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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

その頃、桜龍と仁摩は太宰府から南の久留米で休息をしていた。この地は久留米城を中心に商業が盛んで、南蛮品を取り扱った店も多く点在している。
「はぁ・・・腹減ったなぁ。なぁ仁摩殿、何か食わないか?」
「桜龍たら・・・呑気ね。私たちは胡桃さんを探して、変な宗教にのめり込まないように説得しに行くのでしょ!!」
数日前、2人は太宰府の学者、紋治に炎の魔人について聞きに行った。その時に彼の娘の胡桃の話が出て、彼女がトワ・パライソにのめり込まないように説得をしようと、彼女が今住んでいる博多の村を尋ねたが彼女の母が呑気に、『何でも研究したいことがあると言って、しばらく家に帰らないと言って出て行ったよ』と言っていた。村人に聞くと肥前の島原へ向かったと噂も流れていた。
「確かにそうだな・・・腹の虫より、今日中に筑後を抜けて肥後国に入りたいしなぁ。そしたら、定期船に乗って島原へ行かれるな♪」
桜龍は意気込んでいたが腹がグーッと鳴った。仁摩は呆れていたが、彼女もまたお腹がグーッと鳴った。
「腹が減っては戦は出来ぬというから、この辺りで昼食を取りましょうか、桜龍」
仁摩と桜龍は行列が出来ている食事処に並んだ。

数刻が過ぎてやっと店の中に入れた。
「随分と繁盛している店だなー。しかし、今思ったんだが、客は女性が多いなー。俺も可愛い女に見られていたりして♪」
「なーにを馬鹿なことを言っているのよ・・・早く食べる物を決めなさい」
桜龍は蕎麦にしようか、穴子の丼にしようか迷っているときに、隣の席に座っていた2人の女性が頼んだ物に目がとまった。
「こちらは、当店の新しい甘味、西洋風巨大どら焼きです。ですが・・・2人前食べられますか?」
店主が皿に溢れんばかりの巨大などら焼き(後のホットケーキと呼ばれる菓子)をちゃぶ台に置いた。南蛮から輸入されたバターと蜂蜜が皿から零れそうな程盛り付けてあった。しかし、女性2人は特に関心が無く、紅玉の装飾が付いた銀の手鏡で、それを写した後、口にすること無く店を出ようとしていた。桜龍はなんと罰当たりなと思い、彼女たちを止めた。
「おいおい・・・全部食べろとは言わないが、せっかく注文したんだから一口でも食べるのが作ってくれた店主や食材への礼儀だろう?」
「うるさいわね!!こっちはしっかりとお金を払ったのよ!!どうしようと私たちの自由でしょ!!」
女性2人は桜龍に強く反論したので、彼は、それじゃなんで注文したんだよ!!と言い返そうとしたが、彼女たちの何かに取り憑かれたかのような異常な慌ただしさに少し怪しいと思った。仁摩は間に入って言い争いを止めようとしたが
「とにかく私たちは次の映像を撮らないといけないの!!邪魔しないでよ!!」
「きゃあ!?」
女性の1人が仁摩を強く押した。仁摩は倒れそうになったが、長身の神父服を着た男性が支えてくれた。
「お食事処なんですから、もう少し穏やかに話し合いましょうよ」
長い銀髪の神秘的な雰囲気の青年だったが、桜龍は彼を一目見ると、見た目よりも結構歳がいっていると分かっていた。しかし、それを感じさせないほどの美貌を持つ男性にも関わらず、女性2人は全く見向きもしなかった。
「あんたも邪魔するの?私たちはあのお方の妻になるために映像を撮って認めて貰いたいの!!こんな店にはもう用はないのよ!!」
女性達は気が狂ったかのように男性の顔を見上げ睨んだ。しかし、男は穏やかな表情で彼女たちに諭した。
「世の中には食べたくても食べられない人々が沢山います。そんなもったいないことをすれば・・・」
後の言葉を言ったときの男性の顔は鬼のような鋭い目をし、一瞬、後ろに鬼が居るように見えた。
「罰が当たり、神からの天誅が下りますよ」
男の冷徹で怒りに満ちた言葉に女性は何も言えずに、下を向き謝った。
「分かりました・・・食べますよー。ただ・・・こんなに沢山は・・・」
困り果てている女性2人に、桜龍と仁摩は喜んで提案した。
「それじゃあ、俺たちも一緒に食べるぜ。そのどら焼き甘くて美味しそうだからさ♪」
「皆で食べれば食べられるわよ。食べた分は桜龍が支払ってくれるからね♪」
仁摩が続けて言うと、桜龍はおいおい・・・と財布の中身を渋々と覗いていた。すると神父服の男性が桜龍の肩にぽんと手を置き、私も払いますよと目で合図した。そして、先ほどとは考えられないほどの優しい笑みを浮かべ彼女たちに言った。
「それでは私も少しいただきます。こう見えて私も並の人間よりも沢山食べるので」
人間?その言葉に桜龍と仁摩は疑問に思ったが、とりあえず彼女たちと巨大な西洋風どら焼きを食べることに専念した。
桜龍達は西洋風巨大どら焼きをペロリと完食した。そして、女性2人は仁摩を押し倒しそうになった事を謝り、桜龍と神父服の男にも礼を言い、店の前で別れた。
「いやー、どら焼き旨かったけど、何であんな常識的に完食が難しい不経済な大盛りを出すかなー?」
「きっと、皆は手鏡の魔力に踊らされているのでしょう。桜龍君と仁摩さんも見たかもしれませんが、彼女たちはどら焼きが出てきたときに、鏡でそれを写していましたね」
「私も見たのですが・・・あの鏡は美しい装飾がされていたけど、同時に邪気も感じましたわ・・・」
桜龍も仁摩の言うとおり、手鏡が不可解な物だと感じていた。
「それに・・・彼女たちが言っていた、あのお方の妻になるってのが気になるぜ・・・ここに俺と益城さんという素敵な男がいながらも、そっちのけだったぜあの娘達・・・」
仁摩は素敵な男性は益城さんなら納得だが、桜龍はどうだか・・・と呆れていた。益城は苦笑しながら、2人に九州での出来事を説明した。九州ではトワ・パライソという謎の宗教が流行している事を。桜龍と仁摩も太宰府で学者の紋治に聞いたので、大方話を理解していた。
「さっきの鏡はトワ・パライソの贈り物だったという訳か・・・とんでもない物を流行らせたな・・・」
「私も鏡や宗教団体について情報を得たくて、孤児院をしばらく他の神父に任せ、久留米まで来たのですが、この辺りは魔鏡を持つ者が居た他には変わったことはありませんでしたね・・・」
「それなら、このまま南に下って肥後国の中心部へ行こうぜ!!あそこは豊臣家の家臣、佐々成政殿が治めている。・・・巻き込まれていないか心配ですぜ」
桜龍が何か不吉な予感を察していると、益城は彼の姿を見てふと思った。
「桜龍君、君は・・・私の一番弟子に似ていますね。その勇敢さと気遣う優しさが」
桜龍は一番弟子が誰だか分からなかったが、益城に褒められて嬉しそうにぴょんぴょんとウサギのように飛び跳ねた。仁摩は頭を抱えながら益城に言った。
「益城さんが思っているよりも、桜龍はいい歳をしてやんちゃで子供っぽいですよ、まったく・・・・」
「それでは、肥後国の成政殿の居城へ行ってみましょう」
3人は久留米から南下した。
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