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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

球磨と湘は男から話を聞いた後、港から少し外れた閑散とした廃屋の武家屋敷が並ぶ通りに案内された。球磨には見覚えがある辛い思い出の場所。彼の生まれ育った実家、暁(あかつき)家の屋敷の近くを歩いていた。湘は立派な屋敷が並ぶのに誰も居ないのは何があったのだろう・・・?と深く考えていた。すると、球磨は湘が尋ねること無く、淡々と答えた。
「この辺りは昔、肥後を治めていた菊池家に仕える下級武士の屋敷だったんだ。・・・だが、菊池が衰退すると一族は次に仕える者を選択するのに意見が食い違い言い争いになり、終いには当主は暗殺された・・・ここは、家の内乱で滅んだ町なんだぜ・・・・」
球磨はいつもとは違う、哀愁を感じさせる表情と口調で説明した。隣を歩く男も廃屋を見るたびに申し訳無さそうな表情をしていた。湘は二人にとって良い思い出は無いと察し、何も言わずに目的地まで進んだ。

少し歩くと、どの屋敷よりも一際目立つ高い塀と頑丈な門が建つ、広い武家屋敷にたどり着いた。球磨は驚いた顔をし、言葉が出なかった。
(ここは・・・俺の家?)
「暴れ牛?・・・いいや球磨、どうしたのだ呆然として?入らないのか?」
湘はやはり様子が変だと心配そうに声をかけた。すると球磨はハッと我に返り、「そうだな!!」と気合いを入れ、旧暁家の屋敷に入った。
屋敷の中は予想していたよりも綺麗な状態だった。廊下は昔、暁家本家と分家の争いによる刀傷や銃痕はあったものの、埃一つ無く掃除されていた。
「この大広間に主は療養しております・・・」
(この部屋か・・・・)
本家と分家の争いで当主だった俺の父が暗殺された忌々しい部屋・・・球磨は動揺している事を悟られないように毅然とした態度を取った。そして男が襖をゆっくり開けると、大広間に初老の男が、舶来品の羽毛布団を掛け横になっていた。
「よくぞ来てくれた・・・わしがかつて豊後を治めていた・・・大友宗麟(おおともそうりん)。ゴホ!!ゴホ・・・・い・・今はこんな老いぼれた姿になってしまってのう・・・・」
宗麟は無理に立ち上がろうとしたが、咳き込んでいたので球磨は彼を支え背中をさすった。すると宗麟は虚ろな目で彼を見ると、突然泣き出し謝った。
「お主は・・・紅史郎か!?すまなかった・・・お主の兄を大友家に招いてやらず・・・。お主が一生懸命働いていたのに、耳を貸さずに、自分の事しか考えていなかったわしに、神からの天罰がくだったのだ・・・」
宗麟は紅史郎と間違えている球磨に泣きついたが、球磨は何も言えず、目をつぶるしかなかった。湘は薄々と勘づいてきたのか、あえて紅史郎の事は触れず話題を変えた。
「宗麟殿は確か・・・九州平定前に病で亡くなったと聞いたのですが、療養されていたのですね」
まともに話せる状態ではない宗麟に代わり、従者の男が説明した。
大友家は肥後の菊池家を滅ぼした後、豊後で力をつけていき九州の大大名となった。しかし当時、宗麟はキリスト教の崇拝や舶来品の収集など自身の利益しか考えていなかったので家臣はおろか、親族とも仲が良くなかった。そして、豊臣家と薩摩の島津家の九州平定の戦の最中、病に伏せ、周りからは亡くなったと言われ、さらに息子の義統(よしむね)に見限られ、彼は秀吉の一門となり宗麟の権力は衰退し、今では暁家の廃屋で療養している。
湘は話を聞くと、紅史郎の事を思い出していた。彼もまた、宗麟を見限り成政に仕えたのだろうかと。球磨は紅史郎は今どうしているのか従者に聞いた。
「秀吉様から肥後を任された佐々成政殿に仕えていますよ。彼は言っていました。自分は暁家を存続させる為に成政殿に主を替えると・・・」
「そうか・・・・」
球磨は弟の忠義よりも家の存続を選んだことに複雑な気持ちだったが、それでも懸命に生きていると知り、良かったと思った。湘は球磨に今聞くべきかと考えた末、聞いてみた。
「球磨・・・ずっと黙っていた事があるのだが、数日前に紅史郎殿に会ったのだ。その時、彼の兄、煉太郎殿が生きているか探して欲しいと言われたのだが・・・・」
湘の頼み事に続き、宗麟も彼と同じ頼み事を言った。
「そうだ!!わしがお主らに頼みたいことは、わしを島原のトワ・パライソへ連れて行って欲しい!!そして、教祖様に煉太郎の行方を捜して欲しいと頼みたい。わしが紅史郎に叶えてあげられなかった兄との再会を最後に叶えたい・・・」
宗麟が深く涙を流しながら球磨に頼むと、彼は俺が煉太郎だと明かすべきかと迷っていた時、屋敷の外から激しい音が鳴り響いた。

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