このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

千里と義経が戦っている時に、弁慶は梓に自分達の事を話していた。
「義経は燃え上がる中尊寺の御堂から、地下道へ逃げて土竜族の八郎王に救われたのだ」
「やはり、八郎王があんたらを人造戦士として蘇らせたべさ?」
「ああ。俺は近くに居た魔改造戦士を壊滅させたが、矢が体中に刺さっていたうえに、大芹(おおぜり)って凶悪な奴に胸を貫かれて死んでしまってな・・・」
弁慶は笑い話で言っていたが、梓にはむごい最期を迎えたと心を痛めていた。弁慶は気を取り直し説明した。
「その後、俺の亡骸は源氏に見つかること無く、土竜族の霊廟に祀られたみたいだ。そして、土竜族の技術で、魂を光玉に入れて、人造戦士として蘇らせてくれたのだ。千里の覚醒を見守る為に」
「そうだったんべさ。そんじゃあ、義経殿も?」
弁慶は義経のその後も梓に話した。


平安末期の奥州平泉で、義経は魔改造戦士『厳美(げんび)』と戦っている千里を残し、中尊寺の御堂にあった隠し扉から地下道をひたすら走り続けた。御堂は大芹達の手によって燃やされ、強力な炎が地下道にも回り始めていた。
「く・・・若桜、弁慶、千里・・・すまぬ」
義経は何処に続いているか分からぬ地底への道を必死に駆け続けた。外の世界と遮断された地底世界は、今が昼なのか夜なのか分からない。義経は近くに地底村が無いか走り続けていたが、力尽きて地下道で倒れてしまった。
「く・・・土竜族の者達に安曇(あずみ)殿を救えなかった事を詫びたかったのに、私は何も出来ず死んでしまうのか・・・」
義経は立ち上がろうと最後の力を振り絞ったが、意識が遠のいていった。すると、発掘調査に来ていた小太りの小人達が、彼が倒れているのを見つけた。
「おんや?こんな所に何で人間がいるべさ?」
「見たところ、若造1人だけみたいだべぇー。起きねーみてーだが、死んでねーよな?」
「息はしているから大丈夫みてーだ。とりあえず、湯沢村に居る八郎王の元へ連れて行くべさ」
小人達は怪力で軽々と義経を掲げながら、俊足で羽後湯沢(現秋田県湯沢市)の地底村へ向かった。


義経は夢を見ていた。辺り一面を白銀色の世界に囲まれた、寒く広い大地。目の前にまだ見たことが無い巨大な山塊が見え、義経は目を奪われていた。
「ここは・・・日ノ本なのか?それともまだ見ぬ北の大地か?私はここまで逃げ延びたのか・・・」
すると、今度は体中から暖かさを感じた。走り続け、マメが潰れた足の痛みは無くなり、体全体の疲労も消え始めていた。
「先程まで、雪景色だったのに、今度は暖かい・・・まるで、湯に浸かっているようだ・・・」
義経は徐々に意識が戻り始め、目を覚ました。すると、広大な地下空洞にかやぶき屋根や木造の家屋が建っている不思議な空間に驚いていた。
「え!?ここは・・・地底の村なのか?」
義経は甲冑からいつの間にか甚平を着せられていて、足元は温かい湯が浸かっていた。
「体が温まっていたのは足湯のおかげだったのか。ということは、ここは温泉があるのか?」
義経は足湯から出て、置いてあった草履に履き替えると、傍に黒茶色の頭巾で姿を隠した小人に声を掛けられた。
「目が覚めたか、若造。湯沢の足湯は気持ち良かったか?」
「はい、こんなに気持ちの良い湯に浸かるのは初めてです。申し遅れました。私は源義経です。・・・もう源ではないので、義経と呼んでください」
「義経か。やはり貴殿はここに来ると思っていたべさ。貴殿は、羽後湯沢村近くの地下道で倒れていた。そこを調査に来ていた同族が助けてここまで運んでくれたべさ」
「そうでしたか・・・助かりました。後で運んでくださった土竜族の皆にお礼を言わせてください」
義経は頭を下げると、腹から大きな音が鳴った。幼い小人達は義経の元に集まり、元気よく騒いだ。
「人間のお兄ちゃん、お腹の虫が大きく鳴ったべさー!!」
「お腹空いてるだず?皆で稲庭うどんときりたんぽ鍋食うべさ♪」
「ははは・・・そういえばもう何日も食べていなかったな・・・」
義経は気が抜けたような動作をした。小人は一瞬ため息をつき淡々と言った。
「これからの事を考える前に、腹一杯食わねーとな。羽後の郷土料理は精の付くものばかりだべ。村の皆と食ってけろ」
義経は幼い小人達に連れられ、湯沢村の村長の館に向かった。館では名物料理と地酒が振る舞われた。


