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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

その頃、畿内にある豊臣秀吉の豪奢な居城、大坂城では、豊臣家に仕える真田家の当主、真田昌幸が、忍びの渋い男性と、童顔の隠密の青年に頼みごとをしていた。
「モトスと千里(せんり)よ。豊臣家に来て直ぐで申し訳ないが、秀吉様の命で、九州の様子を見に行ってくれないか?」
「喜んで引き受けるぞ、昌幸。昌幸の方も、軍議やこれからの政(まつりごと)を控えているだろう。ここは俺と千里に任せてくれ」
忍びの名はモトス。彼は森精霊という自然を愛する種族であり、かつては武田家に仕えていたが、武田家の滅亡後は、甲斐国を滅亡させようとした穴山梅雪の野望を止め、その後に、千里と共に真田家に仕えることとなった、忠義に篤く、責任感の強い男性であり、昔から昌幸とは身分や種族を超えた友である。
「僕も、偵察がてら会いたい大名がいるので、喜んで引き受けます」
隠密の名は千里。彼は平安末期の術師に造られ、源義経に仕えた人造戦士であったが、義経討伐後に信濃と上野(こうずけ)との境の浅間山に封印されていた大地の鬼神。数年前にモトスと共に梅雪と戦い、その後に自らの封印を解くきっかけを作ってくれた真田家に仕えることとなった。
昌幸は有り難いと2人に言い、時間はかかっても良いので九州の各国を見てきてくれと頼んだ。九州は現在、豊臣軍の九州征伐が終わったばかりであり、おおかたの大名が豊臣家の傘下となった。しかし、これにまだ不服の大名や民たちも存在し、いつ九州へ派遣された大名に反乱を起こすか分からない状態であった。それに、何か九州で胸騒ぎがすると察し、2人に九州で反乱部隊が現れないか監視する任務を依頼した。
「では、昌幸。旅支度が終わり次第、直ぐに九州へ向かう。信之や幸村にも九州の土産を買ってくるからな」
モトスは爽やかな笑顔で昔なじみの友に言った。すると昌幸は、息子へお土産と九州での良い話を楽しみにしているぞと2人に告げた。


その頃、九州肥後国(現熊本県)の有明海では、泳ぐときに人魚に変身できる能力を持った男性が宇土の海岸にいた。
「ふう・・・海洋族の力で九州まで余裕で泳げるが、流石に少し疲れたかな」
彼の名は湘(しょう)。関東相模国の大名、北条氏政に仕える軍師兼銃士であり、氏政の命により、彼もまた九州の偵察に来ていた。氏政は、秀吉により九州が平定され、次は全国の大名を集め、関東を平定させる予定だろうと予測していたので、湘が九州の大名家の動向を探るために赴いた。
「そういえば、肥後はあの者の出身地であったな。九州に戻っているのかな?」
湘は数年前に甲斐国で共に戦った戦友の事を考えながら、商業が盛んな宇土の港町を歩いていると、立派な鎧を身につけた若い武士を見かけた。湘は地理学者と偽り、彼に話しかけてみた。
「私は、地理学者の湘という者です。この辺りは初めて来たので、少し案内してもらえないでしょうか?」
湘は普段では考えられない程の謙虚な姿勢で武士に尋ねた。すると彼は快く『良いですよ』と応えた。
「学者の方ですか。九州は山と海と自然にあふれていて、温泉や寺社など見所も沢山ありますよ。全部調べるには時間がかかってしまいますね。あ!?申し遅れました。私は暁紅史郎(あかつき こうしろう)と申します」
紅史郎は湘より年下であり、褐色の肌に亜麻色の髪と、燃えるような琥珀色の瞳をしていた。湘は誰かに似ているなと、しみじみと感じていた。
(何だかあの者に似ているが、確か孤児院で育ったと言っていたな。一瞬、紅史郎と兄弟のように感じたが・・・)
湘は気を取り直して、紅史郎によろしくと握手をした。
「暁家は昔、豊後(現大分県)の大友家に仕えていたのですが、大友家が衰退したので、秀吉様の勧めで、現在は肥後を務めている佐々成政(さっさなりまさ)殿に仕えているのですよ」
「佐々成政か・・・」
湘は成政と聞いたとき、少し疑念を抱いていた。
佐々成政は、織田信長に仕えていた勇将であったが、信長とその家臣、柴田勝家の死後、豊臣家を深く恨んでいた。そして当時、越中国(現富山県)の大名であったが、中部地方の雄大なアルプスを南下し、尾張の小牧長久手の戦いで徳川軍に加わり、豊臣軍と敵対をした。しかし彼は、戦の後豊臣軍が勝利をすると、秀吉の傘下に入り肥後国を任された。
(そんな彼が果たして秀吉に忠誠を誓ったのだろうか・・・)
湘が首をかしげながら考えていると、紅史郎は宇土の町を案内すると笑顔で言った。しばらく湘と紅史郎は行動を共にした。湘は肥後の歴史や名所を交えながら、成政について怪しまれない範囲で紅史郎から話を聞き出そうと考えていた。


その頃、筑前国(現福岡県北部)の太宰府では、左目を眼帯で覆った神官の青年と、桃色の巻き毛の巫女が、太宰府天満宮門前町の甘味処で休憩をしていた。神官は抹茶と和菓子とあんみつなどを沢山食べていると、巫女に呆れられていた。
「もう!!桜龍(おうりゅう)たら、甘い物ばかり食べていると太ってしまうわよ!!それに、和菓子巡りをするために九州へ来たのではないのよ」
「そういうなよー、仁摩(にま)殿。太宰府の甘味はとても美味しいし、長旅での疲れは甘い物が良いんだぜ♪」
桜龍は仁摩に桜餡の和菓子を1つ渡すと、彼女は美味しい!!と頬が溶ろけるような笑顔を見せた。すると桜龍は笑いながら仁摩の頬を指で軽く押して言った。
「大神官殿の任も大事だが、今は門前町を満喫しようぜ♪」
「うーん・・・少しだけよ」
仁摩は『しょうがないわね』と諦めた後に少し笑いながら、彼が食べているあんみつを注文した。
桜龍と仁摩は、出雲大社の神官侍と巫女であり、彼女は大神官の娘でもある。数日前に大神官が祈祷をしたところ、九州で炎の魔人が現れる姿が祈祷火に映った。それを聞いた桜龍は何か災いが起こると察し、九州へ向かうと決意した。すると、今度は仁摩も太宰府などの寺社を見るがてら同行すると言い、彼女もついていた。本当は桜龍が羽目を外さない見張りと、彼のことが心配だからという理由もある。
「桜龍が突拍子もないことをしないように見張っておかないとね・・・」
仁摩は呆れながらも、彼に信頼と想いを寄せていた。


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