第2章 九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神
その頃、球磨は早朝の静かな波の音とカモメの群れが飛び交う有明海をじっと見つめていた。博多の村人から、胡桃は対岸の島原半島へ行ったと聞いたので、彼は早速商船に乗り込んで行こうとした。勘が鋭い球磨は何か胸騒ぎがすると心を痛めていた。
「噂だと、トワ・パライソの信者共が別府で暮らす鬼の一族を襲ったと聞いたしな・・・。やはり、胡桃を胡散臭い所に行かすのは危険だ」
球磨は島原へ向かう帆船の荷を運ぶ船員に成りすますか、海賊に襲われないように船の護衛として堂々と船に入ろうかと考えていた。すると、宇土の港に平行にピッシリと並ぶ帆船を見に来た幼い兄弟を見つけ、彼は昔を懐かしんだ。
『紅史郎!!走ったら危ないよー!!はぁ・・はぁ・・・』
球磨がまだ煉太郎という名の少年だった頃に、弟の紅史郎と一緒に宇土の港に遊びに行った。港には南蛮から輸入された雑貨や菓子を売る市場となっていて、多くの地元民や観光客でごった返していた。煉太郎はやっと弟に追い付き腕を掴んだ。すると、紅史郎の手には星屑のような小さい白や桃色、浅葱色の菓子が入った瓶が握られていた。
「兄ちゃん!!「こんぺいとう」という綺麗な砂糖菓子を買ったよ!!一緒に食べよ♪」
紅史郎の無邪気な顔を見ると、煉太郎は自然と笑顔になった。
「混んでいる中、よく買えたな紅史郎!!ここは人混みが凄いから、少し離れた所で食べようか」
紅史郎が嬉しそうに頷くと、煉太郎も「こんぺいとう」を見せてと弟から受け取った。そして、どうやって作るのかな?と興味津々に小瓶を見回していた。
「兄ちゃん、もしかしてこのお菓子作ってみたい?」
紅史郎は煉太郎の顔をのぞき込みながら言った。煉太郎は時々、屋敷の女中と一緒に料理や菓子を作っている。紅史郎と父と母はよく彼の作った茶菓子を食べていた。
「うーん・・・作ってみたいけど、どうやって作るんだろう?砂糖をどうやって固めるか・・」
煉太郎が手に顎を乗せながら考えていると、紅史郎は笑顔で言った。
「僕も兄ちゃんと「こんぺいとう」を作りたいなー。作り方を南蛮人に教えてもらおうよ」
「それが一番だけど、まずは「ぽるとがる」語を覚えないとな」
煉太郎は頭をかきながら苦笑いをして返事をした。しかし現実にかえり、それを叶えることは出来なかった。弟は今どうしているんだろう?と球磨は感傷に浸りながら帆船に瞳を輝かせている兄弟を見続けていた。その時、彼の頬に冷たいミカンを当てた男が現れた。球磨は『いきなり何すんだ!!』と後ろを振り向くと、予想外の優男と再会した。
「し・・湘おじ!?なんでこんな所にいるんだ!!」
球磨が大声を出して驚いていると、湘は相変わらずだな・・・と呆れながら答え、彼に市場で買った完熟のミカンを渡した。
「君を探していたのだよ。紅史郎という若い武士から、君に探して欲しい人物がいると聞いたのでな」
湘が説明した時、球磨は一瞬動揺したかのように見えた。湘は彼の様子に変だと感じ、話題を変えた。
「まぁ、この件は後にしとくよ。それはそうと・・もしかして君、一人で島原へ向かおうとしているな?」
湘は目が泳いでいる彼の瞳をニヤリと見つめながら質問した。球磨は観念し胡桃のことを話した。湘も紅史郎と別れた後、肥後で情報収集した事を言った。
「噂では、その教祖とやらは秀吉公から肥後を任されている佐々成政を指示していると耳にした。成政は秀吉公に反感を持つ要素がある。・・となれば、豊臣政権に仇なす宗教と、忠義に疑わしい成政が手を組むと、九州で一波乱あるだろう・・・」
湘が先の事を考えると、球磨はいつも通りの気丈な態度に戻り、湘に促した。
「こうなりゃ急いでトワ・パライソに乗り込まねーと!!胡桃を速く連れ戻したいのと、九州の民達が危ねぇ!!」
球磨は手当たり次第船を探し、直ぐに商船に乗り込もうとしたが、湘に呆れられながら止められた。
