第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
大月から北西に位置する大菩薩嶺(だいぼさつれい)(現甲州市と北都留郡丹波山村)は奥秩父山塊に位置し、標高の高い山々が連なっている。
モトスはお都留を追い続け、白樺の登山道や岩肌の山道を超えていくと、見晴らしの良い大菩薩峠にたどり着いた。長いこと走り続けて、夕暮れ時になった。
「・・・お都留・・なぜこの場所を選んだのだ?ここには伏兵も江津達も見えないようだが・・・」
モトスは辺りを見回しながらお都留に問うた。すると、お都留は不敵な表情で笑い、腰に差している長剣と盾を手に持ち構えた。
「私は山が好きです。そして、あなたもおそらく山が好き。なので、決戦の場が山の頂上で光栄だと思いませんか?・・・どちらが命果てても」
「・・・・お都留・・それは違うぞ!!お主も俺も果てぬ!!俺は、闇に心を支配されたお前を今ここで救おうぞ!!!」
モトスも双曲刀を構えながら言った。すると、お都留は先制攻撃を仕掛けた。
「何を戯言を!!!」
お都留は力強く剣をモトス目掛け振り下ろした。モトスは両手に持つ曲刀を交差させ、攻撃を受け止めた。そして、お都留は膝蹴りをモトスの腹部にかまそうとしたが、紙一重でかわされた。
「・・・やはり・・黒蝶のモトスと織田に恐れられているだけあって、一筋縄ではいきませんね・・・こちらも本気で挑まなければなりませんわ!!」
お都留は素早い剣さばきを繰り出した。モトスは好戦的な彼女に必死に訴えながら攻撃を受け止め、避け続けた。
「もう止めるのだ!!お都留!!!お前は甲斐の美しい自然や民達を誰よりも深く愛している!!そんなお前が甲斐を闇の力で支配しようとする者に操られてはいけない!!」
モトスの翡翠の瞳は、お都留の深く濁った瑠璃色の瞳を見続けた。そして、深く念を込め、彼女の心に語りかけた。
(闇に打ち勝ち、森や山や自然を愛するお前に戻って欲しい!!)
お都留の心の中で、モトスの叫びが響くのを感じていた。
(う・・モ・・・モトスさん・・・私は・・・・・・)
お都留は攻撃を止め、胸を押さえ苦しみながらその場にしゃがみこんだ。モトスは彼女に癒しの術をかけようとしたが、手を振り払われてしまった。
「近づかないでください!!・・・私を・・・早く討ち・・・なさい。私は・・闇に・・・江津の術に・・・心も体も支配されています・・・モトスさん・・・・今のうちに!!」
お都留は微かに正気に戻ったが、それも束の間。お都留は心の中から江津の言葉が蘇り、再び瑠璃色の瞳は暗く濁ってしまった。
(ふふふ。可愛いお都留よ。卿が慕っておるモトスは、武田亡き後も健気に甲斐の地を護ろうとしている。卿の事よりも亡き勝頼の事しか考えておらぬ。そのような者を慕うのは馬鹿馬鹿しくないか?)
江津の妖しく甘い言葉が脳裏に浮かび、お都留は不気味な笑みを浮かべ、モトス目掛け強烈な吹雪を放った。モトスは素早く跳躍し、お都留と間合いを取った。
「お都留!!江津に支配されてはならぬ!!闇の力に負けてはならぬぞ!!」
モトスは再び、必死に訴えると、お都留の表情は怒りに満ちていた。
「お黙りなさい!!私はあなたの考えが理解できません!!なぜ、あなたは武田亡き後も一人で甲斐を護ろうとするの?なぜ、梅雪様の元に下り、新しい甲斐の国を創ろうとは考えぬのですか?」
お都留は吹雪と一緒に、氷柱も出現させ、モトス目掛け放った。モトスは身体周りに翡翠の結界を張りながらお都留の元へ近づいた。
「お都留・・・俺が甲斐の国を護ろうと志しているのは、勝頼様に託されたからだけではない!!俺は山と森と自然に囲まれた甲斐の大地も、民達も大切な宝だ!!」
モトスは結界に護られながら吹雪と飛んで来る氷柱をかすめながらお都留の元へ歩み寄っていった。
「来・・来るな!!これ以上近づくのなら・・・・」
お都留は巨大な氷柱を手から出現させた。モトスの結界は防護に限界が来てしまい、破れてしまった。しかし彼は動じること無く、優しく笑いながら言葉を続けた。
「それに・・・俺は1人で戦っているのではない。桜龍に球磨に湘に千里、エンザン棟梁・・・そして、お前も大切な同志であり、愛する女だ!!」
モトスは強烈な吹雪と氷柱の攻撃に耐えながらもお都留に必死に叫んだ。お都留は困惑しながらも、まだ心は闇に支配されていた。
「う・・・うるさい!!これで終わりにしてあげますわ!!!」
お都留は渾身の一撃で巨大な氷柱をモトス目掛け投げ飛ばした。しかし、モトスは避けたり、武器で斬ること無く、その場で目を閉じ、気を集中させた。
(お都留の闇を拒んだり、振り払いはせぬ・・・お前の闇を受け入れてみせるぞ!!)
