番外編や短編集
昼食後、湘と清盛は町民や職人が行き交う通りを巡った。相模の海の幸や野菜を使った食事処と小田原提灯などの民芸品の店が並び活気付いていた。清盛は町民の明るさに感心していた。
「賑やかな街並みじゃな。時代が変わったのが身に染みるのう」
「今は町民文化が浸透していますから、平安時代とは変わりましたよ」
「考えてみたら、さっきみたいに町民と話したり言い争ったりした事無かったのう。民達の声を聞かず、強引に政をしてしまったな」
「清盛殿にとって新鮮な体験でしたね」
「ああ全くだ。それにしても、町民達は威勢が良いのう。ワシ相手に物怖じしないで接していたな」
「ははは、町民も清盛殿の霊が入っているとは思ってないでしょう。体は『アホ龍』ですし」
「それもそうじゃな。・・今更じゃが、この若造は片目が見えぬのか?」
清盛は自分の左目の眼帯に指を当て、湘に尋ねた。
「はい、桜龍は産まれて間もなく病にかかり、左目を失明したそうです。ですが、強い力を左目に宿したそうです」
「そうか、体に入って分かるが、強い力を秘めておるのう。ワシの志とは違う、もっと強い意志を感じる」
「桜龍は日ノ本を護る守護者に選ばれた者です」
「日ノ本を護る・・・か。重い使命を持っておるのじゃな」
清盛は改めて左目の眼帯に優しく手を当てた。湘は清盛に気を使い、話題を変えた。
「清盛殿、少しお茶にしましょう」
湘は旅人で賑わう茶屋に清盛を連れて行った。店内で緑茶とかまぼこが出され、ここでも清盛は初めて見る食べ物に目を驚かせていた。
「なんじゃ?このプニプニしたお麩は?」
「これは、かまぼこという、魚のすり身を固めた小田原名物です。私の好きな食べ物の1つです」
「平安の世には無い料理じゃな。どれ」
清盛は1枚かまぼこを口にした。するとツルッとした舌触りに、サクッとした食感と上品な魚の味わいで感動していた。
「これも美味じゃ。これなら、大輪田の泊も貿易港だけでなく漁業を盛んにして、かまぼこを作れば良かったと思うぞ」
「かまぼこは今から100年位前に作られたみたいなので、平安に作るのは難しかったでしょう」
「ふむ、悔しいところもあるが、良い経験が出来た。感謝するぞ、湘。この光景を子供達や安徳帝にも見せてやりたかったのう」
「きっと清盛殿以上に驚くでしょう。さて、今日はもう遅いですし、箱根温泉の湯に浸かりましょうか」
湘と清盛は小田原から箱根の山道を進み、早川に沿ってなだらかで曲がりくねった坂を上っていた。そして、箱根の玄関口、『湯本』の温泉街に着いた。旅館や旅籠が川沿いに並び、街道には土産屋や飲み屋も建っていた。夜になっても灯籠や提灯の明るさに清盛は目を奪われていた。
「美しく賑やかな街並みじゃな。繁盛しているのが分かる」
「ここは、旅人が湯に浸かり休息したり、修験者の湯治場だったりと人気の名所なのですよ。大名家もお忍びで来ていたりもしています」
「ふむ、温泉で観光事業も良かったのう。福原の北にあった有馬温泉をこの湯本みたいに活性化させれば良かったのう」
「一回、有馬温泉に行った事がありますが、瀬戸内海や淡路島が綺麗に見えましたよ」
清盛と湘は街道の店で温泉まんじゅうを食べ、宿泊する旅籠へ向かった。そこを、桜龍と湘の仲間、千里が、串に刺した揚げかまぼこを食べながら、2人が街道を通りすがるのを見かけた。
「あれは・・湘さんと桜龍?箱根に来ていたのか?でも、様子がいつもと違いますね・・・」
千里は2人の後をこっそり追うと、灯籠の光に照らされた桜龍は一瞬、坊主頭に大柄な体型と高級な着物を来た高齢男性に見えた。
「まさか、平・・清盛?」
千里は桜龍が清盛を霊媒した事に不安を抱き、闇に隠れながら様子を伺った。
千里が近くにいる事も知らず、湘と清盛は旅籠で休んでいた。旅籠にある露天風呂に浸かり、夕食は箱根の川魚や山菜料理などを味わい、楽しいひと時を過ごした。
「小田原と箱根を満喫出来て良かったぞ。ワシの時代よりも活気にあふれていると分かった」
「ご満悦で嬉しいです、清盛殿」
「そろそろ、若造の体から出ようかのう。この桜龍とやらも、お主もやるべき事があるじゃろう」
「はい。日ノ本は天下人によって、泰平を迎えましたが、影で闇の者が日ノ本を侵略しようとしています」
「それは大変じゃな・・・そうじゃ、確か箱根に弘法大師が建てた延命地蔵があると聞いた事がある。最後に連れてってくれないか?」
