第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士
吉田集落で御伽勇士の活躍によって、梅雪達を追い払い、江津により、憎悪の感情で操られていた村人達も正気に戻った。
そして夜になり、勇士や村人たちは吉田集落の南に位置する山中湖の湖畔に集まっていた。料理が得意な球磨は、村の女達と置いてある兵糧でおにぎりを作り、味噌汁の中に採れたての野菜やタニシを入れ、精が出る料理を作っていた。そして、モトスと湘とエンザンは怪我をしている兵や民達の手当てをし、千里は土の魔法で村周辺に巨大な土や岩で壁を作り、敵が侵入できないようにしていた。
皆で料理を食べた後に、桜龍は山中湖の畔で、吉田集落の宮司や巫女が奏でる楽器の音色に合わせ、神楽鈴と扇を手に持ち、戦や残党狩りで犠牲となった兵や民を弔う舞を踊り、民達と一緒に湖に灯篭を流した。モトスは球磨と一緒に桜龍の舞を観つつ、湖に流れている多くの灯篭に黙祷をした。
(信玄公・・・勝頼様を御守り出来ずに申し訳ございません・・・ですが、勝頼様の意志は引き継ぎます。甲斐の民や美しい大地を護ります!!新しい同志たちと。どうか、後世では幸せな人生を歩んでください・・・)
さらにモトスは想い人の身も案じていた。
(お都留・・・どうか無事でいてくれ!!)
モトスが黙祷を終えると、隣で黙祷をしていた球磨が静かな口調で彼に話しかけた。
「桜龍ってさ、普段は神官の割にはのほほんとしていて、何考えてるんだか分かんねーけど、戦っている時とか、舞を踊っている時には恐ろしいほど冷静になるんだよな」
球磨は遠くで舞を続けている桜龍を眺めて言った。
「・・ああ。まだあの者とは知り合ったばかりで何も知らないが、何か未知の可能性を秘めているそうだ・・・」
そうは言っても、モトスは桜龍を一目置いているようだ。
「あいつは自分の事あまり話さないから詳しい事は分からねぇが、左目の眼帯で隠しているのは聖なる龍とか言っていたかな」
球磨は腕組をしながら桜龍の謎を考えていた。
「そういえば球磨、料理美味しかったぞ!!料理得意なのだな」
モトスが喜び、礼を言うと球磨は少し照れた顔をした。
「あ・・まぁ、俺は小さい時に天草の孤児院で世話になってな。料理や掃除などを手伝っているうちに家事が出来るようになって・・・・でも、得意は言い過ぎだぜ!!ダンナ」
「本当に美味しかったよ。限られた食材で栄養たっぷりの料理をご馳走になった。これからも球磨の手料理をもっと食べたいと思っている」
モトスの穏やかな誉め言葉に球磨は気合を入れて言った。
「よし!!それならこの戦が終わったら、肥後の料理を作るよ!!馬肉とか精が付く料理もあるぜ!!」
2人の雑談はしばらく続いた。
その頃、湘は村人たちから離れ、湖から少し外れた木陰でキセルを吸っていた。すると、千里がその場に近づいてきた。
「・・・湘さん?口にくわえている、それは一体何でしょうか?」
「やあ、千里君か。これはキセルという煙を吸う道具で、遠い国から伝来された物だよ。普段はあまり吸わないのだが、1人物思いにふけりたい時に吸いたくなるのだよ」
湘が丁寧に説明すると、千里は不思議そうな顔をした。
「・・・・400年以上眠っている間に随分と世の中が進んだのですね・・・。僕が封印される前の時代は宋や高麗としか貿易していなかったので」
「ふむ・・とすると、やはり君は本当に平安末期から鎌倉初期頃に生きていたのか・・・」
まぁ、自分も人とは異なる存在であるし、モトスも自然を愛する森精霊で、桜龍や球磨などの破天荒な人間を考えれば、今更千里が古の戦士だろうと驚きもしなかった。
湘は顎に手を乗せて、はーっと煙を吐いていると、千里がキセルをじーっと見ていた。
「それほど気になるなら、吸ってみるかい?」
湘はキセルの吸い口を綺麗な布で拭き、千里に渡した。千里は無表情から少し好奇心旺盛な少年のような眼差しになり、興味深そうにキセルの構造を見回していた。湘はそんな青年の子供っぽい一面に微笑ましく笑っていた。
(ただの人造戦士ではなく、ちゃんと年相応の青年らしい部分もあるではないか)
千里は吸い口から煙を吸ってみると、ケホケホとむせた。
「・・・・き・・きせるは当時の技術には無い面白い構造ですが、煙の美味しさが・・・良く分かりません。僕なら嗜むよりも、吹矢とか武器を仕込むかもしれません」
千里は素直な感想を言い、自分の手ぬぐいで吸い口を拭き、湘にお辞儀をして返した。
「ははは。それは中々面白い発想だな」
湘は笑いながらキセルを受け取った。
(千里が目覚めたのはこれから何か強大な敵が現れる前兆なのかな・・・)
湘は、千里から強い信念と怒りと悲しみを感じ取っていた。
