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第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

その頃、モトスと桜龍と湘は早朝の大月の道を馬で駆けていった。大月の地は秩父や丹沢や御坂の山地に囲まれ、相模湖から桂川が流れていた。
「この辺りは本当に高い山に囲まれているな・・・そろそろ相模の海が恋しくなったよ」
湘は辺り一面山だらけな景色に少し飽きていた。そこを隣を走る桜龍が陽気に話しかけてきた。
「相模の海って、波も静かでのんびりしてそうだなー。でも、山陰の海も波は荒れているが、陽の光が綺麗に見える海もあるんですぜー。湘おじも旦那や皆にも見せたいぜ!!」
「山陰か・・・遠いな。特に行く用事も無さそうだな・・・・」
湘は少し意地悪に言うと、桜龍はムッとした顔で反論した。
「そんな事ないっすよ!!一度行ってみないと後悔しますぜ。山陰は神秘に包まれた地域なんだから♪」
桜龍と湘が楽し気?に会話をしていると、モトスが少しご立腹な表情をして言った。
「お前たち、さっきから海を自慢しているようだが・・・それほど海が恋しいのか?」
桜龍と湘は少し気まずそうな表情をしていた。すると、モトスはクスっと笑いながら、辺りの山を見渡していた。
「高い山から見える雲海も美しいぞ。特に、富士の頂上から見える雲海は太平洋にも日本海にも負けぬ絶景だ!」
モトスはしみじみと、お都留と富士の雲海を見に行った日の事を思い出した。



今から約10年ほど前、武田信玄が天下統一を目指し、全盛期であった頃、まだ若き忍びの青年モトスは、精霊戦士の少女、お都留と共に富士の山頂で広大な雲海を眺めていた。雲海は日の出の茜色の光に染まり、美しく映えていた。
「よくぞここまで登ったな!!お都留。雲海は見られる確率が低い。こんなに美しい雲海を見せてくれたのは、お都留の努力の成果だ」
モトスが嬉しそうにお都留に笑いかけると、お都留は顔を赤くしながら言った。
「いいえ!!ここまで登れたのは、モトスさんが応援し、支えてくれたからです!!私1人では頂上まで登れなかったです!!」
「そんなことはない。お前は1回も弱音を吐かなかった。登山の心得もよく知っていた。お前は一人前の精霊戦士だ!!」
モトスの言葉にお都留は感激の涙を流した。
「モトスさん・・・もったいなきお言葉をありがとうございます。これからも精霊戦士として甲斐の民を護れるように、精進いたします!!」
お都留はモトスに宣言をした。そして、日の出に両手を合わせ、願いを込めた。
(どうか・・・甲斐の民達を護れるように、強くなれますように
・・・)
モトスも日の出に向かい、お都留と同じ願いを込めて祈った。そして、お都留に少し寂しげな表情で言った。
「しばらくは信玄公の上洛の為、甲斐を離れるが、お都留も甲斐の国を護って欲しい」
お都留はモトスの大きな手を握り、強く誓った。
「信玄公の天下統一は、私も甲斐の民達にも大変喜ばしいことです。ですが・・・・それを快く思わない者も居ると思います。・・・どうか無事に事が成せるようにお祈りします」
モトスは彼女の銀色の前髪を優しく上げ、額に口付けをした。
「任務が終わって戻ってきたら、また山に登り雲海を見に行こうな」
モトスは強く誓ったが、信玄の上洛は叶わず、戦の日々が続き、とうとう武田は衰退していった。



