第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
韮崎、新府城の大広間で梅雪は信康が連れてきた仲間たちと対面していた。梅雪の隣には勝頼の継妻、双葉も同席していた。
「ほう。闇の神官、江津(ごうつ)に、若い学者は厳美(げんび)と言ったな。俺は新府城主、穴山梅雪だ。是非とも主君の為に精を尽くして欲しいぞ!!」
梅雪は喜ばしく2人に挨拶をした。そして、厳美は隣に下を向いている姫を見て尋ねた。
「姫君は梅雪様の奥方ですかー?」
「・・・・・・」
面白半分に厳美は尋ねたが、双葉は無表情で下を向いて黙っていた。
「こらこら・・・厳美。このお方は亡き勝頼の継妻で北条家の姫君でもある。あまり無礼を言うな。まぁでも、後に俺の嫁になる女でもあるがな」
梅雪は高笑いしながら黙り込んでいる双葉の身を自分に近づけさせた。
(・・・勝頼様、氏政兄様・・・申し訳ございません。私はまだ赤子の玄杜を護るために今はこの男の隣に寄り添っています・・・)
双葉は目をつぶり、亡き夫と兄に心から謝罪していた。
江津と厳美は大広間を出た。すると、厳美は陽気に江津に話しかけていた。
「江津さんと言いましたねー。確か、平安時代以前から、石見地方(現島根県中西部)の中国山地の村に死の龍に憑りつかれた一族があると聞いたことがありますよー」
「・・・やたら詳しいな。卿こそ医師や学者を装っているが、私以上に得体のしれない者であるな・・・ふふふ。私の死の龍の呪いが卿に聞くか試してみたいものだ」
江津は冷たい眼差しを青年に向けていた。
「そんな物騒なこと言わないでくださいよー。今は共に梅雪様の野望を叶える同志ではないですかー。仲良くやりましょうよ!!江津さん」
厳美は握手の手を出したが、江津は無視をして立ち去った。
(・・・得体のしれない者が同志でも、私にはどうでも良い。私は聖龍の瞳を持つ神官に会えれば・・・それで良い。聖龍もそろそろ近づいておるしな)
江津は新府城の物見やぐらから北の信濃の方向を見て、桜龍が近づいてくるのを察知していた。
その頃、神官の桜龍(おうりゅう)は、出雲大社を出発してから、山陰、北陸と経由し、西越後糸魚川(現新潟県糸魚川市)から信濃へ南下していった。そして、信濃の中心に位置する諏訪湖(現長野県諏訪市)にたどり着いた。諏訪湖は武田信玄公の水中墓があると知り、桜龍は甲斐の国に入る前に日の出が映える湖畔で信玄公にお参りをした。
「偉大なる甲斐の虎、信玄公・・・。私はこれから甲斐の国で悪行を働く穴山梅雪や江津達の討伐へ向かいます。どうか、甲斐の民たちにご加護がありますように・・・」
桜龍がまぶたを閉じ、静かにお参りをしていると、湖から威厳さと優しさを合わせた声が聞こえた。
(旅の神官、桜龍よ・・・。汝の姿は初めて見るが、汝は無限の可能性を秘めている。我や勝頼が果たせなかった、甲斐の民を護る遺志を継いでほしい・・・。今戦っているモトスと共に・・・。)
桜龍は信玄公の声を聴いて
「その遺志・・・引き受けました!!全てが解決しましたら、湖畔で神楽舞を踊りますよ。信玄公」
凛とした優しい笑みを浮かべ、桜龍は再び湖にお礼をし、その場を後にした。
(聖なる龍の力を秘めし桜龍よ。己の力をひたすら信じよ。聖なる龍は己の心の強さで力は増大される)
信玄公の最後の言葉が耳の中でいつまでも残っていた。
諏訪湖からさらに南へ下ると、甲斐国との境に当たる八ヶ岳の麓、富士見(現長野県諏訪郡富士見町)の地にたどり着いた。高原の風は冷やりとしていたが、長旅した桜龍と愛馬には心地よい風であった。
「やっとここまでたどり着いたぜー。やはり出雲から信濃までは距離があったな!!」
桜龍は疲れている愛馬の八雲(やくも)に水や食事を与え、近くの川原で少し休憩をとった。
「あと2里ほど(8キロ位)南下すれば、甲斐の小淵沢に入る。そこは何と、日本武尊様が軍や馬を休ませて、後に神社を建てたという伝説があるんだぜ!!後でその地にお参りをしようか。・・・江津との戦いに勝つように」
