第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙
「ここは・・・」
桜龍が立っている場所は、太陽の日差しが照らされる朱色の大社の本殿だった。直ぐ傍に狐様の像や坂道に沿って多くの鳥居が隧道のように並んでおり、桜龍はその光景に見覚えがあった。
「ここは、京の伏見稲荷大社か?だけど、何かが違う・・・」
桜龍は鳥居を潜り調べると、前に参拝した時よりも鳥居の数は少なかった。丹塗が新しいそうな鳥居の隅に書いてある元号を見ると、平安時代の物が多かった。
「平安の世に来ちゃったか・・・そういえば、大芹も平安の奴だったな」
桜龍はもしこれが大芹の記憶の中だったら、当時の彼に会えるだろうと稲荷大社を巡ってみた。なだらかな坂道と石段に沿った鳥居の中を進んでいくと、稲荷山の頂上に着いた。真下を見ると、都の面積は安土桃山時代に比べまだ小さく、貴族の屋敷が多かった。
「やはりこれは平安京か?」
桜龍はしばらく景色を眺めていると、幼い女の子が走って来た。
「わーい!!頂上だ!!お父ちゃん、お母ちゃん!!早くー!!」
6歳位のおてんばな少女が夫婦に手を振っていた。
「芹美、足元を見ないと転ぶわよー!!」
(芹美・・・?禁断の地の墓に書かれた名前だ・・)
桜龍が芹美と呼ばれた女の子の可愛らしい姿を見て考えていると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。しかしそれは爽やかで優しい声だった。
「はは!!芹美はいつも元気だな。俺達親子が一番乗りだ」
「お・・大芹!?」
桜龍は大芹に姿が似た男を見て声を上げたが、相手には声も姿も気づかれていなかった。
「ねえねえ、あたしたちの村ってあそこら辺?」
芹美が指差した方角は、後に禁断の地と言われる村だった。この時は、畑があるのどかな村だった。
「そうだね、向こうに見える川が桂川だから、そのすぐそばの村だよ」
「村の皆んなも元気そうで何よりだわ。それも、『大寿(だいじゅ)』さんが村医者の仕事に励んでいるからよ」
大芹に似た男は、『大寿』と呼ばれていた。
「そんな事ないさ、お園だって出産時に俺以上の仕事をしてくれる」
「ふふ、お産婆師として少しでもあなたの支えになれると嬉しいの」
お園は大寿に笑いかけた。大寿もまた妻と娘に優しく微笑みかけた。
「伏見稲荷大社は、商売繁盛に五穀豊穣、家内安全、無病息災と多くのご利益がある。また、仕事休みに来ような」
大寿は芹美を肩車して広大な景色を見せた。
風景が、茅葺き屋根の家屋が点在する村に変わった。村は平安京の外れで、すぐそばを桂川が流れる田園地帯。桜龍はのどかな村を歩いていると、村の中心に大きい木造の家が建っていた。玄関前に薬草や漢方になる植物が植えられている事から、医者の家だと分かった。桜龍はお邪魔しますと、ゆっくり戸を開けると、何人かの村人が大寿とお園に診てもらっていた。
「これは軽い風邪だな。今は季節の変わり目だから風邪を引きやすい。漢方を処方するよ」
「足を怪我しちゃったのね。地面は小石が多くてつまずきやすいから、気をつけてね」
お園は優しい表情で村の少年に塗り薬を塗った。桜龍は村人に尽くす夫婦を見て、微笑んでいた。
(何て優しい夫婦なんだ。もしこの男が大芹だったら、何で変わってしまったんだろう)
村人が笑顔で診療所を出ると、今度は幼い少年少女が入って来た。
『芹美ちゃん!!遊ぼー』
「お友達が来たようだ。芹美、皆んなと遊んでおいで」
「はーい!!お父ちゃんとお母ちゃんもお仕事頑張って!!」
「あまり遠くへ行ってはだめよ」
大寿とお園は笑顔で娘を見送った。
芹美が友達と遊びに行った後、大寿はため息を付き、机に顔を当てていた。
「ふぅ・・・たまには温泉に浸かりたいなぁ」
「そう言いながらも、休日は医学書を読んだり、薬草を育てたりと仕事熱心じゃない」
「ああ。今の時代、未知の病も多い。疫病対策出来るよう休みの日も薬の研究をしている。・・・そんな俺に尽くしてくれて申し訳ない、お園」
「そこは、ありがとうって言って欲しいわ。私は、家族と村人思いのあなたが大好きよ。芹美も言っていたわ。あなたのようなお医者様になりたいと」
