番外編 球磨のお話 炎の化身と呼ばれる漢
あれから1年が経ち、煉太郎は肥後の港町で浮浪児として懸命に生きていた。身なりは貧相な麻の着物であるが、体が苦しくても生きる為にめげずに、一生懸命働いて1日1日を必死に生きていた。
船の荷物を運ぶ仕事や、漁の手伝いをしているうちに、体も丈夫になっていき、肌の色も濃くなった。さらに、時々仕事の合間に我流で槍の稽古もしていた。
「・・・今頃、紅史郎は新しい暁家でどうなっているのだろう・・・。虐められていないといいな」
煉太郎は船着き場で天草諸島を見ながら弟の事を思っていた。
そして次の日、港町は多くの人で賑わっていた。今日は天草諸島や八代海に宣教師が来る日だ。煉太郎は仕事が空いたので、近くへ見に行こうとした時、気づかずに少年とぶつかった。自分よりも小柄で質の良い着物を着た亜麻色の髪の褐色肌の少年は軽く尻もちをついた。
「ご・・・ごめんね!?前を見てなくって・・・怪我はない?・・・・え!?」
煉太郎は少年を立たせた時に、見た顔が弟の紅史郎であった。
「え・・・君は・・紅史郎じゃないか!!俺だよ!!煉太郎だよ!!今はこんな格好になっちゃったけど・・・。あれからどう?親戚の奴らに虐められてない?」
煉太郎は言葉を続けようとしたが・・・。
「お兄さん・・・誰ですか?」
少年は冷たい琥珀色の瞳で煉太郎を見た。煉太郎は信じられない言葉に戸惑った。
「誰って・・・お前の兄だよ!!暁家の。・・・俺は頑張って生きたんだよ!!お前と暮らせる程の仕事も出来るようになったし、俺と一緒に暮らそうよ」
煉太郎は紅史郎の腕を掴もうとしたが、腕を振り払われた。
「・・嘘を言うのはおやめください!!暁家にはあなたのような貧相な者はおりません。・・・それに私には兄も居ません!!・・・お金欲しさに私に言いがかりをつけるのであれば、人を呼びますよ!!」
紅史郎は嫌そうに煉太郎に反論した後、近くにいた使用人に目線を送り呼んだ。
「紅史郎様!!こんな所においででしたか。直に父君が宣教師と再会し、キリシタンの称号を得るところですよ」
使用人の男も見覚えがある顔であった。かつて本家に仕えていた男だ。男は煉太郎に気づいていたが、特に動揺もせず、ただ申し訳ないと一礼をした。紅史郎は使用人と帰るときに一瞬、煉太郎に振り向いていたが、自分はもう養子となった以上、兄の元へは帰れないと心を抑えていた。
煉太郎はこれ以上何も言えず、茫然と波止場で立っていた。
「・・・紅史郎・・ははは・・・どうやら向こうで楽しそうにやっているようだな・・・」
あれだけ、兄さんとは離れたくないと言っていたのが嘘だったかのように・・・。
煉太郎は涙を流し走りながら港を離れた。
夜になり、港には人もいなくなり静けさが漂っていた。煉太郎は途方に暮れながら住み家の漁師小屋に戻ろうとしていた。
「俺の生きる理由って何だろう・・・。母上が言っていたように俺に強い炎なんて宿っているのか?」
蔵が並ぶ通りを抜けようとした時、突如、数名の荒くれが待ち伏せをしていて、煉太郎を囲んだ。
「よう、元暁家の長男、まだしぶとく生きていたとはなぁー」
煉太郎は荒くれたちに見覚えがあった。いいや、母を殺めた仇と弟を雇い主の元へさらった悪党・・・。
「な!?何の用だ!!!」
煉太郎は警戒し、護身用に持っている竹の槍を構えた。
「お前の事見ていたぜー。子供の割には稼ぎが良いらしいな。その金を俺らに寄越せよ!!仲間に入れてやるからさ!!」
荒くれたちは嫌らしい顔で煉太郎に近づいた。しかし、煉太郎は竹の先端で荒くれの手を斬りつけ、罵った。
「冗談じゃない!!これは俺の力で稼いだ金だ!!それに、俺は生きられなかった父や母の為に、正しき道を生きる!!お前らのような悪党の手先にはならない!!」
煉太郎は仇を討ちたいと思う気持ちはあったが、そんな事をしても、父と母は戻ってこないと思った。煉太郎は荒くれたちに竹槍を取り上げられ、丸腰になってしまった。そして、直ぐに捕らわれてしまい、短刀を顔に突き付けられ、脅された。
「さぁ、怪我をしたくなかったら貰った金を出しな!!」