桜龍は水を飲んでいる愛馬の髪を優しくなでながら、左目の眼帯を外し、水面に白金色に輝く聖龍の瞳を映し出していた。
「ほう。闇の神官、江津(ごうつ)に、若い学者は厳美(げんび)と言ったな。俺は新府城主、穴山梅雪だ。是非とも主君の為に精を尽くして欲しいぞ!!」
梅雪は喜ばしく2人に挨拶をした。そして、厳美は隣に下を向いている姫を見て尋ねた。
「姫君は梅雪様の奥方ですかー?」
「・・・・・・」
面白半分に厳美は尋ねたが、双葉は無表情で下を向いて黙っていた。
「こらこら・・・厳美。このお方は亡き勝頼の継妻で北条家の姫君でもある。あまり無礼を言うな。まぁでも、後に俺の嫁になる女でもあるがな」
梅雪は高笑いしながら黙り込んでいる双葉の身を自分に近づけさせた。
(・・・勝頼様、氏政兄様・・・申し訳ございません。私はまだ赤子の玄杜を護るために今はこの男の隣に寄り添っています・・・)
双葉は目をつぶり、亡き夫と兄に心から謝罪していた。
江津と厳美は大広間を出た。すると、厳美は陽気に江津に話しかけていた。
「江津さんと言いましたねー。確か、平安時代以前から、石見地方(現島根県中西部)の中国山地の村に死の龍に憑りつかれた一族があると聞いたことがありますよー」
「・・・やたら詳しいな。卿こそ医師や学者を装っているが、私以上に得体のしれない者であるな・・・ふふふ。私の死の龍の呪いが卿に聞くか試してみたいものだ」
江津は冷たい眼差しを青年に向けていた。
「そんな物騒なこと言わないでくださいよー。今は共に梅雪様の野望を叶える同志ではないですかー。仲良くやりましょうよ!!江津さん」
厳美は握手の手を出したが、江津は無視をして立ち去った。
(・・・得体のしれない者が同志でも、私にはどうでも良い。私は聖龍の瞳を持つ神官に会えれば・・・それで良い。聖龍もそろそろ近づいておるしな)
江津は新府城の物見やぐらから北の信濃の方向を見て、桜龍が近づいてくるのを察知していた。
その頃、神官の桜龍(おうりゅう)は、出雲大社を出発してから、山陰、北陸と経由し、西越後糸魚川(現新潟県糸魚川市)から信濃へ南下していった。そして、信濃の中心に位置する諏訪湖(現長野県諏訪市)にたどり着いた。諏訪湖は武田信玄公の水中墓があると知り、桜龍は甲斐の国に入る前に日の出が映える湖畔で信玄公にお参りをした。
「偉大なる甲斐の虎、信玄公・・・。私はこれから甲斐の国で悪行を働く穴山梅雪や江津達の討伐へ向かいます。どうか、甲斐の民たちにご加護がありますように・・・」
桜龍がまぶたを閉じ、静かにお参りをしていると、湖から威厳さと優しさを合わせた声が聞こえた。
(旅の神官、桜龍よ・・・。汝の姿は初めて見るが、汝は無限の可能性を秘めている。我や勝頼が果たせなかった、甲斐の民を護る遺志を継いでほしい・・・。今戦っているモトスと共に・・・。)
桜龍は信玄公の声を聴いて
「その遺志・・・引き受けました!!全てが解決しましたら、湖畔で神楽舞を踊りますよ。信玄公」
凛とした優しい笑みを浮かべ、桜龍は再び湖にお礼をし、その場を後にした。
(聖なる龍の力を秘めし桜龍よ。己の力をひたすら信じよ。聖なる龍は己の心の強さで力は増大される)
信玄公の最後の言葉が耳の中でいつまでも残っていた。
諏訪湖からさらに南へ下ると、甲斐国との境に当たる八ヶ岳の麓、富士見(現長野県諏訪郡富士見町)の地にたどり着いた。高原の風は冷やりとしていたが、長旅した桜龍と愛馬には心地よい風であった。
「やっとここまでたどり着いたぜー。やはり出雲から信濃までは距離があったな!!」
桜龍は疲れている愛馬の八雲(やくも)に水や食事を与え、近くの川原で少し休憩をとった。
「あと2里ほど(8キロ位)南下すれば、甲斐の小淵沢に入る。そこは何と、日本武尊様が軍や馬を休ませて、後に神社を建てたという伝説があるんだぜ!!後でその地にお参りをしようか。・・・江津との戦いに勝つように」
桜龍は水を飲んでいる愛馬の髪を優しくなでながら、左目の眼帯を外し、水面に白金色に輝く聖龍の瞳を映し出していた。