第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙
若桜と安曇が手を繋ぎ、北信濃の戸隠神社の杉林を歩いていた。神聖な戸隠の風を若桜は心地よいと感じていた。
「ここは大地の力がみなぎってくる聖地よ。千里もここで修行し、今は源氏と出会い、義経殿と戦っているそうだよ」
「母様、私も千里と合流して共に戦う事が出来るでしょうか?」
「お前も強い子だよ。戸隠での修行はきっと千里と源氏の力になる。源氏の世となった先は、千里と共に日ノ本に迫る闇と戦って欲しい」
「ええ。千里は宿命を受け入れて旅に出ました。私も彼と運命を共にしますわ」
若桜の意志は強かった。安曇はありがとうと優しく礼を言った。
「私もお前達の力になるよ。もし辛くなったら私の元に帰ってきておくれ」
若桜は安曇の小さな体を抱っこして、笑顔を向け行って参りますと告げた。
その後、若桜は戦地で千里と出会い、彼の強さと優しさそしてぬくもりを感じ、そして彼と共にこの先に待ち受ける強敵と戦う覚悟を決めていた。
「若桜の強さは、僕だけでなく源氏の皆の助けにもなっています」
若桜は、最初は千里の力を超えたいと思っていたが、しだいに彼に惹かれていった。
「私は・・・安曇様と千里と居た大切な時間を忘れていたわ・・・」
若桜はポロポロと涙を流し始めた。
「若桜、思い出したべさ?私は安曇の娘、梓だべさ」
「ええ、思い出したわ。ありがとう、梓、仁摩」
若桜は梓を抱っこし、頭を撫でた。そして仁摩にもありがとうと礼を言い、抱きしめた。しかし喜ぶのもつかの間だった。目の前にどす黒い渦が現れ、邪悪な小人の女が姿を現した。
「あら?あれだけ強く改良したのに、元に戻ってしまったの?」
「おめぇは、黒羽!?」
梓と仁摩は声の主を睨みつけ、武器を構えた。梓は戸惑い刀を構える事が出来なかった。
「最後の宣告ですわ、若桜。巫女の娘と忌々しい土竜族の女を始末なさい」
「・・・・」
「闇の者の耳を貸しては駄目よ!!若桜!!」
「こいつは、おめぇを利用する事しか考えてないべさ!!」
「・・・断るわ。私は元々、千里と共に闇の者達と戦う為に造られた戦士よ。よくも私を好き勝手に魔改造してくれたわね!!」
若桜は迷いを絶ち、黒羽に刃を向けた。
「それは残念ですわね。では、改良した魔改造戦士に処刑をしてもらいますわ」
桜の木の影から、数十人の黒い鎧と羽織姿の魔改造戦士が姿を現した。3人は相手を睨み武器を構え戦闘態勢に入った。
「若桜、梓殿、行くわよ!!」
3人は一斉に魔改造戦士に攻撃を仕掛けた。魔改造戦士の刀や鉤爪などにも臆する事無く、若桜は敵の腕を切り落とし、神業ともいえる太刀筋で、一気に数人の敵の胸を貫いた。
「弱点は心臓部、魔改造戦士の核よ!!」
仁摩は若桜に頷き、囲むように飛び掛かって来た敵に向かって、舞うように体を回転させ、棍棒でぶっ飛ばした。そして、天に金の矢を放ち、吹き飛んだ敵の胸を矢の雨で貫かせ、一掃した。
「凄いべさ若桜、仁摩。私も負けないダズ!!」
梓は杖から魔法陣を出現させ、魔改造戦士をそれから放たれる神々しい光で消し去った。
「これでこいつらを再生させるのは不可能べさ」
「く・・なかなかやりますわね。それならこれはどうかしら?」
黒羽は仁摩の体を透明な糸で絡ませた。
「な!?何?体が勝手に!!」
仁摩は自分の意志に反し、若桜と梓を棍棒で攻撃し始めた。
「どうしたべさ!!仁摩!!」
「これは、黒羽の傀儡の糸よ!!黒羽、卑怯な手はやめなさい!!」
「裏切り者に言われたくはありませんわ。これで、仁摩を攻撃出来ないでしょう」
若桜と梓は仁摩の棍棒や体術を避けたり、武器で受け止めたりするしか術が無かった。しかし突然、思いがけない助け舟が現れた。
