第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
休憩が終わり、桜龍は小淵沢を目指して南下していった。すると、信濃と甲斐の境で、数人の兵士たちに囲まれた。兵士の鎧や旗には織田木瓜の家紋が装飾されていた。
「おいおい・・・検問かよ。俺は旅の神官だから無条件で通してくれないー?お・に・い・さ・ん」
桜龍は妖艶な流し目で兵士長らしき男に懇願したが、全く相手にされなかった。
「甲斐の国は穴山殿が残党狩りと民たちを更生させようとしている。旅の神官ならなおさら、新しい領地で余計なことをされては迷惑だ。早急に立ち去れ!!」
しかし、桜龍は兵士長の言葉を無視して質問した。
「なあなあ!!それよりもここに江津っていう陰険さ漂う神官居ないかー?俺はそいつに会うためにはるばる出雲から来たんだぜ!!」
「・・・我々の忠告を無視か・・・こいつは。こうなれば、その探している者と会わす前にここで始末してやる!!」
兵士長の合図で数人の兵士たちが襲い掛かってきた。
「ここには居ねーみたいだな。って!?1人のうら若き神官を多勢で襲い掛かるのかー!?」
桜龍はあたふたした表情をしたが
「やれやれ・・・こうなると思っていたぜ」
直ぐに冷静な態度と不敵な笑みを浮かべ、懐から数枚の霊符を取り出し、刀で桜龍を斬りつけようとした兵士の腹部に霊符を当て気絶させた。そして、兵士の胴体に飛び蹴りをしながら、上に跳躍し、雷鳴の祝詞を唱えた。桜龍の手の甲からは紫の雷が放たれ、兵士たちは電撃を喰らい倒れた。そして、残りの兵士たちも一斉に襲い掛かってきたが、腰に差している斬魔の太刀を見えない抜刀術で兵士たちを蹴散らした。そして兵士長だけが残された。
「さあ、甲斐の民たちに悪さをするのはここまでだ!!部下たちもこのザマだ。命欲しけりゃ江津の事を教えな!!」
桜龍は足がすくんで涙目状態の兵士長の首元に太刀を向けた。
「・・・わ・・分かった!!話す話す!!!!闇の神官の江津って奴は今・・・穴山梅雪の配下に居て・・・甲斐の国で散った武田と織田の兵士たちを・・・グ・・ウグゥギャー!?」
兵士長は言葉を続けようとしたが、突如黒い影が彼を包み、魂を抜かれ白骨化した。
「・・・これ以上言わなくても良い。こちらから出向いてきたからな」
木陰から現れたのは、深い橙色の髪をし、赤紫の不気味な瞳をした中年で長身の神官、江津であった。
「・・・江津、久しぶりだな。隠岐の島の牢獄から脱獄したんだってなー。・・・そして今は極悪大名の手下に成り下がったってのかい?」
「これはこれは、桜龍。少し見ないうちに随分と口の悪い神官になったものだ。最後に会った時には素直で可愛らしい童であったのに」
江津は陰険で嫌味な言い方をしたが、桜龍は動じず、静かな怒りを向けていた。
「お前の目的は俺だろ・・・それなら因幡の砂丘あたりで決闘で良かったじゃねーか。何で敵も味方も関係なく死霊にするんだ!!」
「そんな下らぬことを言うか卿は。それではつまらぬではないか。戦で散った者たちはもはや誰の物でも無くなった。だから、死霊として私が思うがままに使うのは自由ではないのか?」
「・・・貴様は脱獄してからもその腐った思考は変わらないんだな・・・。いいぜ。その死の龍ごとお前の根性叩き直してやるよ!!」
桜龍は太刀を構えた。しかし江津は呆れた表情をし、
「この田舎道は卿との決着には相応しくない。今日はほんの挨拶に来ただけだ」
と言い、江津は地面に目掛けて呪文を唱え始めた。すると、土の中から、武田兵と織田兵、そして残党狩りの犠牲に会った民たちの魂無き屍が姿を現した。
「私に挑むには、この死霊たちを相手に出来ねばならぬな!!」
そして、死霊たちを残して闇の中に消えていった。
「ま・・・待てよ!!江津!!!!」
桜龍は追いかけようとしたが、死霊たちに遮られてしまった。
「くっそ・・・武田兵も織田兵も・・・そして民たちも死霊と化した。敵も味方もないってのか!!」
(これが、江津のやり方なのか・・・)
桜龍は心を鬼にして、死霊兵の刀を斬魔の太刀で打ち払い、聖なる光を刀に纏わせ、一気に死霊兵たちをなぎ倒した。そして、死霊となってしまった民は極力傷つけないように、霊符を数枚懐から取り出し、民に目掛けて飛ばし、聖なる光で民たちを浄化していった。
その後も桜龍は必死に死霊たちを浄化していったが、キリがない。このまま戦い続けていたら、魔力を使い果たしてしまう。だが、死霊にされた身体と魂を放っておくわけにはいかない。すると、術師の死霊が桜龍を囲み、動きを封じる術を掛けた。
(し・・・しまった!?)
