番外編 球磨のお話 炎の化身と呼ばれる漢
戦国時代、九州各地で戦闘が続いていた。多くの大名や武将がいる中で、どこにも属さない伝説の傭兵がいた。その名は、紅蓮の戦神「増鬼(ましき)」。とある一族の少年は彼に憧れ、彼のような戦士になりたいと願っていた。それはまだ球磨が煉太郎(れんたろう)と名乗って武士の一族にいた頃のお話。
九州肥後の国、海に面した地、宇土(うと)(現在の熊本県宇土市)そこは九州の交通の要であり、多くの武将や商人たちがこの町を利用していた。その地に、暁(あかつき)家という下級武士の一族が存在した。暁家は、当時の肥後国の大名、菊池家に仕える一族であった。しかし、九州も群雄割拠の時代。1554年頃、肥後国は隣国の豊後国(現在の大分県)の大名、大友家により滅ぼされた。そして、暁家は菊池家の分家に付くか、大友家に付くかで一族内で争いが起きた。下級武士でも立派な武士の誇りを持つ者もいれば、どちらに付けば偉くなる、位が上がるなど、損得しか考えない者もいた。その中に、暁家本家に悲劇の兄弟がいた。
「煉太郎兄さん!!!体大丈夫?元気になったら一緒に稽古しよう!!」
褐色肌の明るい亜麻色の髪の8歳位の少年が庭から縁側に上がり部屋に入った。
「やあ、紅史郎(こうしろう)。今日も剣の稽古頑張っているね」
煉太郎と呼ばれた10歳位の少年は青白い肌で波のように流れた黒髪で、瞳の色は篝火のような琥珀色。しかし、生まれつき体が弱く、風邪をひいてしまい、布団の中で本を読んでいた。
「もちろん!!ボクは剣の道を究めて、武道で暁家を護っていくと決めたんだから!!」
「俺も紅史郎のように体を鍛えないとな・・・。槍の稽古をすると、母上が心配して直ぐ止めてしまう。仕方がないから兵法の勉強をして俺は頭で支えられるといいな」
「ボクは猛将、煉太郎兄さんは知将で、2人合わせて知勇将兄弟として暁家を支えようよ!!」
弟の紅史郎は明るくしっかり者で、体を動かすことが大好きで毎日、使用人と剣の稽古をししている。
一方、煉太郎は大人しく少し頼りないように見えるが、芯は強く体調が良い時には槍の稽古にこっそり励んでいるが、心配性な母や使用人たちに止められてしまう。
「・・・ねぇ、兄さん・・・。今、暁家の本家と親戚が揉めているけど、仕えていた菊池家の分家に付くか、隣の豊後の大名に付くか・・・どうなんだろうね?」
「・・・正直分からない。父上は武士道と忠誠心を重んじる人だから、分家であれ最後まで菊池家に尽くすと思うよ」
菊池家は肥後国の有力大名であったが、九州や肥後国に大きい勢力が発生し、戦国時代に入り衰退傾向であった。そんな中暁家は、最後まで菊池家を支えたいと忠誠心を貫いていた。しかし菊池本家は、煉太郎と紅史郎が生まれる前に滅び、暁家は主を失い途方に暮れていた。
「・・・そうだよね。ボクはまだ武士道や忠誠心とか分からないけど、菊池の分家に行っても、豊後に行っても・・・兄さんと一緒だよね?」
紅史郎は泣き出しそうな顔をし、煉太郎の胸に寄り添った。
「・・・ああ。俺たちはいつも一緒だよ!!」
煉太郎は笑い、紅史郎の髪を優しく撫でながら強く抱きしめた。
次の日、屋敷の池の近くで煉太郎は風邪が治ったので、父の熊五郎と軽く槍の稽古をしていた。
「俺、体を鍛えて立派な暁家の当主になりたい!!父上!!手厳しく稽古をお願いします!!」
「はははは!!!気合とかけ声は力が入っているな!!!だが、最初から力みすぎるとバテテしまうぞ」
熊五郎も家族の中で1番肌が濃く、右頬や体に戦傷の跡があり、熊のように巨漢で逞しい。
「いいえ!!俺はそこまで考えなしではありません!!俺は紅史郎と共に父上や暁家を支えたいのです!!!」
「・・・煉太郎。お前は自分が思っているほど弱い人間ではないぞ。お前は知的好奇心も高いし、支えたいという強い気持ちがある。・・・お前なら近い将来、増鬼に挑めるかもしれない」
