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第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

水を守護とする勇士、湘(しょう)
相模国(現在の神奈川県)の西部に位置する小田原城で、北条家4代目当主、北条氏政と薄紫色の髪の30歳位の青年が小広間で話をしていた。
「・・・武田勝頼は自害したか・・・。それでは、妹の双葉(ふたば)も・・・」
双葉とは武田勝頼の継室(史実では北条夫人という名であり、北条氏政の妹)である。
「・・・双葉殿のことが気がかりですかな?氏政殿」
青年は思い悩んでいる氏政を見て、決意をしていた。
「では、私が甲斐の国への偵察がてら、双葉殿の安否を確認して参ります。もし、無事であればお助けします」
「湘よ、気持ちは嬉しいのだが・・・今では織田軍と急に力をつけた穴山家による武田の残党狩りが激しい。我が北条家も武田領へ侵攻したいのだが、今織田家とは同盟を組んでいて、なかなか手出しができない・・・。湘にも危険な目にあわせたくはない・・・」
「それならなおのこと、私の力を使うときですよ。氏政殿。私は名の知れた武将ではないし、知性と逃げ足なら自信はある。私は、三浦一族の末裔であるのに、それを客将としても、家族としても受け入れてくれた氏康公と氏政殿、北条家の皆には感謝をしている。だから、私を頼ってほしい」
「湘・・・。決して無理はしないでくれ!!」
湘は大丈夫だよと飄々とした笑顔で、旅支度をした。
(・・・双葉殿は生きていると思うが、何か胸騒ぎがする・・・。)

炎を守護とする勇士、球磨(きゅうま)
駿河湾(現在の静岡県沼津付近)の港で、九州の肥後国(現在の熊本県)からの定期船から降りた黒髪褐色肌の大柄な27歳位の男が近くに見える富士山を眺めていた。
「おお!!!海から見える富士山も綺麗だなー。だが、日の本一の山でも、俺の地元の阿蘇山も負けてねーぜ。とりあえず、関東まで行ってひと稼ぎするかー」
男の名は球磨。肥後天草出身のさすらいの傭兵であり、戦に身を投じながら自分が育った孤児院にお金を送る生活をしている。西洋鎧を装着し、巨大な西洋槍を担ぎながら東海道を通り、関東を目指していた。美しい海が見える道と、畑道を歩いていると、瀕死の重傷の兵士が倒れているところに出くわした。脚や肩などに銃で撃たれた跡がある。
「お・・・おい!!何があった?待ってろ!!安全な場所で手当てするから!!」
球磨は兵士を担ぎ、近くの空き家で手当てをした。
「う・・・・勝頼様・・・申し訳ございませんでした・・・。私の力不足で・・・・・」
「勝頼様って武田家当主か?」
そういえば、港に着いてから、甲斐の武田家は主君の勝頼が自害し、武田家は滅びたと・・・
「・・・奥方である双葉様と、子の玄杜殿を裏切り者の穴山梅雪に連れていかれてしまった・・・」
「・・・そうだったのか・・・」
「私は、勝頼様が自害された後に双葉様と玄杜殿の自害を止めようとしました・・・。その時に、梅雪が現れ、双葉様を我が嫁にしようと、子共々連れ去り、私は・・・ここまで逃げるしかできなかったです・・・」
「なんて野郎だ!!その穴山梅雪って奴は!!そいつの居城とかって分かるか?」
「信長の元に付いていれば、安土城に居るか・・・おそらくは、梅雪が城を築いた・・・韮崎の新府城に居るかもしれない・・・」
「分かった!!俺が主君の妻子を救出しに行くぜ!!お前の無念も晴らしてやるぜ!!報酬なんていらないから、安心しろ」
球磨は握りこぶしを胸に当て、兵士に誓った。兵士は涙しながら球磨の大きい手を握った。その後兵士は駿河の医者の元に送られた。
球磨は富士の麓から身延山を経由して、韮崎方面へ向かった。