桜龍の体には黒い影の手がまとわりついて身動きが取れなかった。影の手は桜龍の魔力を吸っていく。
「く・・・俺の魔力と聖龍の力を吸収しようとしているのか・・・。こんな奴らに負けてたまるか!!」
桜龍は気を解放させ、力を一気に爆発させようとした瞬間、術師の力が止まりその場に倒れていった。
術師の背中には細い小刀が刺されていた。
桜龍と同じ年ぐらいの少し童顔で小柄な眼鏡をかけた青年が桜龍を術から助けてくれたようだ。桜龍は驚いていた。
「まだ真の力を解放する時ではありません・・・」
「え・・・助けてくれてありがとうだが・・・・あんたは一体?」
千里は頭を少し下げてお辞儀をしながら自己紹介をした。
「・・・申し遅れました。僕は千里(せんり)です。貴方と同じように、この地に導かれた1人です・・・。」
「そうだったのか。俺は出雲から来た神官の桜龍。よろしくな千里!!」
誰とでも直ぐに打ち解けられる性格をしている桜龍とは正反対に、千里の態度は少し仏頂面であった。
「・・・よろしくお願いします。桜龍殿」
「殿なんかいらねーよ。俺はそんな位の高い立場じゃないんだし。俺の事は桜龍ってよんでーな」
「・・・では桜龍・・・さんで」
桜龍は千里から少し素っ気ない態度を取られ、ガクッと肩を落とした。
(まぁ、出会って間もないのに直ぐには親しくなるのは難しいかな・・・)
桜龍は直ぐに気を取り直して、
「・・・千里。詳しい話は後だな。とりあえず今は死霊にされた兵士や民たちを黄泉におくりかえさなくてはな!!」
「僕も、この者たちの嘆きや苦しみを感じます・・・。そして、大地が泣いているのも」
桜龍は再び太刀を構え、千里も懐から取り出した鎖鎌を構え攻撃態勢にかかった。
再び、死霊兵たちが襲い掛かってきた。千里は鎖鎌の分銅で武器を破壊し、無防備になった死霊兵を鎌で切り裂いた。そして、軽やかな身のこなしで相手の懐に入り、袖や懐に隠している暗器で屍たちの動きを止めた。小柄ながらも、鍛えられた肉体と素早い身のこなしは、人を超えた鬼神のように感じ取れた。
「す・・すごいぜ!!!千里!!!でも、俺も負けてはいられないな!!!」
桜龍も負けじと、太刀で死霊兵を倒し浄化していった。しかし、次から次へと死霊が現れる。
「・・・くっそ!!本当にキリがねーぜ・・・早く甲斐の国に入り、向こうで頑張っている忍びさんと合流してーのに!!こうなれば、ここで一気に決めてやる!!」
桜龍は最大の浄化の呪文を唱えようとした。しかし、千里に腕を掴まれ、止められた。
「・・・まだ強力な力を使うべき時ではないです。ここは、僕にお任せください」
千里は大地の祝詞を唱え始めた。すると、聖なる土が死霊たちを包み込み、1人残らず土の中で浄化された。桜龍はその光景に驚いてはいたが、意外と冷静であった。
「命は土に還り、再び地上で新たな命へと変わる・・・信じがたい事ですが、僕は人造戦士で、大地の力を操ることが出来ます」
「そうか・・・あんたが、平安末期の源氏軍の鬼神と謳われていた、人造戦士の千里」
歴史では語られることはなかったが、出雲大社の古い書庫の奥に義経に仕えた鬼神という記録書を読んだことがある。
「そうです。僕は400年の時を経て、封印が解かれ、再び戦士として目覚めたのです」
千里はこれまでの経緯を桜龍に話した。
「そうか。昌幸殿の命を受けていたのか」
「はい。浅間山で封印から目覚めた僕の目の前で、友人のモトスを助けて欲しいと頼まれました」
「真田家も色々な勢力に囲まれているから、モトスたちの援軍を送るのも難しいだろうな・・・」
「だから、僕は昌幸殿の願いを聞くために甲斐の国で戦うのです。織田と穴山が真田家を狙うのも時間の問題・・・。それまでに甲斐で決着をつけなければなりません」
千里は淡々とした口調ながらも、強い信念を心に持っていると桜龍は感じ取っていた。
