第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
甲府の少し北に位置する湯村温泉で、江津は星空の下、湯に浸かっていた。周りを森で囲まれた静かな温泉であった。
「ふーむ・・・。温泉に入るのもこれが最後かな。私が桜龍に討たれるか、死の龍が私の心と体を支配するか・・・」
江津は自分の体を見ると、背中から黒い龍の紋章が腕や胸まで広がっていた。
「・・・数え切れぬほどの魂を喰ってしまったな・・・。私が死の龍と共に滅んだとしても、あの娘の元には行かれないな」
江津は寂しく笑いながら思い出していた。桜のかんざしを付けた、明るい笑顔で団子を売っている女性の姿が脳裏に浮かんだ。
この物語は、桜龍が甲斐の国へ旅立つ前の話。桜龍は出雲大社の大神官の命により、江津討伐の任を受けた。その際、大社の書物庫で、江津と死の龍について記されている本をじっくりと読んでいた。
今から43年前、山陰の西部に位置する石見の国の村には、死の龍に呪われ続けている一族がいた。一族は呪いにより、昔から村人たちや、ましてや身内同士までも魂を奪い合う日々を送っていた。中でも、恋人と交わった時、恋人の魂を奪い屍と化するか、子をもうけたとしても、死の龍が子に宿ってしまうというおぞましい一族である。
そして、唯一生き残った女は、生まれたばかりの赤子、江津を連れ石見から出雲へ向かっていた。しかし、出雲大社へ向かう途中、母は江津の小さい体から発動された死の龍の呪いにより魂を奪われ息絶えた。その時居合わせた大神官(現在の大神官の父に当たる)により、深く眠っていた江津は発見された。母の着物の中には文が入っていた。
(我々は代々、死の龍に呪われし一族です。江津が最後の子です。我が一族が滅んでも、死の龍は誰かに寄生し続けます。どうか、息子の呪いを解く術を探してください)
当時の大神官は、江津の呪いを自らの強力な術で発動を防ぎ、自分の息子と同様に大切に育て、出雲の神官として修業させた。
しかし、神官の思いに反して江津は、18歳の時にとある事件により、死の龍の力を使い始め、上級神官から罪人へと堕ちてしまった。そして、出雲を追放され、中国地方の戦や領内での内乱などに出くわしては、呪いで大名や武士たちを殺害し、死霊として操り、世を乱していた。しかし、出雲の上級神官と、現在の大神官により捕縛された。
丁度その頃、童の桜龍が隠岐の島から出雲大社に来て、見習いとして大社の参道を掃除している時、神官たちに連行されていく江津と出会った。桜龍はその時、箒を止め、奇妙に笑っている江津の顔を静かに見つめていた。江津は桜龍の姿に気づき、神官を振り払い少年に近づいたが、少年は怖がる事無く、江津に何か用?と尋ねた。すると江津は少年の左目の眼帯を外し、耳元で笑いながら囁いた。
「卿が聖なる龍を宿す、桜龍か?」
「・・・そうだけど、聖龍の瞳は渡さないよ」
桜龍は白金色の龍が映る瞳を隠し、身構えた。しかし江津は奪うことなどさらさら考えておらず、再び少年の耳元で囁いた。
「・・・聖なる龍の成長と、卿の成長を楽しみに、監獄で待っておるぞ」
江津は謎の言葉を言い残し、神官に連れ戻され出雲を後にした。
「お・・桜龍!?江津に何かされたか!!!」
神官達は桜龍の身を案じていたが、少年は笑いながら嘘を言った。
「今のおっちゃん、出雲の修行は中々厳しいぞと言っていました♪私も頑張らねばですねー」
神官達は、へ!?そう言われたの?と呆気に取られていた。しかし、桜龍は江津の言葉を深く感じ取っていた。
(江津とはいずれ戦う時が来るのか・・・・?)
桜龍は左目の瞳に手を当てていた。
そして現在に至り、桜龍とモトスと湘は、石和から甲府の道を歩いていた。桜龍は懐からウサギの刺繍がしてある薄紫色のお守りを見続けていた。すると、モトスがふむふむと頷きながら、横からお守りを覗いてみた。
「かわいいお守りだな。手作りか?」
「あ・・・まぁ、少し口うるさい心配性の巫女の仁摩が作ってくれたんだけど、ウサちゃんの目が怒ってるみたいに見える刺繍だぜ・・・」
桜龍が苦笑いすると、前を歩いている湘が笑いながら振り向き言った。
「おそらく、君がはめを外し過ぎるから、ウサギも怒った顔をしているのだろう」
「うう・・・湘おじは相変わらず痛いところをつきますねぇ・・・」
桜龍がガクッと肩を落とすと、モトスが笑顔で励ましてくれた。
「おそらく、仁摩殿もお前の事を第一に心配して、お守りを渡したのだろう。ウサギは怒っているよりも、桜龍と共に戦う強い目をしている風に見えるぞ」
モトスの言葉に桜龍は納得しようか考えていたが
「うーん・・・仁摩殿は聡明で腕っぷしも強いんだけど・・・手先が少々不器用なんだよな・・・」
(でも、ありがとうよ!!)
