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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

豹剛は平安の終わりに、播磨国の名門武家貴族の生まれだった。しかし彼は、生まれつき足が不自由で、武家に生まれてきた者の恥とみなされ、物心ついた時には地下牢で働かされていた。ひたすら矢を作る作業をさせられ、外の世界を知らず30年近く生かされていた。
「ここが、お前の世界だと言われたんだ・・・何を作ってるかも分からず、ひたすら言われるがままに矢を作ってたよ」
彼には考える能力も抗う力も存在しなかった。それが自分の世界なんだと受け入れていた。そんな時、数日経っても貴族共の残飯となるエサと、矢の材料を持ってきてくれる者が現れなかった。男の空腹は限界に達し、地を這いつくばりながら外に出た。すると、屋敷は炎上し周りには多くの死体が転がっていた。男は見た事がない光景に、恐怖を感じ涙を流した。
「みんな・・・どうしたんだよー!!起きてよ!!お腹すいたよー!!」
男は死というものを理解していなかった。その時、白い漢服を着た奇妙な男が目の前に現れた。
「何だ?まだ生き残っている者が居たのか?」
「あんたは誰?ここは何処なんだ?何でみんな寝てんだ?」
「君は屋敷の者かね?」
左顔面に傷がある男は足の不自由な男に近づくと、男は怯えながらうずくまった。
「ひぃ!?ごめんなさい!!ちゃんと言われた数を作ったよー!!だから、飯抜きなんて言わないで!!叩かないで!!」
(こいつは、大人なのに幼児みたいな異常な怯え方だ。まさか・・・)
男は状況が読めたのか、涙を流す男を落ち着かせた。自分は敵では無いと名乗った。
「私は大芹という闇の科学者だ。と言っても意味は分からぬだろうけど。君が作った物は死体に刺さっている矢かね?」
科学者の男は死体に指を指すと、男は驚き戸惑っていた。
「・・・これ・・オラが作った物・・・みんなの体に刺さってる・・・」
「・・・この屋敷では家督争いがあったみたいだ。私がここへ来る前に後継者同士での殺し合いは終わっており、屋敷の者は全滅したみたいだ」
「そんな・・オラの作った物は、殺し合いの道具に使われていたのか・・・オラはどうして外に出させてもらえず、こんなもん作らされていたんだ・・・」
大芹は悲壮感漂わせる顔で、男を哀れだと思っていた。
「・・・君は、何も知らず育ったのだな。名前は何という?」
「なまえ・・・?オラはクズとかノロマって呼ばれたから、たくさんあって分かんないよ。あと、『ちゃくなんの成り損ない』とか怒鳴られていたなぁ・・・」
「・・・それは名前ではないよ。君はおそらく奴隷とかでは無く、この一族の者だったようだな。だが、足が不自由なのを理由に名前すら与えられなかった人間以下の扱いを受けられていたようだ。・・・この白ヒョウのように」
大芹は担いでる白ヒョウの死体を男に見せた。足には無数の傷があり、皇族や公家による見世物として、拘束され傷つけられ、自由を奪われていた。
「六甲山で廃棄されるところを助けた。このヒョウは北方の大陸から狩られ、日ノ本の公家に売られた。なんとも哀れな・・・」
「こんなに綺麗で勇ましいのに、可哀想に・・・」
「君はこのまま、このヒョウと共に野垂れ死ぬか?」
「・・・オラは足が動かない。外の世界も知らない・・・何も教えてくれなかった。オラのような弱い奴は生きられない。だから・・・」
男は涙を流しながら、落ちていた刀で首を斬ろうとした。しかし、大芹が止めた。
「君は、知識が無いだけで、知能と適応能力は充分ある。それに、足だって動けるようにしてやる。白ヒョウと同様、虐げた人間共に仕返しをしたいと思わないか?」