「俺も戦うさ。・・・正直俺って啖呵は切るのは得意だが、ドジで頼りないと大神官や巫女さんに言われる・・・そんな俺でも一緒に戦ってくれるか?」
「・・・・・あなたこそ、僕のような人ではない奇妙な物体と一緒で・・・いいでしょうか?」
千里が下を向きながら言うと、桜龍は陽気な表情で千里の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「お前は奇妙な物体なんかではないよ!!むしろ、共に戦う同志・・・勇士でもいいかな。さっきだって助けてくれたし!!・・・俺、死霊たちとの戦いで油断して・・・江津に勝てるかな」
千里は少し不安な表情をしていた桜龍の頭と左目の眼帯を優しく撫でた。
「今のお返しです・・・。聖龍の瞳だけではなく、己の力も信じてください・・・桜龍さん」
「・・・おいおい。俺は子供じゃねーんだからな・・・でも、励ましてくれてありがとうな」
桜龍は千里に笑いかけ、再び馬に乗り小淵沢を抜けた。
小淵沢から南の韮崎方面に進むと、遠くに新府城が見えた。しかし、新府城には黒く深い霧に覆われているのが見えた。
「・・・直ぐに城に潜入したい気持ちは分かりますが、情報がない今、闇雲に侵入しては危険です。今は、城に近づくのは避けて、モトスさんや2人の仲間と合流しましょう」
「・・・ああ。直ぐにでも梅雪に一太刀浴びさしてやりたいけど、とてつもない邪気が城を包んでいて、力を合わせないと入れないのが分かるぜ・・・。それに、モトスさん達を差し置いて俺たちだけで格好つけるわけにもいかねーしな!!」
桜龍と千里は、今は新府城を避け、先にモトスと2人の仲間と合流することを考えた。
「おいおい・・・検問かよ。俺は旅の神官だから無条件で通してくれないー?お・に・い・さ・ん」
桜龍は妖艶な流し目で兵士長らしき男に懇願したが、全く相手にされなかった。
「甲斐の国は穴山殿が残党狩りと民たちを更生させようとしている。旅の神官ならなおさら、新しい領地で余計なことをされては迷惑だ。早急に立ち去れ!!」
しかし、桜龍は兵士長の言葉を無視して質問した。
「なあなあ!!それよりもここに江津っていう陰険さ漂う神官居ないかー?俺はそいつに会うためにはるばる出雲から来たんだぜ!!」
「・・・我々の忠告を無視か・・・こいつは。こうなれば、その探している者と会わす前にここで始末してやる!!」
兵士長の合図で数人の兵士たちが襲い掛かってきた。
「ここには居ねーみたいだな。って!?1人のうら若き神官を多勢で襲い掛かるのかー!?」
桜龍はあたふたした表情をしたが
「やれやれ・・・こうなると思っていたぜ」
直ぐに冷静な態度と不敵な笑みを浮かべ、懐から数枚の霊符を取り出し、刀で桜龍を斬りつけようとした兵士の腹部に霊符を当て気絶させた。そして、兵士の胴体に飛び蹴りをしながら、上に跳躍し、雷鳴の祝詞を唱えた。桜龍の手の甲からは紫の雷が放たれ、兵士たちは電撃を喰らい倒れた。そして、残りの兵士たちも一斉に襲い掛かってきたが、腰に差している斬魔の太刀を見えない抜刀術で兵士たちを蹴散らした。そして兵士長だけが残された。
「さあ、甲斐の民たちに悪さをするのはここまでだ!!部下たちもこのザマだ。命欲しけりゃ江津の事を教えな!!」
桜龍は足がすくんで涙目状態の兵士長の首元に太刀を向けた。
「・・・わ・・分かった!!話す話す!!!!闇の神官の江津って奴は今・・・穴山梅雪の配下に居て・・・甲斐の国で散った武田と織田の兵士たちを・・・グ・・ウグゥギャー!?」
兵士長は言葉を続けようとしたが、突如黒い影が彼を包み、魂を抜かれ白骨化した。
「・・・これ以上言わなくても良い。こちらから出向いてきたからな」
木陰から現れたのは、深い橙色の髪をし、赤紫の不気味な瞳をした中年で長身の神官、江津であった。