「想い人が心配なのは分かるが、考え無しで突っ走るな暴れ牛・・・」
「な!?想い人って!!胡桃とはまだそんな関係じゃねーよ!!!」
球磨は赤面しながらムキになり否定した。湘は、戦馬鹿も隅には置けないなとからかった。
「と・・とにかく、胡桃の夢につけ込んで変な宗教に彼女が利用されないか心配なんだよ!!」
球磨の照れて少し声が裏返ったのを聞くと、湘は笑いをこらえながら今後の策を教えた。
「とりあえず、秀吉公を支持している大名は避けておこう。その宗教も、豊臣寄りの者達を簡単に信者にするのを警戒している。筑後の大牟田の国衆も豊臣の傘下に入ったから、信者になれなかったようだ」
現在の九州は豊臣軍の九州平定の後、豊臣傘下となった大名と、今でも豊臣政権に不満を持つ大名に分かれている。
トワ・パライソは反豊臣の大名や民達を積極的に信者にしている。球磨は『言われてみればそうだな・・』と頷き言った。
「下手に秀吉公の傘下の者が信者になったら、間者かもしれないと奴らも警戒するだろうしな・・」
「それもあるが、奴らは先に自分に忠実な信者を集め、徐々に豊臣派の者を洗脳していくか、それとも・・・九州で反乱を起こすか・・・」
湘が先を予測していると、球磨は彼の肩に腕を組み、笑顔で言った。
「考えていてもしょうがないぜ!!善は急げだから、早く信者の大名の元へ行こうぜ!!」
湘も気合いを入れ、そうしようと彼に頷いた。
午後になり、二人は宇土の港で島原へ向かおうとする大名に声をかけたが、「護衛は間に合っている」や「傭兵を雇う金が勿体ない。それなら教祖様に納税する」と、まるで洗脳されているような口振りで断られた。
「うむ・・・意外にも一筋縄ではいかぬな・・・・」
湘が船に乗る大名を渋った顔で見ていた。すると、一人の壮年男性が二人に尋ねてきた。
「島原へ向かう大名を護衛すると聞いたのですが・・・我が主の頼みを聞いてもらえないでしょうか?」
豪奢な大名や活気を帯びた民達が集う船着き場にはそぐわない、みずほらしい姿の男は頭を下げ、二人に懇願した。困った人を放っておけない性格の球磨は「頭を上げてください」と言い、話を聞いた。
「噂だと、トワ・パライソの信者共が別府で暮らす鬼の一族を襲ったと聞いたしな・・・。やはり、胡桃を胡散臭い所に行かすのは危険だ」
球磨は島原へ向かう帆船の荷を運ぶ船員に成りすますか、海賊に襲われないように船の護衛として堂々と船に入ろうかと考えていた。すると、宇土の港に平行にピッシリと並ぶ帆船を見に来た幼い兄弟を見つけ、彼は昔を懐かしんだ。
『紅史郎!!走ったら危ないよー!!はぁ・・はぁ・・・』
球磨がまだ煉太郎という名の少年だった頃に、弟の紅史郎と一緒に宇土の港に遊びに行った。港には南蛮から輸入された雑貨や菓子を売る市場となっていて、多くの地元民や観光客でごった返していた。煉太郎はやっと弟に追い付き腕を掴んだ。すると、紅史郎の手には星屑のような小さい白や桃色、浅葱色の菓子が入った瓶が握られていた。
「兄ちゃん!!「こんぺいとう」という綺麗な砂糖菓子を買ったよ!!一緒に食べよ♪」
紅史郎の無邪気な顔を見ると、煉太郎は自然と笑顔になった。
「混んでいる中、よく買えたな紅史郎!!ここは人混みが凄いから、少し離れた所で食べようか」
紅史郎が嬉しそうに頷くと、煉太郎も「こんぺいとう」を見せてと弟から受け取った。そして、どうやって作るのかな?と興味津々に小瓶を見回していた。
「兄ちゃん、もしかしてこのお菓子作ってみたい?」
紅史郎は煉太郎の顔をのぞき込みながら言った。煉太郎は時々、屋敷の女中と一緒に料理や菓子を作っている。紅史郎と父と母はよく彼の作った茶菓子を食べていた。
「うーん・・・作ってみたいけど、どうやって作るんだろう?砂糖をどうやって固めるか・・」
煉太郎が手に顎を乗せながら考えていると、紅史郎は笑顔で言った。
「僕も兄ちゃんと「こんぺいとう」を作りたいなー。作り方を南蛮人に教えてもらおうよ」
