第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
翌日になり、まだ朝日が昇る前の伊賀路で、家康たちは小屋を出発し獣道を必死に歩いていた。
「この辺りは朝になると落ち武者狩りをする輩や、山賊が動き出します。もう少し行けば亀山と鈴鹿の街に出て尾張にたどり着きます」
半蔵は忠勝と共に辺りを警戒し、茂みや小枝を払いながら進んでいくと、木と木の間から亀山城下町と伊勢湾が見えた。家康はほっとした顔をし、あともう少し頑張ろうと朝日に向かって気合を入れた。
「この道を下れば亀山に行かれる・・・。亀山には信長様の家臣も多く居る。彼らと合流しよう!!」
家康が毅然とした口調で家臣たちに言うと、忠勝は主君に提案をした。
「家康様、亀山に居る織田の者達も信長様が討たれ、混乱していると思います。ここは、彼らと合流するよりも長旅で疲労している半蔵や兵士達を休ませるべきかと」
家康は忠勝の申し出を受け入れた。
「それもそうだな・・・忠勝や半蔵、そして兵士達は私の護衛に励んでくれた・・・。本当にありがとう。亀山を通り過ぎ、鈴鹿に良い温泉があるので、そこで休もうか」
兵士達は笑顔で頷き、主君を護り無事に三河に戻るぞ!!と意気込んでいた。しかし、その光景を面白く思わない者が1人居た。
(く・・・家康様は僕の事を見てくれてない・・・何とか家康様に気に入られ、穴山家を再興させる足掛かりにしなければ・・・)
信康は忠勝や半蔵を後ろから睨みつけながら、何とか功を立てなければと考えを回していた。その時、木陰から数名の山賊が姿を現した。
「へへへ!!随分と位の高そうなお侍さん達だなー。もしや、大名かい、お兄さん?殺されたくなかったら金目の物を置いてきな!!」
無精ひげを生やした山賊たちは嫌らしい笑いを浮かべながら家康達に近づいた。即座に忠勝と半蔵が武器を構えたが、すかさず信康が2丁の短銃を構え、家康達に言った。
「ここは私にお任せください、家康様。このような賊、忠勝殿が相手をする価値も無い奴らですよ」
信康が嘲笑うように山賊たちを見据えると、彼らは馬鹿にされたと腹を立て、信康に襲い掛かった。しかし、武術や銃術に長けた信康にとって、弱い者の集まりである山賊など敵ではなかった。山賊達は次々と銃弾に撃たれ倒れていった。残った数人は武器を捨て謝って逃げ出したが・・・信康はなおもしつこく
「名高き大名を襲撃しようとしていたお前達を逃がすと思ったか!!」
と銃を構え言った。
「もう良い!!信康!!!敵はもう戦意を失っている!!」
家康は信康を止めようとしたが、彼は主君の声も聞かずに、逃げている山賊の頭上を撃ち倒した。
信康は瞬く間に山賊を成敗した。
「家康様、皆さん、山賊どもは私が退治しました。こんな賊は私が相手で十分です」
信康は銃をしまい、得意気に家康達に評価を得ようとしたが、家康は首を横に振り、彼に冷たい目を向けた。
「この山賊達は諦めて逃げようとした。しかしお前は必要以上に山賊達を撃ち続けた・・・忠勝や半蔵達に任せておけば無駄な死者は出なかった」
信康は家康の予想外の言葉に納得がいかず反論した。
「な・・・私は家康様を護る為に武を振るったのです!!連戦で疲れている忠勝殿や半蔵殿の負担を減らすために・・・うぅ!?」
信康が必死に訴えている時に、急に左腕から激しい痛みが走り頭痛を起こした。うずくまり腕を押さえている信康を家康達は冷たい目で見据えていた。
「悪いが・・・お前は私が最も好まぬ人間だ。甲斐の民達を虐げ、無用な殺しもする。そんな者が新しい穴山家を再興させる資格は無い」
「ち・・・違いますよ!!民を虐げていたのは偽の梅雪で、僕は本当に民の為に新しい穴山家を築きたいと思っています!!」
信康は自分が梅雪の腹心であり、影でもある事を家康達に告げたが、家康はそのような事はどうでも良いようだ。
「そうか。お前は偽物だったのか。本物の梅雪はもっとしたたかで非道な者なのだな。穴山などは私にも、戦国の世にも要らぬ」
信康は家康の言葉に胸を痛めた。そして、耐えられない程の痛みに気を失いそうになった。しかし、家康達は手を貸さなかった。
