第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
甲斐国北西部韮崎新府城、穴山梅雪は就寝中。
「の・・・信友(のぶとも)様!?お止めください!!!!!」
信友と呼ばれた壮年の赤茶色の髪の男は、黒髪の麗しい容姿の女性を激しく抱きしめていた。
「ふふふふふ。雪菜(せつな)よ。お前は心も身体も美しい精霊だ。俺の傍に置きたいな!!!」
雪菜と呼ばれた女は布団の上に倒され、着物を脱がされそうになっていた。
「嫌ああ!!!!!!!!!!」
雪菜の叫び声を聞いた瞬間、梅雪は目を覚ました。
「・・・・・あれは・・父上?・・・・あの女はいったい何者だろう?」
どうやら、梅雪の見た夢は今回が初めてではないようだ。以前から覚えのない雪菜という女の夢を見ては、うなされ目を覚ます。そして、そのたびに左耳の真紅の耳飾りが不気味に光るような気がした。
(それにしても・・・精霊って、モトスの野郎も森の精霊とやらではないか・・・。なんとも不愉快だ!!)
「まあ良い。もう朝か・・・。」
梅雪は布団から起き上がり、身支度を整えると、腹心の信康(のぶやす)が寝室に入ってきた。
「おはようございます。梅雪様。本日私は、共に残党狩りをする同志を見つけるために城を出る予定ですが・・・。」
「よろしく頼むぞ、信康よ。・・・それにしてもお前、少し目にクマが出来ているが、寝不足か?」
「あ・・・赤ん坊・・・いいえ、夜中に双葉殿の息子の玄杜(げんと)が泣き止まなくて、あやしたり、子守唄を歌ったりしていたからですかね・・・。」
「はははそうかそうか。本来なら玄杜は消しても良かったが、それでは双葉が悲しみに明け暮れ、後を追ってもらっては困るからな。でも、寝不足なら無理はするなよ。お前にもそう簡単に死なれては困るからな。」
「ご心配には及びませんよ。こう見えて織田家と内通するのに2日間眠らないで近江(現滋賀県)まで行った位体力に自信があるので。梅雪様に救われたこの命、梅雪様に捧げます!!」
信康は忠誠心を持って笑顔で梅雪の野望を手伝おうとしていた。
僕が梅雪様に忠義を誓う理由
僕は赤ん坊の時に甲府から少し東の笛吹川の河川に捨てられていたそうだ。そこを、葡萄農園を営む家族が育ててくれた。両親は厳しいながらも僕を本当の息子として育ててくれた。しかし、僕が11歳の時に、笛吹川の氾濫により、村は壊滅状態になった。家族は流され、僕1人が泥の川に残されていた。
「う・・・う・・・お腹すいたよ・・・。父ちゃんも母ちゃんも兄弟も皆流されたよ・・・」
信康は涙が止まらない中、真夏の甲府盆地の暑さと、空腹で倒れそうになった。すると、14歳位の高貴な着物と烏帽子を身に着けた少年が手を差し伸べた。
「大丈夫かい?・・・川の氾濫で多くの命を失ってしまったことに悔やんでいたが、君だけでも生きていて良かったよ。名はなんていうの?」
「・・・ぼ・・僕は・・・信康です。家族は川に流されて、営んでいた葡萄園も流されちゃって・・・」
「それなら、私の所へおいでよ。私の名前は穴山梅雪。穴山家は代々武田家に仕えているんだよ。」
梅雪は信康の小さい体を支えた。