モトスの体から煌びやかな緑の光が放たれ、氷柱は溶け消えた。お都留は光に包まれ、身動きが取れなかった。
(お都留・・・俺の考え方や志を理解しなくて良い。俺に愛想が尽きたのであればそれで良い。だが、俺は梅雪の手から甲斐の国を護りたい!!その為に、俺は羽ばたく!!!)
モトスは目をパット開き、緑色の光はさらに輝きを帯びさせた。そして、彼の背からは翡翠の宝石のような神々しさと安らぎに満ちた大きなハネが出現した。モトスは自身の翡翠のハネを見て驚いた。
「このハネは・・・俺が小精霊だった時と同じ物だ。俺は覚醒したのか!!」
森精霊のハネは、幼少から少年に成長すると一回失うが、大人になり、己の強い志や、自身の力を信じた時に覚醒をする。モトスは、お都留の心の闇を受け入れることで、ハネを再び出現させることができたのだ。
「お都留!!今度こそお前の闇を包み込み、解放するぞ!!」
モトスはハネを広げ羽ばたき、お都留に近づいた。
「く・・・こしゃくな!!この程度の光で私を倒せるわけがありません!!」
お都留は渾身の力で剣を振り下ろしたが、モトスの覚醒した力により、剣も盾も双曲刀で弾かれてしまった。そしてモトスはお都留の細い体を強く抱きしめ、口付けをした。
「っ・・・う・・・ん・・」
お都留の瞳から涙がこぼれ始めた。モトスは優しく指で彼女の涙を拭いながら、昔からある言い伝えを耳元で囁いた。
「こういう御伽話を聞いたことがある。口付けは邪悪な術により眠らされたり、操られたりした時、呪縛は解けると。・・・本当に効いたとはな」
モトスがクスっと笑うと、お都留は正気に戻り、照れながら涙を流していた。
「・・・モトスさんたら・・・突然こんな事されたら・・言葉がでません・・・・」
お都留の瞳は澄んだ美しい瑠璃色に戻り、銀色の髪は夕日に照らされ、朱く染まっていた。
「モトスさん・・・私は・・鳴沢集落を護っていました。しかし・・・」
お都留はモトスにこれまでの経緯を話した。
数日前、お都留は鳴沢集落を襲撃してきた死霊兵と、村人を護る為に戦っていた。氷の術で死霊を凍らせ、剣で一気に斬り倒した。すると、お都留目掛け何処からか闇の波動が放たれた。お都留は即座に盾で攻撃を受け止めた。すると、深い橙色の髪の妖気に満ちた神官、江津が姿を現した。
「ほう・・・中々やるではないか。女の森精霊でも随分と骨のあるものが居るのだな」
江津が不気味な表情で笑いながらお都留に近づいた。
「お前が・・・死霊を操っていたのですね!!何とむごい事を!!」
お都留は江津を睨みながら剣を構えた。
「ふふふ・・・そう警戒するでない。卿は殺さんよ」
江津はお都留の周りに黒い瘴気の渦を出現させ、彼女を閉じ込めた。
「く・・こんな闇・・・打ち払ってみせ・・・あ!?・・・うぅ・・・・」
お都留は剣で振り払おうにも、瘴気の苦しさで剣を落とし、その場にしゃがみ込んでしまった。
「ははははは!!このまま心も体も闇に支配されるがよい!!」
「う・・・ああ!!!も・・・・モトスさん!!!!」
お都留は苦しみながらも想い人の名を叫んだ。
「この機に及んで、まだモトスの事を思い続けているのか。そんな輩は甲斐の国を乱すだけの存在。卿の事など何も考えてはおらんよ」
江津は冷めた口調でお都留に告げると、お都留の瞳は黒く濁り、江津に一礼をした。
「私は江津様の僕です。何なりと私をお使い下さい」
江津は笑いながらお都留の銀色の髪を優しく触った。
お都留はモトスに謝罪をした。
「・・・申し訳ございませんでした・・・モトスさん。私は闇に勝てなかった・・・あなたや仲間の方に危害を加えてしまった・・・。あなたが私の元に来てくれるか不安で疑ってしまった。私は精霊戦士失格です」
