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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

しばらくしてついに、湘と五十鈴はたどり着いた。誰も知らない、海底の都『マナマール』の跡地に。周りは大理石で出来た長方形に削られた石垣が残っており、城門らしき柱も美しい白銀色のままであった。さらに中に入ると、傷一つ無い大理石の床や周りに何十本の支柱が立っており、古代ギリシャ神殿のような造りだった。さらに、辺りには海龍や海洋生物が彫られたレリーフが沈んでおり、古代にこんな高度な技術が存在していたのかと湘は感心していた。
「荒らされているか心配していたが、ほとんど綺麗な状態で残っているな」
「居住地は流されてしまったが、神殿は残っていたようだ。ここでボクは神官を勤めていたのだよ」
五十鈴は懐かしさに周りをじっくり見続けていた。
「この島は、他国との交流は無かったけど、平和で皆が穏やかに暮らしていたのだよ。これも、海龍様が護ってくれたおかげと、アミーゴー達が協力し合って暮らしていたから、まさに理想郷だったよ」
「高度な技術と海龍様のご加護でこの国は発展していたのだな。しかし、闇の九頭竜に目をつけられ、父・・海龍様は闇に染まり、国民は犠牲になったのは心が痛むな」
この島は、古代に闇の龍『九頭竜』に狙われてしまった。その時、海龍は九頭竜と戦ったが、海龍は闇に浸食されてしまった。九頭竜化した海龍は暴走が抑えられず、マナマールを深海に沈ませてしまった。その時五十鈴は、人間を海洋生物にする力を使えるようになり、九頭竜に掛けると、人間の赤子に変化した。それが、湘の父『真鶴』だった。
「まさか、父が海龍様の人間姿だったとは今でも信じられぬよ。それも古代人とはな」
「最初は、ずっとここで封印させていたいすみ様は残酷なやり方だと思っていたけど、今となってはそのおかげで長い年月を掛けて、凪沙ちゃんと出会って君が生まれたから良かったということだね」
「それもそうだな。私は、人間と海洋族の混血だが、その人間は海龍だったのだから、最強の混血種族になるな」
湘と五十鈴は笑い合いながら石碑の前まで進むと、古代文字が書かれた石碑を見つけた。文字は『ひらがな』のような『くさび形文字』のような不思議な物だった。湘はじっくりと文字を見ていると自然と頭の中に入っていった。
「見たことが無い字だが・・・何故だか読める」
湘は文字を読み続けていると懐かしい声が耳元から聞こえた。
『マナマールは海龍様を祀る水の都。都は長年、海龍の力で侵略や災害から護られ、平和を保ち続けていた。海龍は水と氷を守護とする神龍。海龍に己の強さを認められる時、海龍と同等の力を得られる』
「父さん・・いいや、海龍様に認められるか・・・。神官を勤めた五十鈴はそういった修行をしたのか?」
「ああ。僕は海龍様に認められたが、真の水の守護神には選ばれなかった。多くの神官がそれを目指していたが選ばれた者は誰も居なかったよ」
「真の水の守護神とは?」
「おそらく、人間と海洋族を繋ぐ水神の力。だけど、その力をどうやって得られるのか調べても分からなかったよ」
「そうだったのか・・とすると、いすみ様や海洋族は水の守護神ではないのか?」
相応しいものは誰なのかと湘は推測していると、神殿の奥から年老いた霊が姿を現した。
「そなたを待っていたぞ。海龍様の息子よ」
小柄な老人は腰を曲げて杖をついていたが、青い瞳は凛としていて神秘的な風貌だった。老人に深く一礼されたので、お辞儀し返した。
「アッミーゴー!!元気だったかい、オガサーラ!!」
すると五十鈴はオガサーラと呼んだ老人と親しい仲なのか、涙を流しながら抱きつこうと走ったが、すり抜けられ岩壁に激突した。湘とオガサーラは頭を抱えながら呆れていた。
「何をやっているのだね・・・ご老人は幽霊だぞ」
「相変わらずじゃな・・・五十鈴。昔からこやつはこの調子じゃぞ。申し遅れた。わしの名はオガサーラ。このマナマール国の人間で、五十鈴と神官をしておったのじゃ」
オガサーラはよろめいている五十鈴に冷めた目線を送りながら自己紹介した。
「痛たたた・・・・オガサーラもボクと同じで、海龍様に認められた上級神官だったんだよ」
「お初にお目にかかります、オガサーラ殿。私は、父真鶴もとい海龍様と海洋族の女性との間に生まれました、湘と申します」
「ほう、なかなか知的で逞しい青年じゃのう。海龍様と海洋族の娘に大切に育てられたと見える」
「勿体なきお言葉をありがとうございます。オガサーラ様、率直にお尋ねしますが、私は水の守護神なのですか?ずっと待っていたという事は」
「そうじゃ。湘が水の守護神。じゃが、その力を得るには海龍様の力を超えなければならん」
「試練は強敵と戦う事ですか?」
「いいや、海龍様の御子息とあらば、このマナマールを1日復活させる力を得て欲しい」
湘は1日復活と予想外の試練内容を聞いて驚いていた。
「1日の復活とは、国の再興は望まぬのですか?」
「そうじゃ。湘に、マナマール国を見せてやりたい。海龍様が護った水の都を。きっとそれらを見て何かを感じれば、新たな水の守護神の力を覚醒できる」
「ということは、オガサーラ殿は私を長い年月を掛けて待っていたのですか?」
「その通りじゃ。貴殿も分かっておると思うが、水の守護神は湘なのじゃぞ」
オガサーラの断言に五十鈴は納得した顔をしていた。
「やっぱりそうだったか。水の守護神は真鶴の息子、湘だったのだね。だが、水の守護神として大いなる力を得るには、国を1日蘇らせる力がないと覚醒したことにならないという訳か」
「それではその、マナマール国を復活させる力を得るには修行ですか?それとも、その源となる何かを探せば良いのか・・」
すると、オガサーラは懐から面に龍の装飾が施された銀色の歯車を湘に渡した。
「これは『時の歯車』という。術士がこれを使い、九頭竜が島を滅ぼす前に民達を助けようと過去に戻ろうとしたが、わしも五十鈴も、誰も使えた者は居なかった。」
「ボクも試みたけど、全く効果を得られなかった・・・。ボクの『人間を海洋生物にする魔術』も未完成だったから、オガサーラ達を溺死させてしまってすまない・・・」
五十鈴は申し訳なさそうにオガサーラに頭を下げたが、彼は首を横に振り、軽く笑った。
「謝るでない、五十鈴。それによって、海龍様は人間に転生して湘が生まれたのじゃからそれで良い。だから、もう1度マナマール国の繁栄を見て貰いたいのじゃ」
「そうだな、私も父が護った水の都を見てみたい。願わくば海龍の父に会いたい。事を急ぐが、焦らず時の歯車に水の守護者として認めて貰うよ」
湘は歯車を胸に当て、静かに目を閉じた。
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