第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
同じ頃、甲府の躑躅が崎館から新府城へ帰還した梅雪は自室で休んでいると、部屋に双葉が入ってきた。
「双葉か。どうした?夜遅くに。俺と一夜を過ごしたくなったか?」
梅雪は南蛮のガウンのような浴衣を着て、双葉を誘った。
「・・・はい。私は今宵、あなたのモノになります・・・・」
「ほう・・その割にはいつも通りの地味な着物姿ではないか。まぁ良い。さっさと・・・」
脱いだらどうだと言葉を続けようとしたら、双葉に遮られた。
「その代わりに、もうモトスや甲斐の民たちに一切危害を加えないで!!そんな無意味な事は二度としないと誓いなさい!!」
梅雪が言葉を続けようとした時、双葉の条件を言われ、堪忍袋の緒が切れた。そして、双葉に襲い掛かり、床に倒しのしかかった。
「俺に命令するな!!たかが勝頼の継妻の分際が!!本当は俺のことなど愛しても無い癖に、民やモトスを護る為に俺に身を捧げるだと・・・俺はそんなにお優しい男ではないのだよ!!!」
梅雪は双葉の赤茶色の着物を脱がせようとした。しかし、双葉は動じること無く、彼の左耳の宝石の耳飾りを見続けていた。双葉は厳美が耳元で囁いていた事を思い出していた。
(梅雪様の耳飾りには強い憎悪が宿っていて、彼はそれに呪われているのですよー。いっそ、耳飾りを取っちゃえば、も・と・の・梅雪様に戻るかもしれませんよー)
双葉は梅雪を受け入れる素振りを見せ、彼の頬にゆっくりと触れた。梅雪は目を閉じ、双葉に口付けをしようとした瞬間
ブッツン ビッシャー!!!
梅雪は左耳の耳たぶが引きちぎれ、血が噴き出た。双葉は渾身の力で梅雪の宝玉の耳飾りを引きちぎるように奪い取った。
「さぁ、これであんたを悪に染めている宝玉は無くなったわ!!もう悪事はここまで・・・・」
双葉は立ち上がり、言葉を続けようとした瞬間、梅雪は苦しみ始め、彼の体は黒い瘴気に包まれた。
「ふ・・・た・・ば・・貴様・・・・何をする・・・う!?ぐ・・うわぁああー!!!!!!」
すると、梅雪の黒い髪は白くなり、顔にしわが出始め、体は骨と皮だけと、一気に50歳は老化したかのような姿へと変化していった。そして、彼の背中からは、ギザギザに切れて、光沢も鱗粉も無い黒と紅の不気味な色をした蛾のようなハネが出現した。そして、人間の耳から少し尖った耳に変形し、それと同時に激しい頭痛でさらに苦しんだ。
「あ・・頭が・・・痛い・・俺は・・一体どうしてしまったのだ?」
梅雪の脳裏に1人の女性が浮かび上がった。
37年前
冷たい雪が降る、冬の韮崎の森に、雪菜(せつな)という紅いハネを生やした女性が胸を押さえ、苦しみながら雪の道を歩いていた。穴山家を追い出され、森をさまよっていた。
「・・・信友様は・・・私の事を愛してはくれなかった・・・」
雪菜は梅雪の父、穴山信友(あなやまのぶとも)と関係を持ってしまった。人間と森精霊という異種族間で・・・。森精霊は心から愛した者同士で交わらぬと、寿命が一気に短くなり、そして・・・人間でも森精霊でもない、劣勢生物が生まれてしまう。
「う・・・うぁあああああああ!!!!!」
雪菜は激しく苦しみだし、胸の中から闇色に濁った紅い種を出現させた。
「・・・我が子よ・・どうか、私を追い出した穴山や武田の者達に復讐を・・・・・・」
