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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

湘は皆を先に行かせ、雪が積もる蔵王に着いた。白石の城下町は少し寒さを感じる程だったが、標高の高い蔵王は豪雪地帯となっていた。
「ここは初めて来るが、確か御釜があったな。氏郷殿達はどこに囚われているのか?」
湘は気配を殺しながら、雪道を進んで行くと、高台から青緑色の美しい御釜と、幾つもの氷の柱が見えた。
「蔵王の氷柱か・・・まさか!?」
湘は氷雨の分身が言った事を思い出していた。『蔵王でアタシの展示物にしている』と。あの氷柱は氏郷達だと湘は急ぎ向かった。


その頃、人間が入れられた氷柱が並ぶ中心に、氏郷は小袖姿で膝まで凍らされていた。
「ふふふ、そろそろ限界でしょう。大人しくアタシに従えば、家臣達を助けるわ」
氷雨は氏郷の頬を冷たい手で撫でた。しかし氏郷は寒さに耐えながら気丈に言い返した。
「ふ・・君は魔王の手先かね?私は悪魔に手を貸したくはないが、家臣や兵達を解放しろ・・・」
「綺麗な顔して強情ねぇー。アナタ、女になりたいと思った事はない?」
「あるわけないだろう・・・ボクは昔から信長様や秀吉様に憧れて侍を目指したのだから・・・」
「ふぅーん、つまんないわねー。女なら今の状況で泣きべそかけるのに」
「残念だが、ボクが女城主でも泣かないさ。寒い東北に改易は正直嫌だったが・・・秀吉様に任された事は成し遂げるし、白石の民を愛しているからな」
「美しい忠誠心と郷土愛だけど、あなたには死んでもらうわ。安心なさい、家臣と領民は闇の一族が貰い、厄神を崇拝する民にするから」
氷雨は手を液体化させ氷の刃となり、氏郷の心臓を貫こうとした時、銃弾が氷の刃を砕いた。
「悪趣味はそこまでだな。氏郷殿達は解放されてもらうよ」
「き・・君は確か北条に仕えていた湘という者か?何故、秀吉様に仕える私を助けたのだ?」
「敵も味方も関係ありません。私は、純粋に氏郷殿を助けたいと思い参りました」
「助かったよ、湘。君が助けてくれなかったら、私も家臣達も皆殺しだった。ありがとう」
湘は氏郷に防寒服を着させていると、氷雨は殺気漂う不気味な笑みを浮かべ言った。
「あら?負けた半魚人じゃないの。惨めな思いをして、のこのこ現れたのね。アナタも氷柱の展示物にしてあげようかしら?」
湘は氷雨の挑発を無視して、手の平からお湯の波を放ち、多くの氷柱にぶつけた。すると氷は溶け、家臣や兵士が寒さで震えながら現れた。
『氏郷様!!ご無事で何より!!』
「皆の者、生きていて良かったよ!!湘が君達を助けてくれたのだよ!!」
「湘殿、我が主君と私達を助けて頂き、感謝いたします!!」
家臣と兵士は湘に頭を下げたが、湘は爽やかに「礼には及びません」と笑顔を向けた。
「ここは私にお任せ下さい。皆は白石城へ速くお逃げ下さい!!」
「氷柱から解放されたところで、逃げる前にこの寒さで凍え死ぬわ」
氷雨は不敵な顔で高笑いしていると、突然地面が揺れ、地下から広範囲に水が噴き上がった。同時に巨大な斧を手に持った海洋族の大男が湘の目の前に現れた。
「湘!!救援に来たぞ!!」
「亘(わたり)か。地下水脈からの救援、感謝する」
「ああ。海洋族と土竜族の共同作業だ。後で蔵王を元に戻さないとならぬけどな」
「早くしないと皆んな凍死してしまうね。皆んな人魚になーれ!!」
すると、星形の浮遊物に乗ったキザな魔術師が杖を掲げて、華麗に登場した。
五十鈴は杖を氏郷達に向けて淡い光を出すと、皆に人魚の足が着いた。家臣達は驚いていたが、氏郷は感動していた。
「おお!!使節団から聞いた北欧に伝わる人魚か!!一度はなって見たかったー♪」
「感動してねーで、さっさと逃げるんだよ!!ちなみに、俺らは日の本の海洋族だからな!!」
せっかちな性格のアナンは氏郷の腕を引っ張り、穴の中に入った。氏郷達は海洋族の導きで無事に蔵王の地下水脈を通り逃げられた。湘は逃げ遅れた者が居ないと安心し、気を引き締め氷雨に銃剣を向けた。
「さて、これで人質は居なくなった。私と決着を付けてもらおうか、氷雨」
「あら、アタシを何だと思っているの?ここは雪も氷も御釜もある。水がある所はアタシに有利な場所よ」