「嬉しい事言ってくれるな。俺は、皆が苦しむ姿を見たくないのと、救える命を救いたい。綺麗事を承知でも、それが俺の願いだ」
「皆、あなたの優しさに感謝しているわ。大寿さんが村医者で良かったと皆言っているわよ」
「決して高度な医療技術は身につけられないけど、それでも医師になれて誇りに思う」
その後も大芹とお園は、深夜に熱を出した者や、陣痛を起こした妊婦を介抱したりと、休みを問わず村人に尽くした。そして村人の出産時、大芹は喜びに満ち、赤子を抱っこし村人に見せた。
「新しい命と、新しい村の仲間だ。今日という日を皆で喜ぼう」
赤子が産声を上げたと同時に、村人は盛大に喜んだ。しかし、その幸せは間もなく壊れようとしていた。
風景が変わり、桜龍は村人達が病に苦しむ姿を目にした。体は腐っていき、原型をとどめない醜い姿へと変わる疫病が都の郊外で現れた。
「・・・すまない助けられなかった」
大寿は村の広場で、病で息絶えた村人に謝り涙を流していた。大寿自身も病に侵されている、左顔面に焦げ茶色のアザが現れ始めた。
「大寿さんは頑張ってくれたよ。それより、お園ちゃんと芹美ちゃんを見てほしい。彼女達も危ないだろう?」
全身が腐りかけ、衰弱している村人は死を覚悟していた。大寿はすまないと告げ、家に戻った。すると、寝台に寝かされていたお園も息を引き取り、隣で芹美が涙を流していた。
「母ちゃん・・・死んじゃあやだよ・・・」
芹美も病が深刻化していき、大寿は妻の死を悔やみながらも急ぎ、最終手段を考えた。
大寿は芹美を抱え、都の御所へ向かった。もしかしたら芹美やまだ生きている村人を治療してくれる。薬を分けてくれる。微かな希望を胸に役人に『助けてください!!』と御所の門前で懇願した。しかし・・・。
「あいにく、都の医師は公家を治療するので手一杯なのだよ。それに、都郊外の疫病など知った事ではない」
「そんな・・・村は壊滅状態なのですよ!!お願いします!!娘は病で苦しんでいます!!どうかお助けを!!」
大寿は役人達に芹美の姿を見せた。その時、大寿の右腕が腐りかけ、変色していたのを見られた。
「気持ち悪い病魔だ!!退治してやる!!」
その時、役人は持っていた刀で、大寿の右腕を肩から切り落とした。大寿は強烈な痛みに悲鳴を上げた。桜龍は何が起きたか信じられない顔をした。さらに、役人達は持っていた鞘で大寿と芹美を殴り続け、病魔退散と連呼した。桜龍は『止めろ!!』と大寿の前に仁王立ちしたが、すり抜けられた。
「や・・止めてくれ!!芹美は傷つけるな!!」
大寿は片腕で芹美を抱き、必死で打撃から庇った。
「しぶとい病魔共だ。油をかけろ」
役人は一斉に親子に油をかけ、そして松明を大寿の体に投げた。火は瞬く間に大炎上し、親子を焼き尽くした。
「お父ちゃん・・熱いよ!!苦しいよ!!」
「芹美!!芹美!!もうやめてくれ!!か・・神様、どうかお助けを!!」
「汚れた妖魔など神が助けるかよ!!聖なる炎で焼け死ねよ!!」
役人達は正義を振りかざし、親子を罵り苦しめ続けた。すると、大雨が降り始め、火は弱まってきた。
「っち、良いところで雨か。まぁこれだけ焼けば死んだだろう。病魔退治したから官位が上がる🎵」
役人は黒焦げになった親子を、汚い袋に入れ牛舎に入れた。そして、廃棄物のように捨てられた。そこは、大寿達の村だった。家も畑も跡形もなく焼け野原となっていた。この間、産まれたばかりの赤子とその両親も焼死体となり転がっていた。まだ息があった大寿は涙を流しながら、村を見ていた。
「みんな・・・すまない。俺の医療技術が足りなかったから。俺が弱かったから、村を護れなかった・・・」
「おとお・・ちゃん・・・」
黒焦げになり、もはや原型を留めていない芹美は最期の力を振り絞り、父に話しかけた。
「皆んな死んじゃったね・・・母ちゃんも友達も村の皆んなも・・・」
「もう喋るな!!芹美!!」
「あたし、お父ちゃんみたいなお医者さんになりたかった。父ちゃんみたいに困っている人を助けたいと思った・・・疫病や火にも強い体になれれば良かったね」
芹美は息を引き取った。大寿は大声で叫び、娘の名前を呼び続けた。