「増鬼って!!そ・・それは無理ですよ!!!だって・・増鬼って、九州各地の大名家も苦戦させた・・・知にも勇にも優れた伝説の紅蓮の戦神ですよ!!」
髪は夜叉のように長い銀色、背丈は並の人間を圧倒し、筋骨隆々で大きな槍を持ち、100人の兵に囲まれても1発で無双する実力者。
「ああ。俺も昔、一戦を交えたことがあるが、全く歯が立たなかったな・・・。顔に傷もつけられちまったし・・・。でも、あいつは無益な殺生はしない。傭兵でどこにも属していなかったが、弱い勢力に味方する事が多かったようだ」
「かっこいいなぁー増鬼って。あ・・父上ごめんなさい。顔に傷をつけられて、負けちゃったのですよね・・・。」
「・・・やかましかばい!!!」
熊五郎は赤面しながら煉太郎の頭をグリグリと押した。
(強くて忠義に篤くて家族思いな父上。心配性で少し口うるさいけど、誰よりも家族を大切に思う母上。そして、やんちゃでまだまだ危なっかしいけど強い弟、紅史郎)
俺は、下級武士の一族でも、そんな優しい家族に囲まれて幸せだった。この幸せがいつまでも続いてほしかった・・・。
夜に、煉太郎と紅史郎は兵法書を読んでいた。まだ幼い紅史郎は難しい字が多い書物に頭を抱えていた。煉太郎は丁寧に弟に字を教えながら、兵法書に書いてあるものを簡単な解釈方法で教えた。
「兄さんすごいなぁ・・・。こんな難しい本まで読めるなんて!!ボクにはまだ早すぎるのかなー?」
「辞書をよく読んだり、屋敷の軍師さんが暇なときに簡単な兵法を教えてくれるんだよ」
煉太郎は笑顔で弟に言葉を返した。しかし、紅史郎は急に悲しげな表情になり下を向いた。
「・・・明日、暁家でどこの勢力に付くか、本家と親戚で話し合うみたいだよ・・・。何だか胸騒ぎがするんだ・・・。怖いよ・・兄さんや父上、母上と離れ離れにならないか・・・・・・」
「紅史郎・・・・・。大丈夫だよ。何があってもお前は俺が護るから」
煉太郎は優しく小さい弟を抱きしめた。しかし、弟を抱きしめるのはこれが最後であった。
九州肥後の国、海に面した地、宇土(うと)(現在の熊本県宇土市)そこは九州の交通の要であり、多くの武将や商人たちがこの町を利用していた。その地に、暁(あかつき)家という下級武士の一族が存在した。暁家は、当時の肥後国の大名、菊池家に仕える一族であった。しかし、九州も群雄割拠の時代。1554年頃、肥後国は隣国の豊後国(現在の大分県)の大名、大友家により滅ぼされた。そして、暁家は菊池家の分家に付くか、大友家に付くかで一族内で争いが起きた。下級武士でも立派な武士の誇りを持つ者もいれば、どちらに付けば偉くなる、位が上がるなど、損得しか考えない者もいた。その中に、暁家本家に悲劇の兄弟がいた。
「煉太郎兄さん!!!体大丈夫?元気になったら一緒に稽古しよう!!」
褐色肌の明るい亜麻色の髪の8歳位の少年が庭から縁側に上がり部屋に入った。
「やあ、紅史郎(こうしろう)。今日も剣の稽古頑張っているね」
煉太郎と呼ばれた10歳位の少年は青白い肌で波のように流れた黒髪で、瞳の色は篝火のような琥珀色。しかし、生まれつき体が弱く、風邪をひいてしまい、布団の中で本を読んでいた。
「もちろん!!ボクは剣の道を究めて、武道で暁家を護っていくと決めたんだから!!」
「俺も紅史郎のように体を鍛えないとな・・・。槍の稽古をすると、母上が心配して直ぐ止めてしまう。仕方がないから兵法の勉強をして俺は頭で支えられるといいな」
「ボクは猛将、煉太郎兄さんは知将で、2人合わせて知勇将兄弟として暁家を支えようよ!!」
弟の紅史郎は明るくしっかり者で、体を動かすことが大好きで毎日、使用人と剣の稽古をししている。
一方、煉太郎は大人しく少し頼りないように見えるが、芯は強く体調が良い時には槍の稽古にこっそり励んでいるが、心配性な母や使用人たちに止められてしまう。