聖なる龍を宿す神官、桜龍(おうりゅう)
同じころ、中国地方の山陰、出雲大社のご本殿で、壮年で長い黒ひげを生やした大神官と、白金色の長髪で、左目を眼帯で隠した若い神官が祈祷の炎を見ながら話していた。祈祷火には43歳位の深い橙色の髪をした神官の男が映っていた。
「桜龍よ。そなたを呼んだのは、そなたにしか出来ない任務を実行してほしいのだ・・・」
「私にしか出来ないこと・・・ですか?それはもしかすると、この祈祷火に映る男をどうにかするということですか?」
「・・・うむ。この男はそなたも知っての通り、かつて出雲大社の神官をしていた、江津(ごうつ)だ。しかし、とある事件を境に、黒魔術で中国地方の大名家を渡り、死の呪いをかけるなどの悪行を繰り返した男だ。どうやら、甲斐の国の穴山梅雪と名乗る者が、隠岐の島最果ての監獄島から脱走させたようだ。そして、梅雪と共に甲斐に向かっている」
「・・・そうですか。江津はかつて、まだ私が隠岐の島から出雲に神官修行として来たときに少し話したことがあるが、どうして上級神官だったのに悪に染まってしまったのか・・・」
「わしも、江津とは親友同然の関係であったのに、あの者は呪いのせいで変わってしまった・・・。桜龍よ。その呪いを完全に消滅させられるのはそなたの左目に宿す聖龍の力しかない!!出雲の神官たちも奴の術からそなたを護るように祈祷をするから、どうか頼まれてくれ・・・」
大神官は桜龍に頭を下げ懇願した。桜龍はその姿に戸惑いながらも、元から討伐する決意をしていた。
「頭をお上げください!!大神官殿!!・・・分かりました。私も、江津の事が気になっております。この男が、出雲を追放されたときに、最後の言葉として私に、龍の覚醒を楽しみだとか意味不明な事を言われました。だから、あの者と私は戦う運命なのかもしれない。死の呪いについて大社にある書物で調べたら、直ぐに討伐へ向かいます!!」
「桜龍よ。そなたは1人ではない。祈祷で4人の共に戦う勇士と出会う。そのうちの1人は甲斐の国の忍びで、武田家無き後も民たちを護るために戦っておる。他の者も何かに導かれるように皆甲斐へ向かっている」
「貴重な助言をありがとうございます!!大神官殿!!この桜龍、死の呪いに打ち克ち、闇の神官を打ち払って参ります!!」
桜龍は張り切りながら命を受けた。

桜龍は大社内の書物館で調べ物が終わり、旅支度をし、神官たちに江津討伐へ向かうと告げ、大社の出口の鳥居を歩いていた。そこで、巫女服の女性に呼び止められた。
「待って!!桜龍!!!あなた、闇の神官の討伐へ行くの?」
その巫女は仁摩(にま)という大神官の娘で、17歳位の薄い桃色の巻き毛の可憐な女性であった。
(う・・・少し厄介なのに見つかった・・・。また小言言われんのかな・・・。)
桜龍はあちゃー見つかったという顔をしながら、仁摩に少し苦笑いしながら答えた。
「仁摩殿じゃねーか!!えーっと、まぁ・・・大神官殿に頼まれて・・俺にしかできないことだから、ちょっくら甲斐まで行ってくる」
「ちょ・・・ちょっくらって・・・。あなた命が掛かっているのよ!!確かに、脱獄した江津を野放しにはできないけど・・・だからって桜龍が危ない目に合うのは・・・」
仁摩は強気な態度から不安そうな表情に変わり、桜龍を見つめた。
「・・・心配してくれてありがとうな。俺も正直、大神官殿の前ではカッコ良く決めたものの・・・。死の呪いなんか使う奴なんて怖いと思う。・・・でも、戦わなくてはいけない。これ以上、呪いで犠牲になる者たちを増やしてはいけねえ。それに、大神官殿や神官の皆も応援してくれているし、もしかしたら、向こうで共に戦ってくれる仲間と出会うかもしれない」
「・・・やはり覚悟はできているのね。・・・はいこれ」
仁摩はあきらめたように、手作りの薄紫の布に可愛らしいウサギの刺繍がしてあるお守りを彼に渡した。
「いくら大神官の娘でも、御裁縫位できるように練習しているのよ!!あなた、しっかりしているようで、ドジでそそっかしくて抜けているところがあるんだから!!」
「うう・・・・そこまで言わんでも・・・っておいおい。少しほつれているぞ・・・?うさちゃんも少し怒っている風に見えるな?」
「む!?文句あるなら受け取らなくていいわよ!!」
仁摩は怒りながらお守りを取り上げようとした瞬間、桜龍はよしよしと彼女の髪を撫でた。
「ふふふ。冗談だよ♪一生懸命作った気持ち伝わったぜ。お守りは肌身離さず大切にするからよ!!・・・では行ってくる。仁摩殿」
桜龍は彼女の小さい右手を握り、口づけをした。仁摩は照れながら
「・・・も・・もう!!自分の無事を考えなさいよ!!あと、出会った仲間の方に迷惑をかけるんじゃないわよ!!!!」
絶対に無事に帰ってくるのよと仁摩の心の中の声が聞こえた。桜龍は去りながら手を振った。
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