「それは私も同じだ。私が君の毒水を浄化してやろうか」
氷雨は液体姿となり蛇のような形をし、地面に潜った。湘は静かに下を見て気配を感じ取った。
(奴は水と同化できる。この場だと私に不利だが)
湘は長靴の底に氷の刃を付け、大蛇が地面から出てくると同時に滑り逃げ、勢いよく体を旋回させ飛び跳ねた。そして、接近してくる大蛇の目を足の刃で斬り、さらに大蛇の頭上にかかと落としを喰らわせた。湘は華麗に着地しキザな台詞を言った。
「私の事を氷上の貴公子と言っても良いのだぞ」
「く・・・相変わらずキザね。でも、アタシの力はこれだけでは無いわ!!」
今度は大蛇が分裂し、イワシの大群のように湘に襲いかかった。
「アンタの体を骨も残らず食い尽くしてやるわ!!」
しかし水と氷を操る湘の敵では無かった。
「私が操るのは水だけでは無いよ」
湘は無数の火薬玉を氷原に投げ捨て、後ろに跳躍し、銃弾を火薬玉目掛け乱射した。すると火薬は大爆発を起こし、無数の蛇を破壊した。
(これだけでは無いはずだ。氷雨も本気を出して掛かって来るはず)
湘は辺りを警戒していると、蔵王の御釜から殺気が現れた。湘が振り向く前に、御釜の水は彼を捕らえた。粘液のようにへばり付かれ、身動きが取れなかった。
「ふふふ、アタシはどんな液体でも同化出来るのよ。アンタをジワジワと溶かしてあげる」
「く・・まさか、御釜の中に身を潜めていたとはな・・・」
湘の服は酸により溶け始め、氷雨は液体から顔と手を出し、湘の厚い胸板や引き締まった腰を撫で回した。湘は酸による皮膚の痛みと氷雨の気色悪い行為に嫌悪感を抱いた。
「うぅ・・ああぁ!!私をじわじわとはずかしめる・・悪趣味な攻撃だな・・・」
「あら?女にやられて屈辱かしら?それとも、アタシを倒せないで死ぬ悔しさかしら?」
氷雨は彼の頬から耳を透明な舌で舐め回し、誘惑するかのように囁いた。
「最後の忠告よ。降参して卑弩羅様に仕えるのなら許してあげる。それと、大芹さんと黒羽様に頼めばアナタを完全な海洋族に変化させる事も出来るわよ」
「・・・私は闇の者には手を貸したくないのでね。それより君は何故、女にならず、性別が分からぬ液体人間となったのかね?」
湘は苦しみながらも不敵な笑みを絶やさず、氷雨に聞いた。
「アンタに関係ないでしょう。アンタは確か海洋族にもなれず、人間でもない、どっち付かずの存在でしょう。アンタは自分の出生を憎んだことないの?」
「残念だが一度も考えたことは無いな。私は海洋族でも人間でも無くても、私は湘という1つの存在だからな。それに私は前向きだから、海洋族と人間の良い部分を引き継ぎ、混血種を受け入れている」
「何よそれ・・・何でアンタは自分の存在を簡単に受け入れられるのよ!!」
「やれやれ・・金切り声にも疲れたし、きわどいところまで服を溶かされたから、もうここまでだな。私の真の力を見せてあげるよ」
湘は気を高め、青い光に包まれ人魚の姿に変化した。氷雨は聖なる光から逃れるために湘から離れた。
「私は父から海龍の力も受け継いだ。私は人間と海洋族の両方の血を誇りに思っている。その思いで君の毒液を浄化させてもらうよ!!」
海龍となった湘は氷雨に巻き付こうとした。
「アンタ!!まさかこれが狙いだったの!!でも、アタシだって大芹さんへの恩を返していないわ。だからアタシは絶対に負けない!!」
氷雨は最後の悪あがきで御釜の水を全部取り込み、巨大な液体の巨人となり海龍と戦おうとした。しかし、巨人が拳をぶつけても海龍には全く効いておらず、海龍は氷雨の憎悪の力を吸収していった。そして巨人が小さくなったところを、海龍は強く巻き付き始めた。
「ああ!!!!アタシはただ・・女に憧れていた弱い男のアタシを受け入れて欲しかったのよ!!」
「そうか、君は自分の性に悩み、それを否定した者達が許せなかったのだな」
海龍は優しく氷雨を包み込んだ。氷雨は湘に抱きしめられた時、憎悪の力は完全に浄化された。
氷雨は元の美しい体に戻り、湘の胸の中で涙を流した。
「アタシは・・・女になる事に憧れていたけど、それと同時に性別なんて関係無い、強い人間になりたかったわ・・・」
氷雨は海龍に悲惨な過去を話した。
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