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番外編や短編集

早朝、湘と清盛は湯本から強羅の坂を上がり、早雲山から硫黄の煙が噴き出る大涌谷に着いた。周りは赤茶色の地面に溶岩石が積まれており、まさに湯釜のような造りだった。
「ここが弘法大師が訪れた、寿命が伸びる聖地じゃな」
「はい。修験者や旅人がこの地で無病息災、長寿を願っております」
「では、地蔵にお祈りをしようかのう。この若者と湘が無病息災、長生きできますようにと」
「清盛殿が他人の健康をお祈りするのは意外ですな」
「ワシは、敵勢力を弾圧する為、息子に東大寺など寺社を焼き討ちさせてしまった。ワシは神や仏を敵に回したから、天罰で熱病にかかったのじゃろう」
清盛は両手を合わせ、静かに話を続けた。
「ワシが仏に頭を下げても許されぬ事は分かっておるが、せめて体を貸してくれた桜龍と、案内してくれたお主には感謝しておる」
「清盛殿は、本当は周りに気遣いが出来る方なのだと分かりました。そうだ、この大涌谷に名物が」
湘は大涌谷名物を紹介しようとした時、千里に後ろから声をかけられた。
「湘さん?その者は桜龍さんではないですね」
「千里!!君も箱根に来ていたのだね・・・」
湘は気まずそうな顔で千里に聞いた。
「はい。小田原の徳川家の偵察と、箱根での修験で来ています」
「千里じゃと・・・」
清盛は殺気を立て、後ろを振り向いた。
「平清盛、桜龍さんの体に入り、何をするつもりですか?」
「違うのだ、千里。清盛殿は桜龍の体を支配するなど考えてはない!!」
湘は必死に事情を話そうとしたが、清盛に止められた。
「良い、湘。ワシに任せよ」
清盛は千里に挑発するように語りかけた。
「貴様が人造戦士の千里か。富士川の戦いで平家一門を撤退させたようじゃのう」
「平家による強奪から村を守っただけですが、最終的には義経様と共に平家を討伐しました」
「そうか。では一族の屈辱を晴らしてもらおうか」
「清盛殿、千里はあくまで、源氏に協力したに過ぎません。平家一門は源氏が倒しています」
「湘さん、それでも平家の兵士を倒したのは変わりありません。清盛の決闘を受けます」
(予想外の展開だ!?私とした事が・・・千里が近くにいる事を気付けないとは・・・)
「では、この若造の力を借りるかのう」
「平家の棟梁、清盛の実力を見せてもらいますよ!!」
清盛と千里は同時に地を蹴り、稲妻を帯びた太刀と金剛石のような輝きを放つ鎖鎌が交わり合った。
突風が舞い、湘は唖然としていた。どうすべきか考えている暇もなく、決闘は始まった。
(ちょっと待て・・・桜龍の体で戦う清盛殿と、一切容赦無しの千里・・・これは互いに全力をぶつけてくるな)
清盛と千里は溶岩石い乗っては飛び越え、噴煙も紙一重に避けながら、舞うように互いの刃が交わった。
「これが、一門が恐れていた鬼神千里の実力か。ワシは貴様に会う前にこの世を去って残念だったのじゃ」
「僕も、平家の棟梁を一目見てみたかったです。保元平治の乱での武勇をここで見せてください」
「ワシは武芸に強いうえ、今はこの若造の体を借りておる。舐めてかかると命落とすぞ!!」
「こちらも、桜龍を死なせないように本気で貴方を倒します!!」
(・・・この2人は憎しみや因縁で戦っている訳ではないが、戦いに熱くなり過ぎだ・・・このままでは大涌谷が爆発するぞ)
「せいや!!はあ!!」
清盛は千里の鎖鎌に斬れ味の鋭い太刀筋を当てた。しかし千里は焦る事なく清盛の戦い方を観察していた。
(やはり、力づくで攻めるだけではなく相手の隙を伺っているようですね。戦上手というのは本当ですね)
千里は清盛の太刀筋をかいくぐり、懐に入り勢いよく胸に手のひらの拳を当て、突き飛ばした。
「く・・素手でここまでの力を出せるとは、道理で兵士達が泣いて撤退するわけじゃ。じゃがワシはこの程度の攻撃、痛くも痒くもないわ!!」
清盛は千里の腹部に蹴りを入れたが、千里は上手く避けた。湘は心の声を呟いていた。
(それは、桜龍の体だからな・・・あいつは千里の攻撃も耐えられるからな)
「桜龍の身体能力とはいえ、体を使いこなせるという事は、清盛も相当の実力者だと分かります」
「では本気で掛かってこい!!」
清盛は懐から護符を取り出し、千里に投げつけた。
「ほう、これが術師の力か」
護符から放たれる光線を千里は目にも留まらぬ速さで避けたが腕をかすった。
「く・・ならば、こちらも仕掛けますよ」
千里も懐から暗器の小刀を数本取り出し、清盛に投げた。清盛も避けたり刀で弾いたが、小刀は特殊な鉱物で出来ていたのか、花火のように爆発した。
(もはや誰も止められぬ戦いだな・・・桜龍と千里が深傷を負うのも怖いが、それ以上に・・・)

大涌谷が大噴火起こす!!

湘はそれを1番恐れていた。
(これ以上術を放たれては、大涌谷が危ない。そろそろ止めるか)
湘は水の塊を作り、2人に目掛けて水龍を放とうとした。
「君達、いい加減にしたま・・・え!?」
湘が水龍を放った時、突然2人の間にアナンが入って来た。
「千里!!清盛様、ここで戦うのは止めろ!!ってギャァアアー!!」
水龍はアナンに直撃し、水浸しとなった。千里と清盛は唖然とし戦いを止めた。
水浸しになった地面から地熱による湯気が沸き、空中で雲ができ雨が降った。噴火寸前の大涌谷は無事静まった。
「考えてみれば、こんな所で長く戦っていたら、硫黄中毒で死んでいたのう」
「人造戦士は硫黄は問題無いですが、気分は良いものではありませんね」
アナンは水龍の衝撃で目を回しながら二人に説教した。
「こんな所で戦ったら体に悪いぜ、二人とも。せめて芦ノ湖湖畔にしろよな・・・」
「問題はそこではないだろう!!戦バカ共め!!大涌谷が噴火したら大惨事だったのだぞ!!」
「ああ!!言われてみればそうじゃな」
「僕達、戦いに夢中になりすぎていましたね」
「全く、君達は・・・」
湘は頭を抱えながらも戦いが終わりホッとしていた。その後、大涌谷近くの山荘で作っている、地熱を利用した名物『黒たまご』を食べた。
「殻は黒いのに、中身は白いんじゃな」
「殻と温泉の成分が化学反応し、黒くなるのですよ。中身は湯の香りがします」
湘は珍しい物を見ている清盛に微笑みながら説明した。
「これは、昔から延命長寿になると作られていたみたいだぜ。俺は元々長生きだから、あんま関係ねーけど」
「やはりお忍びで平家一門も連れてって食わせれば良かったのう」
清盛の言葉に千里は少し毒舌を言った。
「舟遊びや唄を読む生活をしていた平家一門に山登りは出来るかどうか・・・」
「全くだぜ。舟遊びより、鴨川で水泳大会しようぜと誘ったら逃げられたなぁ」
「ふん、息子達はワシには及ばんが、武勇はあるぞ」
「まぁまぁ、最後に駒ケ岳からの雄大な景色を見に行きましょうか」
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