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番外編 球磨のお話 炎の化身と呼ばれる漢

煉太郎は目を覚ますと、美しいステンドグラスが飾られている、見たこともない西洋式の寺の寝台に寝かされていた。服も、橙色の着物の上に、西洋風の長い紺色のローブを着せられていた。
「・・・・あれ?ここは一体・・・・・?」
煉太郎は部屋から出ると、教壇に向かって綺麗に長椅子が並んでいる礼拝堂にたどり着いた。
「これがキリシタンの南蛮寺ってやつか?随分と神々しいなぁー」
煉太郎は辺りをキョロキョロと見回していた。すると、教壇の隣に西洋彫刻の長い巻き毛の聖火を持った神のような石像が立っていた。その時、礼拝堂に入ってきた益城が丁寧に説明をした。
「これはプロメテウスの像です。「ギリシャ」という遠い国の神話に出てくる火の神だそうですよ」
「ぷろめてうす?火の神・・・?」
「この南蛮寺では、この神を崇めています。プロメテウスは人類創造の神とも言われていたり、人々に火を与えた神でもあるそうです」
「・・・綺麗だな。この神は益城さんに似ている・・・」
益城は煉太郎の意外な言葉に優しく笑いかけた。そして、何故?と質問をした。
「戦っていた益城さんは炎のようでした。戦っているときには強く燃え盛る炎。俺を助けてくれた時は優しくて暖かい炎。・・・益城さんは火の神の化身なのかな」
「ふふふ。面白いことを言いますね、煉太郎は。・・・でも、案外私は神よりも夜叉の方が似合うかもしれません」
「え・・・夜叉?」
煉太郎は気になって質問しようとしたが、何でもないよと返された。
「俺・・・ここにいても良いのかなぁ?俺が生きる理由なんてもう無いのに・・・」
「それは、これから探せば良いのですよ。あなたはまだ子供なんですから。・・・九州の中でも肥後国では戦争や家督争いなどの内乱が多い。ここは孤児になってしまった子を救うための孤児院です。ここで暮らす子もいれば、大人になり巣立っていく子もいる。だから、今は何も考えず、傷を癒す時間で良いのですよ」
「ま・・・益城さん!!」
俺は益城さんの大きな胸に抱き着き、大声で泣いた。そして、今までの出来事を全て話した。益城さんは黙って聞いてくれた。
そして数時間が経ち
「益城さん・・・俺に武術を教えてください!!俺に槍の稽古をつけてください。その分、しっかり働きます!!港で働いていた時に料理や掃除もしていました。俺はもう何事にも屈しない強さと力無き者を助けられる強さを持ちたいのです!!」

そして、益城との槍や武術の稽古が始まった。益城に鍛えられ、病弱な体はいつの間にか克服した。そして、少年の体には強靭な筋肉がついていき、今までの儚げな顔から精悍な顔に変わっていった。同年代や年下の子供たちはその奮闘ぶりに関心をしていた。
「益城先生つよーい!!!」
「お兄ちゃんも頑張れー!!!!」
応援してくれている子供たちを護れるように、俺は強くなる!!そしていつかは、伝説の戦神、増鬼と戦えるようにもなりたい!!
暁家の煉太郎という少年は消えた。俺は新たな名前で生きることを決意した。その名前は球磨(きゅうま)。肥後国の広大で美しい球磨川から採った名である。きっと、弟の紅史郎は向こうで幸せに暮らしているだろう。俺も弟の事は忘れ、右頬の傷を生きた証として自分の道を歩む。
そして、16年の月日が経った。体の弱かった少年も27歳になり、今では並みの男性の背丈をも余裕に超す程の長身で、がっしりとした逞しい。そして、豪快で男前で頼りになる九州男児へと成長した。
「さーて、次はどこの戦に加勢しようかなー」
太く引き締まった二の腕を露出した西洋鎧や腰当を装備し、ランスと呼ばれる西洋の馬上騎士が使用する、持ち手が太く先端が剣の穂先のように細い巨大な槍を武器にしている。
球磨は現在、15歳まで育った天草の孤児院を巣立ち、各地を旅しながら、戦場での傭兵稼業や、大名家や商船などの護衛、罪人を捕える強力、時には恵まれない子供たちに料理を振舞うなど様々な仕事をしている。そして、育った孤児院に戦での報酬を贈ったり、お土産も買ってくる。今日は久しぶりに天草の孤児院の皆に会おうと、宇土の港へやってきた。
「久しぶりに益城院長と芋焼酎を飲んで、各地での出来事を話したいなぁー♪」
球磨は楽しげな表情で天草へ向かう小舟に乗ろうとした。すると突然、大声で叫ぶ男の声が聞こえた。振り返ると、港で商売をしていた男が荒くれ者達に絡まれているようだ。しかも、思い出したくない程に見覚えのある奴らであった。
「・・ひ・・ひぃ・・!!どうかお見逃しください!!この稼ぎは病気の娘の為に・・・・」
「そんなの言い訳にしか聞こえねーんだよ!!場所代しっかり払えよ!!!!」
球磨は見兼ねて、荒くれどもをあっという間に素手で蹴散らした。
「おいおい・・・ここはお前らが牛耳る土地じゃねーだろが!!!」
「な・・・!?何だよこの熊か牛みてーな大男!!俺らがまとめてかかっても吹っ飛ばされる・・・」
「おい!!てめーら!!まだこんな下らねーことしていたのかよ!!何が場所代だ!!ここは誰でも商売を自由に出来る港だろうが!!・・・それともまた何処かの雇い主に命令されたのか?」
「・・・うるせぇ!!馬鹿でかい怪力野郎!!大昔に痛めつけられた神父野郎を思い出すぜ!!」
かつて母を殺し、弟を連れ去った大悪党。だが、球磨は仇を討つことは考えておらず、近くにいる役人に差し出そうとしていた。荒くれの親玉は球磨に襲い掛かってきた。だが、彼は相手の拳を余裕で受け止め、反対の肘で相手の腹に肘鉄を喰らわせ、ひるんだ相手の腕を掴み、一本背負いで海に投げ捨てた。球磨は波止場に必死に上がっていた親玉に勝ち誇った顔をしていた。
「あれー?まだ荒くれから大名家の家臣とかにならねーのかい?弱い者を虐げているからてめえらは歳食っても変わらずに、こんな腐りきった日々しか送れねーんだよ!!」
親玉はその言葉に聞き覚えがあった。そして、彼の右頬の傷を見ると、黒髪褐色のひ弱な少年の姿を思い出し、青ざめた顔をした。
「ま・・まさか・・・旦那、暁家の長男、煉太郎じゃないだろうな・・・・?」
「はん!!俺はそんな武士っぽい名前じゃないし、家族なんていないんだよ!!監獄に入っても覚えておきな、俺は傭兵の球磨だ!!熊でも暴れ牛でもないぞ!!」
球磨は、下を向いて冷や汗をかきビクビクしている荒くれ共に啖呵を切った。そして、近くを巡回していた役人たちに荒くれ全員、数々の悪党行動により監獄行きとなった。
そして、助けてもらった商人は、お礼として球磨にお金を渡したが、球磨は、それは娘さんに使ってくれと爽やかな笑顔で受け取らなかった。
「さーてと、孤児院の皆と益城院長の元へ行こうか♪」
球磨は小舟に乗り、近くの対岸の天草諸島へ向かった。雲一つない晴天は、球磨の黄金の鎧と、強く暖かい琥珀色の瞳を神々しく照らしていた。



                  炎の化身と呼ばれる漢   完
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