「・・・江津、久しぶりだな。隠岐の島の牢獄から脱獄したんだってなー。・・・そして今は極悪大名の手下に成り下がったってのかい?」
「これはこれは、桜龍。少し見ないうちに随分と口の悪い神官になったものだ。最後に会った時には素直で可愛らしい童であったのに」
江津は陰険で嫌味な言い方をしたが、桜龍は動じず、静かな怒りを向けていた。
「お前の目的は俺だろ・・・それなら因幡の砂丘あたりで決闘で良かったじゃねーか。何で敵も味方も関係なく死霊にするんだ!!」
「そんな下らぬことを言うか卿は。それではつまらぬではないか。戦で散った者たちはもはや誰の物でも無くなった。だから、死霊として私が思うがままに使うのは自由ではないのか?」
「・・・貴様は脱獄してからもその腐った思考は変わらないんだな・・・。いいぜ。その死の龍ごとお前の根性叩き直してやるよ!!」
桜龍は太刀を構えた。しかし江津は呆れた表情をし、
「この田舎道は卿との決着には相応しくない。今日はほんの挨拶に来ただけだ」
と言い、江津は地面に目掛けて呪文を唱え始めた。すると、土の中から、武田兵と織田兵、そして残党狩りの犠牲に会った民たちの魂無き屍が姿を現した。
「私に挑むには、この死霊たちを相手に出来ねばならぬな!!」
そして、死霊たちを残して闇の中に消えていった。
「ま・・・待てよ!!江津!!!!」
桜龍は追いかけようとしたが、死霊たちに遮られてしまった。
「くっそ・・・武田兵も織田兵も・・・そして民たちも死霊と化した。敵も味方もないってのか!!」
(これが、江津のやり方なのか・・・)
桜龍は心を鬼にして、死霊兵の刀を斬魔の太刀で打ち払い、聖なる光を刀に纏わせ、一気に死霊兵たちをなぎ倒した。そして、死霊となってしまった民は極力傷つけないように、霊符を数枚懐から取り出し、民に目掛けて飛ばし、聖なる光で民たちを浄化していった。
その後も桜龍は必死に死霊たちを浄化していったが、キリがない。このまま戦い続けていたら、魔力を使い果たしてしまう。だが、死霊にされた身体と魂を放っておくわけにはいかない。すると、術師の死霊が桜龍を囲み、動きを封じる術を掛けた。
(し・・・しまった!?)
桜龍の体には黒い影の手がまとわりついて身動きが取れなかった。影の手は桜龍の魔力を吸っていく。
「く・・・俺の魔力と聖龍の力を吸収しようとしているのか・・・。こんな奴らに負けてたまるか!!」
桜龍は気を解放させ、力を一気に爆発させようとした瞬間、術師の力が止まりその場に倒れていった。
術師の背中には細い小刀が刺されていた。
桜龍と同じ年ぐらいの少し童顔で小柄な眼鏡をかけた青年が桜龍を術から助けてくれたようだ。桜龍は驚いていた。
「まだ真の力を解放する時ではありません・・・」
「え・・・助けてくれてありがとうだが・・・・あんたは一体?」
千里は頭を少し下げてお辞儀をしながら自己紹介をした。
「・・・申し遅れました。僕は千里(せんり)です。貴方と同じように、この地に導かれた1人です・・・。」
「そうだったのか。俺は出雲から来た神官の桜龍。よろしくな千里!!」
誰とでも直ぐに打ち解けられる性格をしている桜龍とは正反対に、千里の態度は少し仏頂面であった。
「・・・よろしくお願いします。桜龍殿」
「殿なんかいらねーよ。俺はそんな位の高い立場じゃないんだし。俺の事は桜龍ってよんでーな」
「・・・では桜龍・・・さんで」
桜龍は千里から少し素っ気ない態度を取られ、ガクッと肩を落とした。
(まぁ、出会って間もないのに直ぐには親しくなるのは難しいかな・・・)
桜龍は直ぐに気を取り直して、
「・・・千里。詳しい話は後だな。とりあえず今は死霊にされた兵士や民たちを黄泉におくりかえさなくてはな!!」
「僕も、この者たちの嘆きや苦しみを感じます・・・。そして、大地が泣いているのも」
桜龍は再び太刀を構え、千里も懐から取り出した鎖鎌を構え攻撃態勢にかかった。