「ここでお別れだ、影の梅雪。私はお前に構うほど優しい人間ではないし、信長様が居なくなった今。先の事を考えなければならない」
家康は倒れている信康を見捨て先を急いだ。信康は待って・・・と意識が途切れる中、心の中で叫んでいた。その時に、左腕が黒い龍の鱗を帯びた腕に変形して、完全に意識を失った。
しばらくして、信康が目を覚ますと厳美が介抱していた。信康は厳美の姿を見て驚きを隠せなかった。
「ふふふ、久しぶりですねー信康さん。御気分がすぐれないようですが、大丈夫ですかー?」
厳美がニコニコと笑いながら言った。信康はまだ頭に痛みが残り、自身の腕が黒い龍の鱗になっており、手から鋭い爪が生えている事に驚き、厳美に問い詰めた。
「これは・・・なぜ僕の腕が・・お前!!何かしたのか!?」
信康は思い出していた。新府城で双葉と玄杜を護るために梅雪と戦い、左腕に傷を負った。その後、厳美が強力な特効薬を塗ってくれた。しかし・・・それは
「何って、私はあなたを強くする為に力を与えただけですよ」
厳美は妖しい表情で笑いながら説明すると、信康は再び激しい頭痛を起こした。
「力って・・・お前は僕に何をさせるつもりだ・・・・」
信康は冷や汗を流しながら厳美を睨むと彼は笑いながら、苦しんでいる信康の耳元で囁いた。
「あなたは、家康に完全に捨てられた。あなたにはもう、穴山家を再興させる頼みの綱は断たれた。そうなると、道はただ1つ」
信康は苦しみ、意識が途切れそうになりながらも必死に彼の甘い声に耳を傾けた。
「徳川家康を殺し、あなたが天下を取りなさい」
信康は厳美の言葉に自我を抑えられなくなった。そして、徐々に彼の催眠術に洗脳されていく。
(う・・・玄杜・・・双葉・・・・・・)
最後に2人の笑顔だけが思い浮かび上がっていた。
その頃、石和で双葉とお都留は、信康を探す為に近畿の伊賀路へ向かうモトス達の無事を祈り、帰りを待っていた。
「戦いは終わったのに、どうしてモトス達はまた戦いに行くのかしら?」
双葉はスヤスヤと眠っている玄杜を抱っこしながらお都留に尋ねた。
「モトスさん達にはまだやり残した事があるみたいですよ。皆さんなら大丈夫です。私たちは帰りを待ちましょう」
双葉は心の中で何か引っかかるものを感じていた。すると、鏡台に簡素な作りの短銃が置いてあった。双葉は湘に救出される時に、自身の着物の中にそれが入っていた事を思い出していた。お都留は無理に思い出させないように嘘をついてしまった。
「その銃は護身用に湘さんが双葉様の懐に入れたそうですよ」
「そう・・・なのね」
双葉は短銃を見ていると、ふと2丁の銃を持った赤茶色の髪の男の姿が脳裏に浮かんだ。
(あの人は一体・・・誰なの?もしかして、玄杜が言っている・・・)
双葉は何かを思い出そうとした時、壮年の住職が早採れのぶどうを持ってきた。双葉とお都留はお礼を言いながら、初夏にぶどうが採れる事に驚いていた。
「この辺りは秋ほどではないですが、早生のぶどうが採れるのですよ。房も大きくて美味しいですよ」
住職が2人にぶどうを渡すと、双葉は朧げに何かを思い出しそうになった。すると、住職は話を続けた。
「この地は昔、水害があり、ぶどうや桃畑が多く流されてしまったのですよ・・・。確か、1人運よくぶどう園一家の子供が生き残って・・・武田家の家臣の者に救われたと聞いたような・・・」
住職が過去の事を思い出していると、双葉はそれぞれ関連した単語を発した。
「水害・・・ぶどう園の子供・・武田家臣・・・穴山・・穴山梅雪?」
双葉は無意識に梅雪の名を言うと、脳裏に信康と過ごした時間を思い出してきた。お都留は双葉に何も言わずにその姿を見守った。
「ぶどう園を・・・信康は、ぶどう酒を作るのが夢・・・信康は穴山家当主・・・!?信康は!!信康はどこへ行ってしまったのかしら?」
双葉は取り乱した。お都留は彼女を強く抱きしめ落ち着かせた。双葉は心が落ち着き、澄みきった眼差しと固い意志でお都留に告げた。
「お都留さん・・・申し訳ございません。私は信康の元へ帰ります!!」
お都留は双葉の揺るぎない言葉に快く応えた。