「死ぬな・・・芹美!!芹美ー!!!!」
むなしい叫びと同時に冷たい雨は止んだ。
桜龍が立っている場所は、太陽の日差しが照らされる朱色の大社の本殿だった。直ぐ傍に狐様の像や坂道に沿って多くの鳥居が隧道のように並んでおり、桜龍はその光景に見覚えがあった。
「ここは、京の伏見稲荷大社か?だけど、何かが違う・・・」
桜龍は鳥居を潜り調べると、前に参拝した時よりも鳥居の数は少なかった。丹塗が新しいそうな鳥居の隅に書いてある元号を見ると、平安時代の物が多かった。
「平安の世に来ちゃったか・・・そういえば、大芹も平安の奴だったな」
桜龍はもしこれが大芹の記憶の中だったら、当時の彼に会えるだろうと稲荷大社を巡ってみた。なだらかな坂道と石段に沿った鳥居の中を進んでいくと、稲荷山の頂上に着いた。真下を見ると、都の面積は安土桃山時代に比べまだ小さく、貴族の屋敷が多かった。
「やはりこれは平安京か?」
桜龍はしばらく景色を眺めていると、幼い女の子が走って来た。
「わーい!!頂上だ!!お父ちゃん、お母ちゃん!!早くー!!」
6歳位のおてんばな少女が夫婦に手を振っていた。
「芹美、足元を見ないと転ぶわよー!!」
(芹美・・・?禁断の地の墓に書かれた名前だ・・)
桜龍が芹美と呼ばれた女の子の可愛らしい姿を見て考えていると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。しかしそれは爽やかで優しい声だった。
「はは!!芹美はいつも元気だな。俺達親子が一番乗りだ」
「お・・大芹!?」
桜龍は大芹に姿が似た男を見て声を上げたが、相手には声も姿も気づかれていなかった。
「ねえねえ、あたしたちの村ってあそこら辺?」
芹美が指差した方角は、後に禁断の地と言われる村だった。この時は、畑があるのどかな村だった。
「そうだね、向こうに見える川が桂川だから、そのすぐそばの村だよ」
「村の皆んなも元気そうで何よりだわ。それも、『大寿(だいじゅ)』さんが村医者の仕事に励んでいるからよ」
大芹に似た男は、『大寿』と呼ばれていた。
「そんな事ないさ、お園だって出産時に俺以上の仕事をしてくれる」
「ふふ、お産婆師として少しでもあなたの支えになれると嬉しいの」
お園は大寿に笑いかけた。大寿もまた妻と娘に優しく微笑みかけた。
「伏見稲荷大社は、商売繁盛に五穀豊穣、家内安全、無病息災と多くのご利益がある。また、仕事休みに来ような」
大寿は芹美を肩車して広大な景色を見せた。
風景が、茅葺き屋根の家屋が点在する村に変わった。村は平安京の外れで、すぐそばを桂川が流れる田園地帯。桜龍はのどかな村を歩いていると、村の中心に大きい木造の家が建っていた。玄関前に薬草や漢方になる植物が植えられている事から、医者の家だと分かった。桜龍はお邪魔しますと、ゆっくり戸を開けると、何人かの村人が大寿とお園に診てもらっていた。
「これは軽い風邪だな。今は季節の変わり目だから風邪を引きやすい。漢方を処方するよ」
「足を怪我しちゃったのね。地面は小石が多くてつまずきやすいから、気をつけてね」
お園は優しい表情で村の少年に塗り薬を塗った。桜龍は村人に尽くす夫婦を見て、微笑んでいた。
(何て優しい夫婦なんだ。もしこの男が大芹だったら、何で変わってしまったんだろう)
村人が笑顔で診療所を出ると、今度は幼い少年少女が入って来た。
『芹美ちゃん!!遊ぼー』
「お友達が来たようだ。芹美、皆んなと遊んでおいで」
「はーい!!お父ちゃんとお母ちゃんもお仕事頑張って!!」
「あまり遠くへ行ってはだめよ」
大寿とお園は笑顔で娘を見送った。
芹美が友達と遊びに行った後、大寿はため息を付き、机に顔を当てていた。
「ふぅ・・・たまには温泉に浸かりたいなぁ」
「そう言いながらも、休日は医学書を読んだり、薬草を育てたりと仕事熱心じゃない」
「ああ。今の時代、未知の病も多い。疫病対策出来るよう休みの日も薬の研究をしている。・・・そんな俺に尽くしてくれて申し訳ない、お園」
「そこは、ありがとうって言って欲しいわ。私は、家族と村人思いのあなたが大好きよ。芹美も言っていたわ。あなたのようなお医者様になりたいと」
