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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

その頃、桜龍と仁摩は太宰府天満宮の広い書庫で、歴史学者の紋治(もんじ)と話をしていた。紋治は度の強いめがねをかけている壮年男性である。
「何か・・・炎の魔人について分かる文献はありますか?」
桜龍は仁摩と共に古文書に目を通しながら、向かいの席で分厚い書物を読んでいる紋治に小声で尋ねた。
「ふむ・・・炎の魔人・・・神話では竈神(かまどかみ)やカグツチが火の神と言われているが・・・魔人とは初耳だな・・・」
紋治が虫眼鏡で細かい文章を読んでいると、仁摩も質問した。
「昔、炎の魔人が日ノ本に災いをもたらしたという文献はありませんか?」
「特に文献には残ってはないな・・・。何せ、魔人は南蛮の神話に出てくる伝説上の存在だからな・・・」
3人はその後も広い書庫に置いてある書物に目を通していたが、得られた情報は無かった。しかし、それでも桜龍と仁摩が熱心に本を隅から隅まで目を通していると、紋治は少しクスッと笑った。
「君たち2人が本を読んでいると、我が娘の事を思い出すよ」
「娘さんも本を読むことが好きなんですか?」
「そうだよ。娘は将来、歴史学者になりたいと小さい頃から本の虫でな。史跡巡りも良く一緒にいったものだよ。ただ・・・女は学者になるのは難しい・・・その後に言い争いになってしまって・・・」
紋治が思い悩んでいると、桜龍は優しく励ました。
「中々、女性が学問などで世に出るのは難しいかもしれないが、娘さんも研究と努力を重ねて、学者を目指してみるのも良いんじゃないかな」
「そうですよ。昔は紫式部や清少納言とか、女性の文豪が居たのだから、女性が学者を目指しても良いと思います。もちろん、紋治さんが娘さんの将来を心配する気持ちを十分に理解していますが、もう一度話し合ってみてはどうでしょうか?」
仁摩が紋治に提案すると、紋治はそうしようかと頷いた。その後に、紋治は娘とケンカをした理由を話した。
「君たちが、九州へ来たときに、トワ・パライソと言う名前を耳にしたことがあるか?」
2人は、そういえば門前町を歩いているときに、「トワ・パライソへ寄付金を!!」と奉仕活動をしていた者達を目にした。紋治はやはりな・・・と深刻な顔で話を続けた。
「トワ・パライソという最近になって現れた宗教団体に、寄付をすれば、何でも願いが叶う・・・娘の胡桃はその団体に、学問所で稼いだ金を寄付しようとしている・・・それに反対をしたからケンカになったのだよ・・・」
「名前からして胡散臭いよなー。名前も西洋かぶれしていて気に入らねーぜ」
「胡散臭いかは別として、私は、娘にはどんなに難しくても自力で学者を目指して欲しいと思っている。・・・そんな宗教に頼って欲しくない・・・」
「うーん・・・神社とかも何かを成功させたり、恋愛成就を叶えるために、お祈りをする人も沢山居るが、それは自分の努力もあって叶えられる物だからな・・・。それを寄付金目当てで願いを叶えるなんて、神仏を信仰する者には許せん行為だな」
桜龍が立ち上がると、仁摩もその通りだわと相づちを打った。すると、紋治が2人に助言をした。
「もしかすると・・・大神官殿が予言で見た魔人が、トワ・パライソに関係しているかもしれないね。確か・・・肥前の島原を拠点としていると聞いたことがある・・・」
「貴重な情報をありがとうございます!!紋治さん。では、その宗教団体について調べてみます。あと、胡桃さんが妖しい宗教にのめり込まないように会ったら説得します!!」
桜龍が大きな声で紋治に言うと、周りに居た神官や学者達が一斉に彼に向かってシー!!と注意をした。仁摩は赤面しながら桜龍の頭を強く押し、すみませんと謝った。