煉太郎は嫌だと荒くれの太い腕に噛みついた。荒くれは何しやがる!!と怒りで咄嗟に煉太郎の右頬を斬ってしまった。
「う・・・痛い・・・・。」
煉太郎の右頬からは血が流れた。
「暴れるからこうなるんだよ!!これ以上痛い目にあいたくなかったらさっさと金を寄越せ!!」
荒くれは無理やり煉太郎の身ぐるみを剥がそうとしたその時、荒くれの1人が海の中に投げ飛ばされた。皆は何が起こった!!と海を見る前に、次々と目にも留まらぬ速さで倒された。
「弱い者から金をたかるのはそこまでです。その男の子を放しなさい!!」
荒くれたちの前には長い銀髪の長身の紺色の神父服を着た男性が現れた。
「・・・まさか、お前のような優男が弟分を仕留めたのか・・・」
「むしろ、これだけのならず者が私1人に倒されるのは驚きですね・・・」
男性は穏やかかつ、余裕のある表情で荒くれを嘲笑った。そして、青年の背丈も上回る巨漢が襲い掛かってきたが、軽々と攻撃を避け、腹に凄まじい力の鉄拳を喰らわせ、腕を掴み背負い投げで海に投げ捨てた。
「ば・・・馬鹿な・・どんだけの怪力なんだよ!?あいつ・・・・」
いつの間にか煉太郎を捕えている荒くれ1人残されてしまった。
「そこまでだ!!これ以上動くとこいつの命はねーぞ!!!」
荒くれは弱っている煉太郎の喉元に短刀を突き付けた。
「・・・・懲りないですね。それなら、その子を傷つける前にお前を仕留めるまでですよ!!」
青年は愛用の布団叩きの棒で、相手の脇差を粉々に破壊した。そして、棒の先端部分を荒くれの額目掛け当て、大男は激しい衝撃を受け倒れた。煉太郎は解放された。
「お・・お兄さん・・・助けてくれてありがとう」
青年は倒れそうな少年を支え直ぐに神父服のローブを脱ぎ、少年の体に掛けてあげた。そして、綺麗な布で少年の右頬を止血し、軽く呪文を唱えると、頬からの血が完全に止まった。
「もう、大丈夫ですよ。私は天草にある南蛮寺の神父、益城(ましき)。そこは孤児院でもあるので、君にも来てほしいです」
「ま・・・ましきって・・・不思議だな。俺が憧れている戦神もましきっていうんだ・・・。お兄さんも強いんですね・・・・・・・」
煉太郎は最後の気力で青年の温かく優しい橙の瞳を見て、気を失った。
船の荷物を運ぶ仕事や、漁の手伝いをしているうちに、体も丈夫になっていき、肌の色も濃くなった。さらに、時々仕事の合間に我流で槍の稽古もしていた。
「・・・今頃、紅史郎は新しい暁家でどうなっているのだろう・・・。虐められていないといいな」
煉太郎は船着き場で天草諸島を見ながら弟の事を思っていた。
そして次の日、港町は多くの人で賑わっていた。今日は天草諸島や八代海に宣教師が来る日だ。煉太郎は仕事が空いたので、近くへ見に行こうとした時、気づかずに少年とぶつかった。自分よりも小柄で質の良い着物を着た亜麻色の髪の褐色肌の少年は軽く尻もちをついた。
「ご・・・ごめんね!?前を見てなくって・・・怪我はない?・・・・え!?」
煉太郎は少年を立たせた時に、見た顔が弟の紅史郎であった。
「え・・・君は・・紅史郎じゃないか!!俺だよ!!煉太郎だよ!!今はこんな格好になっちゃったけど・・・。あれからどう?親戚の奴らに虐められてない?」
煉太郎は言葉を続けようとしたが・・・。
「お兄さん・・・誰ですか?」
少年は冷たい琥珀色の瞳で煉太郎を見た。煉太郎は信じられない言葉に戸惑った。
「誰って・・・お前の兄だよ!!暁家の。・・・俺は頑張って生きたんだよ!!お前と暮らせる程の仕事も出来るようになったし、俺と一緒に暮らそうよ」
煉太郎は紅史郎の腕を掴もうとしたが、腕を振り払われた。
「・・嘘を言うのはおやめください!!暁家にはあなたのような貧相な者はおりません。・・・それに私には兄も居ません!!・・・お金欲しさに私に言いがかりをつけるのであれば、人を呼びますよ!!」
紅史郎は嫌そうに煉太郎に反論した後、近くにいた使用人に目線を送り呼んだ。
「紅史郎様!!こんな所においででしたか。直に父君が宣教師と再会し、キリシタンの称号を得るところですよ」
