第2章 九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神
雲仙普賢岳にある宮殿。時は夜、ツクモはビロードの天蓋に覆われた豪華な寝台で夢を見ていた。
古代ギリシャ建築の神殿で、黒髪褐色肌の大男と、金茶髪の知的な男が襲いかかる妖魔を退治していた。
「アポロ!!もう少しで邪神の元にたどり着くぞ!!俺の炎とお前の太陽の光で闇を吹き飛ばすぞ!!」
「アポロ」と叫んだ男の名は炎の神「プロメテウス」。巨大な神槍に聖なる炎を纏い四方八方から襲撃する妖魔を燃やし浄化し続けた。
「プロメテウスよ・・・邪神によって、多くの神や地上の民を失った・・・。ここで奴と決着をつけなければならない。だから、この戦い勝利しよう!!」
太陽神アポロは双剣で妖魔を切り刻み、宙に舞い太陽の眩しい光を放ち浄化した。
「やったぜ!!アポロ。お前は神の中でも強大な力と魔力を持っているぜ!!」
プロメテウスがアポロの肩をポンポン叩くと彼は赤面して言った。
「そんな事は無いよ。プロメテウスの力と勇気があるから私は頑張れるのだ。むしろ、いつも危ないところを助けてくれてありがとう」
プロメテウスとアポロは無二の親友だった。古代に邪神に支配されたギリシャで地上の民を護る為に戦っていた。しかしそれは後世に語り継がれること無く、封印された伝説だった。
ツクモは夢の続きを追いたかったが、雲仙岳の稜線から照らされる日の光で目を覚まし、現実に戻された。
「う・・ん・・・朝か?今の夢は、球磨と・・太陽神の方は紅史郎に似ていたとね・・・」
プロメテウスは球磨のような姿、アポロは紅史郎に似ていた。この二人は何か関係しているのか?そして何故、聖なる神とは反するツクモが二人の夢を見るのか不思議に思った。
「もしかしたら、邪神とやらが余かね?それは良いとして、球磨と紅史郎がどうも気になるとね。特に紅史郎からはどこか懐かしさを感じるとね・・・・」
ツクモは色々と疑問に思うことがあった。この間、球磨が自分の放った火炎弾を受け止めたとき、プロメテウスに見えた事。その時に抱いた憎しみと懐かしさ。それ以来、疑問をずっと抱き続けていた。
「そういえば・・・余はいつから魔人となっていたとーね?」
ツクモは思い出そうと頭を押さえていたが何も思い出せず諦め、寝台から起き上がった。すると扉を軽く叩く音がしたので、ツクモは「入ってよか」と扉に向かって言った。紅史郎が東南アジアから輸入されたマンゴーやパイナップルを持って部屋に入ってきた。
「信者からの貢ぎ物です。東南アジアの商人から手に入れたそうですよ」
紅史郎は包丁で果物を切ったが、上手に切れず指をシュッと切ってしまった。紅史郎は謝ったがツクモは優しく「よかよか」と言い、絹の手ぬぐいを彼の傷口に当てた。
「ここまで切れていれば食べられるとね。紅史郎君も一緒に食べるとね」
ツクモはマンゴーとパイナップルを彼に渡した。しばらく二人は今まで味わった事の無い果物を美味しそうに食べた。すると、紅史郎はふと兄の話題を口にした。
「兄は異国の物を見るのが好きでした。兄にもマンゴーとパイナップルを食べさせたかったな」
紅史郎は今までツクモに対し、少し警戒し距離を取っていたが、いつの間にか惹かれるように彼に心を開いていた。ツクモは彼の兄が気になり興味深そうに聞いた。
「君は確か、生き別れの兄が居ると言っていたとね。もしかして君の兄は球磨に似ているかね?」
ツクモは試しに球磨の名前を出してみた。しかし紅史郎は違うと首を横に振った。