「1人では危険です、双葉様。私が護衛します」
双葉は信康が懐に入れてくれた短銃を持ち部屋を出た。
「この辺りは朝になると落ち武者狩りをする輩や、山賊が動き出します。もう少し行けば亀山と鈴鹿の街に出て尾張にたどり着きます」
半蔵は忠勝と共に辺りを警戒し、茂みや小枝を払いながら進んでいくと、木と木の間から亀山城下町と伊勢湾が見えた。家康はほっとした顔をし、あともう少し頑張ろうと朝日に向かって気合を入れた。
「この道を下れば亀山に行かれる・・・。亀山には信長様の家臣も多く居る。彼らと合流しよう!!」
家康が毅然とした口調で家臣たちに言うと、忠勝は主君に提案をした。
「家康様、亀山に居る織田の者達も信長様が討たれ、混乱していると思います。ここは、彼らと合流するよりも長旅で疲労している半蔵や兵士達を休ませるべきかと」
家康は忠勝の申し出を受け入れた。
「それもそうだな・・・忠勝や半蔵、そして兵士達は私の護衛に励んでくれた・・・。本当にありがとう。亀山を通り過ぎ、鈴鹿に良い温泉があるので、そこで休もうか」
兵士達は笑顔で頷き、主君を護り無事に三河に戻るぞ!!と意気込んでいた。しかし、その光景を面白く思わない者が1人居た。
(く・・・家康様は僕の事を見てくれてない・・・何とか家康様に気に入られ、穴山家を再興させる足掛かりにしなければ・・・)
信康は忠勝や半蔵を後ろから睨みつけながら、何とか功を立てなければと考えを回していた。その時、木陰から数名の山賊が姿を現した。
「へへへ!!随分と位の高そうなお侍さん達だなー。もしや、大名かい、お兄さん?殺されたくなかったら金目の物を置いてきな!!」
無精ひげを生やした山賊たちは嫌らしい笑いを浮かべながら家康達に近づいた。即座に忠勝と半蔵が武器を構えたが、すかさず信康が2丁の短銃を構え、家康達に言った。
「ここは私にお任せください、家康様。このような賊、忠勝殿が相手をする価値も無い奴らですよ」
信康が嘲笑うように山賊たちを見据えると、彼らは馬鹿にされたと腹を立て、信康に襲い掛かった。しかし、武術や銃術に長けた信康にとって、弱い者の集まりである山賊など敵ではなかった。山賊達は次々と銃弾に撃たれ倒れていった。残った数人は武器を捨て謝って逃げ出したが・・・信康はなおもしつこく
「名高き大名を襲撃しようとしていたお前達を逃がすと思ったか!!」
と銃を構え言った。
「もう良い!!信康!!!敵はもう戦意を失っている!!」
家康は信康を止めようとしたが、彼は主君の声も聞かずに、逃げている山賊の頭上を撃ち倒した。
信康は瞬く間に山賊を成敗した。
「家康様、皆さん、山賊どもは私が退治しました。こんな賊は私が相手で十分です」
信康は銃をしまい、得意気に家康達に評価を得ようとしたが、家康は首を横に振り、彼に冷たい目を向けた。
「この山賊達は諦めて逃げようとした。しかしお前は必要以上に山賊達を撃ち続けた・・・忠勝や半蔵達に任せておけば無駄な死者は出なかった」
信康は家康の予想外の言葉に納得がいかず反論した。
「な・・・私は家康様を護る為に武を振るったのです!!連戦で疲れている忠勝殿や半蔵殿の負担を減らすために・・・うぅ!?」
信康が必死に訴えている時に、急に左腕から激しい痛みが走り頭痛を起こした。うずくまり腕を押さえている信康を家康達は冷たい目で見据えていた。
「悪いが・・・お前は私が最も好まぬ人間だ。甲斐の民達を虐げ、無用な殺しもする。そんな者が新しい穴山家を再興させる資格は無い」
「ち・・・違いますよ!!民を虐げていたのは偽の梅雪で、僕は本当に民の為に新しい穴山家を築きたいと思っています!!」
信康は自分が梅雪の腹心であり、影でもある事を家康達に告げたが、家康はそのような事はどうでも良いようだ。
「そうか。お前は偽物だったのか。本物の梅雪はもっとしたたかで非道な者なのだな。穴山などは私にも、戦国の世にも要らぬ」
信康は家康の言葉に胸を痛めた。そして、耐えられない程の痛みに気を失いそうになった。しかし、家康達は手を貸さなかった。
「ここでお別れだ、影の梅雪。私はお前に構うほど優しい人間ではないし、信長様が居なくなった今。先の事を考えなければならない」
