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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

筑前の博多港、ここは古くから対馬海流と広大な大陸灘により、漁業や貿易が盛んな港。また大陸からの侵略から守るために多くの土塁も築かれていた。遠くに対馬が見える博多湾で、栗色の髪の眼鏡をかけた女性が村の子供たちに、港に面して高く広がる土塁について話をしていた。
「この土塁は、鎌倉時代に元と高麗国からの襲来を護るために造られたもので、元は今の明国で、高麗は朝鮮という名に変わっているのよ」
女性は柔らかく穏やかな口調で子供たちに説明した。
「だから、でっけー大陸の大軍に勝てたんだね!!胡桃(くるみ)先生!!」
活発な男の子が土塁の強さに感動した。胡桃と呼ばれた女性は、土塁の凄さの他にも、台風や嵐が来たり、古代からの日ノ本の武人魂が、大軍に勝ったとも熱く説明をした。子供たちはその話を聞いて感動して、改めて土塁や博多湾を見回していた。すると、勉強熱心な女の子が胡桃に質問をした。
「胡桃先生!!どるいってお城の壁と違うのー?」
「土塁は屋敷の仕切りや、お城でいうと入り口や三の丸までを囲んでいる感じだわ。二ノ丸や本丸になると、石垣になって巨大な岩を詰めて、強固な護りを固めているのよ」
胡桃が興味津々な子供たちに説明を続けていると、後ろから複数の銃を持った男達が姿を現した。
「嬢ちゃんと坊主たち。勉強中悪いが、今から俺らは土塁を使って銃の練習をするんでな。怪我したくなかったらお家に帰んな!!」
ガラの悪い侍たちは新品の火縄銃を見せびらかしながら、しっし!!と胡桃達にあっち行けと命令した。しかし、胡桃は歴史的建造物がある場所で銃の練習など許せなかった。
「そうはいかないわ!!あなたたちがここで歴史を学んだり、海を眺めるだけなら何も言わないけど、歴史の名残りがある場所での銃の練習なんて許しません!!」
胡桃の引かない態度に侍たちは堪忍袋の緒が切れ、暴言を吐いた。
「なんだと!!女のくせに学者気取りか?いいか、女は嫁に行って大人しく家事でもしてればいいんだよ!!先生ごっこみたいな事してんじゃねーよ!!」
侍の1人が胡桃の肩を強く押した。強い力で押されたので、段差から落ちそうになった時、いつの間にか現れた黒髪褐色の大男が受け止めてくれた。
「けがはないかい?嬢ちゃん、いいや先生」
胡桃は男の炎のように輝く琥珀色の瞳を見て、頬が赤くなった。その光景に子供たちは憧れの眼差しを彼に向けていた。
「え・・・ありがとうございます・・・。あなたは一体?」
「俺は日ノ本各地を旅する、傭兵の球磨ってんだ。」
球磨が抱えていた胡桃を優しく下すと、彼女に酷い事をした侍達を強く睨みつけ、怒鳴った。
「ところで、てめーら!!寄ってたかって、女子供をいじめんなよ!!それに、女は学者になれないだの、家事しかできないなど、勝手に決めてんじゃねーよ!!」
侍たちは球磨に怒られた事に腹が立ち、彼に脅しで銃を向け、1人が彼の足元に外して撃った。胡桃は驚き子供たちは泣きだしてしまった。しかし球磨は動じずに彼らに怒りの言葉をぶつけた。
「女子供の前で銃を向けんなよ!!銃を向けるときは戦場と、誰かを護るためにしろや!!」
球磨は先手を取り、近くの侍の銃を奪い取り、膝で火縄銃を割った。
「え・・・ちょ・・・新品の火縄銃が・・・・・」
火縄銃を真っ二つに折られた侍は涙を流した。他の侍達も数人がかりで球磨に襲い掛かってきたが、彼は背中の西洋槍を抜くこともなく、蹴りや投げ技など、遊びを楽しむかのように彼らをねじ伏せた。そして、最後に侍たちに強く言った。
「俺は見ての通りの筋肉野郎だが、料理も裁縫も洗濯もすごいんだぞ!!趣味や好きな事に男も女も関係ねーだろうが!!」
胡桃が子供たちと土塁の陰に隠れて見ていると、侍たちは涙を流しながら逃げて行った。胡桃は彼の言葉に感動した。
「助けてくれてありがとうございます、ええっと・・・球磨さん。」
子供たちも一斉にお礼を言うと、球磨は礼には及ばんよと照れながら言った。
「それに・・・男も女も関係ないという言葉がとても響きました。ああ!!名前をまだ言っていなかったです。私は胡桃と言います。父は大宰府で歴史学者をしていて・・・。私も父に憧れて、歴史学者になりたいと志しを持っているのですが・・・女が変ですよね・・・?」
「おいおい・・・さっきの侍たちに言った強い意志はどうした?そしたら、俺だって変になるじゃないかよ、こんな筋肉野郎が女の仕事が好きだって事がさ」
「そんなことないですよ!!腕っぷしも強くてお料理が出来る、素敵な事だと思います」
胡桃が頬を赤くしながら弁解すると、球磨はクスッと笑い彼女の頭を優しくなでた。
「少し前に土塁の陰で胡桃さんの説明を聞いていたんだ。俺も参加してみたかったんだが、この歳で・・・恥ずかしいかなと思ってな」
「勉強するのに歳は関係ないですよ!!もし良ければ、今からでも博多湾の歴史や文化を聞きますか?まだ子供たちに教えたいことがたくさんあるので」
「おう!!喜んで♪」
球磨は子供たちと一緒に胡桃の説明を聞いていた。そして、時間があっという間に過ぎ夕方となった。博多湾は美しい夕焼けに照らされ、漁に出た船も港に帰ってきた。2人は夕焼けを見ながら港近くの村まで子供達を送った。親が子の帰りを待ち、仲良く帰る姿に球磨は少し涙ぐんだ。
「球磨さん・・・泣いていますか?」
「バレたか・・・恥ずかしいが、隠すのは男じゃねえ!!俺も昔は家族と仲良く飯食ったり、祭りに行ったりしたんだぜ」
「そうだったのですね・・・」
胡桃はその先のことは察し、何も言えなかった。
「そう暗い顔すんなよ!!家族はいなくなっちまったけど、新しい育ての親が俺を強くしてくれたし、血は繋がっていなくても護りたいと思う兄弟もいる。だから、どちらも俺にとっては大切な家族だよ」
「家族思いなのですね、球磨さんは。私も父と少しケンカをしてしまって・・・仲直り出来るかしら?」
胡桃がうつむいて悩んでいると、球磨は何故ケンカしたのか尋ねてみた。
「俺で良ければ話を聞くよ。俺の胸に飛び込んできても良いぜ♪」
「もう!!からかいは結構です!!」
胡桃は頬を膨らませながら、球磨に理由を話した。
「球磨さんはトワ・パライソをご存じですか?」
球磨はその宗教団体が気になり、耳を傾けた。
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