と桜龍は心の中で仁摩の応援に深く感謝をした。
「ふーむ・・・。温泉に入るのもこれが最後かな。私が桜龍に討たれるか、死の龍が私の心と体を支配するか・・・」
江津は自分の体を見ると、背中から黒い龍の紋章が腕や胸まで広がっていた。
「・・・数え切れぬほどの魂を喰ってしまったな・・・。私が死の龍と共に滅んだとしても、あの娘の元には行かれないな」
江津は寂しく笑いながら思い出していた。桜のかんざしを付けた、明るい笑顔で団子を売っている女性の姿が脳裏に浮かんだ。
この物語は、桜龍が甲斐の国へ旅立つ前の話。桜龍は出雲大社の大神官の命により、江津討伐の任を受けた。その際、大社の書物庫で、江津と死の龍について記されている本をじっくりと読んでいた。
今から43年前、山陰の西部に位置する石見の国の村には、死の龍に呪われ続けている一族がいた。一族は呪いにより、昔から村人たちや、ましてや身内同士までも魂を奪い合う日々を送っていた。中でも、恋人と交わった時、恋人の魂を奪い屍と化するか、子をもうけたとしても、死の龍が子に宿ってしまうというおぞましい一族である。
そして、唯一生き残った女は、生まれたばかりの赤子、江津を連れ石見から出雲へ向かっていた。しかし、出雲大社へ向かう途中、母は江津の小さい体から発動された死の龍の呪いにより魂を奪われ息絶えた。その時居合わせた大神官(現在の大神官の父に当たる)により、深く眠っていた江津は発見された。母の着物の中には文が入っていた。
(我々は代々、死の龍に呪われし一族です。江津が最後の子です。我が一族が滅んでも、死の龍は誰かに寄生し続けます。どうか、息子の呪いを解く術を探してください)
当時の大神官は、江津の呪いを自らの強力な術で発動を防ぎ、自分の息子と同様に大切に育て、出雲の神官として修業させた。
しかし、神官の思いに反して江津は、18歳の時にとある事件により、死の龍の力を使い始め、上級神官から罪人へと堕ちてしまった。そして、出雲を追放され、中国地方の戦や領内での内乱などに出くわしては、呪いで大名や武士たちを殺害し、死霊として操り、世を乱していた。しかし、出雲の上級神官と、現在の大神官により捕縛された。
丁度その頃、童の桜龍が隠岐の島から出雲大社に来て、見習いとして大社の参道を掃除している時、神官たちに連行されていく江津と出会った。桜龍はその時、箒を止め、奇妙に笑っている江津の顔を静かに見つめていた。江津は桜龍の姿に気づき、神官を振り払い少年に近づいたが、少年は怖がる事無く、江津に何か用?と尋ねた。すると江津は少年の左目の眼帯を外し、耳元で笑いながら囁いた。
「卿が聖なる龍を宿す、桜龍か?」
「・・・そうだけど、聖龍の瞳は渡さないよ」
桜龍は白金色の龍が映る瞳を隠し、身構えた。しかし江津は奪うことなどさらさら考えておらず、再び少年の耳元で囁いた。
「・・・聖なる龍の成長と、卿の成長を楽しみに、監獄で待っておるぞ」
江津は謎の言葉を言い残し、神官に連れ戻され出雲を後にした。
「お・・桜龍!?江津に何かされたか!!!」
神官達は桜龍の身を案じていたが、少年は笑いながら嘘を言った。
「今のおっちゃん、出雲の修行は中々厳しいぞと言っていました♪私も頑張らねばですねー」
神官達は、へ!?そう言われたの?と呆気に取られていた。しかし、桜龍は江津の言葉を深く感じ取っていた。
(江津とはいずれ戦う時が来るのか・・・・?)
桜龍は左目の瞳に手を当てていた。
そして現在に至り、桜龍とモトスと湘は、石和から甲府の道を歩いていた。桜龍は懐からウサギの刺繍がしてある薄紫色のお守りを見続けていた。すると、モトスがふむふむと頷きながら、横からお守りを覗いてみた。
「かわいいお守りだな。手作りか?」
「あ・・・まぁ、少し口うるさい心配性の巫女の仁摩が作ってくれたんだけど、ウサちゃんの目が怒ってるみたいに見える刺繍だぜ・・・」
桜龍が苦笑いすると、前を歩いている湘が笑いながら振り向き言った。
「おそらく、君がはめを外し過ぎるから、ウサギも怒った顔をしているのだろう」
「うう・・・湘おじは相変わらず痛いところをつきますねぇ・・・」
桜龍がガクッと肩を落とすと、モトスが笑顔で励ましてくれた。
「おそらく、仁摩殿もお前の事を第一に心配して、お守りを渡したのだろう。ウサギは怒っているよりも、桜龍と共に戦う強い目をしている風に見えるぞ」
モトスの言葉に桜龍は納得しようか考えていたが
「うーん・・・仁摩殿は聡明で腕っぷしも強いんだけど・・・手先が少々不器用なんだよな・・・」
(でも、ありがとうよ!!)
と桜龍は心の中で仁摩の応援に深く感謝をした。