「い・・いけません・・・。位の高い方が僕のような身分の低い者の為にお手が・・・。それに、着物が汚れてしまいます!!」
「案ずるな。着物なんて洗えば良い。・・・それより、信康よ。私に仕えないか?」
信康は空腹と熱中症で息絶えようとしていたが、梅雪の一言で、生きる希望を手に入れた。
「僕はどのような手を使っても、梅雪様のご恩に報いるために尽くします!!」
信康が梅雪の寝室を出て、二ノ丸の武器庫で準備をしていると、壮年の神官風の男、江津が部屋に入ってきた。
「随分と意気込んでおるな。流石は私をわざわざ隠岐の島の監獄から引っ張ってきただけあるな。」
江津は元々、出雲の上級神官であった男だ。しかし代々、死の龍を宿す呪われた一族出身であり、それが、青年期に発動してしまったようだ。それ以降は、闇に堕ち、中国地方の大名に死の呪いをかけたり、死霊を操り、悪行を繰り返した末、出雲の大神官たちにより、隠岐の最果ての監獄島に長年幽閉されていた。
「江津殿。お体の方はもう大丈夫ですか?そろそろ闇の力も戻ってきて、出陣できますか?」
「ふふふふふ。気遣い無用。我が体に宿す死の龍も魂を喰らいたいと、うずうずしておる。その前に卿の主に挨拶をせねばならぬな」
「そうでしたね。梅雪様は気が難しい性分ではありますが、決して魂を奪ってはいけませんよ」
「安心しろ、どのような人物であれ、そう簡単には魂を喰らったりはせんよ。それよりも信康」
「!?何ですか?」
「どのような手を使ってもと言っていたが、あまり闇深く染まるなよ。特に、陰で戦国の世を壊そうとする者・・・にはな。」
江津は怖い顔からは想像もつかぬ、悲しげな表情を信康に向け、注意を促していた。
「・・・ご忠告はありがたいのですが、言っている意味が良く分かりません。・・・それではそろそろ行きますね。」
信康は江津の忠告に素っ気なく応え、懐から2丁の短銃を装備し部屋を後にした。そんな姿を見て江津は薄く笑っていた。
「・・・あの者、忠義には大変篤いが、危ういな。・・・どうか私のようにはならないで欲しいと願いたいところだ」
信康は新府城を出てから少し考えていた。
(江津殿が言っていた、陰で戦国の世を壊す者って何だろう?・・・でも、そんな者が居れば、梅雪様の野望の道具に出来る!!)
その後の彼が深い闇に飲み込まれることなど知る由もなかった。
「の・・・信友(のぶとも)様!?お止めください!!!!!」
信友と呼ばれた壮年の赤茶色の髪の男は、黒髪の麗しい容姿の女性を激しく抱きしめていた。
「ふふふふふ。雪菜(せつな)よ。お前は心も身体も美しい精霊だ。俺の傍に置きたいな!!!」
雪菜と呼ばれた女は布団の上に倒され、着物を脱がされそうになっていた。
「嫌ああ!!!!!!!!!!」
雪菜の叫び声を聞いた瞬間、梅雪は目を覚ました。
「・・・・・あれは・・父上?・・・・あの女はいったい何者だろう?」
どうやら、梅雪の見た夢は今回が初めてではないようだ。以前から覚えのない雪菜という女の夢を見ては、うなされ目を覚ます。そして、そのたびに左耳の真紅の耳飾りが不気味に光るような気がした。
(それにしても・・・精霊って、モトスの野郎も森の精霊とやらではないか・・・。なんとも不愉快だ!!)