雪菜は紅い種を寒梅の木の前に埋め、息絶えた。
3年後、信友は生まれた直後に亡くなった息子、信君(のぶただ)の代わりとして、雪菜が息絶えた場所を知り、自分との間に生まれた小精霊を発見した。小精霊は寒梅の目の前に咲く、黒い花の上で、無感情な姿で座っていた。小精霊の姿は、暗い鳶色の瞳と、赤みを少し帯びた黒髪であった。ハネは、暗い黒と紅が混ざった色をしており、美しさよりも禍々しさを感じさせていた。まるで、醜い蛾のように。
「これが・・・・雪菜が生んだ小精霊・・・何と言う出来損ないなのだ?だが、この者を当主にせねば・・・・」
信友は小精霊を手に乗せたが、小精霊は拒むことも無ければ、懐きもしなかった。すると、木の影から、青みがかった黒髪の青年が姿を現した。
「ふふふ、こんにちは。穴山家当主殿。私は学者の厳美でーす♪この子を跡継ぎとして育てたいなら良いものを差し上げますよー」
「な・・・何者だ!?貴様は!!!」
信友は警戒をし、刀を抜きそうになったが、厳美の邪気で動けなかった。そして、円柱状のガラスの容器と、紅玉の耳飾りを渡された。
「この容器のなかに小精霊を入れれば、森精霊の力を封印でき、大きくなるまで眠らせておくこともできますよー。それと、小精霊が人間の大きさに変化した時には、この紅玉で精霊である記憶も消すことが出来ますよ」
信友は試しに小精霊のハネをもぎ取り、容器の中に入れた。すると、小精霊は静かに眠りについた。信友は厳美に礼を言おうとしたが、姿はもう無かった。
「これで・・・雪菜と俺の子を当主に出来る!!お前の名は・・・梅雪だ!!」
信友は、穴山家や武田家の皆に知られないように、ひっそりと梅雪を育てていた。そして、梅雪が5歳になり、人間の少年の背丈に変化した時に、彼の左耳に紅玉の耳飾りを付けた。梅雪は37年間、自分の正体を知らずに穴山家の当主として生きていた。その間に、雪菜の恨みや、美しい森精霊への憎悪も植え付けられていたことも知らずに。
黒く濁る紅玉の呪いにより
第9話 完
「双葉か。どうした?夜遅くに。俺と一夜を過ごしたくなったか?」
梅雪は南蛮のガウンのような浴衣を着て、双葉を誘った。
「・・・はい。私は今宵、あなたのモノになります・・・・」
「ほう・・その割にはいつも通りの地味な着物姿ではないか。まぁ良い。さっさと・・・」
脱いだらどうだと言葉を続けようとしたら、双葉に遮られた。
「その代わりに、もうモトスや甲斐の民たちに一切危害を加えないで!!そんな無意味な事は二度としないと誓いなさい!!」
梅雪が言葉を続けようとした時、双葉の条件を言われ、堪忍袋の緒が切れた。そして、双葉に襲い掛かり、床に倒しのしかかった。
「俺に命令するな!!たかが勝頼の継妻の分際が!!本当は俺のことなど愛しても無い癖に、民やモトスを護る為に俺に身を捧げるだと・・・俺はそんなにお優しい男ではないのだよ!!!」
梅雪は双葉の赤茶色の着物を脱がせようとした。しかし、双葉は動じること無く、彼の左耳の宝石の耳飾りを見続けていた。双葉は厳美が耳元で囁いていた事を思い出していた。
(梅雪様の耳飾りには強い憎悪が宿っていて、彼はそれに呪われているのですよー。いっそ、耳飾りを取っちゃえば、も・と・の・梅雪様に戻るかもしれませんよー)
双葉は梅雪を受け入れる素振りを見せ、彼の頬にゆっくりと触れた。梅雪は目を閉じ、双葉に口付けをしようとした瞬間
ブッツン ビッシャー!!!