「卑怯者は許さんじゅら!!」
小精霊達が黒羽の顔を目掛け、花粉をばら撒いた。集中力と魔力が途切れ、仁摩は拘束から解放された。
「きゃあ!!このコバエは何ですの!?」
「コバエじゃないじゅら!!可愛い蝶々じゅら!!」
「でかしたぞ、お前ら。俺らも仁摩達に続くぞ!!」
白州と蕨を筆頭に精霊戦士と飛天族の術師は仁摩達に加勢した。小精霊は黒羽の髪を引っ張ったり、十二単に染料で落書きしたりとイタズラ風に動きを止めていた。
「悪い子はお仕置きじゅら!!」
「やめなさい!!小さき者でもおいたが過ぎると許しませんわ!!」
黒羽は小精霊の動きを封じようとしたが、イタズラは止まらない。
「朝霧ー!!コバエを止めなさい!!」
「小精霊と戯れる黒羽を見ているのが滑稽だが、ここで時間を無駄には出来ぬな」
朝霧は黒羽を庇う形で、軽い突風で染料玉を吹き飛ばした。じゅら吉達は玉に当たり、染料まみれになった。
「うう・・・手強いじゅらー」
白州に付いてきていた小助は汗を流しながら小精霊達に帰ろうと促した。
「じゅら吉達はもう帰るずら!!闇精霊に太刀打ち出来ないずら」
朝霧は小助を見ていち早く、闇精霊として生まれた穴山梅雪の生まれ変わりだと察して、挑発するように聞いてみた。
「ほう、お前は闇の精霊から生まれ変わった精霊だな」
「梅雪さんは闇精霊じゃないずら!!」
小助が怒りながら否定するも、朝霧は突き放すような態度であしらった。
「まぁ、どうでも良いか。せいぜい貴様は闇に染まらぬようにな」
小助は朝霧の意味深な言葉に、始祖が言っていた闇に囚われた森精霊ではないかと聞こうとした。
「貴様は闇って・・もしかして、あなたは始祖様が言っていた・・・」
小助が言葉を続けようとした時、朝霧は眉間にしわを寄せ、棍棒の先を小助に向けて脅した。
「それ以上戯言を言えば、子供であれ同胞であれ容赦はせぬぞ!!」
小助は朝霧の鬼のような表情に涙をこらえていた時、白州が間に入り、小助を守り説得を止めた。
「もう止めろ、小助。こいつはもう闇精霊に堕ちた。俺達の言葉は届かない・・・」
「そんなぁ・・・」
「そういう事だ。私は卑弩羅様とマガツイノカミ様に忠誠を誓っておる。貴様らも同族が大事だと思うなら、闇の世界も考えてみるものだな」
「同族が大事って・・・お前まさか」
白州はまさか朝霧は闇に墜ちても森精霊の身を案じているのかと悩み始めた。しかし朝霧は冷酷な表情で白州と小助を見下した。
「無駄話はそこまでだな。行くぞ黒羽。髪と着物が汚れて、さっさと帰りたいだろう」
「ええ、そうしたいですわ。若桜はもう追放よ。でも、恐山に居る厳美は誰も止められないですわ。あの子には厄神に匹敵する力を持っているのだから」
「厄神に匹敵とはどういう事よ!!」
若桜は黒羽に斬りかかろうとしたが、朝霧の棍棒に受け止められ、弾き飛ばされてしまった。仁摩と梓は急ぎ、飛ばされた若桜を受け止めた。その隙に黒羽と朝霧は闇の渦に消えた。
「厳美はまさか・・・禁忌を犯して造られた魔改造戦士なのかしら?」
「そうに違いねぇべ。だとしたら世界は闇に染まる・・・」
「それでも、桜龍達なら負けない。私は信じるわ。御伽の勇士達は無限の可能性を持っているのよ!!」
仁摩は持ち前の明るさで2人を勇気づけさせた。彼女は誰よりも桜龍達を信じているのだと2人は気づいていた。
「仁摩・・・」
「恐山に行きましょう。厳美に囚われている民や魂を救いに。そして、桜龍達の助けになる為に」
「ええ、行きましょう。私は千里に会って謝りたいし、また一緒に戦いたい」
「私も覚悟は出来ているべさ」
「いすみ様達は、陸奥に取り残された民の救出をお願いします」
「ああ。この場はワレ達にまかせよ。仁摩よ、修行の成果と己の心の強さを信じるのだ。そうすれば、桜龍達の助けとなる」
