第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
日が沈み夜になり、5人は甲府盆地の北西部に位置する韮崎の新府城にたどり着いた。坂を上り、城門に入ると辺り一面、目を疑うような光景であった。無残にも織田兵の死体が転がっていた。だが、血は流れておらず、斬られたり撃たれた痕よりも、猛毒を浴びて息絶えていた。湘と球磨は暗い顔をして死体を見つめた。
「見たところ、武器を持ったまま倒れているという事は、彼らも梅雪に挑んだようだね・・・」
「女と子供は居ないみたいだな・・・ここに居るのはこいつらと俺達だけみたいだぜ・・・」
千里は本丸を静かに見ていた。
「本丸から禍々しい気を感じます。今までに戦った敵とは比べ物にならない程の・・・」
皆で辺りを見回していると、まだ息のある若い兵士がモトスに話しかけた。
「穴山梅雪は禍々しい物の怪と化した・・・ここにいる兵はことごとくやられた・・・お前達も命が惜ければ早くここを立ち去るのだ・・・」
しかしモトスは首を横に振り、兵士に癒しの術を掛けた。兵士はモトスの額当ての武田菱を見て戸惑っていた。
「何故・・・敵なのに、拙者の命を・・・」
「この状況で敵味方など関係ない。まだ息のある者と躑躅ヶ崎館に行くのだ!!」
「恩にきる!!武田の忍びの者よ。わが主人、河尻様もこのような形で、甲斐国を侵略したくないと申していた。だから、梅雪の討伐に来たが、無残に破れてしまった・・・」
兵は悔しそうな顔をしていると、桜龍は兵に手を貸して笑顔で言った。
「そう悔やむなよ。あんたはしっかりと主の命を全うしたんだ。織田の家臣にも優しい人がいたんだな」
兵士は再び皆に礼を言った。モトスは強く頷き言った。
「後は俺たちに任せてくれ。・・・梅雪との決着は俺達が付ける!!」
モトスに続き桜龍達も皆顔を見合わせ、相槌を打って本丸へ向かった。
本丸までの道は酷い有様であった。モトスや武田の兵士達とで大切に育てた木々や花々は枯れ果て、城壁にも無数のヒビが入っていた。
(梅雪の提案でこの地に城を建てた。あの者は俺以上に勝頼様に尽くしていた・・・なのに何故)
本丸の門にたどり着くと、城の天守閣に異形の怪物と化した梅雪が立ちはだかっていた。梅雪の姿は、鬼のように紅い肌となり、薄紅色の女物の振袖を着ていた。さらに、背中からは毒々しい赤茶色の蛾のようなハネを生やし、腹部から下は、長く太いムカデのような尾を生やしていた。モトスは醜い物の怪と化した梅雪に深く心を痛めていた。
「梅雪・・・何故、人を捨てたのだ・・・物の怪化してまで甲斐国を滅ぼしたいのか!!」
モトスの叫び声に梅雪が気付き、高笑いをして言った。
「来たか、モトス。それに寄せ集めの忌々しい勇士共め!!俺様は魔王すらひれ伏せられる力を手に入れたのだ!!貴様らなんぞ、俺様に傷一つ付ける事無く滅びるのだ!!」
梅雪は紅いハネを広げ、モトスたちの元に舞い降りて来た。桜龍達は、無言で梅雪を睨みながら武器を構えた。そして、モトスも梅雪の狂気に満ちた瞳をじっと見つめながら言った。
「決着を付けよう・・・梅雪」
梅雪はムカデの尾を滑らかに踊らせながら笑っていた。
ついに新府城で戦いが始まった。
その頃、お都留は石和の小さな寺で、双葉と玄杜の世話をしていた。小精霊たちもお都留を手伝っていた。
「双葉様、お体の調子は如何ですか?玄杜様は元気に小精霊と遊んでいるので、ご安心を」
お都留は明るく優しく話しかけたが、双葉は考え込んでいる表情で頭を下げた。
