このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

信康救出から数日後、モトス達は、梅雪と新府城で犠牲になった者達への供養の為に韮崎を訪れた。そして、桜龍が加持祈祷をした後に一同は、新府城より少し北にある梅雪が生まれた森の中へと進んだ。日光が新緑を照らし、美しい翡翠色を帯びていた。しばらく進み、最深部にたどり着くと寒梅の木々の間にぽつんと一輪の精霊の花が咲いていた。花は小さく可愛らしいが、花びらは美しい薄紅色をしていた。
「おや?こんな所に精霊の花が咲いている。珍しいな」
モトスは不思議に思いながらも花を見て、梅雪の姿を思い出していた。すると、モトスの頭上に薄紅色のまだ蕾から生まれたばかりの小精霊がゆっくりと舞い降りてきた。
「おらは小助って名前じゅら!!」
小助は手のひらに包める程小さかった。髪は紫がかった黒髪で薄紅色の着物と深緑色の袴を履いていた。湘はこんな所に1人で寂しかった?と尋ねた。
「寂しくなかったじゅら。蕾から生まれる前にお花が生きる知識を教えてくれたし、森に居る動物達にもお世話になったじゅら♬」
小助は無邪気に説明をした。すると、モトスは小助のハネの色と模様を見て懐かしさを感じた。
(もしや、小助は梅雪の生まれ変わり・・・かな?)
モトスがしみじみと考えていると、小助は紫色の瞳を輝かせ彼らに憧れの視線を向けた。
「おじちゃん達、侍じゅら?一目見ただけで、強さを感じるじゅら!!おらも大きくなったら、立派な精霊戦士になりたいじゅら!!」
小助のまだ小さいながらも強い意志で主張すると、白州はよし!!と決心をした。
「生まれて間もないのに、なかなかの意気込みだな。俺がお前を強くしてやるぜ!!俺は白州っていうんだ」
白州は小助に名を名乗ると、小助は白州の長い黄色い髪に乗ってきて懐いた。
「よろしくじゅら〜白州兄ちゃん♪」
「こらこら・・・髪がくしゃくしゃになる・・・」
白州は小助に髪を弄られながらも、内心はとても嬉しそうであった。桜龍は白州を見て大笑いし、からかった。
「良かったな!!白州兄ちゃん、いいや白州父ちゃん♬」
「うるせぇ・・俺はあくまで小助の師匠だ!!」
球磨はまぁまぁと白州をなだめ、別の話に変えた。
「穴山の地で生まれた小助・・・穴山小助・・・何か良い響きだな」
球磨が両手を合わせて皆に尋ねた。すると湘が私もそう思ったと返答した。
「そうだな。不思議と後世に語り継がれそうな名に感じるな」
「きっと強者に仕える強き勇士になると思います」
千里も小助の凛々しい顔を見て思っていた。すると、小助は嬉しそうに白州の手の平で踊っていた。
「おらが強い勇士になる!!とっても楽しみじゅら~♪」
皆は小助の無邪気な姿に微笑んだ。穴山小助はいずれ日の本一の兵(つわもの)、真田幸村に仕える勇士の1人となり、知勇で支える精霊戦士になるとは、まだ知る由も無かった。