再び、死霊兵たちが襲い掛かってきた。千里は鎖鎌の分銅で武器を破壊し、無防備になった死霊兵を鎌で切り裂いた。そして、軽やかな身のこなしで相手の懐に入り、袖や懐に隠している暗器で屍たちの動きを止めた。小柄ながらも、鍛えられた肉体と素早い身のこなしは、人を超えた鬼神のように感じ取れた。
「す・・すごいぜ!!!千里!!!でも、俺も負けてはいられないな!!!」
桜龍も負けじと、太刀で死霊兵を倒し浄化していった。しかし、次から次へと死霊が現れる。
「・・・くっそ!!本当にキリがねーぜ・・・早く甲斐の国に入り、向こうで頑張っている忍びさんと合流してーのに!!こうなれば、ここで一気に決めてやる!!」
桜龍は最大の浄化の呪文を唱えようとした。しかし、千里に腕を掴まれ、止められた。
「・・・まだ強力な力を使うべき時ではないです。ここは、僕にお任せください」
千里は大地の祝詞を唱え始めた。すると、聖なる土が死霊たちを包み込み、1人残らず土の中で浄化された。桜龍はその光景に驚いてはいたが、意外と冷静であった。
「命は土に還り、再び地上で新たな命へと変わる・・・信じがたい事ですが、僕は人造戦士で、大地の力を操ることが出来ます」
「そうか・・・あんたが、平安末期の源氏軍の鬼神と謳われていた、人造戦士の千里」
歴史では語られることはなかったが、出雲大社の古い書庫の奥に義経に仕えた鬼神という記録書を読んだことがある。
「そうです。僕は400年の時を経て、封印が解かれ、再び戦士として目覚めたのです」
千里はこれまでの経緯を桜龍に話した。
「そうか。昌幸殿の命を受けていたのか」
「はい。浅間山で封印から目覚めた僕の目の前で、友人のモトスを助けて欲しいと頼まれました」
「真田家も色々な勢力に囲まれているから、モトスたちの援軍を送るのも難しいだろうな・・・」
「だから、僕は昌幸殿の願いを聞くために甲斐の国で戦うのです。織田と穴山が真田家を狙うのも時間の問題・・・。それまでに甲斐で決着をつけなければなりません」
千里は淡々とした口調ながらも、強い信念を心に持っていると桜龍は感じ取っていた。
「俺も戦うさ。・・・正直俺って啖呵は切るのは得意だが、ドジで頼りないと大神官や巫女さんに言われる・・・そんな俺でも一緒に戦ってくれるか?」
「・・・・・あなたこそ、僕のような人ではない奇妙な物体と一緒で・・・いいでしょうか?」
千里が下を向きながら言うと、桜龍は陽気な表情で千里の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「お前は奇妙な物体なんかではないよ!!むしろ、共に戦う同志・・・勇士でもいいかな。さっきだって助けてくれたし!!・・・俺、死霊たちとの戦いで油断して・・・江津に勝てるかな」
千里は少し不安な表情をしていた桜龍の頭と左目の眼帯を優しく撫でた。
「今のお返しです・・・。聖龍の瞳だけではなく、己の力も信じてください・・・桜龍さん」
「・・・おいおい。俺は子供じゃねーんだからな・・・でも、励ましてくれてありがとうな」
桜龍は千里に笑いかけ、再び馬に乗り小淵沢を抜けた。
小淵沢から南の韮崎方面に進むと、遠くに新府城が見えた。しかし、新府城には黒く深い霧に覆われているのが見えた。
「・・・直ぐに城に潜入したい気持ちは分かりますが、情報がない今、闇雲に侵入しては危険です。今は、城に近づくのは避けて、モトスさんや2人の仲間と合流しましょう」
「・・・ああ。直ぐにでも梅雪に一太刀浴びさしてやりたいけど、とてつもない邪気が城を包んでいて、力を合わせないと入れないのが分かるぜ・・・。それに、モトスさん達を差し置いて俺たちだけで格好つけるわけにもいかねーしな!!」
桜龍と千里は、今は新府城を避け、先にモトスと2人の仲間と合流することを考えた。