現実に戻り、モトスは馬を走らせながら山にかかる雲を見ていた。隣を愛馬で駆ける桜龍に凛とした眼差しで言われた。
「お都留さんももう一度、モトスさんと雲海を見たいと思っているよきっと!!だから、絶対に江津の闇の手から救ってやろうぜ!!」
「ああ。お都留はこの近くに居る。戦う覚悟は出来ているが、早く闇から解放してやりたい!!」
モトスは強い意志を持って言うと、湘と桜龍は優しく笑った。しかし突然、周りから強い殺気を感じ取り、馬を止めそれぞれ武器を構えた。湘は冷静に状況を判断していた。
「やれやれ・・・今までは順調だったのに、ここで敵がお出ましか・・・」
湘は岩陰に向かって数発銃弾を放った。すると、生気を感じさせない瘴気に満ちた死霊兵がバタバタと倒れ、屍化とした。兵の額当てには武田菱の家紋が描かれていた。モトスの顔は怒りに満ちていった。次々と現れる死霊兵に3人は攻撃態勢に入った。
「・・・武田の兵達をこのように・・・死霊を操る江津め!!非道な術を使いおって!!」
「・・・これがあの野郎のやり方なんだよ・・・あいつには敵も味方も関係無い。ただ、戦いの敗者を己の意のままに操る・・・闇に堕ちた神官なんだよ・・・・」
桜龍も静かな怒りで、懐から霊符を取り出し、死霊化した、武田兵を霊符から放たれる光線で浄化した。モトスも双曲刀に聖なる風を纏わせ、死霊を斬り、浄化していった。



3人はしばらくの間、死霊兵と刀を交え続けた。湘は氷の魔法を兵たちに放ち、氷漬けで動けなくなった兵を銃弾で砕き、浄化していった。
「く・・・流石にこれではキリが無いな・・・・・」
湘は間合いに入ってきた兵を銃剣の刃で突き、凍らせた。桜龍も太刀で敵の刃を払いのけ、天空から雷を放ち、周りに居る死霊兵を感電させた。そして、モトスは聖なる風を放ち、数十の兵を浄化させた。
「桜龍!!湘!!大丈夫か?」
「おう!!こんなこと位でくたばる桜龍さんじゃないですぜー俺は♪」
「ふう・・・・私は本来、肉体よりも頭脳派なのだから、体を使うのは君達に任せるよ」
2人が冗談を言っていると、突如、辺り一面に濃霧が発生した。モトスは2人に声をかけたが、返事が返って来なかった。深く白い霧はモトスの優れた五感を封じられてしまった。
「湘!!桜龍!!近くに居たら返事をしてくれ!!!!」
すると、霧の中からお都留が現れ、モトスに優しい笑みを浮かべ、心の中に語りかけた。
(決着を付けましょう、モトスさん。私の元へ来るのなら霧を消しますわ)
「お都留!!!」
モトスは罠かもしれないと十分承知していた。しかし、このまま霧が晴れなければ、桜龍と湘にも危険が生じる・・・それに、今度こそお都留を救いたい!!
「・・・分かった。決着を付けよう。・・・お都留」
モトスが険しい表情で承諾すると、お都留は何も言わずにそっぽを向き歩き始めた。モトスは警戒しながら後を追いかけた。


しばらくすると霧は晴れ、桜龍と湘だけが道に残されていた。湘は周りを見渡し、深く考え込んでいた。
「今の霧は・・・まさか!?お都留という娘が・・・・ということは!!モトス!!!」
湘は2人を追いかけようとしたが、桜龍は目をつぶり、お都留の気を感じ取っていた。
「・・・湘さん。モトスさんを信じましょうよ。今のモトスさんなら大丈夫すよ」
冷静な桜龍に湘は彼の胸ぐらを掴んだ。
「何を悠長な事を言っているのだ!!これはきっと罠だ!!前も、私の油断でモトスはお都留に連れてかれ、私と球磨は氷漬けにされたのだぞ・・・」
湘は悔しそうな顔をしていたが、桜龍は首を横に振った。
「すみません・・・俺だってお都留に気が付かなかった。俺も周りに気を取られて油断してましたよ・・・ただ、これだけは信じて欲しい。モトスさんもお都留さんも悪いようにはならない。・・・そんな感じがするんですよ」
湘は桜龍の強い眼差しを見て、そうだなと笑い頷いた。
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