「兄は体が弱く、床に伏せることが多かったです。ですが、頭が良く料理も上手だったんですよ・・・生きているか分からないですが・・・」
紅史郎は悲しげに答えると、ツクモは彼の肩に手を置き励ました。
「そう気を落とすことはなかとー。もしかしたら案外、君の兄は近くに居ると思うけん。そうそう!!良いことを思いついたとね♪」
ツクモはたった今思いついた提案を紅史郎に話した。
その頃、宇土の旧暁家の屋敷で球磨は療養していた。湘は宗麟の従者と一緒に球磨と宗麟の手当や介護をしていた。ツクモの炎弾を受け止め傷を負った球磨だったが、彼の強靱な体力と生命力で回復が早く、今では槍を振るえる程になった。球磨は屋敷のこぢんまりとした広さの庭園で槍を持ち鍛錬をしていた。庭の中心を流れる小川や奥にある丸い池は水が枯れ、今では色あせた鹿威しだけがぽつりと残っていた。球磨はこの庭で父や家来と槍の稽古に励んだり、弟と虫取りや鯉に餌をあげたり、季節の花が咲き誇った時は一族で集まり、花見をしたなと思い出していた。その時、宗麟が縁側にやって来て、球磨に「みかんを食べないか?」と声をかけた。球磨は宗麟の隣に座った。
「球磨・・・わしを庇い怪我をさせてしまい、本当にすまぬ・・・」
宗麟が深く頭を下げたが、球磨は慌てながら「頭を上げてください」と言った。
「わしは本来、九州の戦いで死んだことになっておる。しかし、ここまでしぶとく生き延びるとはのう・・・・」
「命あっての物種ですよ。生きている限り、希望の炎は尽きませんよ」
球磨が自分の胸に手を当てながら言うと、宗麟は「ありがとう」と返答した。
「わしは今まで自分勝手な振る舞いをし、皆を困らせていた。大友家を再興させたいとは言わん。せめて最期は世話になった紅史郎にお詫びをしたいと・・・・」
「宗麟殿・・・・・」
球磨は何も言わず、庭の植木に留まるウグイスのさえずりを耳にしながら彼の話を聞き続けた。
古代ギリシャ建築の神殿で、黒髪褐色肌の大男と、金茶髪の知的な男が襲いかかる妖魔を退治していた。
「アポロ!!もう少しで邪神の元にたどり着くぞ!!俺の炎とお前の太陽の光で闇を吹き飛ばすぞ!!」
「アポロ」と叫んだ男の名は炎の神「プロメテウス」。巨大な神槍に聖なる炎を纏い四方八方から襲撃する妖魔を燃やし浄化し続けた。
「プロメテウスよ・・・邪神によって、多くの神や地上の民を失った・・・。ここで奴と決着をつけなければならない。だから、この戦い勝利しよう!!」
太陽神アポロは双剣で妖魔を切り刻み、宙に舞い太陽の眩しい光を放ち浄化した。
「やったぜ!!アポロ。お前は神の中でも強大な力と魔力を持っているぜ!!」
プロメテウスがアポロの肩をポンポン叩くと彼は赤面して言った。
「そんな事は無いよ。プロメテウスの力と勇気があるから私は頑張れるのだ。むしろ、いつも危ないところを助けてくれてありがとう」
プロメテウスとアポロは無二の親友だった。古代に邪神に支配されたギリシャで地上の民を護る為に戦っていた。しかしそれは後世に語り継がれること無く、封印された伝説だった。
ツクモは夢の続きを追いたかったが、雲仙岳の稜線から照らされる日の光で目を覚まし、現実に戻された。
「う・・ん・・・朝か?今の夢は、球磨と・・太陽神の方は紅史郎に似ていたとね・・・」
プロメテウスは球磨のような姿、アポロは紅史郎に似ていた。この二人は何か関係しているのか?そして何故、聖なる神とは反するツクモが二人の夢を見るのか不思議に思った。
「もしかしたら、邪神とやらが余かね?それは良いとして、球磨と紅史郎がどうも気になるとね。特に紅史郎からはどこか懐かしさを感じるとね・・・・」