「・・・ねぇ、兄さん・・・。今、暁家の本家と親戚が揉めているけど、仕えていた菊池家の分家に付くか、隣の豊後の大名に付くか・・・どうなんだろうね?」
「・・・正直分からない。父上は武士道と忠誠心を重んじる人だから、分家であれ最後まで菊池家に尽くすと思うよ」
菊池家は肥後国の有力大名であったが、九州や肥後国に大きい勢力が発生し、戦国時代に入り衰退傾向であった。そんな中暁家は、最後まで菊池家を支えたいと忠誠心を貫いていた。しかし菊池本家は、煉太郎と紅史郎が生まれる前に滅び、暁家は主を失い途方に暮れていた。
「・・・そうだよね。ボクはまだ武士道や忠誠心とか分からないけど、菊池の分家に行っても、豊後に行っても・・・兄さんと一緒だよね?」
紅史郎は泣き出しそうな顔をし、煉太郎の胸に寄り添った。
「・・・ああ。俺たちはいつも一緒だよ!!」
煉太郎は笑い、紅史郎の髪を優しく撫でながら強く抱きしめた。
次の日、屋敷の池の近くで煉太郎は風邪が治ったので、父の熊五郎と軽く槍の稽古をしていた。
「俺、体を鍛えて立派な暁家の当主になりたい!!父上!!手厳しく稽古をお願いします!!」
「はははは!!!気合とかけ声は力が入っているな!!!だが、最初から力みすぎるとバテテしまうぞ」
熊五郎も家族の中で1番肌が濃く、右頬や体に戦傷の跡があり、熊のように巨漢で逞しい。
「いいえ!!俺はそこまで考えなしではありません!!俺は紅史郎と共に父上や暁家を支えたいのです!!!」
「・・・煉太郎。お前は自分が思っているほど弱い人間ではないぞ。お前は知的好奇心も高いし、支えたいという強い気持ちがある。・・・お前なら近い将来、増鬼に挑めるかもしれない」
「増鬼って!!そ・・それは無理ですよ!!!だって・・増鬼って、九州各地の大名家も苦戦させた・・・知にも勇にも優れた伝説の紅蓮の戦神ですよ!!」
髪は夜叉のように長い銀色、背丈は並の人間を圧倒し、筋骨隆々で大きな槍を持ち、100人の兵に囲まれても1発で無双する実力者。
「ああ。俺も昔、一戦を交えたことがあるが、全く歯が立たなかったな・・・。顔に傷もつけられちまったし・・・。でも、あいつは無益な殺生はしない。傭兵でどこにも属していなかったが、弱い勢力に味方する事が多かったようだ」
「かっこいいなぁー増鬼って。あ・・父上ごめんなさい。顔に傷をつけられて、負けちゃったのですよね・・・。」
「・・・やかましかばい!!!」
熊五郎は赤面しながら煉太郎の頭をグリグリと押した。
(強くて忠義に篤くて家族思いな父上。心配性で少し口うるさいけど、誰よりも家族を大切に思う母上。そして、やんちゃでまだまだ危なっかしいけど強い弟、紅史郎)
俺は、下級武士の一族でも、そんな優しい家族に囲まれて幸せだった。この幸せがいつまでも続いてほしかった・・・。
夜に、煉太郎と紅史郎は兵法書を読んでいた。まだ幼い紅史郎は難しい字が多い書物に頭を抱えていた。煉太郎は丁寧に弟に字を教えながら、兵法書に書いてあるものを簡単な解釈方法で教えた。
「兄さんすごいなぁ・・・。こんな難しい本まで読めるなんて!!ボクにはまだ早すぎるのかなー?」
「辞書をよく読んだり、屋敷の軍師さんが暇なときに簡単な兵法を教えてくれるんだよ」
煉太郎は笑顔で弟に言葉を返した。しかし、紅史郎は急に悲しげな表情になり下を向いた。
「・・・明日、暁家でどこの勢力に付くか、本家と親戚で話し合うみたいだよ・・・。何だか胸騒ぎがするんだ・・・。怖いよ・・兄さんや父上、母上と離れ離れにならないか・・・・・・」
「紅史郎・・・・・。大丈夫だよ。何があってもお前は俺が護るから」
煉太郎は優しく小さい弟を抱きしめた。しかし、弟を抱きしめるのはこれが最後であった。
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