「嬉しい事言ってくれるな。俺は、皆が苦しむ姿を見たくないのと、救える命を救いたい。綺麗事を承知でも、それが俺の願いだ」
「皆、あなたの優しさに感謝しているわ。大寿さんが村医者で良かったと皆言っているわよ」
「決して高度な医療技術は身につけられないけど、それでも医師になれて誇りに思う」
その後も大芹とお園は、深夜に熱を出した者や、陣痛を起こした妊婦を介抱したりと、休みを問わず村人に尽くした。そして村人の出産時、大芹は喜びに満ち、赤子を抱っこし村人に見せた。
「新しい命と、新しい村の仲間だ。今日という日を皆で喜ぼう」
赤子が産声を上げたと同時に、村人は盛大に喜んだ。しかし、その幸せは間もなく壊れようとしていた。
風景が変わり、桜龍は村人達が病に苦しむ姿を目にした。体は腐っていき、原型をとどめない醜い姿へと変わる疫病が都の郊外で現れた。
「・・・すまない助けられなかった」
大寿は村の広場で、病で息絶えた村人に謝り涙を流していた。大寿自身も病に侵されている、左顔面に焦げ茶色のアザが現れ始めた。
「大寿さんは頑張ってくれたよ。それより、お園ちゃんと芹美ちゃんを見てほしい。彼女達も危ないだろう?」
全身が腐りかけ、衰弱している村人は死を覚悟していた。大寿はすまないと告げ、家に戻った。すると、寝台に寝かされていたお園も息を引き取り、隣で芹美が涙を流していた。
「母ちゃん・・・死んじゃあやだよ・・・」
芹美も病が深刻化していき、大寿は妻の死を悔やみながらも急ぎ、最終手段を考えた。
大寿は芹美を抱え、都の御所へ向かった。もしかしたら芹美やまだ生きている村人を治療してくれる。薬を分けてくれる。微かな希望を胸に役人に『助けてください!!』と御所の門前で懇願した。しかし・・・。
「あいにく、都の医師は公家を治療するので手一杯なのだよ。それに、都郊外の疫病など知った事ではない」
「そんな・・・村は壊滅状態なのですよ!!お願いします!!娘は病で苦しんでいます!!どうかお助けを!!」
大寿は役人達に芹美の姿を見せた。その時、大寿の右腕が腐りかけ、変色していたのを見られた。
「気持ち悪い病魔だ!!退治してやる!!」
その時、役人は持っていた刀で、大寿の右腕を肩から切り落とした。大寿は強烈な痛みに悲鳴を上げた。桜龍は何が起きたか信じられない顔をした。さらに、役人達は持っていた鞘で大寿と芹美を殴り続け、病魔退散と連呼した。桜龍は『止めろ!!』と大寿の前に仁王立ちしたが、すり抜けられた。
「や・・止めてくれ!!芹美は傷つけるな!!」
大寿は片腕で芹美を抱き、必死で打撃から庇った。
「しぶとい病魔共だ。油をかけろ」
役人は一斉に親子に油をかけ、そして松明を大寿の体に投げた。火は瞬く間に大炎上し、親子を焼き尽くした。
「お父ちゃん・・熱いよ!!苦しいよ!!」
「芹美!!芹美!!もうやめてくれ!!か・・神様、どうかお助けを!!」
「汚れた妖魔など神が助けるかよ!!聖なる炎で焼け死ねよ!!」
役人達は正義を振りかざし、親子を罵り苦しめ続けた。すると、大雨が降り始め、火は弱まってきた。
「っち、良いところで雨か。まぁこれだけ焼けば死んだだろう。病魔退治したから官位が上がる🎵」
役人は黒焦げになった親子を、汚い袋に入れ牛舎に入れた。そして、廃棄物のように捨てられた。そこは、大寿達の村だった。家も畑も跡形もなく焼け野原となっていた。この間、産まれたばかりの赤子とその両親も焼死体となり転がっていた。まだ息があった大寿は涙を流しながら、村を見ていた。
「みんな・・・すまない。俺の医療技術が足りなかったから。俺が弱かったから、村を護れなかった・・・」
「おとお・・ちゃん・・・」
黒焦げになり、もはや原型を留めていない芹美は最期の力を振り絞り、父に話しかけた。
「皆んな死んじゃったね・・・母ちゃんも友達も村の皆んなも・・・」
「もう喋るな!!芹美!!」
「あたし、お父ちゃんみたいなお医者さんになりたかった。父ちゃんみたいに困っている人を助けたいと思った・・・疫病や火にも強い体になれれば良かったね」
芹美は息を引き取った。大寿は大声で叫び、娘の名前を呼び続けた。
「死ぬな・・・芹美!!芹美ー!!!!」
むなしい叫びと同時に冷たい雨は止んだ。