お都留は頭を下げ、涙を流していると、モトスは再び彼女を強く抱きしめ諭した。
「自分を責めるな。お都留。俺の未熟さでお前を危険な目に遭わせてしまった・・・それにお前は、死霊兵と懸命に戦った誇り高き精霊戦士だ!!」
「モ・・・モトスさん・・私も、モトスさんと共に戦いたい!!どうか私も連れてって下さい!!」
お都留は懇願すると突然、彼女の背から瑠璃色の少し丸みを帯びたハネが出現した。お都留は驚いていたが、モトスは喜びながら納得していた。
「きっと、お前の戦いたいという強い意志が再びハネを出現させたのだろう。・・・小さい頃に見た、瑠璃色の可愛らしいハネだ。そして、今は宝石のように美しいハネだ」
「モトスさん・・・私もついに森精霊の真の力を覚醒出来たのですね。・・・私は江津に操られて、屈辱を味わいました。今度は誰にも心を支配されません!!」
お都留が強く決心をすると、瑠璃色のハネが光沢を帯び、宝石のように輝いた。モトスはお都留の手を握り、共に空に羽ばたいた。美しい夕日と、遠くに富士の山、そして、雲海が辺り一面に広がっていた。
「この姿で雲海を見ることが出来るとは。お都留との覚醒記念になるな」
「そうですね、モトスさん!」
2人は笑い合いながら少しの間、雲海を眺めていた。そして夜になり、大月の村を死霊兵から救った桜龍と湘の元へ向かい、合流した。お都留は2人に謝罪をしたが、
「俺は桜龍。よろしくな!!それにしても、旦那とお都留さん、良い関係で焼けますね~♪」
桜龍の言葉にモトスとお都留は照れていると、湘が桜龍の頬を引っ張った。
「お都留殿とモトス、アホ龍は無視して良いぞ。それよりも、元に戻って良かったよ。これから甲府へ向かおうとしている。気を引き締めて行こう」
2人の和やかなやり取りに、お都留は直ぐに打ち解けられた。
モトスはお都留を追い続け、白樺の登山道や岩肌の山道を超えていくと、見晴らしの良い大菩薩峠にたどり着いた。長いこと走り続けて、夕暮れ時になった。
「・・・お都留・・なぜこの場所を選んだのだ?ここには伏兵も江津達も見えないようだが・・・」
モトスは辺りを見回しながらお都留に問うた。すると、お都留は不敵な表情で笑い、腰に差している長剣と盾を手に持ち構えた。
「私は山が好きです。そして、あなたもおそらく山が好き。なので、決戦の場が山の頂上で光栄だと思いませんか?・・・どちらが命果てても」
「・・・・お都留・・それは違うぞ!!お主も俺も果てぬ!!俺は、闇に心を支配されたお前を今ここで救おうぞ!!!」
モトスも双曲刀を構えながら言った。すると、お都留は先制攻撃を仕掛けた。
「何を戯言を!!!」
お都留は力強く剣をモトス目掛け振り下ろした。モトスは両手に持つ曲刀を交差させ、攻撃を受け止めた。そして、お都留は膝蹴りをモトスの腹部にかまそうとしたが、紙一重でかわされた。
「・・・やはり・・黒蝶のモトスと織田に恐れられているだけあって、一筋縄ではいきませんね・・・こちらも本気で挑まなければなりませんわ!!」
お都留は素早い剣さばきを繰り出した。モトスは好戦的な彼女に必死に訴えながら攻撃を受け止め、避け続けた。
「もう止めるのだ!!お都留!!!お前は甲斐の美しい自然や民達を誰よりも深く愛している!!そんなお前が甲斐を闇の力で支配しようとする者に操られてはいけない!!」
モトスの翡翠の瞳は、お都留の深く濁った瑠璃色の瞳を見続けた。そして、深く念を込め、彼女の心に語りかけた。
(闇に打ち勝ち、森や山や自然を愛するお前に戻って欲しい!!)
