第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
風を守護とする勇士、モトス
数日が経ち、甲斐の国では武田の残党狩りとして、織田兵が武田の地を荒らしていた。特に、甲府にある武田家の居館「躑躅ヶ崎館」と武田勝頼が築城した韮崎の「新府城」、織田兵に乗っ取られ、そこを拠点に武田の残党狩りが行われていた。
「たのむだー!!おらはどうなってもいい!!妻と娘は見逃してくれー!!!」
織田兵は甲府の農村で武田狩りをしている。まだ若い妻と幼き娘を持つ、足軽兵士は数人の織田兵に懇願した。
「うるせえんだよ!!敗北兵の分際が!!!勝者に願いをこう権利なんてねーんだよ!!安心しろよ。お前を冥土に送った後、大切な妻と子も直ぐにお前の元に送ってやるからな!!」
織田兵の1人は無抵抗の足軽の男を斬りつけようとした。その時、かまいたちのような疾風の速さで、織田兵の体は切り裂かれその場に倒れた。
「な・・・何が起きたんだ!!!!」
残りの織田兵士たちは辺りをキョロキョロ見回した。すると、空高く黒装束の忍び、モトスが目の前に着地し、両手に短い曲刀を構え、兵士たちを睨みつけながら言った。
「・・・武田の残党狩りは、無抵抗の民にまで手をかけるのか!!!」
男の鋭く光る翡翠色の瞳は静かな怒りを表している。
「げ!!あいつはやばいぞ!!!長篠の戦の時に多くの織田兵を倒していった・・・黒蝶のモトス!!!」
「なーに怖気づいているんだ!!今は主君も居ないはぐれ忍びだろ!!こんな奴複数で掛かれば怖くないぜ!!!」
「残念だな・・・武士道の欠片もない殺戮兵士などには決して負けぬ!!!」
モトスは複数で襲ってくる敵の攻撃を華麗に避け、背後から斬りつけようとした兵士の頭部に回し蹴りを喰らわせた。そして、3人がかりで襲ってきたが、兵士に乾燥させた花びらをまき散らし、敵の目を眩ませた。そして、二刀の曲刀で敵兵を斬り倒した。織田兵士たちはあっという間にモトスに倒された。
「大丈夫?立てるか?」
モトスは険しい表情から優しく穏やかな表情になり、足軽の男に肩を貸してやった。
「あ・・ありがとうございます!!モトスさん」
「奥さんとお嬢ちゃんも怪我はなかったかい?」
「おかげで助かりました!!織田兵は多勢で夫を痛めつけました・・・。武田の民は皆殺しにすると・・・。斬られる寸前の夫を助けてくださりありがとうございます!!」
「あいつらとーっても悪い奴だ!!おらの父ちゃんを殺そうとして!!」
「・・・ああそうだな。俺は、武田の残党狩りと言いつつ、甲斐の民たちを虐げている織田兵を退治している。ここは危険だ!!身延下部地域はまだ安全だから、南へ逃げろ!!」
モトスは、生き残った武田兵と共に、残党狩りにあっている兵士や民たちを織田軍から護るために、戦っている。
「・・・勝頼様。俺には武田家の再興をする力はありません・・・。ですが、あなたの、『甲斐の民は宝だ。だから護りたい』という遺志を継ぎます。そして、無念を晴らします!!」
モトスは甲府盆地から遠くに見える霊峰、晴天の富士を見ながら深く誓った。
韮崎の新府城は甲州征伐の時に勝頼が火を放ち、焼け野原となった。しかし、短期間で、穴山梅雪の居城として復活し、彼の館となった。
「ほう。勝頼亡き後でも健気に民たちを護っているか・・・モトスよ」
37歳位の黒髪の男が葡萄酒を口にしながら南蛮椅子に座ってくつろいでいた。
「梅雪様。モトスは油断ならない忍びです。こちらも、奴に勝る戦士を集めた方がいいでしょう!!」
梅雪と話している、34歳位の赤茶色の髪の男が、呑気な梅雪とは対象的に、これから先の事を警戒していた。