男は刀を落とし、白ヒョウの皮を触った。すると、怒りの声が聞こえた。
『おのれ・・・人間共が憎い!!家族を・・仲間を皆殺しにし、俺や仲間を売りつけ見世物にし、傷つけたり殺した人間共が憎い・・・』
男は涙を流しながら決心し、自らの意志で大芹に頼み込んだ。
「オラの命を君に譲りたい。・・・大芹さん、頼む」
「良い答えだ。君は新たな力を得ることが出来るのだよ」
大芹は男の冷えた手を優しく握った。その後、男と白ヒョウは大芹により半獣型魔改造戦士となった。そして、豹剛と名付けられ2つの命を共有する身体となった。


そして現実に戻り、豹剛は話を続けた。球磨はなんて残酷な過去なんだと辛い気持ちでいた。
「大芹さんが言うには、オラは武家貴族の嫡男だったらしい・・・足が不自由なのを理由に、存在を隠されて地下牢で働かされていたと」
「・・・人間以下の扱いを受けていたんだな・・お前の辛さ身に染みて分かるぞ」
球磨は豹剛の悲しい過去に同情した。しかし、豹剛は凶暴に変わり、自らの憎しみも訴えた。
「てめぇに!!俺の何が分かる!!俺はシベリアで妻と子と仲間達と大地を駆け回っていた!!だが、狩猟人どもに家族を殺され、毛皮は売られ、俺も足を斬られて売られ、公家どもの見せ物にされた!!俺と人間のこいつの憎しみは一生消えねーんだよ!!」
球磨は2つの命の悲しさを充分理解しながらも、間違った事をしていると説得した。
「俺は乱世で一族が分裂して、家族を殺され弟と引き離された。俺だって、父と母を殺した連中を恨んださ。だが、それで家族は喜ばない。死んじまった家族や皆の為に正しく生きると決めたんだよ!!」
「綺麗事言ってんじゃねーよ!!」
「お前は憎しみで人間を喰い殺して、家族がそれで喜ぶと思ってるのか!!」
「なに・・・お」
「俺は闇と戦い、お前みたいな憎しみに囚われている奴らを救いたい!!」
豹剛は凶暴な人格から、穏やかで弱気な人格に変わった。
「う・・・球磨・・オラは大芹さんに感謝しているよ。大芹さんはオラに美味しいものを食べさせてくれた。お箸やお茶碗の持ち方も食べ方も教えてくれた・・・。読み書きだって教えてくれた・・・オラを人間らしく扱ってくれたのは、あの人なんだ・・・」
「黙れ!!貴様は引っ込んでろ!!俺はこいつを始末すんだよ!!」
「も・・もう止めようよ、豹のオラ。もう君には憎しみで戦って欲しくない」
豹剛は涙を流し、必死にヒョウの人格を制御していた。
「黙れ・・・俺は醜い人間共をせん滅させないと気がすまねーんだよ!!!」
「もう・・いいんだよ。オラは、虐げた人間共に復讐したくて君の力を利用していたんだよ。だけど、オラはもう憎しみに囚われたくない」
「う・・うるせぇ!!それならまず、テメェの首握り潰してやる!!」
豹剛は自らの首に爪を立て、握り潰そうとした。しかし。
「豹剛!!お前の憎しみと悲しみを浄化してやる!!」
球磨は炎の槍から聖火を放った。
「憎しみも悲しみも消え、安らかに眠れ・・・アーメン」
「あー!!あー!!嫌だ・・・俺様はのさばっている人間共に復讐を・・・」
豹剛は聖火に焼かれ苦しみもがいているが、その時、シベリアの草原と地平線が目の前に現れ、豹の親子が映った。
『あなた、もう憎しみから解放されて、私達と黄泉の大地を走りましょう』
『父ちゃん、黄泉で幸せに暮らそう』
「お前たち・・・ああ。俺はまた家族と大地を駆け回れるんだな・・・憎しみから解放してくれて、ありがとうな球磨」
豹剛は満足な笑顔を球磨に向け、白ヒョウの魂が豹剛から抜けた。
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