「それが一番だけど、まずは「ぽるとがる」語を覚えないとな」
煉太郎は頭をかきながら苦笑いをして返事をした。しかし現実にかえり、それを叶えることは出来なかった。弟は今どうしているんだろう?と球磨は感傷に浸りながら帆船に瞳を輝かせている兄弟を見続けていた。その時、彼の頬に冷たいミカンを当てた男が現れた。球磨は『いきなり何すんだ!!』と後ろを振り向くと、予想外の優男と再会した。
「し・・湘おじ!?なんでこんな所にいるんだ!!」
球磨が大声を出して驚いていると、湘は相変わらずだな・・・と呆れながら答え、彼に市場で買った完熟のミカンを渡した。
「君を探していたのだよ。紅史郎という若い武士から、君に探して欲しい人物がいると聞いたのでな」
湘が説明した時、球磨は一瞬動揺したかのように見えた。湘は彼の様子に変だと感じ、話題を変えた。
「まぁ、この件は後にしとくよ。それはそうと・・もしかして君、一人で島原へ向かおうとしているな?」
湘は目が泳いでいる彼の瞳をニヤリと見つめながら質問した。球磨は観念し胡桃のことを話した。湘も紅史郎と別れた後、肥後で情報収集した事を言った。
「噂では、その教祖とやらは秀吉公から肥後を任されている佐々成政を指示していると耳にした。成政は秀吉公に反感を持つ要素がある。・・となれば、豊臣政権に仇なす宗教と、忠義に疑わしい成政が手を組むと、九州で一波乱あるだろう・・・」
湘が先の事を考えると、球磨はいつも通りの気丈な態度に戻り、湘に促した。
「こうなりゃ急いでトワ・パライソに乗り込まねーと!!胡桃を速く連れ戻したいのと、九州の民達が危ねぇ!!」
球磨は手当たり次第船を探し、直ぐに商船に乗り込もうとしたが、湘に呆れられながら止められた。
「想い人が心配なのは分かるが、考え無しで突っ走るな暴れ牛・・・」
「な!?想い人って!!胡桃とはまだそんな関係じゃねーよ!!!」
球磨は赤面しながらムキになり否定した。湘は、戦馬鹿も隅には置けないなとからかった。
「と・・とにかく、胡桃の夢につけ込んで変な宗教に彼女が利用されないか心配なんだよ!!」
球磨の照れて少し声が裏返ったのを聞くと、湘は笑いをこらえながら今後の策を教えた。
「とりあえず、秀吉公を支持している大名は避けておこう。その宗教も、豊臣寄りの者達を簡単に信者にするのを警戒している。筑後の大牟田の国衆も豊臣の傘下に入ったから、信者になれなかったようだ」
現在の九州は豊臣軍の九州平定の後、豊臣傘下となった大名と、今でも豊臣政権に不満を持つ大名に分かれている。
トワ・パライソは反豊臣の大名や民達を積極的に信者にしている。球磨は『言われてみればそうだな・・』と頷き言った。
「下手に秀吉公の傘下の者が信者になったら、間者かもしれないと奴らも警戒するだろうしな・・」
「それもあるが、奴らは先に自分に忠実な信者を集め、徐々に豊臣派の者を洗脳していくか、それとも・・・九州で反乱を起こすか・・・」
湘が先を予測していると、球磨は彼の肩に腕を組み、笑顔で言った。
「考えていてもしょうがないぜ!!善は急げだから、早く信者の大名の元へ行こうぜ!!」
湘も気合いを入れ、そうしようと彼に頷いた。
午後になり、二人は宇土の港で島原へ向かおうとする大名に声をかけたが、「護衛は間に合っている」や「傭兵を雇う金が勿体ない。それなら教祖様に納税する」と、まるで洗脳されているような口振りで断られた。
「うむ・・・意外にも一筋縄ではいかぬな・・・・」
湘が船に乗る大名を渋った顔で見ていた。すると、一人の壮年男性が二人に尋ねてきた。
「島原へ向かう大名を護衛すると聞いたのですが・・・我が主の頼みを聞いてもらえないでしょうか?」
豪奢な大名や活気を帯びた民達が集う船着き場にはそぐわない、みずほらしい姿の男は頭を下げ、二人に懇願した。困った人を放っておけない性格の球磨は「頭を上げてください」と言い、話を聞いた。