「かしこまりました。明日、大涌谷へ行きましょう」
「賑やかな街並みじゃな。時代が変わったのが身に染みるのう」
「今は町民文化が浸透していますから、平安時代とは変わりましたよ」
「考えてみたら、さっきみたいに町民と話したり言い争ったりした事無かったのう。民達の声を聞かず、強引に政をしてしまったな」
「清盛殿にとって新鮮な体験でしたね」
「ああ全くだ。それにしても、町民達は威勢が良いのう。ワシ相手に物怖じしないで接していたな」
「ははは、町民も清盛殿の霊が入っているとは思ってないでしょう。体は『アホ龍』ですし」
「それもそうじゃな。・・今更じゃが、この若造は片目が見えぬのか?」
清盛は自分の左目の眼帯に指を当て、湘に尋ねた。
「はい、桜龍は産まれて間もなく病にかかり、左目を失明したそうです。ですが、強い力を左目に宿したそうです」
「そうか、体に入って分かるが、強い力を秘めておるのう。ワシの志とは違う、もっと強い意志を感じる」
「桜龍は日ノ本を護る守護者に選ばれた者です」
「日ノ本を護る・・・か。重い使命を持っておるのじゃな」
清盛は改めて左目の眼帯に優しく手を当てた。湘は清盛に気を使い、話題を変えた。
「清盛殿、少しお茶にしましょう」
湘は旅人で賑わう茶屋に清盛を連れて行った。店内で緑茶とかまぼこが出され、ここでも清盛は初めて見る食べ物に目を驚かせていた。
「なんじゃ?このプニプニしたお麩は?」
「これは、かまぼこという、魚のすり身を固めた小田原名物です。私の好きな食べ物の1つです」
「平安の世には無い料理じゃな。どれ」
清盛は1枚かまぼこを口にした。するとツルッとした舌触りに、サクッとした食感と上品な魚の味わいで感動していた。
「これも美味じゃ。これなら、大輪田の泊も貿易港だけでなく漁業を盛んにして、かまぼこを作れば良かったと思うぞ」
「かまぼこは今から100年位前に作られたみたいなので、平安に作るのは難しかったでしょう」
「ふむ、悔しいところもあるが、良い経験が出来た。感謝するぞ、湘。この光景を子供達や安徳帝にも見せてやりたかったのう」
「きっと清盛殿以上に驚くでしょう。さて、今日はもう遅いですし、箱根温泉の湯に浸かりましょうか」
湘と清盛は小田原から箱根の山道を進み、早川に沿ってなだらかで曲がりくねった坂を上っていた。そして、箱根の玄関口、『湯本』の温泉街に着いた。旅館や旅籠が川沿いに並び、街道には土産屋や飲み屋も建っていた。夜になっても灯籠や提灯の明るさに清盛は目を奪われていた。
「美しく賑やかな街並みじゃな。繁盛しているのが分かる」
「ここは、旅人が湯に浸かり休息したり、修験者の湯治場だったりと人気の名所なのですよ。大名家もお忍びで来ていたりもしています」
「ふむ、温泉で観光事業も良かったのう。福原の北にあった有馬温泉をこの湯本みたいに活性化させれば良かったのう」
「一回、有馬温泉に行った事がありますが、瀬戸内海や淡路島が綺麗に見えましたよ」
清盛と湘は街道の店で温泉まんじゅうを食べ、宿泊する旅籠へ向かった。そこを、桜龍と湘の仲間、千里が、串に刺した揚げかまぼこを食べながら、2人が街道を通りすがるのを見かけた。
「あれは・・湘さんと桜龍?箱根に来ていたのか?でも、様子がいつもと違いますね・・・」
千里は2人の後をこっそり追うと、灯籠の光に照らされた桜龍は一瞬、坊主頭に大柄な体型と高級な着物を来た高齢男性に見えた。
「まさか、平・・清盛?」
千里は桜龍が清盛を霊媒した事に不安を抱き、闇に隠れながら様子を伺った。
千里が近くにいる事も知らず、湘と清盛は旅籠で休んでいた。旅籠にある露天風呂に浸かり、夕食は箱根の川魚や山菜料理などを味わい、楽しいひと時を過ごした。
「小田原と箱根を満喫出来て良かったぞ。ワシの時代よりも活気にあふれていると分かった」
「ご満悦で嬉しいです、清盛殿」
「そろそろ、若造の体から出ようかのう。この桜龍とやらも、お主もやるべき事があるじゃろう」
「はい。日ノ本は天下人によって、泰平を迎えましたが、影で闇の者が日ノ本を侵略しようとしています」
「それは大変じゃな・・・そうじゃ、確か箱根に弘法大師が建てた延命地蔵があると聞いた事がある。最後に連れてってくれないか?」
「かしこまりました。明日、大涌谷へ行きましょう」