「相変わらず心配性だな。信康(のぶやす)はー。まぁ、傭兵に関してはお前に任せる」
信康は梅雪の腹心であり、人材集めなど梅雪に任されている。また、梅雪と容姿が似ていることから、影武者として行動することもある。
「分かりました。この間、隠岐の島の監獄で江津という闇の神官を傘下に入れました。今は瞑想中ですが、力が回復したら梅雪様に会わせるつもりです。他にも良い人材を集めてきますね」
「ははははは。相変わらず狡猾でしたたかだな。信康は。まぁ、これで俺をないがしろにした甲斐の者どもに穴山の偉大さを思い知らせてやる!!天国で見てるがよい!!勝頼よ!!!!」
数分後、信康は梅雪の部屋を出た。すると、部屋の奥から品の良い19歳位の黒髪の女性が現れた。彼女は、勝頼の継室であり、北条夫人とも呼ばれる双葉という名の女性であった。勝頼が死、後追いをしようとしていた時に、息子の玄杜と共に梅雪に連れてこられた。
「息子はどうしたの?早く息子と会わせなさいよ!!!!」
彼女は泣き叫びながら梅雪に懇願した。
「・・・双葉か。そうだったな。勝頼とお前の息子・・・玄杜だったかな?お前が俺の嫁になると誓えば、会わせてやっても良いぞ」
梅雪は彼女の華奢な体を腕で抱き、鳶色の鋭い瞳で優しく見つめた。
「・・・く・・・」
彼女は睨んだが、抵抗することができなかった。
「まぁ焦らずとも良い。甲斐の国が滅んだ末、いずれお前は俺の嫁になるのだからな。息子もまだ赤ん坊だ。お前の態度と愛情次第では、穴山家の使用人としてか、将軍として育てても良いぞ」
梅雪は勝ち誇った表情で、涙目で睨むしかできない双葉の瞳を見続けた。
(誰か・・・どうか、まだ赤ん坊の玄杜だけでも救ってください・・・。氏政兄様・・・。勝頼様・・・)
双葉はただ、息子の無事を祈るしかなかった。
第1話 完
数日が経ち、甲斐の国では武田の残党狩りとして、織田兵が武田の地を荒らしていた。特に、甲府にある武田家の居館「躑躅ヶ崎館」と武田勝頼が築城した韮崎の「新府城」、織田兵に乗っ取られ、そこを拠点に武田の残党狩りが行われていた。
「たのむだー!!おらはどうなってもいい!!妻と娘は見逃してくれー!!!」
織田兵は甲府の農村で武田狩りをしている。まだ若い妻と幼き娘を持つ、足軽兵士は数人の織田兵に懇願した。
「うるせえんだよ!!敗北兵の分際が!!!勝者に願いをこう権利なんてねーんだよ!!安心しろよ。お前を冥土に送った後、大切な妻と子も直ぐにお前の元に送ってやるからな!!」
織田兵の1人は無抵抗の足軽の男を斬りつけようとした。その時、かまいたちのような疾風の速さで、織田兵の体は切り裂かれその場に倒れた。
「な・・・何が起きたんだ!!!!」
残りの織田兵士たちは辺りをキョロキョロ見回した。すると、空高く黒装束の忍び、モトスが目の前に着地し、両手に短い曲刀を構え、兵士たちを睨みつけながら言った。
「・・・武田の残党狩りは、無抵抗の民にまで手をかけるのか!!!」
男の鋭く光る翡翠色の瞳は静かな怒りを表している。
「げ!!あいつはやばいぞ!!!長篠の戦の時に多くの織田兵を倒していった・・・黒蝶のモトス!!!」
「なーに怖気づいているんだ!!今は主君も居ないはぐれ忍びだろ!!こんな奴複数で掛かれば怖くないぜ!!!」
「残念だな・・・武士道の欠片もない殺戮兵士などには決して負けぬ!!!」
モトスは複数で襲ってくる敵の攻撃を華麗に避け、背後から斬りつけようとした兵士の頭部に回し蹴りを喰らわせた。そして、3人がかりで襲ってきたが、兵士に乾燥させた花びらをまき散らし、敵の目を眩ませた。そして、二刀の曲刀で敵兵を斬り倒した。織田兵士たちはあっという間にモトスに倒された。