いすみ達は任せたと頷き、仁摩達と別れた。仁摩と若桜と梓は急ぎ下北半島の恐山へ向かった。
第11話 完
「ここは大地の力がみなぎってくる聖地よ。千里もここで修行し、今は源氏と出会い、義経殿と戦っているそうだよ」
「母様、私も千里と合流して共に戦う事が出来るでしょうか?」
「お前も強い子だよ。戸隠での修行はきっと千里と源氏の力になる。源氏の世となった先は、千里と共に日ノ本に迫る闇と戦って欲しい」
「ええ。千里は宿命を受け入れて旅に出ました。私も彼と運命を共にしますわ」
若桜の意志は強かった。安曇はありがとうと優しく礼を言った。
「私もお前達の力になるよ。もし辛くなったら私の元に帰ってきておくれ」
若桜は安曇の小さな体を抱っこして、笑顔を向け行って参りますと告げた。
その後、若桜は戦地で千里と出会い、彼の強さと優しさそしてぬくもりを感じ、そして彼と共にこの先に待ち受ける強敵と戦う覚悟を決めていた。
「若桜の強さは、僕だけでなく源氏の皆の助けにもなっています」
若桜は、最初は千里の力を超えたいと思っていたが、しだいに彼に惹かれていった。
「私は・・・安曇様と千里と居た大切な時間を忘れていたわ・・・」
若桜はポロポロと涙を流し始めた。
「若桜、思い出したべさ?私は安曇の娘、梓だべさ」
「ええ、思い出したわ。ありがとう、梓、仁摩」
若桜は梓を抱っこし、頭を撫でた。そして仁摩にもありがとうと礼を言い、抱きしめた。しかし喜ぶのもつかの間だった。目の前にどす黒い渦が現れ、邪悪な小人の女が姿を現した。
「あら?あれだけ強く改良したのに、元に戻ってしまったの?」
「おめぇは、黒羽!?」
梓と仁摩は声の主を睨みつけ、武器を構えた。梓は戸惑い刀を構える事が出来なかった。
「最後の宣告ですわ、若桜。巫女の娘と忌々しい土竜族の女を始末なさい」
「・・・・」
「闇の者の耳を貸しては駄目よ!!若桜!!」
「こいつは、おめぇを利用する事しか考えてないべさ!!」
「・・・断るわ。私は元々、千里と共に闇の者達と戦う為に造られた戦士よ。よくも私を好き勝手に魔改造してくれたわね!!」
若桜は迷いを絶ち、黒羽に刃を向けた。
「それは残念ですわね。では、改良した魔改造戦士に処刑をしてもらいますわ」
桜の木の影から、数十人の黒い鎧と羽織姿の魔改造戦士が姿を現した。3人は相手を睨み武器を構え戦闘態勢に入った。
「若桜、梓殿、行くわよ!!」
3人は一斉に魔改造戦士に攻撃を仕掛けた。魔改造戦士の刀や鉤爪などにも臆する事無く、若桜は敵の腕を切り落とし、神業ともいえる太刀筋で、一気に数人の敵の胸を貫いた。
「弱点は心臓部、魔改造戦士の核よ!!」
仁摩は若桜に頷き、囲むように飛び掛かって来た敵に向かって、舞うように体を回転させ、棍棒でぶっ飛ばした。そして、天に金の矢を放ち、吹き飛んだ敵の胸を矢の雨で貫かせ、一掃した。
「凄いべさ若桜、仁摩。私も負けないダズ!!」
梓は杖から魔法陣を出現させ、魔改造戦士をそれから放たれる神々しい光で消し去った。
「これでこいつらを再生させるのは不可能べさ」
「く・・なかなかやりますわね。それならこれはどうかしら?」
黒羽は仁摩の体を透明な糸で絡ませた。
「な!?何?体が勝手に!!」
仁摩は自分の意志に反し、若桜と梓を棍棒で攻撃し始めた。
「どうしたべさ!!仁摩!!」
「これは、黒羽の傀儡の糸よ!!黒羽、卑怯な手はやめなさい!!」
「裏切り者に言われたくはありませんわ。これで、仁摩を攻撃出来ないでしょう」
若桜と梓は仁摩の棍棒や体術を避けたり、武器で受け止めたりするしか術が無かった。しかし突然、思いがけない助け舟が現れた。
「卑怯者は許さんじゅら!!」
小精霊達が黒羽の顔を目掛け、花粉をばら撒いた。集中力と魔力が途切れ、仁摩は拘束から解放された。
