このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

氷雨は平安時代、近江国で織物業を営む家系に生まれた。職人の父と母、歳が近い優しい姉との4人家族だった。10歳の氷雨は、少女と間違えるほどの可愛らしい顔で、良く両親が作った着物の試着などをして喜んでいた。
「あら、氷雨ちゃん可愛いー。十二単が良く似合うわ」
「ありがとう、姉様。ボク・・アタシ、これを着ていたいけど、男の子はダメだよね・・・」
「残念だけど、十二単は貴族の女性しか着られないのよ・・・でも、髪飾り位なら可愛いのを付けても良いんじゃない?」
姉は氷雨の透き通った水色の髪に、桃色の薄く太い紐を結んだ。
「わーい!!姉様ありがとう。アタシが女の子に憧れるのを話せるの姉様だけだから嬉しいよ」
「氷雨、あなたも織物職人を目指せば良いわ。女性の気持ちになって、可愛い着物を織ったり染めたり出来るわよ」
「そうだね、アタシ、父様の後を継いで、織物職人になる」
しかし、それは叶わなかった。数年後、氷雨は17歳になり父の後を継ごうと修行をしていたら、領地の兵士が工房に入って来て、氷雨の華奢な腕を掴んだ。
「お前は男だろう!!これから戦が起きるから徴兵だ!!こいつを連れて行くぞ!!」
「困ります!!氷雨は大切な跡継ぎです。どうか見逃して下さい!!」
父が兵士を息子から離そうとしたが、刀で胸を貫かれた。
「父様!!」
「素直に差し出せ!!」
「よくも夫を・・・氷雨は渡さないわ!!」
「氷雨は女よ。野蛮な戦よりも機織りをするのが好きなのよ!!」
「女の分際で口答えするな!!」
兵士は母と姉も容赦なく斬り殺した。
「母様!!姉様!!嫌ああー!!!」
氷雨は涙を流していたが、大男の兵士に殴られ担がれた。別れの言葉も言うのも許されぬまま、兵士の詰所に連れてかれた。


しばらくして、氷雨は過酷な訓練をさせられていた。ある時、氷雨は鍛錬から逃げ出したのが見つかり、蔵の中で折檻されていた。
「馬鹿者が!!これでも男か貴様は!!これでは戦に出られないだろう!!」
「アタシは殺し合いなんてしたくない!!それに家族を殺したアンタを許せない・・アタシはアンタ達のようにはなりたくないわ!!」
「ほう?俺様に逆らうのか?貴様のような男でも女でもない非人間が偉そうな口聞いてんじゃねぇ!!」
兵士は氷雨の頬を鞘で殴った。氷雨は絶望感に陥っていた。自分は女になりたくてもなれない。だけど男でいたくない。自分の性はなんなのだろうと。
「未だに女の髪飾りなんぞ付けやがって!!こんなもん付けてるから弱いまんまなんだよ!!」
兵士は氷雨の髪を引っ張り、桃色の紐を奪い取った。
「返しなさいよ!!それは姉様がアタシにくれた、大切な紐。あんた達が殺した姉よ!!」
「うるせぇ!!これからお前を立派な兵士になるよう調教してやる!!それなら家族も喜ぶだろうよ」
「嫌よ!!アタシの意志に反して勝手に兵士にさせるくらいなら、死んだ方がマシよ!!」
兵士は狂った顔をし、氷雨の腹部を蹴った。
「そうかよ。だが、考えてみればお前、綺麗な顔だな。兵士が嫌なら俺らの慰み者をしたって良いんだぜ。女っていうならな!!」
兵士は氷雨の着物をビリビリに破り、のしかかって来た。
「嫌ああー!!誰か・・助けて・・・」
兵士は嫌らしい顔をし、氷雨の白く華奢な胸板や首筋を舐め始めた。
「うへへへへへ・・・こいつは良い。兵士の中には男色も居る。てめぇは慰み者がお似合いだぜ」
兵士は氷雨の褌も脱がそうとした。その時、大男の胸は背中から黒い異形な腕で貫かれた。
「え・・誰かしら?」
男は白い漢服姿で、医者か科学者のような姿だった。左顔面に傷を縫った痕があり不気味な姿だったが、どこか悲壮感を漂わせていた。
「下級武士の分際で、人の性を侮辱したり弱者を痛めつけるのは滑稽だな。こいつに全てを奪われた君も不運だな」
男は氷雨に覆い被さっている死体を軽々と放り投げ、彼に羽織を着させた。
「助けてくれて、ありがとうございます。でもどうして、アタシを助けてくれたの?」
「単純に権力を奮いかざす奴が気に入らなかっただけさ。あと、君に可能性があると思ったからだ」
「可能性って・・・?」
氷雨が首を傾げていると、男は軽く笑いながら彼の顔や体に塗り薬を塗った。
「透き通った綺麗な顔と体をこんなに痛めつけて。折檻された痕も残っているではないか。新たに生まれ変わってみないか?」
「生まれ変わるとは?」
「君は自分の性を悩んでいるのだろう。それなら、好きな時に女にも男にも何だってなれる体になりたいと思わないか?」
氷雨はそんな上手い話を信じられずにいたが、気になったので一応聞いてみた。
「・・・それは、多額なお金が必要なの?」
「金は要らない。ただ、闇の一族に仕えれば良いだけ。君はもう帰る場所がないようだし、どうかね?」
「こんな世の中、ウンザリだわ。女であれば下に見られるし、男は強くなくてはいけないなんて。アナタ、お名前は?」
「私は大芹。科学者だが、医師もしている」
「アタシは氷雨。織物業をしていたけど、こいつに家族を殺されたの。仇を討ってくれてありがとう大芹さん」
大芹は氷雨に優しく笑いかけ、傷を癒した後、陰のニホンへ連れて行った。そして、闇の天守閣の地下研究室で、性を持たない液体型魔改造戦士となった。


そして現実に戻り、湘は何も言わず真剣に氷雨の話を聞き続けた。
「大芹さんはアタシの苦悩を受け入れてくれた。だから、利用されていても良い。アタシはあの人に尽くしたいわ」
「本当に大芹を慕っているのだな。だが、君達は悪事に手を染めている事には変わらない」
「それじゃあ、アタシを始末するの?」
「いいや、豹剛と大芹の悪行を止める役目をしてもらう。厳美と若桜は難しそうだが、その2人なら出来そうだ」
氷雨は嫌そうな顔をして湘に反論した。
「あら?アタシがそんな事するとでも?裏切ってアナタを殺す事だって」
「それはどうかな?君は私に、話し辛い過去を話してくれた。私に心を許したという証拠だよ」
「・・・アタシを口説いたつもり?アタシはアンタなんて好みでは無いわ」
「君は、大芹か豹剛が好きなのだろう。ならなおさら2人を止めよう。おそらく卑弩羅も黒羽も君達を捨て駒にしか見ていないと思う」
氷雨は心の中では分かっていたのか、湘の言う通りかもしれないと素直に受け入れることにした。
「・・・そうね。大芹さんと豹剛君が助かればそれでいいわ。さぁ、まずは豹剛君が居る酒田へ向かいましょう」
「君は、男でも女でも魅力的だよ」
氷雨は湘の口説くような言葉に黙り込みながらも、内心は嬉しいと思っていた。
「その前に、白石の民に飲ませた傀儡の液体を消したまえ」
「・・・仕方ないわね。もう白石にも氏郷にも用はないから戻すわ」
氷雨が術を念じると同時に、白石の民の体に入っていた液体成分は消え、正気に戻った。民達は氏郷が城に戻って来て、盛大に喜んでいた。


第8話 完

56/81ページ
スキ