お都留の心の中で、モトスの叫びが響くのを感じていた。
(う・・モ・・・モトスさん・・・私は・・・・・・)
お都留は攻撃を止め、胸を押さえ苦しみながらその場にしゃがみこんだ。モトスは彼女に癒しの術をかけようとしたが、手を振り払われてしまった。
「近づかないでください!!・・・私を・・・早く討ち・・・なさい。私は・・闇に・・・江津の術に・・・心も体も支配されています・・・モトスさん・・・・今のうちに!!」
お都留は微かに正気に戻ったが、それも束の間。お都留は心の中から江津の言葉が蘇り、再び瑠璃色の瞳は暗く濁ってしまった。
(ふふふ。可愛いお都留よ。卿が慕っておるモトスは、武田亡き後も健気に甲斐の地を護ろうとしている。卿の事よりも亡き勝頼の事しか考えておらぬ。そのような者を慕うのは馬鹿馬鹿しくないか?)
江津の妖しく甘い言葉が脳裏に浮かび、お都留は不気味な笑みを浮かべ、モトス目掛け強烈な吹雪を放った。モトスは素早く跳躍し、お都留と間合いを取った。
「お都留!!江津に支配されてはならぬ!!闇の力に負けてはならぬぞ!!」
モトスは再び、必死に訴えると、お都留の表情は怒りに満ちていた。
「お黙りなさい!!私はあなたの考えが理解できません!!なぜ、あなたは武田亡き後も一人で甲斐を護ろうとするの?なぜ、梅雪様の元に下り、新しい甲斐の国を創ろうとは考えぬのですか?」
お都留は吹雪と一緒に、氷柱も出現させ、モトス目掛け放った。モトスは身体周りに翡翠の結界を張りながらお都留の元へ近づいた。
「お都留・・・俺が甲斐の国を護ろうと志しているのは、勝頼様に託されたからだけではない!!俺は山と森と自然に囲まれた甲斐の大地も、民達も大切な宝だ!!」
モトスは結界に護られながら吹雪と飛んで来る氷柱をかすめながらお都留の元へ歩み寄っていった。
「来・・来るな!!これ以上近づくのなら・・・・」
お都留は巨大な氷柱を手から出現させた。モトスの結界は防護に限界が来てしまい、破れてしまった。しかし彼は動じること無く、優しく笑いながら言葉を続けた。
「それに・・・俺は1人で戦っているのではない。桜龍に球磨に湘に千里、エンザン棟梁・・・そして、お前も大切な同志であり、愛する女だ!!」
モトスは強烈な吹雪と氷柱の攻撃に耐えながらもお都留に必死に叫んだ。お都留は困惑しながらも、まだ心は闇に支配されていた。
「う・・・うるさい!!これで終わりにしてあげますわ!!!」
お都留は渾身の一撃で巨大な氷柱をモトス目掛け投げ飛ばした。しかし、モトスは避けたり、武器で斬ること無く、その場で目を閉じ、気を集中させた。
(お都留の闇を拒んだり、振り払いはせぬ・・・お前の闇を受け入れてみせるぞ!!)
モトスの体から煌びやかな緑の光が放たれ、氷柱は溶け消えた。お都留は光に包まれ、身動きが取れなかった。
(お都留・・・俺の考え方や志を理解しなくて良い。俺に愛想が尽きたのであればそれで良い。だが、俺は梅雪の手から甲斐の国を護りたい!!その為に、俺は羽ばたく!!!)
