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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

球磨と湘は外に出ると、周りの武家屋敷はトワ・パライソの信者達による破壊活動が行われていた。信者は巨大な槌や柱を持ち廃屋を壊していた。そして、松明に火をつけ屋敷の庭に投げつけようとした時、湘の流水の魔法で消され阻止された。
「誰も居ない屋敷に何故放火や打ち壊しをするのかい?」
湘は銃剣を構えながら彼らに問いただした。しかし彼らは何かに取り憑かれたような異様な雰囲気を漂わせながら湘に襲いかかってきた。その時、塀の上から球磨が湘の前に着地し、炎を帯びた西洋槍で信者共を熱風で吹き飛ばした。
「お前ら!!誰に頼まれて屋敷をぶっ壊してんだよ!!」
球磨が倒れている信者の胸ぐらを掴みながら問い詰めた時、男の懐から魔の手鏡がポロッと落ちた。鏡からは見覚えのある金髪の男の姿が現れ、信者に命令していた。
「余は朽ち果てた物は嫌いとね。廃墟となった武家屋敷など永遠の楽園には邪魔だから、皆で徹底的に壊すけん。余はトワ・パライソの教祖、ツクモ。余を信じる者は皆永遠の楽園の住人になれるとね」
「教祖・・ツクモだと・・・これがこいつのやり方なのか・・・胡散臭いどころの話じゃねーぜ!!」
球磨はツクモの姿が消えた鏡を握り潰そうとした時、起き上がった信者に『返せ!!』
と爪を立てられたが、素早く避け、相手のみぞおちに拳を入れ気絶させた。近くで戦っていた湘も信者達を一カ所にまとめ凍らせていた。
「こやつらは・・・身なりからすると肥後の小大名や家臣だねぇ・・・。それも九州平定後に豊臣に渋々従った者達のようだ」
湘は信者の着ている軽装鎧や直垂に描かれた家紋をじっくり見ていた。その時、後ろから若い武士と中性的な顔立ちの長身の女性が姿を現した。
「湘殿かい?何故こんな所に居るんだ?ここは成政様の家臣の武家屋敷に造り替えようと取り壊しているのだから、妨害しないでくれるか?」
球磨は武士の青年の顔を見ると、懐かしさで声が出なかったが、それと同時に信じ難い冷徹な言葉に戸惑っていた。
(何故・・紅史郎がツクモの野郎に加担してんだ・・・?)
湘は黙り込んでいる球磨の異変に気づいていたが、何も言わず紅史郎に問うた。
「つまり君の主君、佐々成政とツクモとやらは結託しているのかね?あの者は秀吉公への忠誠心が疑わしいと言われている。そこをツクモは狙って君の主を利用しているのではないかい?」
湘が自分の推測を紅史郎に言った時、彼に同行していたつるぎがもの凄い剣幕で声を上げた。
「何処の馬の骨かも知らぬ浪人風情が!!ツクモ様を侮辱するとは無礼だぞ!!」
つるぎは腰に下げている細剣を抜こうとしたが、紅史郎に止められた。
「つるぎ・・・怒る気持ちは分かるが、相手の挑発に乗るな。ところで・・・湘殿と同行している者は・・・」
紅史郎は一瞬、球磨の姿を見ると言葉が止まったが、球磨は動揺を隠しながら名乗った。
「俺は球磨だ!!各地で傭兵稼業をしている。九州では結構有名だが、知らねーのかい?」
球磨が西洋槍を肩に担ぎながら凜とした表情で言った。すると紅史郎は彼が槍で決めの姿勢と筋肉自慢をしているのを見て、小さく笑い自分も2人に名乗った。
「名乗るが遅くなってしまったが、僕は暁紅史郎です。彼女はつるぎ。共に佐々成政殿に仕えている。湘殿とは少しの間、肥後の町を案内したから僕のこと知っているよね」
紅史郎が湘に笑顔を向けていったが、彼は目を細め、疑うような口振りで返した。
「成政殿とツクモ教祖が繋がっていたとはな・・・。紅史郎殿は彼が何を企んでいるのかご存じかい?」
湘が率直に紅史郎に問いかけた直後、つるぎは剣を抜き湘の首に剣先を当てた。しかし彼は動じること無く口笛を吹き、やれやれと心の中で言った。
「随分と勇ましいお嬢さんだ。主をけなされて不快な思いをさせてしまったかね?」
「黙れ!!これ以上我が主を侮辱すれば貴様の喉元を切り刻んでやるぞ!!」
つるぎは湘に本気で斬りかかろうとしたが、湘に軽々と避けられた。彼も銃剣を構え銃口を彼女に向けた。
「私は相手が男装の麗人でも、世を乱す者であれば容赦はしないのでな。君を凍らせてでもツクモの事を聞かせてもらうぞ」
「やれるものならやってみるが良い!!」
湘の氷の銃弾とつるぎの疾風の刃が激突した。それを紅史郎が困った顔をして見ていた。
「やれやれ・・・つるぎは普段は大人しいのだが、ツクモ殿の事になると頭に血が上りやすいのが難点だな・・・」
「おい・・お前は成政殿に忠誠を誓っているのか?・・・それともツクモか?」
球磨は不本意ながらも紅史郎に矛先を向けて問いかけた。
「球磨殿、僕は大友家を見限った後に、秀吉様の勧めで成政殿に仕えると決めたのだよ。ツクモ殿もまた、成政殿のお力になりたいと手を差し伸べてくれたのさ」
紅史郎が悪びれも無く説明すると、球磨は悲しみながら宗麟や二人が生まれ育った武家屋敷の事を考えた。
「なぁ・・この近くの屋敷にはお前が仕えていた大友宗麟殿が療養しているんだぜ。いくら衰退したとはいえ、主君を簡単に見限るのか?」
「誰にも仕えずに、護る家の無い傭兵には言われたくないな。僕には家を護るという志があるからな」
紅史郎は自分よりも体格差がある球磨にも臆すること無く打刀と脇差しを抜き、彼に鋭い眼光を向けた。
「一戦交えてみようか、球磨殿。あなた程の実力者は成政殿もツクモ殿も欲するでしょう」
球磨は敵となった弟の挑戦に応えた。
「ああ・・いいぜ。だがよ、俺は成政にもツクモの下でも働かねーよ!!」
紅史郎は参る!!と叫び、球磨に向かっていった。球磨は西洋槍で二双の刃を迷うこと無く受け止めた。