ツクモは色々と疑問に思うことがあった。この間、球磨が自分の放った火炎弾を受け止めたとき、プロメテウスに見えた事。その時に抱いた憎しみと懐かしさ。それ以来、疑問をずっと抱き続けていた。
「そういえば・・・余はいつから魔人となっていたとーね?」
ツクモは思い出そうと頭を押さえていたが何も思い出せず諦め、寝台から起き上がった。すると扉を軽く叩く音がしたので、ツクモは「入ってよか」と扉に向かって言った。紅史郎が東南アジアから輸入されたマンゴーやパイナップルを持って部屋に入ってきた。
「信者からの貢ぎ物です。東南アジアの商人から手に入れたそうですよ」
紅史郎は包丁で果物を切ったが、上手に切れず指をシュッと切ってしまった。紅史郎は謝ったがツクモは優しく「よかよか」と言い、絹の手ぬぐいを彼の傷口に当てた。
「ここまで切れていれば食べられるとね。紅史郎君も一緒に食べるとね」
ツクモはマンゴーとパイナップルを彼に渡した。しばらく二人は今まで味わった事の無い果物を美味しそうに食べた。すると、紅史郎はふと兄の話題を口にした。
「兄は異国の物を見るのが好きでした。兄にもマンゴーとパイナップルを食べさせたかったな」
紅史郎は今までツクモに対し、少し警戒し距離を取っていたが、いつの間にか惹かれるように彼に心を開いていた。ツクモは彼の兄が気になり興味深そうに聞いた。
「君は確か、生き別れの兄が居ると言っていたとね。もしかして君の兄は球磨に似ているかね?」
ツクモは試しに球磨の名前を出してみた。しかし紅史郎は違うと首を横に振った。
「兄は体が弱く、床に伏せることが多かったです。ですが、頭が良く料理も上手だったんですよ・・・生きているか分からないですが・・・」
紅史郎は悲しげに答えると、ツクモは彼の肩に手を置き励ました。
「そう気を落とすことはなかとー。もしかしたら案外、君の兄は近くに居ると思うけん。そうそう!!良いことを思いついたとね♪」
ツクモはたった今思いついた提案を紅史郎に話した。
その頃、宇土の旧暁家の屋敷で球磨は療養していた。湘は宗麟の従者と一緒に球磨と宗麟の手当や介護をしていた。ツクモの炎弾を受け止め傷を負った球磨だったが、彼の強靱な体力と生命力で回復が早く、今では槍を振るえる程になった。球磨は屋敷のこぢんまりとした広さの庭園で槍を持ち鍛錬をしていた。庭の中心を流れる小川や奥にある丸い池は水が枯れ、今では色あせた鹿威しだけがぽつりと残っていた。球磨はこの庭で父や家来と槍の稽古に励んだり、弟と虫取りや鯉に餌をあげたり、季節の花が咲き誇った時は一族で集まり、花見をしたなと思い出していた。その時、宗麟が縁側にやって来て、球磨に「みかんを食べないか?」と声をかけた。球磨は宗麟の隣に座った。
「球磨・・・わしを庇い怪我をさせてしまい、本当にすまぬ・・・」
宗麟が深く頭を下げたが、球磨は慌てながら「頭を上げてください」と言った。
「わしは本来、九州の戦いで死んだことになっておる。しかし、ここまでしぶとく生き延びるとはのう・・・・」
「命あっての物種ですよ。生きている限り、希望の炎は尽きませんよ」
球磨が自分の胸に手を当てながら言うと、宗麟は「ありがとう」と返答した。
「わしは今まで自分勝手な振る舞いをし、皆を困らせていた。大友家を再興させたいとは言わん。せめて最期は世話になった紅史郎にお詫びをしたいと・・・・」
「宗麟殿・・・・・」
球磨は何も言わず、庭の植木に留まるウグイスのさえずりを耳にしながら彼の話を聞き続けた。