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第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

 甲府の南、竜王(現山梨県甲斐市)付近には武田信玄が笛吹川や釜無川(富士川)の氾濫を抑えるために信玄堤という堤防があった。現在その地は武田の残党の拠点として、モトス率いる武田の残党と織田兵は戦っていた。しかし連戦続きで、兵士や忍軍にも疲れが出始めていた。
(っく・・・ここまで連戦が続いているとなると兵士たちにも疲れが出始めている・・・これ以上戦っては犠牲を増やすだけなのか!!)
モトスは兵士たちを下がらせ、必殺技を出す為、短い集中力で術を発動させた。
(自然を司る精霊の加護よ。我が、森の精霊に神風の力を!!!!)
巨大な竜巻を発生させ、織田兵を一掃させた。この力は、富士五湖に存在する森と自然を司る精霊が使える術である。
「これで大分向こうの戦力を削ることが出来たぞ!!」
モトスは兵士たちと安堵していたが、殺気を感じ、とっさに両手に曲刀を構え銃弾を弾いた。そして、遠くの銃弾が放たれた場所に視線を向けた。
「き・・・貴様は梅雪!!!・・・いいや違う・・・信康か?」
「良く分かったね。モトス。僕が梅雪ではないと見破れるのは君だけだよ。」
「穴山梅雪の腹心・・・お前も武田兵狩りをしているのか!!!!」
「梅雪様のお望みでね。あのお方は自分を蔑ろにした甲斐の民たちを恨んでいる。だから、兵や民たちに穴山の脅威を示し、屈服させるのが目的だよ。」
「教えてくれ信康!!お前も梅雪も今まで信玄公や勝頼様に深い忠義を尽くしていた。なぜ変わってしまったのだ!!何がお前たちを変えてしまったというのだ?」
「・・・変わってなどないよモトス。梅雪様は信玄公が亡くなってから武田を見限って、織田を利用して、穴山がこの世を支配しようとまで考えていたのだよ。僕も、故郷亡き甲斐の国には全く興味はないのでね」
信康は銃をしまい、モトスに近づいた。モトスは警戒しながらも彼の言葉に耳を傾けていた。
「なあ、モトス・・・昔馴染みの君が梅雪様に付き、片腕として野望に協力してくれれば、快く受け入れるよ。働きによっては忍びから大名にしてあげられるよ。人ではない、森の精霊サマのお前がいれば、100人力だよ。」
信康は優しい笑みを浮かべ、モトスに手を差し伸べ誘おうとした。だが、モトスはその手を振り払い、彼を強く睨みつけた。
「断る!!俺は勝頼様の、『民は宝だから民たちを護り抜く』その遺志を継いだのだ!!!俺はお前たちのような民を虐げる下賎の大名に付くつもりなど一切ない!!」
信康は優しい笑みから、狂気に満ちた笑みに変貌し、両手の短銃を構えた。
「なら、ここで始末してやる!!!!!!!」
2丁の短銃は同時に発砲された。しかし、モトスは至近距離で即座に避け、男の右手を掴み、背負い投げで投げ落とした。しかし信康は怯むことなく、仰向けに倒れながらも、モトスの顔を目掛けて、発砲させた。銃はモトスの頬をかすり、その隙に、忍びの腹部に蹴りを入れ、体勢を整えた。
「・・・なかなかやるではないか信康。織田兵を相手にしていたが、一筋縄ではいかないな・・・。」
「僕を甘く見ない方がいいよ。これでもお前に負けないほど修羅場を乗り越えているのでね!!」
信康は右腕の篭手の中に仕込んであった刃でモトスに攻撃した。モトスは両曲刀で受け止め、素早い攻撃に出方を窺っていた。信康は素早く左手に装備した銃でモトスの腕を撃った。男は勝ち誇った顔をしていたが、モトスの姿から丸太に変化した。それは、彼の放った忍術であった。しまった!!と気づくのが遅かった。モトスは後ろから毒を仕込んだクナイを信康の腿(もも)に刺した。
「あ・・・うう・・・・・足が・・・・痛い・・・・。」
足には電気が走るほどの強い痛みが走っていた。
「・・・・その毒は体に強い痛みを感じる物だが、死にはしない。・・・もうやめろ!!いくら梅雪に恩があるとはいえ、お前はこのようなことすべき人間ではないぞ!!」
モトスは説得したが、信康は涙を流しそうにながらも、堪えて強く言った。
「・・・これくらいの毒・・・今日の所は引いてやるぞ・・・モトス!!いずれ甲斐の国は梅雪様の支配下にはいるのだ!!!それまでせいぜいあがいてな!!!」
信康は煙幕弾をモトスに投げつけ、毒の痛みに耐えながら逃げて行った。煙幕が薄くなるころには男の姿は無かった。
「逃がしてしまったか・・・。信康は本当に梅雪の野望を望んでいるのか・・・・。次にあの者に会った時には倒さねばならぬか」
モトスは今後の事を考えながら、竜王の拠点へと戻っていった。


