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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

その頃、球磨と紅史郎は一歩も譲らない戦力で互いに技を放ち、刃を交えていた。
「流石は豪傑の傭兵と言われているだけあるな、球磨殿。隙を突いても、その強い力で払われてしまう」
「そう言っているお前も俺が読めない動きと技を繰り出しているな!!俺の一撃も上手く避けるし」
球磨も紅史郎も火を操る力を持っている。球磨は槍の先端に明るく激しい炎、紅史郎は静かで暗めだが、じわじわと強くなる炎に見えた。
「お前も炎を操るのか。激しくは無いが戦うほど火力が強まっていくのが分かるぜ」
「僕は大友家で武術の修業をした時に突然体に炎の力が宿ったのだよ。・・・本当はこの力で兄を護りたかった・・」
「何だと・・・・?」
紅史郎の思いがけない一言で球磨の槍が止まった。
「本当は、球磨殿とはこんな形で出会い戦うつもりではなかった。九州の事情に詳しいあなたなら知っているかと・・・」
紅史郎は打刀と脇差しに纏っている炎を消し、真剣な眼差しで尋ねた。
「僕の兄・・・暁煉太郎を知っているか?もし生きていたら成政殿に仕え、一緒に暁家を護りたいと思っている。だから、存じていれば一緒に探して欲しい・・・」
球磨は紅史郎が自分の過去、煉太郎の事を思い続けている事に感銘を受けたが、成政の下で一緒に仕えるという言葉に賛同できなかった。
「それは無理な話だな・・・俺は煉太郎って者は知らねぇし、知ってたとしても勧めるのはお断りだな。お前はインチキ宗教と組んでいる大名の下で兄と働きたいと思ってるのか?昔、兄と住んでいた屋敷を壊したいと思うか?」
球磨の表情は怒りと悲しさで溢れていた。しかし球磨の思いとは裏腹に紅史郎は笑いながら否定した。
「そもそもだが、大友が菊池家を滅ぼしたせいで、両親は大友派に殺され、兄と離ればなれになったのだ。これは大友への復讐でもあるのだよ」
紅史郎は再び武器に炎を纏い球磨に向けた。すると、湘を締め付けたままツクモが涼しい顔で二人に近づいた。
「話は終わったかね?まさか球磨君がこの関東者と仲間だったとはねぇ。この場を引くと約束すればこの者を返すけん。ここは焼け野原にして信者・・いいや、成政殿の家臣の屋敷を建てるとね」
「極悪教祖め!!湘に何しやがった!!!」
「う・・球磨・・・私の事は良い。ここは紅史郎にも君にも大切な場所だろう・・私に構わずここを護るのだ・・・」
湘はツクモの腕に首や腹を締め付けられても毅然とした態度を取っていた。球磨はもの凄い剣幕でツクモを睨み続けるが、湘の命が大事だと思い抵抗を止めた。
「・・・仕方ねぇ・・。その代わりに湘を返すのと・・・」
暁家の屋敷には宗麟と従者が居る。そいつらを逃がしてからにしろと言葉を続けようとした時、街路から宗麟がよろよろと歩いてツクモに近づき懇願した。
「そなたは・・・ツクモ様か?持っている財も宝も全部やる。だから、わしを信者にしてくれ・・・そして、紅史郎の兄、煉太郎を探して欲しい・・・・それがわしの最期の願いじゃ・・・」
ツクモの隣に居たつるぎは「どういたしましょう?」と彼に聞いた時、宗麟の目の前に火柱が走った。
「老いぼれの信者は要らんけん。どうせ本心は大友家を再興させたいのだろう?貴殿は永遠の楽園には不必要たい」
ツクモは炎に怯えている宗麟目掛け、灼熱の火弾を放ったが、球磨は宗麟の前に立ち西洋槍でそれを受け止めた。ツクモは一瞬、球磨の姿が古代の炎の神の姿に見えた。
「この姿はまさか・・・炎の神・・プロメテウス・・か?」
ツクモは先程までの余裕の顔から憎しみを見る表情へと変わったが直ぐに、これは面白いとこれ以上の攻撃を止めた。体力と魔力を使い果たした球磨は宗麟の前に倒れ込んだ。それと同時にツクモは湘を球磨の側に放り捨てた。
「屋敷を壊すのは何時でも良かたい。面白いものも見られたし」
ツクモは紅史郎とつるぎに「帰るたい」と命じた。三人は黒い渦の中に消えた。球磨は「待ちやがれ!!」と渦に入ろうとしたが湘と宗麟に止められた。
「球磨・・・気持ちは分かるが、今行ったところで勝ち目は無い・・だから無茶をするな」
「くっそ・・・・・」
「球磨、湘・・お主らに怪我をさせてしまって・・すまなかった・・・。こんな老いぼれを護ってくれて・・・ありがとう」
宗麟は二人に深く頭を下げ謝った。


その頃、紅史郎は島原の雲仙普賢岳に建つトワ・パライソの総本山の庭で思い詰めた顔をしていた。つるぎは気になり、話しかけた。
「何か悩みか?紅史郎?」
「ああ、つるぎか。少し球磨の事を考えていたのだよ」
紅史郎は笑顔を取り繕いながら答えた。
「あの暴れ牛のような男か・・・。ツクモ様が面白いと言っていたな。一瞬炎の神に見えたと申していた。湘とやらといい球磨という男も今後警戒した方が良いな」
つるぎは毅然な態度を取っていたが、心の中では自分の失態に落ち込んでいた。紅史郎は彼女の心は読み取りやすいなとクスッと笑い、優しく励ました。
「そう落ち込むな。つるぎのツクモ殿への忠義と姉想いなのは十分伝わっているよ。だから次もまた気を引き締めて頑張ろう」
紅史郎の励ましに、つるぎは少し頬を紅くし下を向いて「ありがとう・・・」と言った後、鍛錬をしてくると告げ彼と別れた。紅史郎は彼女の背を目で追った後に球磨の事を不思議に思っていた。
「そういえば何故あの者は、僕と兄さんが屋敷に暮らしていた事を知っていたのだろうか・・・?」
紅史郎は深く考えながら遠くの有明海を見ていた。今日、一戦を交えた相手が生き別れた兄煉太郎とはまだ気づいていなかった。



                       第5話 完
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