次の日、球磨は肥前の平戸(現長崎県平戸市)で手作りの黄色いふわふわとした南蛮菓子を民達に振る舞っていた。以前、ポルトガルの菓子職人の手伝いでカステイラを作っていたのだ。菓子は、蜂蜜と砂糖の味が甘く腹持ちも良いので、仕事などで疲れた民達は喜んで食べていた。球磨は民達の嬉しそうな顔を見て、軽快に石窯と火の魔法でカステイラを作り続けた。
(この南蛮菓子は歴史上有名になるかもなー♪仕事が終わったら、博多にいる胡桃さんにも渡して、もう一度ゆっくり話をしたいぜ・・・)
球磨は石窯から焼けたカステイラを取り出し、待っている民達に再び渡した。すると、最後の1つになると、金髪でかんらん石のような黄緑色の瞳を持つ青年が受け取った。球磨は彼の異国風な顔立ちと、背中や肩を露出した奇抜な和服に、少し近寄りがたいと感じた。
(はぁ・・・随分と浮世離れした風貌の男だな・・・。南蛮人みたいだ・・・って!!まさか!?)
球磨は、男性の姿を見て、トワ・パライソの教祖ではないかと疑った。
(昨日・・・胡桃さんから話を聞いた・・・宗教団体。彼女は学者になる夢の為に寄付金を提供しているとか・・・?)

昨日、球磨と胡桃が別れる前に、彼女は父とのケンカの理由を話した。
「トワ・パライソに寄付金を贈れば、私を歴史学者にしてくれると。それと、信者になれば、団体の学者にもなれると」
胡桃は瞳を輝かせながら言った。彼女は半ばトワ・パライソにのめり込んでいる風に見えた。球磨は益城から話を聞いていたので、少し疑わしい団体ではないかと思っていた。
「・・・俺は君と初めて会って間がないから、何も言えないが、お父さんは君自身の力で学者を目指して欲しいと思っている。それに、宗教に頼るのは良いとは思えないぜ・・・」
「それでも!!この時代、女性が学者になるなんて、どんなに努力しても難しいのよ!!」
胡桃は強気な態度で球磨に反論したが、直ぐに感情的になりすぎたと謝った。
「ご・・・ごめんなさい、球磨さん・・話を聞いてもらったのに、当たってしまって・・・。それでは、私は自宅に帰ります・・・・・」
胡桃は球磨にお辞儀をし、走って帰って行った。球磨は彼女の決めたことに間違っているとは言えなかった。

そして、現在になり、球磨は胡桃の事を思い考え込んでいると、男性は爽やかな笑顔で尋ねてきた。
「カステイラ1つ貰ってよかね?」
男性の独特な話し方に球磨は、え!?と戸惑った。
「そんな驚かんとー。この辺りでカステイラを民たちに渡していると聞いたけん。おいはカステイラが好いとーね♪」
球磨は我に返り、彼にカステイラを渡した。球磨は咄嗟に質問をした。
「尋ねるが、宣教師かこの辺りのキリシタン大名か?」
球磨の率直な質問に、男性は少しはぐらかしながら答えた。
「まぁ、似たようなものけん。それより、お兄さんは菓子職人かね?」
球磨はいいや違うと答えると、自信満々に自己紹介をした。
「俺は球磨。戦が俺を呼ぶ傭兵だぜ!!戦の他にも護衛や炊き出しの手伝いなど、色々な事が出来るんだぜ♪」
「とても逞しか九州男児けんねー。それと、球磨君には強き炎が宿っているとね。何か護りたいものでもあるのかね?」
男性の質問にも球磨は力強く答えた。
「護りたいもの・・・それは、育った孤児院の子供たちや、日ノ本を闇に染めようとしている野郎から民たちを護りたい!!俺はその為に強くなりたいと思っている!!」
「強い志を持つ男たい。ばってん(しかし)本当に護りたい者の為には犠牲も付き物けん」
男性は一瞬、妖しい表情で球磨の耳元で囁いた。
「それはどういう」
どういうことだと言葉を続けようとしたが、男性の陽気な口調で遮られた。
「貴重な話を聞けて、カステイラも食べられて楽しい時間だったとね。また、会えるといいけんねー球磨君♪」
男性は球磨に金を渡し、直ぐにその場を去った。
「何だったんだ?あいつ・・・そういえば名前聞かなかったな!!」
球磨は彼を謎多い人だなと思っていたが、とりあえず、まだカステイラを待っている民たちが居たので、急いで作った。
(明日また、胡桃さんと会って話してみようかな・・・)
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