さらに数日後、勇士たちはそれぞれ暫しの別れを告げ旅立った。晴天の駿河国の沼津港で、球磨は九州の肥後国に帰る船に乗ろうとしていた。港は観光客や地元に帰る人で活気に満ちていた。広い船着場で、白州と小精霊達そして小助が見送りに来ていた。
「お前が助けた武田の兵士さんも礼を言っていたぞ。怪我の治療をして保護してくれたり、双葉を助けてくれたことに感謝していたぞ」
「おう!!その人が残党狩りの事を教えてくれたから皆と戦えた。今度また甲斐に行った時に何か礼がしたいな」
そう、球磨が甲斐の国へ行ったのは、武田に仕えていた1人の傷ついた兵士に、双葉の救出と残党狩りから民を護る事を託されたからであった。球磨の戦いはそこから始まったのだ。肝心の双葉は湘が救出したので、美味しいところは彼に取られたが、それでも白州や彼の大事な老女や村人達を救うことが出来た。
「球磨・・・本当に世話になった。ばっちゃんや村の皆んなも感謝していたぜ」
白州がお辞儀をすると、球磨は頭を上げてくれ!!と照れながらもクスッと笑っていた。
「何だよ改まって!!俺はお前と戦って、一緒に飯作って分かり合えて、とても嬉しいぜ!!」
白州がそうだなと笑っていると、白州の肩に乗っている小助は寂しげな表情で尋ねた。
「クマ兄ちゃん、遠くに行っちゃうじゅら?」
少し涙目の小助に球磨は人差し指で優しく頭を撫でた。
「ああ。一旦、肥後に戻って、信長亡き後の九州の様子も見てくる」
「そうか。俺も落ち着いたら九州に行ってみたいな。球磨も是非また甲斐の国とばっちゃんの村に遊びに来てくれ!皆んな喜ぶぜ」
「おうよ!!また、色々な料理を覚えて、村の皆と食べような♪そして、また一戦交えようぜ!!」
球磨が白州に握り拳を出すと、白州も出し、ポンと叩き合わせた。小助や小精霊達も手を出して、球磨は指で優しく合わせた。すると白州は先の見えない水平線を見て少し冷や汗をかいていた。
「それにしても・・・お前はずっと船で沼津まで来たのか・・?海の上って怖くないか?」
「慣れてないと少し酔うかもだけど、潮風が気持ち良いぜ。途中いろんな港に停泊するし。お前は空飛べる位なんだし、むしろそっちの方が勇気があると思うぞ!!」
球磨は笑うと、心配していた白州も微笑んだ。すると小助が球磨の大きな手の平に乗ってきて言った。
「おら、白州兄ちゃんに鍛えて貰って、クマ兄ちゃんと戦いたいじゃら!!」
小助に続き、小精霊達もおらもおらも!!と手の平に集まってきた。白州は呆れながらもそれぞれの小精霊の頭を撫でながら言った。
「まぁ・・これからの御時世、何があるか分からねーし、まだしばらく乱世は続くだろうから、こいつらを一人前に鍛えるに越したことはねーな」
「それもそうだな。よし!!小助も小精霊達も、強くなるのを楽しみにしているぜ!!お前たちは絶対に強くなる!!そうしたら一戦交えようぜ!!」
「そろそろ、紀伊・瀬戸内海、博多港経由、肥後行きの船が出港します!!!」
船員の大きな声で合図され、球磨は急いで船へ向かった。お互いにまた会おうと笑顔で別れを言った。白州はこの戦いで球磨という強く優しい戦士と戦友になれてとても誇りに思っていた。
球磨は肥後へ向かう巨大な帆船に乗った。白州は高台に位置する木造の灯台の上に飛び、座りながら小精霊達と一緒に帆船に手を振った。小助や小精霊達は初めて見る海に目を輝かせていた。
「水平線の先には何があるじゅら?」
小助は潮風を心地良く浴びながら白州に聞いた。
「うーん・・・見たことの無い広大な大陸とか、球磨が言ってた「ぽるとがる」ってとこじゃね?」
「適当じゅらねー」
小助と小精霊達は同時に白州に突っ込みを入れた。白州は海の向こうなんて未知の世界だ!!と胡麻化した。皆は笑いながら、帆船が見えなくなるまで海を見続けた。
「ばっちゃんの村も、秀隆さんや元織田兵が移住したから活性化するだろうな。球磨や桜龍達が村に来たときに大きい町になっていたら驚くだろうなー」


数日前、躑躅が崎館を任されていた河尻秀隆やキクの村を襲撃しようとした織田兵は、主君の信長の死後、行く当てもなく、切腹しようとしていたところを白州が止めた。そして
「ばっちゃんの村は人手不足だから、若い働き者が来ると喜ぶと思うぜ」
と誘った。そして、秀隆や兵士達は村の食料を強奪しようとしたことをキクたちに謝ったが、村人は何事もなかったかのように受け入れた。そして秀隆は河尻という名を捨て、農業を営みながらキクたち老人と楽しく人生を送った。

58/60ページ
スキ