モトスは目をパット開き、緑色の光はさらに輝きを帯びさせた。そして、彼の背からは翡翠の宝石のような神々しさと安らぎに満ちた大きなハネが出現した。モトスは自身の翡翠のハネを見て驚いた。
「このハネは・・・俺が小精霊だった時と同じ物だ。俺は覚醒したのか!!」
森精霊のハネは、幼少から少年に成長すると一回失うが、大人になり、己の強い志や、自身の力を信じた時に覚醒をする。モトスは、お都留の心の闇を受け入れることで、ハネを再び出現させることができたのだ。
「お都留!!今度こそお前の闇を包み込み、解放するぞ!!」
モトスはハネを広げ羽ばたき、お都留に近づいた。
「く・・・こしゃくな!!この程度の光で私を倒せるわけがありません!!」
お都留は渾身の力で剣を振り下ろしたが、モトスの覚醒した力により、剣も盾も双曲刀で弾かれてしまった。そしてモトスはお都留の細い体を強く抱きしめ、口付けをした。
「っ・・・う・・・ん・・」
お都留の瞳から涙がこぼれ始めた。モトスは優しく指で彼女の涙を拭いながら、昔からある言い伝えを耳元で囁いた。
「こういう御伽話を聞いたことがある。口付けは邪悪な術により眠らされたり、操られたりした時、呪縛は解けると。・・・本当に効いたとはな」
モトスがクスっと笑うと、お都留は正気に戻り、照れながら涙を流していた。
「・・・モトスさんたら・・・突然こんな事されたら・・言葉がでません・・・・」
お都留の瞳は澄んだ美しい瑠璃色に戻り、銀色の髪は夕日に照らされ、朱く染まっていた。
「モトスさん・・・私は・・鳴沢集落を護っていました。しかし・・・」
お都留はモトスにこれまでの経緯を話した。
数日前、お都留は鳴沢集落を襲撃してきた死霊兵と、村人を護る為に戦っていた。氷の術で死霊を凍らせ、剣で一気に斬り倒した。すると、お都留目掛け何処からか闇の波動が放たれた。お都留は即座に盾で攻撃を受け止めた。すると、深い橙色の髪の妖気に満ちた神官、江津が姿を現した。
「ほう・・・中々やるではないか。女の森精霊でも随分と骨のあるものが居るのだな」
江津が不気味な表情で笑いながらお都留に近づいた。
「お前が・・・死霊を操っていたのですね!!何とむごい事を!!」
お都留は江津を睨みながら剣を構えた。
「ふふふ・・・そう警戒するでない。卿は殺さんよ」
江津はお都留の周りに黒い瘴気の渦を出現させ、彼女を閉じ込めた。
「く・・こんな闇・・・打ち払ってみせ・・・あ!?・・・うぅ・・・・」
お都留は剣で振り払おうにも、瘴気の苦しさで剣を落とし、その場にしゃがみ込んでしまった。
「ははははは!!このまま心も体も闇に支配されるがよい!!」
「う・・・ああ!!!も・・・・モトスさん!!!!」
お都留は苦しみながらも想い人の名を叫んだ。
「この機に及んで、まだモトスの事を思い続けているのか。そんな輩は甲斐の国を乱すだけの存在。卿の事など何も考えてはおらんよ」
江津は冷めた口調でお都留に告げると、お都留の瞳は黒く濁り、江津に一礼をした。
「私は江津様の僕です。何なりと私をお使い下さい」
江津は笑いながらお都留の銀色の髪を優しく触った。
お都留はモトスに謝罪をした。
「・・・申し訳ございませんでした・・・モトスさん。私は闇に勝てなかった・・・あなたや仲間の方に危害を加えてしまった・・・。あなたが私の元に来てくれるか不安で疑ってしまった。私は精霊戦士失格です」
お都留は頭を下げ、涙を流していると、モトスは再び彼女を強く抱きしめ諭した。
「自分を責めるな。お都留。俺の未熟さでお前を危険な目に遭わせてしまった・・・それにお前は、死霊兵と懸命に戦った誇り高き精霊戦士だ!!」
「モ・・・モトスさん・・私も、モトスさんと共に戦いたい!!どうか私も連れてって下さい!!」
お都留は懇願すると突然、彼女の背から瑠璃色の少し丸みを帯びたハネが出現した。お都留は驚いていたが、モトスは喜びながら納得していた。
「きっと、お前の戦いたいという強い意志が再びハネを出現させたのだろう。・・・小さい頃に見た、瑠璃色の可愛らしいハネだ。そして、今は宝石のように美しいハネだ」
「モトスさん・・・私もついに森精霊の真の力を覚醒出来たのですね。・・・私は江津に操られて、屈辱を味わいました。今度は誰にも心を支配されません!!」
お都留が強く決心をすると、瑠璃色のハネが光沢を帯び、宝石のように輝いた。モトスはお都留の手を握り、共に空に羽ばたいた。美しい夕日と、遠くに富士の山、そして、雲海が辺り一面に広がっていた。
「この姿で雲海を見ることが出来るとは。お都留との覚醒記念になるな」
「そうですね、モトスさん!」
2人は笑い合いながら少しの間、雲海を眺めていた。そして夜になり、大月の村を死霊兵から救った桜龍と湘の元へ向かい、合流した。お都留は2人に謝罪をしたが、
「俺は桜龍。よろしくな!!それにしても、旦那とお都留さん、良い関係で焼けますね~♪」
桜龍の言葉にモトスとお都留は照れていると、湘が桜龍の頬を引っ張った。
「お都留殿とモトス、アホ龍は無視して良いぞ。それよりも、元に戻って良かったよ。これから甲府へ向かおうとしている。気を引き締めて行こう」
2人の和やかなやり取りに、お都留は直ぐに打ち解けられた。