第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
早朝になりモトス達は笹子峠の空き家を出発し、峠道を歩いていた。桜龍は1人ぶつぶつと不満を言いながら歩いていた。
「ったくよー、湘おじも酷な事するっすねー。3人で仲良く寝て、俺の横には氷の壁を作って・・・隔離して・・・おかげで体が冷えたっすよー」
どうやら夜中に、湘が寝相の悪い桜龍が転がってこないように氷の壁を作り、3人の寝床を防衛したそうだ。湘が皮肉めいた口調で言い返した。
「ふん♪おかげで今回はぐっすり眠れた。これを機に寝相を良くしたらどうだ?」
湘の意地悪な言い方にシュンとなっている桜龍を、お都留は優しくなだめた。
「言い過ぎですよ、湘さん!!桜龍さん、寝相は直ぐに治すのは難しいですわ。良い物を差し上げます!!」
お都留は荷物の中から、蔦で出来た網状の釣床(ハンモックのようなもの)を出した。
「これを木と木に結んで寝ると、体が下に落ちないように自然と安定した姿勢で眠ることが出来ますわ」
お都留が熱心に説明していたが、桜龍はうーん・・・と困った顔で言った。
「うーん・・・これだと雨や強風の時は干せないぜ・・・それに、夜外で寝るのは寒いよー!!」
「おいおい・・・突っ込むところはそこかい・・・」
湘が呆れながら言うと、モトスは桜龍に少し怒りながら言った。
「桜龍よ・・・先ほど、3人で仲良く寝ていた・・・と言っていたが、俺達は疲れを取るのに早く寝た。お前を仲間外れにして仲良く喋ってはいないぞ!!」
続いて、お都留も言葉を続けた。
「モトスさんの言う通りですわ!!私たちはぐっすり眠っていました。この戦いが終わったら、皆でお茶会を開いてゆっくりお話をしましょう」
「よっしゃあ!!それはとても楽しみだぜ!!お都留さん!!」
桜龍の機嫌も治ったが、湘は頭を抱えながら呆れていた。
(やれやれ・・・ここは、お都留にあんな事や・・・こんな事や・・・とか言うとかと思ったら、モトスもお都留も純朴だねぇ・・・。天然ボケ3人は先が思いやられるな・・・)
湘が3人のほのぼのとした会話に苦笑いしていた時、湘の頭上を目掛け、一本の矢が放たれた。彼の青い南蛮風のふわりとした帽子が矢により外れ、それごと近くの木に刺さった。湘達は武器を構え、攻撃に備え木々を見回したが、近くに敵の気配は感じなかった。
「今のは・・何だったのだ?私の大事な帽子を・・・」
湘は少し腹を立てながら木に刺さっている矢と帽子を引き抜いた。すると矢に文が結ばれているのを発見した。湘は文に目を通した。
『北条家の客将、湘よ。北条氏政の妹、双葉とその息子、武田玄杜はこの地から北西の西沢渓谷(現山梨県山梨市)の小屋に拘束している。返して欲しくば、貴殿1人でこの地へ来い』
3人も文を通すと、モトスには心当たりがあった。
「・・・この字は・・信康か・・。あの者は梅雪の腹心でもあり、影でもある。・・・おそらく矢も信康が放ったに違いない・・・。」
「・・・これは罠に違いありません!!双葉様と玄杜様がその地に居る根拠がありません。それになぜ湘さんを誘おうとするのでしょう?」
モトスとお都留が考え込んでいると、桜龍は静かに気を集中させていた。すると、笛吹川を上っていくと、西沢渓谷の美しい七ツ釜五段の滝の風景が聖なる龍の瞳に映し出された。そして、滝の周りの森の中に廃屋が存在した。その中に双葉と玄杜が深い眠りについている姿が見えた。
