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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

田園地帯から山奥の閑散とした道へ行くと、深い森の中に、もくもくと熱い湯気が出ている地帯に抜けた。湯気が濃い場所まで進んでいくと、海のような碧い池や、血の池地獄、落差がある温泉の滝など様々な湯の水源地帯だった。後に、別府地獄巡りの観光地として有名になる。鬼の一族は別府や湯布院、阿蘇などの九州の山岳地帯に住んでいる、人間世界とは切り離された生活を営む種族だ。争いや人間達との関わりを避け、独自でのびのびと暮らしている。
「目的地に着いたが・・・誰も居ないな」
「鬼達も出てきませんね・・・人間を警戒しているのでしょうか?」
モトスは森精霊の特性で嗅覚や視覚に長けているので、その能力で辺りの気配を探った。千里はその場にしゃがみ込み、土に手を置き、大地の力で鬼達の居場所を探していた。すると、それぞれの池の中から何者かが姿を現した。モトスは鬼の登場の仕方に少し驚いていた。
「よもや!?高熱の温泉に忍んでいたとは・・・鬼の一族は熱湯に強いのか?」
「驚くところはそこですか・・・モトスさん。彼らは特殊な力を持ち、実力もそうとうですよ」
鬼の姿は人間とそれほど変わらない背丈だが、皆が銀色の髪で、頭には鋭い角が生えていた。鬼達は2人を睨み付けながら、槍や棘の棒などを構えていた。
「貴様らは、変な鏡を身につけて鬼の温泉郷を荒らす不届き者か!!」
モトスは鬼達の気迫に全く怖じ気づく事無く名を名乗った。
「俺の名はモトス。任務により九州の様子を見に来ている。お主達に一切危害を加えるつもりはない」
「僕は千里です。この温泉郷では何か起こっているのですか?」
2人は鬼達に尋ねたが返答が無く、問答無用!!と襲いかかってきた。
2人にめがけ、巨大な金棒が振り下ろされたが素早く横に避け、間合いから外れた。即座にモトスは双曲刀を構え、千里も鎖鎌を構えた。鬼達の攻撃は鋭く力も強い。彼らの特殊能力、念力で2人は吹き飛ばされたが、直ぐに体勢を整え攻撃に備えた。千里は鎖鎌で彼らの武器を破壊したり、暗器の針で手や足の神経を指し、相手の動きを止めた。そして、モトスも素早い動きや分身の術などで鬼達を錯乱し、体力を消耗させた隙に痺れの粉を使った。2人は極力鬼達を傷つけないように最小限の力と能力で戦闘不能にさせた。
「粉の毒は直に消える。教えてはくれぬか?鬼の地を荒らす不届き者とは・・・?」
モトスは武器を納め、心配そうな表情で鬼達に尋ねた。しかし彼らは、2人を信用していないのか、一向に口を割る気配が無かった。その時、海の池地獄から女神のような鬼が姿を現した。
「我が一族が、勝手な思い込みで、そなた達に迷惑をかけてしまった事を謝ろう。わらわは由布(ゆう)鬼の一族をまとめる長だ」
由布は薄紅色の細く美しい長い髪であり、清楚な絹の羽衣を身にまとい、気高さと気品に満ちた姿をしていた。歳は中年以上に感じたが、それを思わせないほどの美貌と若さを保っていた。
2人は由布に自己紹介をした。その後に鬼の温泉郷へ来た目的を話そうとしたが、モトスは由布にこれ以上は言わなくても分かっておると口元に手を当てられた。
「そなた達は豊臣家の命により九州へきたのであろう。それと、モトスと千里には同じ志を持つ同志が居るようだな」
「桜龍と湘と球磨をご存じですか?」
「まだ会ったことは無いが、それぞれ地水火風に聖なる龍の加護を持つ勇士が近くに居るという気配を感じる。そなた達は面白い。常に一緒に居る仲間では無いのに、深い縁でまた巡り会うとは」
モトスと千里は何でもお見通しの由布に感心をしていた。千里は気を取り直し今起きている事を尋ねた。
「先ほど鬼の者達が変な鏡を身につけてと言っていたのですが、その鏡はもしかするとこんな鏡ですか?」
千里は、田畑で百姓の男が持っていた奇妙な鏡を土の魔法で形や装飾を再現させ模造鏡を由布に見せた。
「鏡までは再現できませんでしたが、大方このような形や装飾でしたか?」
由布はじっくりと模造鏡をのぞき込んだ。
「確かに・・・大きさと装飾の位置は合っておる。それと・・・裏側の紅玉も妖しく光っていた」
「その鏡と鬼達を襲っている不届き者との関係は一体?」
モトスが尋ねると、由布は深刻な顔をして2人に話した。


ここ数日で奇妙な鏡を手に持った町人達が武装し、温泉郷から鬼を追い出そうとしていた。
「ここは温泉に恵まれているから、トワ・パライソの保養所にする!!だから、鬼共は他の場所で暮らせ!!」
「冗談では無い!!ここは我々の村。人間達が踏み入れてはならぬ聖域だ!!」
そこで鬼と町人が争いになった。力と能力では鬼が勝っては居るが、町人は銃や持ち運び大筒などの南蛮兵器を装備していたので、被害に遭った鬼が多く居た。
「どういうつもりか知らぬが、我ら鬼の一族の土地を荒らす輩は許さぬぞ!!」
由布の強大な力で町人を追い出した。

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