「大丈夫?立てるか?」
モトスは険しい表情から優しく穏やかな表情になり、足軽の男に肩を貸してやった。
「あ・・ありがとうございます!!モトスさん」
「奥さんとお嬢ちゃんも怪我はなかったかい?」
「おかげで助かりました!!織田兵は多勢で夫を痛めつけました・・・。武田の民は皆殺しにすると・・・。斬られる寸前の夫を助けてくださりありがとうございます!!」
「あいつらとーっても悪い奴だ!!おらの父ちゃんを殺そうとして!!」
「・・・ああそうだな。俺は、武田の残党狩りと言いつつ、甲斐の民たちを虐げている織田兵を退治している。ここは危険だ!!身延下部地域はまだ安全だから、南へ逃げろ!!」
モトスは、生き残った武田兵と共に、残党狩りにあっている兵士や民たちを織田軍から護るために、戦っている。
「・・・勝頼様。俺には武田家の再興をする力はありません・・・。ですが、あなたの、『甲斐の民は宝だ。だから護りたい』という遺志を継ぎます。そして、無念を晴らします!!」
モトスは甲府盆地から遠くに見える霊峰、晴天の富士を見ながら深く誓った。
韮崎の新府城は甲州征伐の時に勝頼が火を放ち、焼け野原となった。しかし、短期間で、穴山梅雪の居城として復活し、彼の館となった。
「ほう。勝頼亡き後でも健気に民たちを護っているか・・・モトスよ」
37歳位の黒髪の男が葡萄酒を口にしながら南蛮椅子に座ってくつろいでいた。
「梅雪様。モトスは油断ならない忍びです。こちらも、奴に勝る戦士を集めた方がいいでしょう!!」
梅雪と話している、34歳位の赤茶色の髪の男が、呑気な梅雪とは対象的に、これから先の事を警戒していた。
「相変わらず心配性だな。信康(のぶやす)はー。まぁ、傭兵に関してはお前に任せる」
信康は梅雪の腹心であり、人材集めなど梅雪に任されている。また、梅雪と容姿が似ていることから、影武者として行動することもある。
「分かりました。この間、隠岐の島の監獄で江津という闇の神官を傘下に入れました。今は瞑想中ですが、力が回復したら梅雪様に会わせるつもりです。他にも良い人材を集めてきますね」
「ははははは。相変わらず狡猾でしたたかだな。信康は。まぁ、これで俺をないがしろにした甲斐の者どもに穴山の偉大さを思い知らせてやる!!天国で見てるがよい!!勝頼よ!!!!」
数分後、信康は梅雪の部屋を出た。すると、部屋の奥から品の良い19歳位の黒髪の女性が現れた。彼女は、勝頼の継室であり、北条夫人とも呼ばれる双葉という名の女性であった。勝頼が死、後追いをしようとしていた時に、息子の玄杜と共に梅雪に連れてこられた。
「息子はどうしたの?早く息子と会わせなさいよ!!!!」
彼女は泣き叫びながら梅雪に懇願した。
「・・・双葉か。そうだったな。勝頼とお前の息子・・・玄杜だったかな?お前が俺の嫁になると誓えば、会わせてやっても良いぞ」
梅雪は彼女の華奢な体を腕で抱き、鳶色の鋭い瞳で優しく見つめた。
「・・・く・・・」
彼女は睨んだが、抵抗することができなかった。
「まぁ焦らずとも良い。甲斐の国が滅んだ末、いずれお前は俺の嫁になるのだからな。息子もまだ赤ん坊だ。お前の態度と愛情次第では、穴山家の使用人としてか、将軍として育てても良いぞ」
梅雪は勝ち誇った表情で、涙目で睨むしかできない双葉の瞳を見続けた。
(誰か・・・どうか、まだ赤ん坊の玄杜だけでも救ってください・・・。氏政兄様・・・。勝頼様・・・)
双葉はただ、息子の無事を祈るしかなかった。
第1話 完