竜王拠点から少し離れた深い森まで信康は逃げ続け、毒の悪化とモトスとの戦いで疲労し、近くの池で倒れそうになった。
「はあ・・・はあ・・・・僕は忍びでも精霊でもあるモトスに勝てない・・・。」
虚ろな瞳で、池に向かって流れる小川を眺めていた。
「・・・小さい時と同じだ。川が氾濫して、家族も村も流されてしまった。一人ぼっちで倒れそうなところを梅雪様が手を差し伸べてくれたんだっけ・・・。」
ここは誰もいない静寂の森。僕は梅雪様と野望を果たせないままここで死ぬのかな。
「・・・申し訳ございません・・・梅雪様。・・・江津殿の事も気がかりだな・・・・。」
信康が目を閉じようとした瞬間、
「大丈夫ですかー?私は医師の免許を持っていますー。今、解毒剤を用意しますよ。」
深い青色の長髪の20代後半くらいの美麗な男性が信康を介抱した。そして直ぐに解毒剤を彼に飲ました。
「・・・助かった・・ありがとう・・・。こんなところに医者が珍しい・・・。」
信康は毒が引いてきたのか、意識を取り戻し、青年にお礼を言った。どうやら、見た目の容姿とは裏腹に気さくで茶目っ気がある青年のようだ。
「もう少し遅れていたら危なかったですねー。申し遅れました。私の名は厳美(げんび)。東北の陸中(現岩手県)出身ですよー。医師の免許を持っていますが、本職は考古学者で日ノ本中を周っています」
「ははは。この乱世に随分と肝が据わっているね・・・。だけど今、この甲斐の国では武田の残党狩りの最中だよ。ここに長く留まるのはお勧めしない」
「・・・あなた、主君の野望を叶えるために同志を集めているそうですねー。」
「な!?なぜそれを!!!!!」
信康は予想外の言葉に警戒し、銃を構えた。しかし、厳美は一切攻撃態勢に入らず、ただ陽気に笑いながら言葉を続けた。
「私もあなた方の仲間になりますよー。主君と共に甲斐の国を破滅へと導かせる・・・ふふふ、とても面白そうですねー。」
信康は彼が何を考えているのか理解できなかった。しかし、今は戦力が欲しいと悟り彼を誘うことにした。

「・・・分かった。お前が何を考えているかはどうでも良い。利用できる者を利用するまでだ。新府城へ一緒に来い。他にも江津という出雲出身の闇の神官も居る。その気があれば梅雪様に会わせてやるぞ」
厳美は先に行く信康の後ろ姿を見ながら穏やかな笑みを浮かべていた。
(ふふふふふ。役者は揃いました。梅雪も江津も・・・そして信康も我が闇に飲まれる可哀そうな人形たちですねー。彼らが国を破壊し、自らも破滅へ追い込まれる姿も楽しみでなりませーん)



その頃、真田昌幸の命を受けていた千里は、八ヶ岳を超えていた。
「・・・・感じます。かつて平安の世で戦った同じ人造戦士の気配を・・・。しかし、あの者は今では陰で歴史を壊そうとする者の1人・・・。奥州の夜叉・・・厳美」
(奴の策略で・・・弁慶殿も、義経様も犠牲になった)
千里は過去の奥州平泉での悲劇を一瞬思い出し、静かなる怒りを甲府盆地方面に向けていた。


(浅間山で眼鏡坊やの封印が解かれましたかー。400年前に受けた屈辱を果たしたいですねー。)
厳美は遠くに見える八ヶ岳を見ながら不気味な笑みを浮かべてい


第2話 完
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