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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

早朝、モトスと小助はわずかな木漏れ日を浴びながら、始祖探しを始めた。
「そろそろ樹海の奥に入ったが、まだ見つからぬな」
「う・・うん、そうずらね・・・」
小助の口数は昨日よりも少なかった。モトスは優しい口調で小助を励ました。
「小助、昨日の夢は気にするな。小助は梅雪の転生姿だが、小助は小助だ」
「それでもオラは夢を見てモトスおじちゃんに泣きついたずら・・・自分が情けないずら」
「小助は自分が思っているよりもずっと、しっかりしていて強いぞ。俺なんて強くなりたいと先走りすぎてよく失敗したものだ」
「モトスおじちゃんは最初から強くなかったずら?」
「ああ。張り切りすぎて日射病になってエンザン棟梁に注意されたものだ」
「そうだったんずら」
モトスは笑顔で過去話をすると小助は少し親近感を得た。すると、深緑色の木々が茂る不気味な樹海が見えた。
「ここは・・・誰も入った事が無さそうだな」
「おらは、怖くないずら!!もしかしたらこの先に始祖様が居るかもしれないずら」
2人は樹海に入る覚悟を決めた時、厳かな声が響いた。
「ここは森精霊でも入ることは許さぬ立ち去れ!!」
「あなた様は、始祖様でいらっしゃいますか?」
「貴様らに答える必要は無い。我が領域に入って来るな!!」
暗い木々の中から奇妙な植物が2人を囲むようにして襲いかかってきた。
「小助!!俺から離れるでないぞ!!」
「おらも戦うずら!!」
モトスは両手に曲刀を持ち、小助も脇差と扇を構え、素早い動きで黒い蔦を斬っていった。
「俊敏な動きに正確な切り込みだな、小助。白州は良き弟子を持ったな」
「白州兄ちゃんにみっちり鍛えて貰っているずら。お都留お姉ちゃんからは舞も教えてもらっているずら」
小助は自信満々に脇差と扇を掲げた。
(そういえば、梅雪も舞が得意だったな)
モトスは梅雪が少年時代から武田の皆に舞を披露していた事を懐かしく思っていた。
その後もモトスは双曲刀を舞うように振りながら風を起こし、黒い植物を切り裂いたり吹き飛ばしたりした。小助も遅れを取らぬよう扇や脇差しを振り、植物の接近を阻止した。しかしきりが無い攻撃にわずかな隙が出来てしまい、モトスは巨大なモウセンゴケに捕われてしまった。毛に付着している粘液に絡まれ身動きが取れず、魔力を溜め風の力で引き裂こうと試みても吸収されてしまう。
「小助!!逃げるのだ!!始祖様!!どうか小助には手を出さないで下さい!!」
「問答無用。魔の樹海に入った者は同胞であれ許さぬ」
「モトスおじちゃん!!今助けるずら!!」
次々と現れる蔦や葉の刃の攻撃に小助は必死に脇差で切り倒し、扇を振るい吹き飛ばしたりと抵抗したが、巨大な蔦に払われ、黒いウツボカズラの袋に入ってしまった。
「小助!!く・・早く助けなければ!!」
モトスは必死にもがき続けた。


小助は黒い液体に沈んでいた。
「おらはこのまま、モトスおじちゃんを助けられずに闇に溶かされるずら・・・」
小助は液体の中で溺れ沈みそうになった。もう絶望だと感じた時、薄紅色の美しい蝶の群れが現れ、少年を包み込んだ。
「暖かい・・・でも懐かしい感じがするずら・・・」
小助は思い出していた。成長する前の小精霊時代に自らが持っていた薄紅色のハネを。1匹の蝶が小助の手の平に触れると、壮年男性の優しい声が聞こえた。
「小助、闇に飲み込まれては駄目だ。お前には夢と希望があるのだろう。強くなり、立派な勇士になるという意志が」
「おじちゃんは・・・夢で見た、梅雪ずら?」
「ああ。俺はお前の前世だ。だが俺は、モトス達の力で憎しみや悲しみが完全に浄化され、お前が生まれたのだ。小助、モトスを助けたいという強い意志があれば、始祖が放つ闇を打ち消すことが出来る」
「梅雪さん・・・エンザン棟梁がオラを、モトスおじちゃんと共に樹海へ行っておいでと言われた意味が分かったずら。オラはモトスおじちゃんの力になるずら!!」
小助は強い気を溜め、薄紅色の光に包まれた。そして黒いウツボカズラは消えて浄化された。
「この気配は・・・梅雪が助けてくれたのか・・・」
「久しいなモトス。小助は俺が誇って良いほどの強い少年だ。お前もこんな所でジタバタしてはいられないぞ」
「はは、そうだな・・。梅雪、小助を助けてくれてありがとう。あの子に自信を持たせてくれて感謝する」
「ふん、素直に感謝されると鳥肌が立つな。さておき、この樹海は大昔、闇に侵食され、まだ残っていたようだ。おそらく始祖様は闇に侵された自分に近づかぬよう、小助に悪夢を見させたり、闇の植物を使い、侵入者を阻もうとしている。その闇を消し去れれば始祖様に会うことが出来るぞ」
「そうか・・・だから、誰も始祖様に会うことが出来なかったのか。長年闇に侵され、自らの存在を封印していたのか・・・今こそ始祖様を救出せねば」
モトスは体中から緑色の気を溜め続けた。
「無駄なことを!!何度やっても魔力や体力を吸収してやるわ!!」
「いいや、貴方の闇を取り除きますよ、始祖様」
モトスの溜めた気は、癒しの力だった。体に付着した粘液は消え、モトスはモウセンゴケの拘束から解放された。
「始祖様、私の名は森精霊の忍び『モトス』です。風の守護者として、真の力を覚醒させる為、貴方に会いに参上いたしました。そして、この魔の樹海から貴方を解放すべくここへ参りました」
「では、ワレの闇を打ち払ってみよ!!未だかつて誰も我の闇を打ち消した森精霊は居なかった。ワレの力を超えた者こそ、神精霊に相応しい!!」
「モトス、お前なら出来る。俺と母の憎しみを晴らしてくれたのだからな」
「梅雪、ありがとう。もう闇精霊を生み出してはならない。俺の癒しの力で樹海を浄化させる」
モトスは束帯姿と烏帽子を被り、神官のような姿となり、さらに翡翠のハネは大きくなった。そして、宝石の様に輝いている無数の蝶がハネから放たれ、闇の植物を浄化させた。
「始祖様。魔の樹海の闇を追い払い癒しの力で清らかな樹海にします」
モトスは神聖な竜巻を起こし、黒に染まった木々に取り憑かれた闇の塊を吹き飛ばした。そして空に舞った闇の塊を無数の蝶が1匹の巨大な蝶となり、太陽光でますます神々しい光に包まれていた。
「これが・・・神精霊の癒やしの力・・・私は・・闇に包まれ・・・あの子は闇の手に・・・・」
魔の樹海は完全に浄化され、美しい緑の広葉樹や草花が覆い茂る樹海に戻った。そして木々の先に、宝石のような青緑色の小さな湖を見つけた。
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