その頃、湘とつるぎは廃屋の屋根の上で刃を交わしていた。湘の銃剣から放たれる氷弾と水圧をつるぎは風の刃で打ち消し、逆に彼女が繰り出すかまいたちを湘は華麗に避け、彼女目掛け濃い霧を放った。
「く・・・目くらましのつもりか・・・」
瞬く間に辺り一面霧に囲まれ何も見えなくなった。つるぎは目を閉じ相手の気配を探ると、背後に近づく者を察し剣先を刺した。
「それ見たことか!!貴様なんぞ串刺しにしてやったぞ!!・・・あれ?ぬ・・抜けない!?」
つるぎが刺した物は、湘の姿に作られた水が氷結したものだった。彼女は必死に剣を抜き取ろうとしたが、氷が彼女の右腕を固まらせ攻撃も封じられた。同時に霧が消え、彼女の真横に湘が銃口を向けていた。
「君は愚鈍では無いが、主の事になると周りが見えなくなるようだな。ツクモという男を好いているのかな?」
湘は気障な口調でつるぎに問うた。
「無礼な!!ツクモ様は私と姉上達の大切な夫でもあり、主でもある!!・・・あ・・」
つるぎは姉が居ることや、自分たちが妻であることをつい先走ってしまったのを、「しまった!?」と後悔した。
「姉上達・・か。噂で聞いたが、町人が別府の鬼の一族や、大牟田で百姓が国人に襲いかかったのも君の姉妹の仕業かな?」
湘はつるぎを追い詰めるように銃の引き金に指を置いた時、どこからか灼熱の火弾が彼に目掛け放たれた。湘はとっさに水の壁で防いだが、強力な熱風が彼を吹き飛ばした。
「く・・・私としたことが・・・気配に全く気づかなかった・・・・」
湘は何とか体勢を整え屋根に着地した時、背後から現れた長身の男に腕や銅を掴まれた。
「余の妻に手を出すとは、優しい顔をして随分としたたかとーね」
風変わりな金髪の男は湘の体を強く締め始めた。
「く・・・貴様がトワ・パライソの教祖ツクモかな?挨拶も無く不意打ちをするのか・・・」
「紅史郎君が会ったという地理学者は君だったとね。ばってん、君からは関東の海の香りがするとね。大国北条の使者かね?」
ツクモはニヤニヤと笑いながら湘の耳元で挑発するように囁いた。湘は負けじと苦しみながら返答した。
「使者だとしたら私を始末するかね?そして、北条家も君の傘下に取り入れるのかい?」
北条家と東北の伊達家は未だに豊臣家とは敵対関係だ。九州の次は東日本の民を操り、豊臣家を潰す気なのだろうかと湘は考えていた。しかしツクモは首を横に振り答えた。
「そんな遠くはいかんとね。信者は九州の民だけで十分良かたい。まぁ、いずれは日ノ本が戦無き永遠の楽園に変わるとね」
ツクモの額に付いた紅玉が一瞬闇のように黒く光った。

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