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第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

吉田集落の北に位置する、河口湖に近い三つ峠の麓の村で、精霊戦士の白州は、老人たちのお世話をしていた。
「じっちゃん!!畑の作物を収穫したぞー!!」
晴れの早朝、白州は優しく笑顔で農村に住む老人たちに言った。
「いつもすまんのう・・・白州。お前は確か・・誰かに雇われているのじゃろ?わしらに構っていて大丈夫かね?」
杖をついている老人が白州に礼を言いながらも心配そうに彼を見た。しかし、白州は明るい口調で答えた。
「心配すんなよ、じっちゃん!!雇い主は仕事以外は、自由に行動を許してくれるし、村の安全も保障してくれる。それに、今以上に暮らしやすくしてくれるってさ!!」
そう、だから何も心配しなくて良いんだよ。村の人が皆幸せに暮らせるから。
この小さい農村の住人は、皆高齢者である。道はロクに整備もされておらず、若者は皆去ってしまった。情報なども中々入ってこないので当然、武田家が滅亡したことも、梅雪とモトス達が戦っていることも知らない。言わば、閉ざされた・・・取り残された村である。

白州はしばらくの間、老人達と楽しい時を過ごした。すると、伝令に使う蝶が、モトス達が峠道を通り、梅雪の元へ攻めて来ると、白州に伝えた。直ちに白州は、小さなかやぶき屋根の小屋で支度をしていると、洗濯から帰ってきた老女が尋ねた。老女の名はキク。80歳を迎えた。
「白州やい・・・もう行ってしまうのかい?もう少しゆっくりしても・・お前がどんな仕事をしているのかが気になるよー」
白州はキクを優しく、がっしりと支えながら、縁側に座らせた。そして、不安そうな表情をしているキクに、一本のヒマワリの花を渡した。
「ばっちゃん・・・俺は、ばっちゃんも村の皆も大好きだ。だから、若者が居なくなってしまった今、俺が村を安全に住みやすく出来るように頑張るよ!!」
白州はキクの小さな手に軽く口づけをし、直ぐにハネを広げ、大空へ飛び立った。キクは心配そうに白州を見送った。
「御伽勇士共を倒せば・・・梅雪サマから多くの報酬を貰え、村も住みやすく整備をしてくれる・・・それが例え邪の道であろうとな・・・」
白州は自身の行動に疑問を持ちながらも、村の老人たちの事を考え続けていた。



その頃、千里と球磨は、吉田集落から北上し、三つ峠の険しい岩肌の道を通っていた。作戦会議の時に、三つ峠に残された村人を救出し、甲府へ向かう道と、北の都留や大月を通り、村を梅雪一味の手から解放し、甲府へ向かうという2通りの道を考えていた。そして、大月方面は、モトスと桜龍と湘が進み、千里と球磨は三つ峠を進むことになった。
2人が峠道を登ると、目の前に霊峰、富士の山が見えた。早朝の晴れた山は美しく広大で、これからの戦いを守護してくれるかのように見えた。
「さすがは日の本一の霊峰だぜ!!こんなに間近で見られるなんて、ご利益が有りそうだな!!千里!!」
球磨は富士をじっくりと見ながら千里の肩を優しく叩いた。
「富士の山は昔から多くの人から信仰されています。特に、火山信仰として、火の神の浅間大神(あさまおおかみ)も祀られているそうです」
千里は静かな口調で説明をした。
「浅間大神かぁー。そういやぁ、肥後の阿蘇山も語源があさまから来ていると聞いたことがあるな。あの山も火山だし。そうだ!!この戦いが終わったら、阿蘇山に登ってみるか?というか、お前に会わせたい師匠も居るし、肥後を案内するぜ!!」
球磨が気分が高揚しながら言うと、千里も小さく笑いながら応えた。
「機会があれば、是非とも行ってみたいです。西は壇之浦(現山口県下関市)の戦いで訪れましたが、九州はまだ行ったことがありません。きっと自然が美しく山も多い所でしょうね」
千里の瞳は少し輝いているように見えた。それを見た球磨は彼の肩に腕を組み、豪快に笑いながら言った。
「よっしゃあ!!それじゃあ、この戦いが終わったら、九州を案内するぜ!!九州はお前の言う通り、海や川や山が多くて綺麗だが、南蛮文化で西洋の武器や雑貨が出回っていて、最先端をいっているんだぜ!!」
球磨が得意気に言うと、千里は少し複雑な顔をして言った。
「・・・なんばん・・文化ですか?湘さんや、兵士が装備していた銃も、『ぽるとがる』という遥か西の王国から伝わったようですし・・・僕も早くこの時代に慣れないといけないですね・・・・」
千里は真剣な表情で考えていると、球磨はそんなに深く考え込むなよ!!と励ました。
「まぁ、お前は強いし、賢いから直ぐにこの時代に慣れるさ!!ただ、これだけは言っとくぜ!!1人で抱え込むな。何かあったら俺達を頼れよ!!」
「球磨さん・・・」
「あと、常に胸を張って堂々としてろ!!」
球磨が自分の胸を叩くと、強く叩きすぎて、むせてしまった。千里は少し頬の筋肉が緩んだ。
「球磨さんは・・弁慶殿に少し似ていますね。彼も大らかで豪快な人物でしたよ」
球磨は照れながら、自分はそんな偉大な武勇者ではないと否定した。
「お・・おいおい・・・弁慶つったら、義経公を支えた、薙刀の名手だろう・・・?俺はそんな大物じゃねーよ」

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