教えて欲しいという顔かな?」
「な・・私は別に、どう作るのか気になってなどない!!」
三成は赤面しながら本音を口走ってしまった。周りにいる家来達は思わず笑い出した。
「三成はもう少し素直になれ」
秀吉は大笑いしながら三成の肩を叩いた。侍女達が野点の支度をしている間に球磨は皆に和菓子を配った。すると彼の元に桜龍とモトスが近づいてきた。
「クマちゃん、和菓子4人分余ったらちょうだいな。千里の分とおそらく湘おじも様子見に来てるだろうし」
「こらこら、野点の菓子だから無理を言ってはならぬぞ」
桜龍の頼みをモトスは制したが、球磨は陽気な口調で応えた。
「おうよ!!野点が終わったら、町の皆にも配るから、沢山用意してあるぜ」
「桜龍とモトスも来たか。お主達も野点に参加しないか?」
秀吉は二人を誘ったが、丁重に断られた。二人は宴を盛り上げようとモトスは手品を披露し、桜龍は白い布を被り、手を上下に伸びるように動作した。
「これぞ、お化け音頭~♪」
「なんじゃそりゃあ・・・」
球磨が呆れて、モトスは朗らかに笑い見守った。三成や大名達は踊りの意味が分からず首を横に傾げていたが、秀吉や町人には盛大に受けていた。

「ククク・・・ハロウィンに浮かれている猿共め。邪神様から頂いた暗黒の力を見せてやる」
黒いローブを纏った黒髪の青年は、牙をむき出しながら怪しく光る紅玉の欠片を大阪城に放った。

数刻が経ち、飴を配り終えた湘と千里は大阪城に向かっていた。城門に入ると四方八方から悲鳴が聞こえた。
「これは・・仮装で驚かしている悲鳴ではないな」
「庭園のほうから邪気を感じます。急ぎましょう!!」
湘と千里は駆け足で城内へ進んだが、西洋鎧の軍団に阻まれた。軍団は人間では無く生気を感じない。湘は甲冑を見ると、紅い魔法陣の呪印を目にした。
「邪神の手先か。愉快な祭りを壊しに来たのかねぇ」
湘は呆れながら銃剣を構えた。千里も呪文を唱えながら敵の数を調べた。
「親玉は近くに居ますね。そいつが操っています」
軍団は二人を囲んだが、水と土の加護を持つ勇士にとって敵ではなかった。湘は清らかな水で鎧を錆びさせ、動きが鈍ったところを呪印目掛け銃弾を放った。千里は岩を出現させ鎧の繋ぎ部分を破壊していき、砂嵐で一気に敵を巻き込み浄化させた。あっと言う間に軍団は消え去り、二人は城門へ向かった。


