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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

その頃、桜龍とツクモは刀と刀を交え互角に戦っていた。
「なかなかの実力者とね。君の左目のそれは、聖龍の瞳かね?とある人物から聞いたことがあってね」
ツクモは微笑みながら質問したが、桜龍は動じること無く平然とした口調で答えた。
「よくぞご存じで。俺の左目に心を奪われたかい?聖龍は教祖サンを拒んでいるぜー」
「余はそんな物は要らんけん。余には神をも超える絶対の強さを持っているとね」
桜龍は絶対の強さという発言に、なるほどと納得した。
「面白い自信だな。まるであんたは異国の古代神話の魔人みたいだぜ」
桜龍の挑発めいた口調に、ツクモは「君はおだてるのが上手たい」とご満悦だった。その後も互いに褒め殺しを言いながら、雷と炎の力がぶつかり合っていた。

一方仁摩は太宰府の学者紋治の頼みで、娘の胡桃をトワ・パライソの信者になってはいけないと説得したが、完全に聞く耳を持っていなかったので、仁摩は懐から呪縛を解く護符を出し、彼女の胸に当てようとした。だが、紅史郎に札を斬られ阻止された。
「邪魔をしないで!!胡桃さんはこんな怪しい宗教に居てはいけないわ。あなたも何故、こんな男に加担するの?」
仁摩は杖術で杖の先端を紅史郎目掛け、突きを繰り出した。しかしいとも簡単に双剣で受け止められ避けられてしまう。紅史郎は冷静に悪びれも無く彼女に答えた。
「僕は今、とある大名に仕えている。ツクモ様はその大名に太平の世を築かないかと協力してくれている。トワ・パライソは乱世を終わらせようとしているのだ。胡桃殿は自ら民達に教えを説こうとしているのだぞ!!」
紅史郎は手加減し、仁摩に杖を双剣で押しのけた。仁摩は刃の圧力に耐えられず押し倒され、目元に刃を向けられた。桜龍は仁摩!!と彼女の元へ助けに行こうとしたが・・・。
「よそ見はいかんとね」
桜龍は後ろを振り向いた時、火炎弾が飛んできた。術を遮る結界を出現させ、火炎は間一髪で消したが、熱風だけが残り吹き飛ばされてしまった。桜龍は立ち上がろうとしたが、ツクモは炎を纏った二刀の圏を彼と仁摩に目掛け投げようとしたその時、神速の如く球磨が西洋槍に聖なる炎を纏わせ、ツクモに十字を描いた炎を放った。ツクモは圏で炎を裂き消したが隙が出来、球磨の拳が彼の腹部に直撃し、一瞬怯んだ。
「く・・・闘志の炎が再び燃え上がったかね?」
ツクモは驚き額から汗が出てはいたが、まだ涼しい顔をしていた。球磨は戦いを楽しむかのように心を躍らせていた。
「はん!!俺が無抵抗なのを良い事に好き勝手しやがって!!それと、桜龍と巫女の嬢ちゃんを焼こうとしたのが許せなくてね!!」
球磨は止まぬ速さと怪力でツクモに挑んだ。桜龍はいつもの球磨に戻って良かったと微笑んだ。
「そう来なくては面白くなかとね。君に余の本気を見せるとーね」
ツクモの炎は紅から闇のような紫黒色に燃えた。一方、球磨の炎は朱色から黄金のような眩い光のような炎を出現させた。
「上等じゃねーか!!神の裁きの聖火を喰らいやがれ!!」
槍と圏が互いに譲らず、金属の音を立てぶつかり合っている。まるで火山の中で戦っているかのような激しい熱さの中、お互いに技をぶつけ合った。そして、渾身の一撃を放った時、球磨はツクモから異様な姿が見えた。
(な・・何だ?奴の姿が一瞬、紅史郎と重なった・・・・)
それと同時にツクモは突然、頭痛を感じ、彼の紫黒色の炎は消えた。彼は頭を押さえながら、モトスと戦っている紅史郎を見続けた。
(く・・・何故、余の頭の中に紅史郎に似た姿の神がチラチラと現れるとね・・・?)
ツクモは突然、自らが闇の力に喰われ、その時に体内から善の魂が抜け、時空を超えて飛び立つ光景が脳裏に浮かんだ。