「きゃあ!!このコバエは何ですの!?」
「コバエじゃないじゅら!!可愛い蝶々じゅら!!」
「でかしたぞ、お前ら。俺らも仁摩達に続くぞ!!」
白州と蕨を筆頭に精霊戦士と飛天族の術師は仁摩達に加勢した。小精霊は黒羽の髪を引っ張ったり、十二単に染料で落書きしたりとイタズラ風に動きを止めていた。
「悪い子はお仕置きじゅら!!」
「やめなさい!!小さき者でもおいたが過ぎると許しませんわ!!」
黒羽は小精霊の動きを封じようとしたが、イタズラは止まらない。
「朝霧ー!!コバエを止めなさい!!」
「小精霊と戯れる黒羽を見ているのが滑稽だが、ここで時間を無駄には出来ぬな」
朝霧は黒羽を庇う形で、軽い突風で染料玉を吹き飛ばした。じゅら吉達は玉に当たり、染料まみれになった。
「うう・・・手強いじゅらー」
白州に付いてきていた小助は汗を流しながら小精霊達に帰ろうと促した。
「じゅら吉達はもう帰るずら!!闇精霊に太刀打ち出来ないずら」
朝霧は小助を見ていち早く、闇精霊として生まれた穴山梅雪の生まれ変わりだと察して、挑発するように聞いてみた。
「ほう、お前は闇の精霊から生まれ変わった精霊だな」
「梅雪さんは闇精霊じゃないずら!!」
小助が怒りながら否定するも、朝霧は突き放すような態度であしらった。
「まぁ、どうでも良いか。せいぜい貴様は闇に染まらぬようにな」
小助は朝霧の意味深な言葉に、始祖が言っていた闇に囚われた森精霊ではないかと聞こうとした。
「貴様は闇って・・もしかして、あなたは始祖様が言っていた・・・」
小助が言葉を続けようとした時、朝霧は眉間にしわを寄せ、棍棒の先を小助に向けて脅した。
「それ以上戯言を言えば、子供であれ同胞であれ容赦はせぬぞ!!」
小助は朝霧の鬼のような表情に涙をこらえていた時、白州が間に入り、小助を守り説得を止めた。
「もう止めろ、小助。こいつはもう闇精霊に堕ちた。俺達の言葉は届かない・・・」
「そんなぁ・・・」
「そういう事だ。私は卑弩羅様とマガツイノカミ様に忠誠を誓っておる。貴様らも同族が大事だと思うなら、闇の世界も考えてみるものだな」
「同族が大事って・・・お前まさか」
白州はまさか朝霧は闇に墜ちても森精霊の身を案じているのかと悩み始めた。しかし朝霧は冷酷な表情で白州と小助を見下した。
「無駄話はそこまでだな。行くぞ黒羽。髪と着物が汚れて、さっさと帰りたいだろう」
「ええ、そうしたいですわ。若桜はもう追放よ。でも、恐山に居る厳美は誰も止められないですわ。あの子には厄神に匹敵する力を持っているのだから」
「厄神に匹敵とはどういう事よ!!」
若桜は黒羽に斬りかかろうとしたが、朝霧の棍棒に受け止められ、弾き飛ばされてしまった。仁摩と梓は急ぎ、飛ばされた若桜を受け止めた。その隙に黒羽と朝霧は闇の渦に消えた。
「厳美はまさか・・・禁忌を犯して造られた魔改造戦士なのかしら?」
「そうに違いねぇべ。だとしたら世界は闇に染まる・・・」
「それでも、桜龍達なら負けない。私は信じるわ。御伽の勇士達は無限の可能性を持っているのよ!!」
仁摩は持ち前の明るさで2人を勇気づけさせた。彼女は誰よりも桜龍達を信じているのだと2人は気づいていた。
「仁摩・・・」
「恐山に行きましょう。厳美に囚われている民や魂を救いに。そして、桜龍達の助けになる為に」
「ええ、行きましょう。私は千里に会って謝りたいし、また一緒に戦いたい」
「私も覚悟は出来ているべさ」
「いすみ様達は、陸奥に取り残された民の救出をお願いします」
「ああ。この場はワレ達にまかせよ。仁摩よ、修行の成果と己の心の強さを信じるのだ。そうすれば、桜龍達の助けとなる」
いすみ達は任せたと頷き、仁摩達と別れた。仁摩と若桜と梓は急ぎ下北半島の恐山へ向かった。
第11話 完