桜龍が舞を踊り終えると、モトスが差入れとして地酒を持ってきた。そして、山中湖の多くの灯篭の光に反射する霊峰、富士を2人で眺めながら酒を酌み交わした。
「素敵な舞であったぞ桜龍。艶やかで神秘的な踊りに魅了されたよ」
「・・・ありがとう。正直緊張したよー。でも、宮司さんや巫女さんの演奏も心がこもっていたから、想いが伝わって踊りやすかったよ」
モトスはそうかと言い、彼に酒を注いだ。
「先ほど、球磨とも少し飲んでいた。彼は他の兵士たちとも飲み交わしているようだ」
「クマちゃん酒強いからなー。特に芋焼酎なんてガバガバ飲むんだぜー」
「ははは。確かに九州の者は酒が強いと聞くからな」
しばらく2人は酒を飲み交わしながら話し続けた。
「モトスさん・・お都留さんを救えなくて・・・ごめんなさい」
桜龍は深刻な顔をしてモトスに謝った。
「何故お前が謝る!!お都留は俺が早く助け出せなかったせいだ!!お前はむしろ、俺や民達の命の恩人だ!!球磨と湘と千里とエンザン棟梁もだ」
「俺は、大神官殿に江津討伐を命じられた。俺も自分の力を過信していたが、白州とやらに吹き飛ばされたぜ・・・。千里や皆に助けられてばかりだな・・・」
頭を抱えている桜龍の手をモトスは優しく握り言った。
「・・・俺だって、精霊の力さえあれば1人でも主君や民たちを護れると過信していた。だが・・・俺の方が皆に護られてしまうとはな・・」
モトスは苦笑いをし、桜龍はいつもの明るい顔に戻って言った。
「大神官殿は、江津討伐は俺にしか出来ない事と言っていたし、周りの神官や、小うるさい・・・巫女様が遠くの出雲から術で支えてくれる。それに、モトスさんや球磨、湘さんや千里、この地に導かれた勇士が居るから、今は全然怖くない。絶対にお都留さんを闇の呪縛から解放してやるぜ!!」
「・・・・桜龍」
モトスは桜龍の強い眼差しから一瞬、白金色の龍が映し出されたかのように見えた。聖なる龍からは未知なる可能性と新たな希望の力を感じ取れた。
(この者が聖なる龍に選ばれた理由が分かる気がする・・・)
モトスが感心していたその直後、桜龍の凛々しい表情が真っ赤な顔になり、デレデレとした表情へと変化した。
「だーかーらー、モトスのらんなは大船にのったつもりぃでー俺らがーらんなをー支えて護るからよぉをー♪」
桜龍はかなり酔いが回り、湖で泳ごうとしている彼をモトスは止めていた。
「お・・・桜龍!!酒に酔ったのなら静かにしていろ!!湖に飛び込んではならぬ!!」
モトスは背丈が同じくらいの桜龍を支えるのがやっとの状態で体勢が崩れ、湖に落ちそうになったが、間一髪のところを球磨が怪力で2人の大きい体を持ち上げた。
「危ねぇ、危ねぇ・・・もう少しで落ちるところだったぜ・・・」
「球磨・・助かったぞ。その・・桜龍が酔ってしまって・・・・」
「クマちゃん相変わらず力持ちだぜぇー」
球磨の太い腕にぶらぶらとぶら下がっている桜龍に2人は呆れていた。
「全く・・・・お前って奴は!!!下戸のクセに飲み過ぎなんだよ!!!!」
球磨はゆっくりと桜龍を下すと、桜龍はスヤスヤと気持ち良く眠ってしまった。周りで飲んでいた兵士や民たちも集まって、桜龍の姿を微笑ましく顔を見合わせ、笑っていた。
「先ほどの舞では近寄りがたいほどに神秘的だったべ」
「こーして見ると、結構ふぬけた神官殿ずらー」
皆が面白おかしい言葉を言っているのを知ってか知らずか、桜龍は深い眠りについていた。
少し遠くで、湘と千里も桜龍を見て笑っていた。
「・・・・やれやれ・・先が思いやられる神官だな・・・・」
「僕ほどではありませんが、彼も中々得体の知れない者ですね」
山中湖の灯篭は、明るく強い希望の光を照らしていた。
そして夜になり、勇士や村人たちは吉田集落の南に位置する山中湖の湖畔に集まっていた。料理が得意な球磨は、村の女達と置いてある兵糧でおにぎりを作り、味噌汁の中に採れたての野菜やタニシを入れ、精が出る料理を作っていた。そして、モトスと湘とエンザンは怪我をしている兵や民達の手当てをし、千里は土の魔法で村周辺に巨大な土や岩で壁を作り、敵が侵入できないようにしていた。
皆で料理を食べた後に、桜龍は山中湖の畔で、吉田集落の宮司や巫女が奏でる楽器の音色に合わせ、神楽鈴と扇を手に持ち、戦や残党狩りで犠牲となった兵や民を弔う舞を踊り、民達と一緒に湖に灯篭を流した。モトスは球磨と一緒に桜龍の舞を観つつ、湖に流れている多くの灯篭に黙祷をした。
(信玄公・・・勝頼様を御守り出来ずに申し訳ございません・・・ですが、勝頼様の意志は引き継ぎます。甲斐の民や美しい大地を護ります!!新しい同志たちと。どうか、後世では幸せな人生を歩んでください・・・)
さらにモトスは想い人の身も案じていた。
(お都留・・・どうか無事でいてくれ!!)