「ありがとう、お都留さん。・・・北西の空が暗いわね・・あそこには新府城があったのに」
「双葉様・・・」
双葉は少し涙を流していた。
「私・・勝頼様が自害してからの記憶が無いの。後を追おうとしたら・・長いこと眠っていたみたいで。目覚めた時に湘が助けてくれた・・・でも何か大切な事を忘れている気がするの」
お都留は頭を押さえている双葉を優しく抱き語りかけた。
「・・・今はまだ、無理に思い出さなくて大丈夫です。ゆっくり思い出せば良いのですよ」
「心配を掛けて・・・ごめんなさい。お都留さん・・・」
少しして、お都留は玄杜の様子を見に、隣の部屋を覗くと、小精霊たちが玄杜をあやしていた。玄杜は無邪気に笑っていた。
「キャッキャ!じゅーらーのぶやしゅじゅうらのぶやすじゅら」
「のぶやすて誰じゅら〜?玄杜さま?」
小精霊たちは信康は誰だろうと首をかしげていると、お都留が小精霊たちに休んで良いよと告げ、玄杜に離乳食のお粥を食べさせた。
(梅雪の元に囚われている間に信康は双葉様と玄杜様に愛情を持ってしまったのですね・・・。玄杜様が彼の名を呼び続けているので、双葉様も思い出すのは時間の問題ですね)
お都留は玄杜の無邪気な顔を見て思い悩んでいた。
場所が変わり、新府城でモトスたちは梅雪と激戦を繰り広げていた。梅雪は二双の巨大な扇やムカデの尾で攻撃を繰り返していた。球磨は西洋槍に炎をまとい、尾を燃やしながら穂先で突いた。しかし、闇の力を増している梅雪には中々攻撃が効かなかった。
「くっ・・・灼熱の炎をかましたのに、全く効いてねぇ・・・」
「アーハハハハ!!炎の戦士がこの程度の炎しか出せないのか!!温泉に入った位の温度にしか感じぬわ!!」
梅雪は太い尾で球磨を払った。球磨は西洋槍で受け止めたが、強い衝撃で吹き飛ばされた。梅雪は隙だらけの球磨に攻撃をしようとしたが、湘の氷の魔法で尾と胴体を凍らされ、身動きが取れなくなった。
「虫は氷には弱いから、これで少しは弱るかな」
動けない梅雪に再び球磨は火炎弾を放ち、千里は暗器の小刀や投げ針を蛾のハネに投げ続け、モトスと桜龍はそれぞれ武器に風と雷の力を纏わせ、梅雪目掛け斬りかかろうとした。だが・・・。
「この程度の攻撃にくたばると思ったか!!」
梅雪は暗器が刺さったハネを大きく広げ、毒の鱗粉を放った。接近していたモトスと桜龍は即座に対応したが、毒を吸ってしまい体に痺れが入った。2人はうずくまりながら梅雪を睨んだ。
「く・・・こいつはまともに吸ってたら危なかったぜ・・・」
「これが・・闇の梅雪の力なのか・・だが・・この程度の攻撃には負けてはおられぬ!!」
球磨は急いで2人を支えた。そして千里と湘は再び梅雪に攻撃を仕掛けようとしたが、梅雪は凍っている尾を壊した。
「肝心のモトスが動けないのではつまらんのー。どの道貴様らには勝ち目は無いのだから、先に甲斐国を滅ぼしに行くか」
梅雪はハネを羽ばたかせ、上空へ飛んで行った。湘は銃弾を撃ち、千里も小刀を投げたが、二双の扇で弾かれてしまった。
「貴様らの相手は後でゆっくりしてやる!!せいぜい首を洗って待っていろ!!」
梅雪は空高く南の方へ飛び立った。桜龍とモトスは悔し顔で遠くに消え去る梅雪を見ていた。
「くっそ・・・逃げられたぜ」
「すまぬ・・・梅雪の動きに対応しきれなかった」
2人は心身ともに鍛えられているので、毒の痺れは直ぐに取れた。しかし、梅雪を逃してしまった事に大きな責任を感じていた。湘と球磨と千里は2人を励ました。
「誰のせいでもないよ。私とて奴の動きを読めなかったのだから」
