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第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

その頃、桜龍は信濃国の中心部に位置する諏訪湖で、武田信玄の眠る湖畔の前で供養の舞を踊っていた。諏訪大社の巫女達も神楽鈴や扇を持ち、神官が奏でる琵琶や笙の音色に合わせ優雅に舞っていた。その中に江津も琵琶で演奏をしていた。
(信玄公、モトスさんは甲斐国を護るという任を務めましたよ。どうか、安らかにお眠りください)
桜龍は舞いながら湖畔を見つめ、信玄に語りかけた。すると信玄は
(聖なる龍の守護者よ。そなた達勇士達も甲斐国に尽力を果たしてくれ、感謝しておる。これで、わしも息子の元へ行かれる)
桜龍が目を閉じると湖が黄金色に光り天に昇って行った。
(来世でまた幸せになってください。甲斐の虎、信玄公と勝頼様)

舞が終わり、桜龍は愛馬の八雲と共に諏訪湖を後にしようとした時に、江津に呼び止められた。
「見事な舞であったな、桜龍。信玄公も大層喜んでいただろう」
「江津の演奏だって、より一層引き立っていたぜ」
2人は互いに顔を見合わせながら笑った。すると、江津はこの先をどうするか桜龍に尋ねた。
「そういえば、モトスと千里は真田家に仕え、球磨と湘はそれぞれ国に帰ったが、桜龍はこれからどうするのだ?各地を巡り、聖なる龍の事を調べるのか?」
「いや、一回出雲に戻って、大神官殿に報告をする。安心しろよ、死の龍は討伐したと報告するが、お前の事は何も言わない。戻らねーと、心配性の巫女さんがヤキモキするからな・・・」
江津は大神官の娘、仁摩の事だと察するとクスッと笑いながら言った。江津は以前では考えられない位、外見も話し方も明るくなった。
「そうかそうか。まぁ、私はもう山陰には戻らないつもりだよ」
桜龍は江津の寂しそうな顔を見ると、これからどうするんだと聞いてみた。
「東北へ行ってみようと思う。もしかしたら、厳美が仕えている奴の事が分かるし、卿達の助けになりそうな者を探してみる。それが私に出来る事だ。お律と約束した誰かを助けたいという意志が芽生えたようだ」
江津は懐から恋人のお律が持っていた桜のかんざしを出し、じっと見ていた。桜龍は優しく笑いながら彼に礼を言った。そして、凛とした表情と意志を彼に向け、強く誓った。
「ありがとうな、江津。俺も、次に現れる強敵と戦う為にもっと強くなるからな!!」
江津は桜龍の意気込みを頼もしいと感じていた。すると、江津は彼に重要な情報を教えた。
「中々の意気込みだな。どうやら、昔から私の一族に死の龍の呪いをかけたのは・・・禍津日神(まがつひのかみ)という邪神のようだ。おそらく。厳美はそいつを崇拝している・・・。」
「双葉から受け取ったんだが、この耳飾りは厳美が梅雪の父に渡したみたいだ・・・。憎しみや負の心を増幅させる宝石のようだぜ・・・梅雪もこれのせいで悲劇を生んだんだな・・・」
桜龍は怒りで紅玉の耳飾りを握り潰しそうになったが江津に止められた。
「卿もこの紅玉で憎しみを持ってはいけないぞ!!聖なる龍は己の感情や強さに左右されるのだから、気を付けろ!」
「ああ・・・そうだったな。すまなかった・・・俺としたことが。この紅玉を出雲で調べてみるよ。その禍津日神の事が何か分かるかワクワクするよ」
江津は分かればよろしいと桜龍の髪をくしゃくしゃと撫でた。そして2人は暫しの別れを告げ、桜龍は信濃を北上し北陸を経由し出雲へ向かった。江津も越後から東北の方へ向かうことにした。桜龍は八雲を走らせながら甲斐の国で共に戦った仲間の事を考えていた。
(今はそれぞれの道へ進み、すべき事を全うするが、いずれまた巡り会うなきっと。俺達は切っても切れない勇士なのかもしれねーな)
モトスと千里と湘と球磨も桜龍と同じことを考えていた。風と大地と水と火は再び聖龍の元へ集い、戦国の歴史を壊そうとする者から日ノ本を護る。それは後世に語られるものではないが、彼らは戦国の世を護る為に戦い続ける御伽勇士である。




   第一部 異説武田の残党狩り 桃源郷に集う勇士   完
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