「・・・どうやら本当に姫様と若君は西沢渓谷に居るようだぜ。それにしても姫様と若君は今、梅雪の元に囚われているのにどういうことだ?」
桜龍も深く考え梅雪の様子を見る為に再び気を集中させたが、二度は発動されなかった。湘は、懸命に気を集中させている桜龍を止め決心をした。
「仕方がない・・・。私が双葉殿と玄杜様の救出に行って来る。そもそもそれが目的で甲斐に来たのだからな。私の海洋族の力を使えば、直ぐに西沢渓谷へたどり着くさ」
湘が不敵な笑みと強い意志を3人に向けると、モトスは真剣な表情で忠告をした。
「湘よ。双葉様と玄杜様の事はお前に任せる。信康が何を考えているのか分からぬが、少なくともお前に挑むと思う。信康は主(梅雪)の為なら手段も選ばぬしたたかな腹心だ。気を付けてくれ!!」
「いや、気遣い無用。私もそれ以上にしたたかで主思いだ。それに、氏政殿に甥っ子の可愛い姿を見せたいしな」
湘が近くの川から笛吹川へ泳ごうとした時に、桜龍からイルカの刺繍がしてある青色のお守りを渡された。
「湘おじ!!これは水や氷の力を強くさせる御守りですよ。水難にも強いので、持っていてください」
湘は優しく笑いながらお守りを首に掛けた。
「私は、海と水を司るから、水難も何もないが・・・頂いておこう。ありがとうな、桜龍」
湘は桜龍に礼を言い川に飛び込んだ。湘は普段よりも手と足が速く動き泳ぎやすかった。
(この御守りは不思議だ・・・。これから戦いに行くのに、心が温かい。まるで、大切な人に護られているようだ)
湘は一瞬、母の優しい顔が脳裏に浮かんだ。
湘が西沢渓谷へ向かった後、桜龍は祈りを込めて心の中で囁いた。
(湘さんに渡した御守りは、お母さんの凪沙(なぎさ)さんが湘さんの為に作ったんだよ。・・・海王神いすみ様が湘に会ったら渡してくれと言っていたのを忘れるところだったぜ!!)
桜龍は子供の時に、いすみと凪沙に会ったことがあった。
「ったくよー、湘おじも酷な事するっすねー。3人で仲良く寝て、俺の横には氷の壁を作って・・・隔離して・・・おかげで体が冷えたっすよー」
どうやら夜中に、湘が寝相の悪い桜龍が転がってこないように氷の壁を作り、3人の寝床を防衛したそうだ。湘が皮肉めいた口調で言い返した。
「ふん♪おかげで今回はぐっすり眠れた。これを機に寝相を良くしたらどうだ?」
湘の意地悪な言い方にシュンとなっている桜龍を、お都留は優しくなだめた。
「言い過ぎですよ、湘さん!!桜龍さん、寝相は直ぐに治すのは難しいですわ。良い物を差し上げます!!」
お都留は荷物の中から、蔦で出来た網状の釣床(ハンモックのようなもの)を出した。
「これを木と木に結んで寝ると、体が下に落ちないように自然と安定した姿勢で眠ることが出来ますわ」
お都留が熱心に説明していたが、桜龍はうーん・・・と困った顔で言った。
「うーん・・・これだと雨や強風の時は干せないぜ・・・それに、夜外で寝るのは寒いよー!!」
「おいおい・・・突っ込むところはそこかい・・・」
湘が呆れながら言うと、モトスは桜龍に少し怒りながら言った。
「桜龍よ・・・先ほど、3人で仲良く寝ていた・・・と言っていたが、俺達は疲れを取るのに早く寝た。お前を仲間外れにして仲良く喋ってはいないぞ!!」
続いて、お都留も言葉を続けた。
「モトスさんの言う通りですわ!!私たちはぐっすり眠っていました。この戦いが終わったら、皆でお茶会を開いてゆっくりお話をしましょう」
「よっしゃあ!!それはとても楽しみだぜ!!お都留さん!!」
桜龍の機嫌も治ったが、湘は頭を抱えながら呆れていた。