その頃、庭園では桜龍とモトスと球磨も鎧の悪霊と戦っていた。三成と昌幸は秀吉を護り、真田兄弟も加勢していた。
「これは一体何なんだ!!秀吉様を狙って来たのか」
「それはないな・・秀吉様を狙うよりも、宴を壊そうとしている」
幸村が十文字槍で呪印を刺しながら兄の信之に言った。信之も棘が付いた鞭で敵を打ち払い応戦していた。
「信之、幸村!!お主達は秀吉様達をお連れし、城を出るのだ!!」
モトスは旋風を帯びた蹴り技で敵を蹴散らした。二人は分かったと頷き離脱した。巨大なドクロの兵が行く手を阻むも、球磨の怪力により遠くに投げ飛ばされ倒れたところを聖なる炎で浄化された。その時、城壁の上から黒いローブの男が姿を現した。
「まだまだ宴は終わってないよ、君達。私の名はリモウコ。ハロウィンの主役であるヴァンパイアを誘わないのは舐められたものだ」
リモウコはキザな口調でマントを広げたが、皆はシーンと反応しなかった。モトスは聞いたことない外国語を球磨に聞いた。
「う゛あんぱいあとは西洋妖怪か?舌を噛みそうな名だ」
「まあ、いわば吸血鬼の外国語だな。孤児院の院長から聞いたことあるが、院長が『迷信だがそんなのが現れたら布団叩きで尻を叩く』と言ってたなー」
球磨が笑いながら説明すると、リモウコは苛々し始めた。さらに桜龍が的外れな事を言った。
「それって、東南アジアで取れる果物と同じ名前か?出雲の皆と食べて美味かったぜ」
「それはパパイヤだ!!貴様ら高貴なヴァンパイアを愚弄しおって!!」
リモウコは黒い風の刃を三人に目掛け放った。素早く跳躍し避けたが、桜龍の後ろに置いてあったカボチャの陶器に当たり粉々に砕けてしまった。
「こら貴様!!大切な陶器を壊すんじゃねーよ!!!」
桜龍は腹を立てながら敵に抗議した。
「そんなの貴様らが避けなければ良い話であろう。素直に私の攻撃を受けてみよ!!」
続いてリモウコは漆黒の羽から闇の波動を放った。三人は必死に避けながら庭園を壊さないように武器や魔法で攻撃を弾いた。球磨は炎を纏った槍で攻撃を打ち消しながら言った。
「これも邪神から得た力か・・・こいつを倒さねえ限り鎧の軍団は復活し続けるぜ」
リモウコは再び鎧兵を復活させようとしていた。長期戦になれば不利であることも三人には分かっていた。その時、氷の砂が鎧兵を包み込ませ、一網打尽に凍らせた。千里の砂と湘の吹雪の魔法の融合で発動させたものである。リモウコはまだ仲間がいたのか!?とばつが悪そうな顔をした。
「千里!!飴配り終わったのか。湘もやはり大阪に来ていたのか」
「モトス達も察しているように、この敵は邪神の力によって操られている。その根源は紅玉だ。それを取り出せば、蝙蝠の妖怪も元に戻るだろう」
「湘さんの言う通り、ここは早くに浄化させ、鎧兵の復活も阻止しましょう」
湘と千里の助言に桜龍は頷き皆に合図した。
「おう!!勇士五人揃えば敵も恐れ参るぜ!!大阪の皆の為に早くハロウィンの続きをしたいからな。一気に成敗するぜ!!」
「五人集まったところで、私の脅威ではないわー!!!!」
再びリモウコは闇の波動を放ったが、千里の土の壁で遮られた。モトスは素早い動きで敵に近づき、蝙蝠の弱点である薄荷の粉を振りまいた。
「く・・・私は薄荷の香りに弱いのだ・・・」
身動きが取れなくなった隙に湘は黒い羽を凍らせ銃で砕いた。リモウコは完全に動きを封じられ、最後の悪あがきに特大の闇の力を放ったが、球磨の十字に描いた炎を浴び、かなりの衝撃を喰らった。
「楽しい祭りの一時を狙ったのは許さねぇが、お前も邪悪な者に操られたようだな。悪の根源を成敗し、その後は一緒にハロウィンを楽しもうぜ」
桜龍の太刀には白金色の聖なる龍が纏われリモウコ目掛け光の波動が放たれた。
「ぐ・・うわああー!!!!!これが・・・聖龍の力・・・・・・」
リモウコは煌びやかな聖龍に包まれ邪悪な力は浄化された。そして、手の平に収まるほどの小さな蝙蝠の姿となった。
(私は、ヨーロッパから日ノ本へ輸出したカボチャや西洋菓子の中に紛れてしまった。遠い国に来て不安な時に、『禍津日神(まがついのかみ)』から紅玉を授かった。これが負の心を邪悪な心に変えるものだとは知らなかったのだ・・・)
桜龍はリモウコを懐で温めながら真相を聞いた。
(私が不安の中、楽しそうに宴を開いていたのが羨ましかったのだ・・・。)
「そうか。それならなおさら、ハロウィンを楽しもうぜ!!ヨーロッパに帰りたいなら、湘おじの人魚の力でひとっ飛びだぜ!!」
「何を勝手に決めているのだ君は。でもまぁ、私の泳ぎでヨーロッパなど一日もかからず泳げる。向こうの情勢も気になるしな」
湘は桜龍の提案に文句言いながらも、遥か遠い大陸へひと泳ぎしようと決めていた。
「カボチャの練り切りはまだ沢山あるから、いっぱい食って良いぜ」
球磨は和菓子を一つ、リモウコに渡すと嬉しそうに頬張っていた。
「戦いが終わったから、秀吉様や昌幸達を呼びに行くか」
「壊れた陶器などは僕の土の魔法で治しておきますね」
その後も再び、大阪城と城下町では盛大なハロウィンの宴が開かれ盛り上がった。
「御伽勇士の活躍に大阪の皆も天晴れだ!!今日は夜まで宴を開こうぞ!!」
秀吉を始め、大名達はハロウィンに勇士の戦いを観られて、大層盛り上がりであった。


                        おしまい🎃
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