「2人共、もう立てるか?早く梅雪を追いかけようぜ!!」
「おそらく梅雪は南の富士五湖の方へ向かったと思います。・・・甲斐の清らかな自然を壊すために」
5人は急ぎ梅雪を追うため、新府城を後にした。
「見たところ、武器を持ったまま倒れているという事は、彼らも梅雪に挑んだようだね・・・」
「女と子供は居ないみたいだな・・・ここに居るのはこいつらと俺達だけみたいだぜ・・・」
千里は本丸を静かに見ていた。
「本丸から禍々しい気を感じます。今までに戦った敵とは比べ物にならない程の・・・」
皆で辺りを見回していると、まだ息のある若い兵士がモトスに話しかけた。
「穴山梅雪は禍々しい物の怪と化した・・・ここにいる兵はことごとくやられた・・・お前達も命が惜ければ早くここを立ち去るのだ・・・」
しかしモトスは首を横に振り、兵士に癒しの術を掛けた。兵士はモトスの額当ての武田菱を見て戸惑っていた。
「何故・・・敵なのに、拙者の命を・・・」
「この状況で敵味方など関係ない。まだ息のある者と躑躅ヶ崎館に行くのだ!!」
「恩にきる!!武田の忍びの者よ。わが主人、河尻様もこのような形で、甲斐国を侵略したくないと申していた。だから、梅雪の討伐に来たが、無残に破れてしまった・・・」
兵は悔しそうな顔をしていると、桜龍は兵に手を貸して笑顔で言った。
「そう悔やむなよ。あんたはしっかりと主の命を全うしたんだ。織田の家臣にも優しい人がいたんだな」
兵士は再び皆に礼を言った。モトスは強く頷き言った。
「後は俺たちに任せてくれ。・・・梅雪との決着は俺達が付ける!!」
モトスに続き桜龍達も皆顔を見合わせ、相槌を打って本丸へ向かった。
本丸までの道は酷い有様であった。モトスや武田の兵士達とで大切に育てた木々や花々は枯れ果て、城壁にも無数のヒビが入っていた。
(梅雪の提案でこの地に城を建てた。あの者は俺以上に勝頼様に尽くしていた・・・なのに何故)
本丸の門にたどり着くと、城の天守閣に異形の怪物と化した梅雪が立ちはだかっていた。梅雪の姿は、鬼のように紅い肌となり、薄紅色の女物の振袖を着ていた。さらに、背中からは毒々しい赤茶色の蛾のようなハネを生やし、腹部から下は、長く太いムカデのような尾を生やしていた。モトスは醜い物の怪と化した梅雪に深く心を痛めていた。
「梅雪・・・何故、人を捨てたのだ・・・物の怪化してまで甲斐国を滅ぼしたいのか!!」
モトスの叫び声に梅雪が気付き、高笑いをして言った。
「来たか、モトス。それに寄せ集めの忌々しい勇士共め!!俺様は魔王すらひれ伏せられる力を手に入れたのだ!!貴様らなんぞ、俺様に傷一つ付ける事無く滅びるのだ!!」
梅雪は紅いハネを広げ、モトスたちの元に舞い降りて来た。桜龍達は、無言で梅雪を睨みながら武器を構えた。そして、モトスも梅雪の狂気に満ちた瞳をじっと見つめながら言った。
「決着を付けよう・・・梅雪」
梅雪はムカデの尾を滑らかに踊らせながら笑っていた。
ついに新府城で戦いが始まった。
その頃、お都留は石和の小さな寺で、双葉と玄杜の世話をしていた。小精霊たちもお都留を手伝っていた。
「双葉様、お体の調子は如何ですか?玄杜様は元気に小精霊と遊んでいるので、ご安心を」
お都留は明るく優しく話しかけたが、双葉は考え込んでいる表情で頭を下げた。
「ありがとう、お都留さん。・・・北西の空が暗いわね・・あそこには新府城があったのに」
「双葉様・・・」
双葉は少し涙を流していた。