「まあ良い。もう朝か・・・。」
梅雪は布団から起き上がり、身支度を整えると、腹心の信康(のぶやす)が寝室に入ってきた。
「おはようございます。梅雪様。本日私は、共に残党狩りをする同志を見つけるために城を出る予定ですが・・・。」
「よろしく頼むぞ、信康よ。・・・それにしてもお前、少し目にクマが出来ているが、寝不足か?」
「あ・・・赤ん坊・・・いいえ、夜中に双葉殿の息子の玄杜(げんと)が泣き止まなくて、あやしたり、子守唄を歌ったりしていたからですかね・・・。」
「はははそうかそうか。本来なら玄杜は消しても良かったが、それでは双葉が悲しみに明け暮れ、後を追ってもらっては困るからな。でも、寝不足なら無理はするなよ。お前にもそう簡単に死なれては困るからな。」
「ご心配には及びませんよ。こう見えて織田家と内通するのに2日間眠らないで近江(現滋賀県)まで行った位体力に自信があるので。梅雪様に救われたこの命、梅雪様に捧げます!!」
信康は忠誠心を持って笑顔で梅雪の野望を手伝おうとしていた。
僕が梅雪様に忠義を誓う理由
僕は赤ん坊の時に甲府から少し東の笛吹川の河川に捨てられていたそうだ。そこを、葡萄農園を営む家族が育ててくれた。両親は厳しいながらも僕を本当の息子として育ててくれた。しかし、僕が11歳の時に、笛吹川の氾濫により、村は壊滅状態になった。家族は流され、僕1人が泥の川に残されていた。
「う・・・う・・・お腹すいたよ・・・。父ちゃんも母ちゃんも兄弟も皆流されたよ・・・」
信康は涙が止まらない中、真夏の甲府盆地の暑さと、空腹で倒れそうになった。すると、14歳位の高貴な着物と烏帽子を身に着けた少年が手を差し伸べた。
「大丈夫かい?・・・川の氾濫で多くの命を失ってしまったことに悔やんでいたが、君だけでも生きていて良かったよ。名はなんていうの?」
「・・・ぼ・・僕は・・・信康です。家族は川に流されて、営んでいた葡萄園も流されちゃって・・・」
「それなら、私の所へおいでよ。私の名前は穴山梅雪。穴山家は代々武田家に仕えているんだよ。」
梅雪は信康の小さい体を支えた。
「い・・いけません・・・。位の高い方が僕のような身分の低い者の為にお手が・・・。それに、着物が汚れてしまいます!!」
「案ずるな。着物なんて洗えば良い。・・・それより、信康よ。私に仕えないか?」
信康は空腹と熱中症で息絶えようとしていたが、梅雪の一言で、生きる希望を手に入れた。
「僕はどのような手を使っても、梅雪様のご恩に報いるために尽くします!!」
信康が梅雪の寝室を出て、二ノ丸の武器庫で準備をしていると、壮年の神官風の男、江津が部屋に入ってきた。
「随分と意気込んでおるな。流石は私をわざわざ隠岐の島の監獄から引っ張ってきただけあるな。」
江津は元々、出雲の上級神官であった男だ。しかし代々、死の龍を宿す呪われた一族出身であり、それが、青年期に発動してしまったようだ。それ以降は、闇に堕ち、中国地方の大名に死の呪いをかけたり、死霊を操り、悪行を繰り返した末、出雲の大神官たちにより、隠岐の最果ての監獄島に長年幽閉されていた。
「江津殿。お体の方はもう大丈夫ですか?そろそろ闇の力も戻ってきて、出陣できますか?」
「ふふふふふ。気遣い無用。我が体に宿す死の龍も魂を喰らいたいと、うずうずしておる。その前に卿の主に挨拶をせねばならぬな」
「そうでしたね。梅雪様は気が難しい性分ではありますが、決して魂を奪ってはいけませんよ」
「安心しろ、どのような人物であれ、そう簡単には魂を喰らったりはせんよ。それよりも信康」
「!?何ですか?」
「どのような手を使ってもと言っていたが、あまり闇深く染まるなよ。特に、陰で戦国の世を壊そうとする者・・・にはな。」
江津は怖い顔からは想像もつかぬ、悲しげな表情を信康に向け、注意を促していた。
「・・・ご忠告はありがたいのですが、言っている意味が良く分かりません。・・・それではそろそろ行きますね。」
信康は江津の忠告に素っ気なく応え、懐から2丁の短銃を装備し部屋を後にした。そんな姿を見て江津は薄く笑っていた。
「・・・あの者、忠義には大変篤いが、危ういな。・・・どうか私のようにはならないで欲しいと願いたいところだ」
信康は新府城を出てから少し考えていた。
(江津殿が言っていた、陰で戦国の世を壊す者って何だろう?・・・でも、そんな者が居れば、梅雪様の野望の道具に出来る!!)
その後の彼が深い闇に飲み込まれることなど知る由もなかった。