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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

峠を超え、深い森に囲まれた十和田湖は奇妙かつ幻想的な風景だった。昼間なのに闇の力が濃くなっているのか薄暗く雪も黒く濁っていた。一方、湖は虹色の宝石の様に鮮やかに輝いており、さらに湖畔に咲く桜も満開で桜吹雪が舞っていた。
「桜の季節にしては早すぎるな・・・」
モトスは花びらに触れ、違和感を覚えた。すると目の前に姫鎧に身を包んだ若桜が立ちはだかっていた。千里は眼鏡越しから鋭い眼差しを彼女に向けて言った。
「やはり、ここで待ち伏せをしていましたか・・・若桜」
若桜は千里達を嘲笑いながら太刀の剣先を向けていた。
「貴様らがここに来るのは分かっていたわ。この先は通さない。裏切り者の大芹共々、始末してあげるわ」
大芹は真っ先に前に出て若桜を説得しようとした。
「若桜!!厳美を止めるからここを通してくれ!!」
「黙れ!!出来損ないの魔改造戦士め。今は黒羽様に捨てられた、ガラクタかしらね」
「若桜ちゃん!!アタシ達は最初から黒羽や卑弩羅(ひどら)の捨て駒だったのよ!!アナタも目を覚まして!!」
しかし若桜は氷雨の言葉も聞かず、太刀を振り回し大芹達を攻撃し始めた。大芹は先の戦いでの後遺症が残っていたので、若桜の剣技に押されていた。若桜は大芹を蹴り飛ばし、倒れたところを太刀で斬りかかろうとした。しかし千里が間に入り、若桜の太刀筋を鎖で受け止めた。
「もう、君は僕の知っている若桜ではありません。通してくれないのなら、僕が君を討ちます」
「・・・平泉で私に刺されたのに、私を殺せるのかしら?」
若桜に挑発されたが、千里は戸惑う事無く、冷酷な瞳を向け彼女の腹部に蹴りを入れ間合いから離した。千里と若桜に殺伐とした空気が流れた。若桜は不敵な笑みを彼に向けながら、再び太刀での斬撃を繰り出した。千里は紙一重に避け、隙を突き鎖鎌で急所を狙おうとしていた。しかしそれを止める、勇ましき女性の声が響き渡った。
「待ちなさい!!」
仁摩が若桜の太刀に弓を放った。
「私が若桜さんと決着を付けるわ。修行の成果を見せてあげる」
突然現れた仁摩に、皆は驚いたが、先に口を開いたのは焦っている氷雨だった。
「それは無理よ!!若桜はアタシ達を上回る魔改造戦士なのよ。人間のアナタが太刀打ちできる訳ないわ!!」
しかし仁摩はいたって冷静な態度で氷雨に答えた。
「何も倒す訳ではないわ。若桜さんを闇から救い正気に戻す。千里さんと戦わせないわ!!」
桜龍は仁摩の強い覚悟と優しさをいち早く理解した。そしてこの場を彼女に託そうと思った。
「仁摩殿・・・その覚悟、十分伝わったよ。いすみ様に結構鍛えて貰ったのが分かるぜ」
「ええ。少なくとも今までの私よりも強くなったわ。だから桜龍達は先に恐山へ向かって!!」
千里は仁摩の揺るがぬ志に、これ以上何も言えず、一礼をして忠告をした。
「分かりました。・・ですが仁摩さん、難しいと思ったら逃げるか、若桜を討ってください」
「大丈夫です。彼女の心は完全に闇に染まってないですよ」
仁摩の言葉と笑顔は、根拠があるか分からないが、強い希望を感じさせられた。すると土竜族の梓(あずさ)もいつの間にか現れ、自分の背よりも長い杖を持ちながら言った。
「私も仁摩と戦うべさ。若桜は母様が造った大切な家族だ。若桜を正気に戻すのは私と母の願いでもあるんだず!!」
千里は梓と彼女の亡き母『安曇(あずみ)』の願いに心打たれ、止めることはせず彼女にも一礼をして言った。
「仁摩さん、梓殿。ここはよろしくお願いします」
「仁摩殿、梓殿。2人の力を信じて待っているぜ!!」
桜龍達は仁摩と梓にこの場を任せ、先を急いだ。若桜は2人を嘲笑いながら言った。
「人間と小人の女が私に勝てるとでも?まぁ、降参するまで付き合ってあげるわ。そうしたら、賊どもを直ぐに追いかけるから」
「馬鹿にしないで!!私はあなたと戦えるように鍛錬したのだから」
仁摩は棍棒を構え、梓も自身の頭位の大きさの水晶が付いた長い杖を手にした。若桜は太刀を向け、2人に言った。
「それじゃあ、始めましょうか。容赦はしないわよ」
「仁摩、まともに戦っても若桜の方が戦闘力が上だず。正気に戻す事だけを考えるべさ」
「ええ。力技よりも闇を打ち払う術を使うわ」
「作戦会議かお喋りはそこまでよ!!」
若桜は仁摩と梓の間に太刀を振り下ろした。梓は素早く横に避け、仁摩は即座に棍棒で受け止め、若桜の太刀を払い退けた。そして懐から数枚の護符を取り出し、若桜に投げ飛ばし、護符から現れる聖なる光が彼女の動きを封じた。
「この間よりもずっと動きが良くなったわね。だけど、これで勝ったと思わないで!!」
若桜は邪気を高め、まとわりついている護符を消し飛ばした。しかしそれは仁摩の狙いだった。
「小さい私に気づかなかったべさ!!」
梓は杖に付いている水晶から黄金の光を出現させ、若桜の目をくらませた。その隙に仁摩は術で黄金に光るしめ縄を出現させ、若桜を拘束した。
「く・・・謀ったわね・・」
「もう闇に支配されないで!!千里さんと共に戦っていた頃を思い出して!!」
「う・・黙れ・・・私は千里と・・・」
若桜は光の中、苦しみながら恋人だった千里を思い出し始めた。しかしそれもつかの間、魔の囁きにより遮られてしまった。
『若桜、あなたは我が神『マガツイノカミ様』の為に戦う戦闘人形。邪魔する者を皆殺しにすれば我が神も大喜びですし、神からの大いなる信頼も得られるのですわよ』
「う・・・・・ふふ、仰せのままに、黒羽様」
若桜は闇の力を解放させ、しめ縄をズタズタに破った。そして、桜の絵が描かれている扇を取り出し、強く仰ぎ激しい突風を起こし、身体が小さい梓を軽々と飛ばし、木に衝突させた。
「う・・・やはり、黒羽の暗示の方が強いべさ・・・」
「梓殿!!」
「よそ見している余裕はないわよ!!」
若桜は仁摩に殴りかかったが、仁摩は咄嗟に拳を避け、彼女の腕を掴み地面に投げ倒した。そして、両腕を掴み、のしかかりながら必死に彼女の瞳を見て説得した。
「若桜さん!!お願い、目を覚まして!!」
「黙れ!!私の力と心は我が神に捧げるのよ!!」
若桜は仰向けの状態で仁摩の腹部に蹴りを入れた。仁摩は腹部に強い衝撃が走り、その場に崩れるように倒れ、若桜の太刀で斬られそうになった。
「2人がかりとはいえ、私をここまで追い詰めたのは褒めてあげる。だけど、これで終わりよ!!」
「く・・・」
腹を押さえ、動けぬ仁摩の頭上に太刀が降り掛かろうとした。しかし予想外な小さき者達が若桜の目の前に飛んで来て、蝶の群れのような壁を作った。
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