家康は倒れている信康を見捨て先を急いだ。信康は待って・・・と意識が途切れる中、心の中で叫んでいた。その時に、左腕が黒い龍の鱗を帯びた腕に変形して、完全に意識を失った。
しばらくして、信康が目を覚ますと厳美が介抱していた。信康は厳美の姿を見て驚きを隠せなかった。
「ふふふ、久しぶりですねー信康さん。御気分がすぐれないようですが、大丈夫ですかー?」
厳美がニコニコと笑いながら言った。信康はまだ頭に痛みが残り、自身の腕が黒い龍の鱗になっており、手から鋭い爪が生えている事に驚き、厳美に問い詰めた。
「これは・・・なぜ僕の腕が・・お前!!何かしたのか!?」
信康は思い出していた。新府城で双葉と玄杜を護るために梅雪と戦い、左腕に傷を負った。その後、厳美が強力な特効薬を塗ってくれた。しかし・・・それは
「何って、私はあなたを強くする為に力を与えただけですよ」
厳美は妖しい表情で笑いながら説明すると、信康は再び激しい頭痛を起こした。
「力って・・・お前は僕に何をさせるつもりだ・・・・」
信康は冷や汗を流しながら厳美を睨むと彼は笑いながら、苦しんでいる信康の耳元で囁いた。
「あなたは、家康に完全に捨てられた。あなたにはもう、穴山家を再興させる頼みの綱は断たれた。そうなると、道はただ1つ」
信康は苦しみ、意識が途切れそうになりながらも必死に彼の甘い声に耳を傾けた。
「徳川家康を殺し、あなたが天下を取りなさい」
信康は厳美の言葉に自我を抑えられなくなった。そして、徐々に彼の催眠術に洗脳されていく。
(う・・・玄杜・・・双葉・・・・・・)
最後に2人の笑顔だけが思い浮かび上がっていた。
その頃、石和で双葉とお都留は、信康を探す為に近畿の伊賀路へ向かうモトス達の無事を祈り、帰りを待っていた。
「戦いは終わったのに、どうしてモトス達はまた戦いに行くのかしら?」
双葉はスヤスヤと眠っている玄杜を抱っこしながらお都留に尋ねた。
「モトスさん達にはまだやり残した事があるみたいですよ。皆さんなら大丈夫です。私たちは帰りを待ちましょう」
双葉は心の中で何か引っかかるものを感じていた。すると、鏡台に簡素な作りの短銃が置いてあった。双葉は湘に救出される時に、自身の着物の中にそれが入っていた事を思い出していた。お都留は無理に思い出させないように嘘をついてしまった。
「その銃は護身用に湘さんが双葉様の懐に入れたそうですよ」
「そう・・・なのね」
双葉は短銃を見ていると、ふと2丁の銃を持った赤茶色の髪の男の姿が脳裏に浮かんだ。
(あの人は一体・・・誰なの?もしかして、玄杜が言っている・・・)
双葉は何かを思い出そうとした時、壮年の住職が早採れのぶどうを持ってきた。双葉とお都留はお礼を言いながら、初夏にぶどうが採れる事に驚いていた。
「この辺りは秋ほどではないですが、早生のぶどうが採れるのですよ。房も大きくて美味しいですよ」
住職が2人にぶどうを渡すと、双葉は朧げに何かを思い出しそうになった。すると、住職は話を続けた。
「この地は昔、水害があり、ぶどうや桃畑が多く流されてしまったのですよ・・・。確か、1人運よくぶどう園一家の子供が生き残って・・・武田家の家臣の者に救われたと聞いたような・・・」
住職が過去の事を思い出していると、双葉はそれぞれ関連した単語を発した。
「水害・・・ぶどう園の子供・・武田家臣・・・穴山・・穴山梅雪?」
双葉は無意識に梅雪の名を言うと、脳裏に信康と過ごした時間を思い出してきた。お都留は双葉に何も言わずにその姿を見守った。
「ぶどう園を・・・信康は、ぶどう酒を作るのが夢・・・信康は穴山家当主・・・!?信康は!!信康はどこへ行ってしまったのかしら?」
双葉は取り乱した。お都留は彼女を強く抱きしめ落ち着かせた。双葉は心が落ち着き、澄みきった眼差しと固い意志でお都留に告げた。
「お都留さん・・・申し訳ございません。私は信康の元へ帰ります!!」
お都留は双葉の揺るぎない言葉に快く応えた。
「1人では危険です、双葉様。私が護衛します」
双葉は信康が懐に入れてくれた短銃を持ち部屋を出た。