梅雪は左耳の耳たぶが引きちぎれ、血が噴き出た。双葉は渾身の力で梅雪の宝玉の耳飾りを引きちぎるように奪い取った。
「さぁ、これであんたを悪に染めている宝玉は無くなったわ!!もう悪事はここまで・・・・」
双葉は立ち上がり、言葉を続けようとした瞬間、梅雪は苦しみ始め、彼の体は黒い瘴気に包まれた。
「ふ・・・た・・ば・・貴様・・・・何をする・・・う!?ぐ・・うわぁああー!!!!!!」
すると、梅雪の黒い髪は白くなり、顔にしわが出始め、体は骨と皮だけと、一気に50歳は老化したかのような姿へと変化していった。そして、彼の背中からは、ギザギザに切れて、光沢も鱗粉も無い黒と紅の不気味な色をした蛾のようなハネが出現した。そして、人間の耳から少し尖った耳に変形し、それと同時に激しい頭痛でさらに苦しんだ。
「あ・・頭が・・・痛い・・俺は・・一体どうしてしまったのだ?」
梅雪の脳裏に1人の女性が浮かび上がった。
37年前
冷たい雪が降る、冬の韮崎の森に、雪菜(せつな)という紅いハネを生やした女性が胸を押さえ、苦しみながら雪の道を歩いていた。穴山家を追い出され、森をさまよっていた。
「・・・信友様は・・・私の事を愛してはくれなかった・・・」
雪菜は梅雪の父、穴山信友(あなやまのぶとも)と関係を持ってしまった。人間と森精霊という異種族間で・・・。森精霊は心から愛した者同士で交わらぬと、寿命が一気に短くなり、そして・・・人間でも森精霊でもない、劣勢生物が生まれてしまう。
「う・・・うぁあああああああ!!!!!」
雪菜は激しく苦しみだし、胸の中から闇色に濁った紅い種を出現させた。
「・・・我が子よ・・どうか、私を追い出した穴山や武田の者達に復讐を・・・・・・」
雪菜は紅い種を寒梅の木の前に埋め、息絶えた。
3年後、信友は生まれた直後に亡くなった息子、信君(のぶただ)の代わりとして、雪菜が息絶えた場所を知り、自分との間に生まれた小精霊を発見した。小精霊は寒梅の目の前に咲く、黒い花の上で、無感情な姿で座っていた。小精霊の姿は、暗い鳶色の瞳と、赤みを少し帯びた黒髪であった。ハネは、暗い黒と紅が混ざった色をしており、美しさよりも禍々しさを感じさせていた。まるで、醜い蛾のように。
「これが・・・・雪菜が生んだ小精霊・・・何と言う出来損ないなのだ?だが、この者を当主にせねば・・・・」
信友は小精霊を手に乗せたが、小精霊は拒むことも無ければ、懐きもしなかった。すると、木の影から、青みがかった黒髪の青年が姿を現した。
「ふふふ、こんにちは。穴山家当主殿。私は学者の厳美でーす♪この子を跡継ぎとして育てたいなら良いものを差し上げますよー」
「な・・・何者だ!?貴様は!!!」
信友は警戒をし、刀を抜きそうになったが、厳美の邪気で動けなかった。そして、円柱状のガラスの容器と、紅玉の耳飾りを渡された。
「この容器のなかに小精霊を入れれば、森精霊の力を封印でき、大きくなるまで眠らせておくこともできますよー。それと、小精霊が人間の大きさに変化した時には、この紅玉で精霊である記憶も消すことが出来ますよ」
信友は試しに小精霊のハネをもぎ取り、容器の中に入れた。すると、小精霊は静かに眠りについた。信友は厳美に礼を言おうとしたが、姿はもう無かった。
「これで・・・雪菜と俺の子を当主に出来る!!お前の名は・・・梅雪だ!!」
信友は、穴山家や武田家の皆に知られないように、ひっそりと梅雪を育てていた。そして、梅雪が5歳になり、人間の少年の背丈に変化した時に、彼の左耳に紅玉の耳飾りを付けた。梅雪は37年間、自分の正体を知らずに穴山家の当主として生きていた。その間に、雪菜の恨みや、美しい森精霊への憎悪も植え付けられていたことも知らずに。
黒く濁る紅玉の呪いにより
第9話 完