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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

深夜、球磨は昔自分が使っていた寝室で眠っていた。すると、部屋の奥に置いてある鏡台から可愛らしい声が聞こえた。球磨は直ぐに起き上がり鏡台に向かうと、銀色の髪の女性が映し出され彼に愛くるしい表情と口調で挨拶した。
「こんばんは-、深夜に起こしてごめんなさいね。あたしの名前は美羅。ツクモ様の妻よ」
球磨は小柄で可憐な姿をしている美羅を見ると、鏡を通してでも強い魔力を感じ取り警戒した。
「お前がつるぎという女の姉妹か。てっきり鏡からツクモが出てくるかと思ったぜ。何の用だ!!」
球磨は自分を洗脳する気か?と、女をじっと睨み付けたが、特に邪気は感じられなかった。
「安心して、ここで戦う気は無いし、貴方を操るなんて考えてないわ。ツクモ様からのお誘いを伝えに来たのよ」
美羅は彼に小声で囁きながら伝えた。
(君に面白い物を見せたいけん。明日、天草に来てみるとーね。仲間も連れてきて良かよ)
「と申していたわ、ツクモ様は。まぁ、行くも行かぬも貴方の自由だけどね」
美羅は鏡から消える前に、一瞬右目をキュッと閉じ、愛嬌ある笑顔で言った。球磨は彼女を追うこと無く鏡台の前にしゃがみ込み、自らが育った孤児院が危ない!!と察し、何が何でも行かなければと決心した。


次の日の朝、モトスと千里は、別府の鬼の里から阿蘇山を越え、肥後国中央部の宇土に到着した。二人は廃墟と化した武家屋敷の街道を隅々まで見回していた。
「ここは・・・何十年も前に人々が消え去り荒れ果てているなぁ・・・・」
モトスは屋敷全体や塀が大量の蔦や雑草に覆われている景色を見て、これはトワ・パライソの仕業では無いと理解していた。
「しかし何日か前に、ここで戦っていた跡があります。木や塀に焦げた跡や、道が少し荒れています」
千里は大地の力で気を感じ取ると、火と水の気が微かに残っているようだった。これは球磨と湘のものだと分かった。
「球磨と湘は近くに居る。無事なら良いのだが」
モトスは何か不吉な予感を感じていると、正面の道から湘が走って近づいてきた。
「湘!!久しぶりだな。お主も九州に来ていたのだな。それにしても随分と慌ただしい様子だが、何かあったのか?」
モトスと千里は久しく湘との再会に喜ぼうとしたが、息を切らしている彼を見て、それどころでは無いと察した。
「モ・・モトスと千里か。再開を喜びたい気持ちは十分あるが、球磨を見なかったか?」
千里は、この街路地では誰も会わなかったと答えた。湘は「やはりな・・・」と納得し、やっと呼吸が落ち着き冷静になり、これまでの出来事を説明した。


昨夜、湘は宗麟に付きっきりで介護をしていた。その時、球磨の部屋から異様な妖気を感じた。直ぐに彼の部屋に向かったが、特に何も無く彼はいびきをかきながら眠っていた。湘は少しの間、鏡台など部屋の周りを調べようとしたが、疲れている球磨を起こしたら悪いと思い部屋を出た。しかし今朝、球磨の部屋に入ると、彼の鎧や槍、荷物が無く何処かへ行ってしまった。湘は宇土の町中探していた。
「そのような事があったのか・・・やはり、『とわ・ぱらいそ』という宗教は日ノ本に仇なす邪教であるな」
モトスは湘の話を聞いた後に自分たちも、別府での出来事を彼に話した。
「信者は別府の鬼の里を襲い、教祖の保養所を創る計画を企てていました。美羅という娘が魔鏡を使い、信者を煽っていました」
千里の説明を聞いた湘は、美羅と魔鏡でまさか!?と血相を変えて考え込んだ。
「魔鏡・・に鏡を操る娘・・・まさか!?球磨は夜中にその娘におびき出されたのか!!」
湘は頭を抱えながら(私としたことが・・・球磨にも注意をはらうべきだった)と深く後悔していた。千里は、湘の両肩にポンと手を置き、自分の考えを述べた。
「球磨さんはきっと、湘さんや宗麟殿を巻き込みたくないと思い、一人で向かったのだと思います。それも深い理由で」
千里に続き、モトスも穏やかな口調で言った。
「いくら戦い好きの球磨でも、無策で敵の元へは行かぬだろう。きっと身近な者が危険にさらされそうだから迷わずに向かったのだろう」
「それこそ私に伝えるべきだ。全く・・・一人で解決しようと考えおって。単細胞の暴れ牛め」
湘はブツブツと球磨への怒りを露わにしていたが、内心ではとても心配していた。モトスと千里は湘は素直では無いなと感じ、クスッと笑った。
「暴れ牛が危機だと感じているのは、自分が育った大切な場所。おそらく敵は天草の孤児院を襲撃する。暴れ牛はそれに誘き出されたに違いない」
湘の予測にモトスは天草方面に向かっていく黒雲を見て、そうだなと頷いた。
「どちらにせよ、天草に邪悪な者が近づいている。ツクモとやらを慕う娘達も強い。気を引き締めて向かおうぞ!!」
「天草方面に聖なる龍の力も感じます。あの人も来ていますね」
湘とモトスは桜龍の事を忘れていたと顔を見合わせながら笑った。
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