「私・・勝頼様が自害してからの記憶が無いの。後を追おうとしたら・・長いこと眠っていたみたいで。目覚めた時に湘が助けてくれた・・・でも何か大切な事を忘れている気がするの」
お都留は頭を押さえている双葉を優しく抱き語りかけた。
「・・・今はまだ、無理に思い出さなくて大丈夫です。ゆっくり思い出せば良いのですよ」
「心配を掛けて・・・ごめんなさい。お都留さん・・・」
少しして、お都留は玄杜の様子を見に、隣の部屋を覗くと、小精霊たちが玄杜をあやしていた。玄杜は無邪気に笑っていた。
「キャッキャ!じゅーらーのぶやしゅじゅうらのぶやすじゅら」
「のぶやすて誰じゅら〜?玄杜さま?」
小精霊たちは信康は誰だろうと首をかしげていると、お都留が小精霊たちに休んで良いよと告げ、玄杜に離乳食のお粥を食べさせた。
(梅雪の元に囚われている間に信康は双葉様と玄杜様に愛情を持ってしまったのですね・・・。玄杜様が彼の名を呼び続けているので、双葉様も思い出すのは時間の問題ですね)
お都留は玄杜の無邪気な顔を見て思い悩んでいた。
場所が変わり、新府城でモトスたちは梅雪と激戦を繰り広げていた。梅雪は二双の巨大な扇やムカデの尾で攻撃を繰り返していた。球磨は西洋槍に炎をまとい、尾を燃やしながら穂先で突いた。しかし、闇の力を増している梅雪には中々攻撃が効かなかった。
「くっ・・・灼熱の炎をかましたのに、全く効いてねぇ・・・」
「アーハハハハ!!炎の戦士がこの程度の炎しか出せないのか!!温泉に入った位の温度にしか感じぬわ!!」
梅雪は太い尾で球磨を払った。球磨は西洋槍で受け止めたが、強い衝撃で吹き飛ばされた。梅雪は隙だらけの球磨に攻撃をしようとしたが、湘の氷の魔法で尾と胴体を凍らされ、身動きが取れなくなった。
「虫は氷には弱いから、これで少しは弱るかな」
動けない梅雪に再び球磨は火炎弾を放ち、千里は暗器の小刀や投げ針を蛾のハネに投げ続け、モトスと桜龍はそれぞれ武器に風と雷の力を纏わせ、梅雪目掛け斬りかかろうとした。だが・・・。
「この程度の攻撃にくたばると思ったか!!」
梅雪は暗器が刺さったハネを大きく広げ、毒の鱗粉を放った。接近していたモトスと桜龍は即座に対応したが、毒を吸ってしまい体に痺れが入った。2人はうずくまりながら梅雪を睨んだ。
「く・・・こいつはまともに吸ってたら危なかったぜ・・・」
「これが・・闇の梅雪の力なのか・・だが・・この程度の攻撃には負けてはおられぬ!!」
球磨は急いで2人を支えた。そして千里と湘は再び梅雪に攻撃を仕掛けようとしたが、梅雪は凍っている尾を壊した。
「肝心のモトスが動けないのではつまらんのー。どの道貴様らには勝ち目は無いのだから、先に甲斐国を滅ぼしに行くか」
梅雪はハネを羽ばたかせ、上空へ飛んで行った。湘は銃弾を撃ち、千里も小刀を投げたが、二双の扇で弾かれてしまった。
「貴様らの相手は後でゆっくりしてやる!!せいぜい首を洗って待っていろ!!」
梅雪は空高く南の方へ飛び立った。桜龍とモトスは悔し顔で遠くに消え去る梅雪を見ていた。
「くっそ・・・逃げられたぜ」
「すまぬ・・・梅雪の動きに対応しきれなかった」
2人は心身ともに鍛えられているので、毒の痺れは直ぐに取れた。しかし、梅雪を逃してしまった事に大きな責任を感じていた。湘と球磨と千里は2人を励ました。
「誰のせいでもないよ。私とて奴の動きを読めなかったのだから」
「2人共、もう立てるか?早く梅雪を追いかけようぜ!!」
「おそらく梅雪は南の富士五湖の方へ向かったと思います。・・・甲斐の清らかな自然を壊すために」
5人は急ぎ梅雪を追うため、新府城を後にした。