(やれやれ・・・ここは、お都留にあんな事や・・・こんな事や・・・とか言うとかと思ったら、モトスもお都留も純朴だねぇ・・・。天然ボケ3人は先が思いやられるな・・・)
湘が3人のほのぼのとした会話に苦笑いしていた時、湘の頭上を目掛け、一本の矢が放たれた。彼の青い南蛮風のふわりとした帽子が矢により外れ、それごと近くの木に刺さった。湘達は武器を構え、攻撃に備え木々を見回したが、近くに敵の気配は感じなかった。
「今のは・・何だったのだ?私の大事な帽子を・・・」
湘は少し腹を立てながら木に刺さっている矢と帽子を引き抜いた。すると矢に文が結ばれているのを発見した。湘は文に目を通した。
『北条家の客将、湘よ。北条氏政の妹、双葉とその息子、武田玄杜はこの地から北西の西沢渓谷(現山梨県山梨市)の小屋に拘束している。返して欲しくば、貴殿1人でこの地へ来い』
3人も文を通すと、モトスには心当たりがあった。
「・・・この字は・・信康か・・。あの者は梅雪の腹心でもあり、影でもある。・・・おそらく矢も信康が放ったに違いない・・・。」
「・・・これは罠に違いありません!!双葉様と玄杜様がその地に居る根拠がありません。それになぜ湘さんを誘おうとするのでしょう?」
モトスとお都留が考え込んでいると、桜龍は静かに気を集中させていた。すると、笛吹川を上っていくと、西沢渓谷の美しい七ツ釜五段の滝の風景が聖なる龍の瞳に映し出された。そして、滝の周りの森の中に廃屋が存在した。その中に双葉と玄杜が深い眠りについている姿が見えた。
「・・・どうやら本当に姫様と若君は西沢渓谷に居るようだぜ。それにしても姫様と若君は今、梅雪の元に囚われているのにどういうことだ?」
桜龍も深く考え梅雪の様子を見る為に再び気を集中させたが、二度は発動されなかった。湘は、懸命に気を集中させている桜龍を止め決心をした。
「仕方がない・・・。私が双葉殿と玄杜様の救出に行って来る。そもそもそれが目的で甲斐に来たのだからな。私の海洋族の力を使えば、直ぐに西沢渓谷へたどり着くさ」
湘が不敵な笑みと強い意志を3人に向けると、モトスは真剣な表情で忠告をした。
「湘よ。双葉様と玄杜様の事はお前に任せる。信康が何を考えているのか分からぬが、少なくともお前に挑むと思う。信康は主(梅雪)の為なら手段も選ばぬしたたかな腹心だ。気を付けてくれ!!」
「いや、気遣い無用。私もそれ以上にしたたかで主思いだ。それに、氏政殿に甥っ子の可愛い姿を見せたいしな」
湘が近くの川から笛吹川へ泳ごうとした時に、桜龍からイルカの刺繍がしてある青色のお守りを渡された。
「湘おじ!!これは水や氷の力を強くさせる御守りですよ。水難にも強いので、持っていてください」
湘は優しく笑いながらお守りを首に掛けた。
「私は、海と水を司るから、水難も何もないが・・・頂いておこう。ありがとうな、桜龍」
湘は桜龍に礼を言い川に飛び込んだ。湘は普段よりも手と足が速く動き泳ぎやすかった。
(この御守りは不思議だ・・・。これから戦いに行くのに、心が温かい。まるで、大切な人に護られているようだ)
湘は一瞬、母の優しい顔が脳裏に浮かんだ。
湘が西沢渓谷へ向かった後、桜龍は祈りを込めて心の中で囁いた。
(湘さんに渡した御守りは、お母さんの凪沙(なぎさ)さんが湘さんの為に作ったんだよ。・・・海王神いすみ様が湘に会ったら渡してくれと言っていたのを忘れるところだったぜ!!)
桜龍は子供の時に、いすみと凪沙に会ったことがあった。