「く・・・炎の邪神に心も体も支配される前に・・・私の魂を逃がさなければ・・・・」
古代の太陽神『アポロ』は、善の魂を遥か遠い時空へ転送した後、闇に染まった魔人へと姿を変えた。

現実に戻り、ツクモは極度の疲れで冷や汗をかき倒れそうになった。球磨は無意識に彼の腕を掴もうとした時、ツクモと紅史郎は共鳴し合うかのように同時に球磨に向かって言った。
「プロメテウス・・・・・」
球磨は二人の言葉に驚きと懐かしさを感じた。球磨がもう一度、ツクモの腕に手を伸ばそうとした時、突然現れた闇の波動で、球磨と仲間は吹き飛ばされた。
「ツクモ様!!これ以上の戦いは危険です。ここは引き下がりましょう。紅史郎と胡桃ももう下がりましょう」
珠姫がツクモの目の前に現れ、退却しましょうと促し、一行は彼女に導かれ闇の中に姿を消した。球磨は「待ちやがれ!!」と追いかけようとしたが、湘と益城に止められた。
「馬鹿者が!!懲りずにまた一人で戦いに行くつもりか!!」
湘の怒りの一言で球磨はすまねぇ・・・と謝った。
「皆に迷惑をかけて、助けられちまったな・・・。格好悪いところをみられたぜ」
球磨は皆に礼を言い、頭を下げ深く謝った。しかし皆はそんな彼に呆れながらも、おおらかに笑っていた。一番始めに仁摩が彼に礼を言った。
「私は先の戦いで、ツクモの攻撃から球磨さんに助けられました。桜龍から球磨さんの事をよくお聞きしますが、勇敢さと慈愛に満ちた男の中の漢だと憧れの戦士と言っていましたよ」
仁摩が笑顔で球磨に言うと、彼は少し照れた表情をした。桜龍も優しい顔に戻り、励ました。
「まぁ・・・仁摩殿は大げさに言っているが、助けられたのは本当だ。特にあの状況で仁摩殿を助けられなかった俺も、ツクモの野郎を甘く見ていたからな・・・」
球磨は桜龍と仁摩にはにかみながら礼を言った後、湘はやれやれと澄ました顔をした。
「私たちはまた再び集ったな。仁摩殿と益城殿は初めてお会いするが。これもまた、戦国の世を壊そうとする輩と戦う定めかな」
モトスと千里もしみじみと湘の顔を見て頷き言った。
「俺たちは同じ宿命の元、集まるのだな」
「今回の敵は九州全土を支配するようです。梅雪以上の手強さを備えていると思います」
球磨は三人の感慨深い言葉に改めて、自分は一人で戦うのではなく、再び集まった同志と力を合わせ戦おうと実感した。
「皆・・・九州に来てくれて本当にありがとう。俺は一人で解決しようとしていたが、全てを護り救うのは難しい。どうか、共に戦って欲しい!!」
球磨は凜々しい表情で頭を下げた。皆はもちろんだと快く応えた。益城は皆に提案した。
「孤児院の皆と共に、君達を連れて行きたい場所があります。天草に長く居ては、いずれ敵の手に墜ちてしまいます」
皆は益城の指示に従い、孤児院の子供達や天草の民を連れ、豊後の別府へ避難した。


その頃ツクモは自室の寝台で横たわりながら、珠姫に介抱してもらっていた。珠姫は心配そうに彼の冷や汗を拭いた。
「ツクモ様・・・お加減はいかがでしょうか?」
ツクモは頭を押さえながらも、妻の前で弱い姿を見られたくないと、気丈に振る舞った。
「少し己の力を使いすぎたとね。余の心配は無用けん。珠姫ももう、余の事は放っといてゆっくり休むたい」
珠姫は承知しましたと、気がかりで無い表情をしながら部屋を出た。ツクモは彼女がいなくなった後、思い悩みながら怪しく笑みを浮かべた。
「余と紅史郎は深い繋がりがある。余には昔の記憶が無い・・・これは彼の正体をじっくり調べるとね」
ツクモは紅史郎との奇妙な関係に、少しずつ近づき始めていた。


                      第6話 完
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