モトスが黙祷を終えると、隣で黙祷をしていた球磨が静かな口調で彼に話しかけた。
「桜龍ってさ、普段は神官の割にはのほほんとしていて、何考えてるんだか分かんねーけど、戦っている時とか、舞を踊っている時には恐ろしいほど冷静になるんだよな」
球磨は遠くで舞を続けている桜龍を眺めて言った。
「・・ああ。まだあの者とは知り合ったばかりで何も知らないが、何か未知の可能性を秘めているそうだ・・・」
そうは言っても、モトスは桜龍を一目置いているようだ。
「あいつは自分の事あまり話さないから詳しい事は分からねぇが、左目の眼帯で隠しているのは聖なる龍とか言っていたかな」
球磨は腕組をしながら桜龍の謎を考えていた。
「そういえば球磨、料理美味しかったぞ!!料理得意なのだな」
モトスが喜び、礼を言うと球磨は少し照れた顔をした。
「あ・・まぁ、俺は小さい時に天草の孤児院で世話になってな。料理や掃除などを手伝っているうちに家事が出来るようになって・・・・でも、得意は言い過ぎだぜ!!ダンナ」
「本当に美味しかったよ。限られた食材で栄養たっぷりの料理をご馳走になった。これからも球磨の手料理をもっと食べたいと思っている」
モトスの穏やかな誉め言葉に球磨は気合を入れて言った。
「よし!!それならこの戦が終わったら、肥後の料理を作るよ!!馬肉とか精が付く料理もあるぜ!!」
2人の雑談はしばらく続いた。
その頃、湘は村人たちから離れ、湖から少し外れた木陰でキセルを吸っていた。すると、千里がその場に近づいてきた。
「・・・湘さん?口にくわえている、それは一体何でしょうか?」
「やあ、千里君か。これはキセルという煙を吸う道具で、遠い国から伝来された物だよ。普段はあまり吸わないのだが、1人物思いにふけりたい時に吸いたくなるのだよ」
湘が丁寧に説明すると、千里は不思議そうな顔をした。
「・・・・400年以上眠っている間に随分と世の中が進んだのですね・・・。僕が封印される前の時代は宋や高麗としか貿易していなかったので」
「ふむ・・とすると、やはり君は本当に平安末期から鎌倉初期頃に生きていたのか・・・」
まぁ、自分も人とは異なる存在であるし、モトスも自然を愛する森精霊で、桜龍や球磨などの破天荒な人間を考えれば、今更千里が古の戦士だろうと驚きもしなかった。
湘は顎に手を乗せて、はーっと煙を吐いていると、千里がキセルをじーっと見ていた。
「それほど気になるなら、吸ってみるかい?」
湘はキセルの吸い口を綺麗な布で拭き、千里に渡した。千里は無表情から少し好奇心旺盛な少年のような眼差しになり、興味深そうにキセルの構造を見回していた。湘はそんな青年の子供っぽい一面に微笑ましく笑っていた。
(ただの人造戦士ではなく、ちゃんと年相応の青年らしい部分もあるではないか)
千里は吸い口から煙を吸ってみると、ケホケホとむせた。
「・・・・き・・きせるは当時の技術には無い面白い構造ですが、煙の美味しさが・・・良く分かりません。僕なら嗜むよりも、吹矢とか武器を仕込むかもしれません」
千里は素直な感想を言い、自分の手ぬぐいで吸い口を拭き、湘にお辞儀をして返した。
「ははは。それは中々面白い発想だな」
湘は笑いながらキセルを受け取った。
(千里が目覚めたのはこれから何か強大な敵が現れる前兆なのかな・・・)
湘は、千里から強い信念と怒りと悲しみを感じ取っていた。
桜龍が舞を踊り終えると、モトスが差入れとして地酒を持ってきた。そして、山中湖の多くの灯篭の光に反射する霊峰、富士を2人で眺めながら酒を酌み交わした。