使用人の男も見覚えがある顔であった。かつて本家に仕えていた男だ。男は煉太郎に気づいていたが、特に動揺もせず、ただ申し訳ないと一礼をした。紅史郎は使用人と帰るときに一瞬、煉太郎に振り向いていたが、自分はもう養子となった以上、兄の元へは帰れないと心を抑えていた。
煉太郎はこれ以上何も言えず、茫然と波止場で立っていた。
「・・・紅史郎・・ははは・・・どうやら向こうで楽しそうにやっているようだな・・・」
あれだけ、兄さんとは離れたくないと言っていたのが嘘だったかのように・・・。
煉太郎は涙を流し走りながら港を離れた。
夜になり、港には人もいなくなり静けさが漂っていた。煉太郎は途方に暮れながら住み家の漁師小屋に戻ろうとしていた。
「俺の生きる理由って何だろう・・・。母上が言っていたように俺に強い炎なんて宿っているのか?」
蔵が並ぶ通りを抜けようとした時、突如、数名の荒くれが待ち伏せをしていて、煉太郎を囲んだ。
「よう、元暁家の長男、まだしぶとく生きていたとはなぁー」
煉太郎は荒くれたちに見覚えがあった。いいや、母を殺めた仇と弟を雇い主の元へさらった悪党・・・。
「な!?何の用だ!!!」
煉太郎は警戒し、護身用に持っている竹の槍を構えた。
「お前の事見ていたぜー。子供の割には稼ぎが良いらしいな。その金を俺らに寄越せよ!!仲間に入れてやるからさ!!」
荒くれたちは嫌らしい顔で煉太郎に近づいた。しかし、煉太郎は竹の先端で荒くれの手を斬りつけ、罵った。
「冗談じゃない!!これは俺の力で稼いだ金だ!!それに、俺は生きられなかった父や母の為に、正しき道を生きる!!お前らのような悪党の手先にはならない!!」
煉太郎は仇を討ちたいと思う気持ちはあったが、そんな事をしても、父と母は戻ってこないと思った。煉太郎は荒くれたちに竹槍を取り上げられ、丸腰になってしまった。そして、直ぐに捕らわれてしまい、短刀を顔に突き付けられ、脅された。
「さぁ、怪我をしたくなかったら貰った金を出しな!!」
煉太郎は嫌だと荒くれの太い腕に噛みついた。荒くれは何しやがる!!と怒りで咄嗟に煉太郎の右頬を斬ってしまった。
「う・・・痛い・・・・。」
煉太郎の右頬からは血が流れた。
「暴れるからこうなるんだよ!!これ以上痛い目にあいたくなかったらさっさと金を寄越せ!!」
荒くれは無理やり煉太郎の身ぐるみを剥がそうとしたその時、荒くれの1人が海の中に投げ飛ばされた。皆は何が起こった!!と海を見る前に、次々と目にも留まらぬ速さで倒された。
「弱い者から金をたかるのはそこまでです。その男の子を放しなさい!!」
荒くれたちの前には長い銀髪の長身の紺色の神父服を着た男性が現れた。
「・・・まさか、お前のような優男が弟分を仕留めたのか・・・」
「むしろ、これだけのならず者が私1人に倒されるのは驚きですね・・・」
男性は穏やかかつ、余裕のある表情で荒くれを嘲笑った。そして、青年の背丈も上回る巨漢が襲い掛かってきたが、軽々と攻撃を避け、腹に凄まじい力の鉄拳を喰らわせ、腕を掴み背負い投げで海に投げ捨てた。
「ば・・・馬鹿な・・どんだけの怪力なんだよ!?あいつ・・・・」
いつの間にか煉太郎を捕えている荒くれ1人残されてしまった。
「そこまでだ!!これ以上動くとこいつの命はねーぞ!!!」
荒くれは弱っている煉太郎の喉元に短刀を突き付けた。
「・・・・懲りないですね。それなら、その子を傷つける前にお前を仕留めるまでですよ!!」
青年は愛用の布団叩きの棒で、相手の脇差を粉々に破壊した。そして、棒の先端部分を荒くれの額目掛け当て、大男は激しい衝撃を受け倒れた。煉太郎は解放された。
「お・・お兄さん・・・助けてくれてありがとう」
青年は倒れそうな少年を支え直ぐに神父服のローブを脱ぎ、少年の体に掛けてあげた。そして、綺麗な布で少年の右頬を止血し、軽く呪文を唱えると、頬からの血が完全に止まった。
「もう、大丈夫ですよ。私は天草にある南蛮寺の神父、益城(ましき)。そこは孤児院でもあるので、君にも来てほしいです」
「ま・・・ましきって・・・不思議だな。俺が憧れている戦神もましきっていうんだ・・・。お兄さんも強いんですね・・・・・・・」
煉太郎は最後の気力で青年の温かく優しい橙の瞳を見て、気を失った。