その後義経の体力は回復し、助けてくれた小人達と共に土竜族の本拠地八幡平の地底へ向かった。
「おめぇーは、悪さをする奴じゃねーから、処刑される事はねーが、地底世界に来た理由を王に答えなければならねぇーだ」
「私も、八郎王や土竜族の皆に伝えねばならぬ事が沢山あります。刑罰は覚悟の上であります」
義経は臆すること無く堂々とした姿で、八郎王に会うことを覚悟していた。


八幡平の本拠地は、湯沢村の数倍空洞が広く、家屋の数も多い。また、天井には太陽のように輝く宝石が埋まっていたので、昼間の様な明るさだった。整備された町の中心に宮殿が建っていた。義経は遺跡のような宮殿を案内され、王座の間に通された。すると、湯沢村の足湯で話をした男が王座に座っていた。
「義経、よくぞここまで来たべさ。率直に言うが、何故地底世界に来た?」
「貴方が八郎王でしたか。話せば長くなりますが、まずは詫びなければならぬ事があります」
義経は、平泉での悲惨な出来事を八郎に話した。そして、戸隠で暮らしていた、安曇や何人かの土竜族を魔改造戦士の虐殺から助けられなかった事も、涙を流しながら詫びた。しかし、八郎は頭を上げろと命じた。
「安曇達の事はおめぇが悔やむ事はねえ。オラが追放し助けなかったから、オラの罪だ」
「ですが・・八郎王様」
「それより、義経に来て欲しいところがあるべさ。案内する」
八郎はぶっきらぼうな態度で、義経をとある場所へ連れて行った。


宮殿奥の霊廟に義経は案内された。
「本来は、他種族の侵入は禁止だが、そうは言ってられんべさ」
義経は目の前の墓石を見ると、武蔵坊弁慶と刻まれていた。義経は驚き、直ぐに弁慶の墓をまじまじと見つめた。
「弁慶の墓か!?何故ここに?」
「中尊寺から亡骸と魂を持って来た。救う事は出来なかったが、土竜族の霊廟に祀った。義経に会わせる為に」
「そうでしたか・・・弁慶の墓を作ってくれて、感謝します」
「・・・少し弁慶と話をさせてやるべさ」
八郎は祝詞を唱えると、淡い光の中から、墓の前に弁慶の魂が現れた。
「義経か・・・無事に地底世界まで逃げられたのだな。俺は死んでしまったが、亡骸と魂は八郎王に救われた。俺は時が経ったら、目覚めるぞ。未来で千里が待っているからな」
「千里は無事だったのか!?」
「鎌倉で魔改造戦士共に破壊される前に、オラと飛天族長『蕨(わらび)』が助けた。今は上野(こうずけ)と信濃の境にある浅間山に封印しとるべさ」
「そうだったのか。私はどうすべきか・・・」
義経はこれから先、どう生きるべきかと悩んでいると、湯沢で見た夢を思い出した。
「八郎様、広い雪原の大地に山塊が連なる所をご存じですか?」
「それは、蝦夷の大雪山だべさ。もしやおめぇはそこへ向かうのか?」
「はい。私は蝦夷で修行し、未来で弁慶と共に千里に逢いたいと決めております。もし、私が蝦夷で朽ちたら、亡骸と魂の回収をお願いします」
「ほう、まだ見ぬ大地、蝦夷へ行くのか。土竜族もまだ開発していない土地だべさ。・・・仕方ねぇ。津軽半島まで送ってやるべ」


その後、義経は地底世界から陸奥国津軽まで通り、津軽半島最北端『竜飛岬(たっぴみさき)』に着いた(現青森県東津軽郡外ヶ浜町)。目の前に見える蝦夷の大地からは冷たい北風が吹き届いていた。義経は同行してくれた八郎と土竜族の皆に礼を言った。
「何から何まで、お世話になりました。八郎王、皆んな。私は、蝦夷で修行してきます。再び千里と会う為に」
「義経の覚悟、しっかりと受け止めたべ。おめぇなら、北の大地でやってけるさ。人当たりの良いおめぇなら、蝦夷(えみし)とも上手くやっていける」
八郎は大金槌で地面を叩いた。すると、轟音と共に岬の先が隆起し、龍のような形の道が現れた。
「この道は、しばらく経つと消える。早く渡るべさ」
「八郎王、最後までありがとうございます」
義経は八郎に敬礼し、津軽で入手した白馬に乗り龍の道を駆けた。それはまるで、天馬に乗った軍神のように見えた。そして、義経は蝦夷の霊峰、大雪山にたどり着き、千里の力となる為に修行し、命尽きた後、八郎が魂を保管し戦国の世に人造戦士として蘇らせた。
46/81ページ
スキ