「素敵な舞であったぞ桜龍。艶やかで神秘的な踊りに魅了されたよ」
「・・・ありがとう。正直緊張したよー。でも、宮司さんや巫女さんの演奏も心がこもっていたから、想いが伝わって踊りやすかったよ」
モトスはそうかと言い、彼に酒を注いだ。
「先ほど、球磨とも少し飲んでいた。彼は他の兵士たちとも飲み交わしているようだ」
「クマちゃん酒強いからなー。特に芋焼酎なんてガバガバ飲むんだぜー」
「ははは。確かに九州の者は酒が強いと聞くからな」
しばらく2人は酒を飲み交わしながら話し続けた。
「モトスさん・・お都留さんを救えなくて・・・ごめんなさい」
桜龍は深刻な顔をしてモトスに謝った。
「何故お前が謝る!!お都留は俺が早く助け出せなかったせいだ!!お前はむしろ、俺や民達の命の恩人だ!!球磨と湘と千里とエンザン棟梁もだ」
「俺は、大神官殿に江津討伐を命じられた。俺も自分の力を過信していたが、白州とやらに吹き飛ばされたぜ・・・。千里や皆に助けられてばかりだな・・・」
頭を抱えている桜龍の手をモトスは優しく握り言った。
「・・・俺だって、精霊の力さえあれば1人でも主君や民たちを護れると過信していた。だが・・・俺の方が皆に護られてしまうとはな・・」
モトスは苦笑いをし、桜龍はいつもの明るい顔に戻って言った。
「大神官殿は、江津討伐は俺にしか出来ない事と言っていたし、周りの神官や、小うるさい・・・巫女様が遠くの出雲から術で支えてくれる。それに、モトスさんや球磨、湘さんや千里、この地に導かれた勇士が居るから、今は全然怖くない。絶対にお都留さんを闇の呪縛から解放してやるぜ!!」
「・・・・桜龍」
モトスは桜龍の強い眼差しから一瞬、白金色の龍が映し出されたかのように見えた。聖なる龍からは未知なる可能性と新たな希望の力を感じ取れた。
(この者が聖なる龍に選ばれた理由が分かる気がする・・・)
モトスが感心していたその直後、桜龍の凛々しい表情が真っ赤な顔になり、デレデレとした表情へと変化した。
「だーかーらー、モトスのらんなは大船にのったつもりぃでー俺らがーらんなをー支えて護るからよぉをー♪」
桜龍はかなり酔いが回り、湖で泳ごうとしている彼をモトスは止めていた。
「お・・・桜龍!!酒に酔ったのなら静かにしていろ!!湖に飛び込んではならぬ!!」
モトスは背丈が同じくらいの桜龍を支えるのがやっとの状態で体勢が崩れ、湖に落ちそうになったが、間一髪のところを球磨が怪力で2人の大きい体を持ち上げた。
「危ねぇ、危ねぇ・・・もう少しで落ちるところだったぜ・・・」
「球磨・・助かったぞ。その・・桜龍が酔ってしまって・・・・」
「クマちゃん相変わらず力持ちだぜぇー」
球磨の太い腕にぶらぶらとぶら下がっている桜龍に2人は呆れていた。
「全く・・・・お前って奴は!!!下戸のクセに飲み過ぎなんだよ!!!!」
球磨はゆっくりと桜龍を下すと、桜龍はスヤスヤと気持ち良く眠ってしまった。周りで飲んでいた兵士や民たちも集まって、桜龍の姿を微笑ましく顔を見合わせ、笑っていた。
「先ほどの舞では近寄りがたいほどに神秘的だったべ」
「こーして見ると、結構ふぬけた神官殿ずらー」
皆が面白おかしい言葉を言っているのを知ってか知らずか、桜龍は深い眠りについていた。
少し遠くで、湘と千里も桜龍を見て笑っていた。
「・・・・やれやれ・・先が思いやられる神官だな・・・・」
「僕ほどではありませんが、彼も中々得体の知れない者ですね」
山中湖の灯篭は、明るく強い希望の光を照らしていた。