第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙
球磨と紅史郎は胡桃と由布に別れを告げ、別府から九重連山を超え、阿蘇山へ向かった。
阿蘇山は、九州地方の中央部に位置する広大な火山地帯。火口を円形に囲む外輪山と呼ばれる。球磨と紅史郎は数日かけ、豊後国から肥後国に続く高原を通り、阿蘇地域にたどり着いた。目の前に噴煙が吹き出る中岳や、最高峰の高岳などが見えていた。2人は烏帽子岳麓の草千里ヶ浜で休息していた。目の前に火口があると信じられないほどの美しい緑の草原が続く麓で、烏帽子岳の先にそびえ立つ中岳を見ていた。
「阿蘇山は初めて登ったけど、空気が気持ち良いね兄さん。ただ、火口付近は煙が吹いているから気をつけないとね」
「ああ、そうだな。あそこに、強敵が待ち構えているな・・・。中岳は阿蘇の中でも火山活動が盛んだからな」
球磨と紅史郎は溶岩が流れた跡が残る岩肌を見ると、別世界に来たような感じになっていた。
「・・・何だか、別の星に来たみたいだね。昔、南蛮人の天文学者から聞いたことがあるよ。広い宇宙には赤い星があって、そこも火山がある赤い大地に違いないと言っていたなぁ」
「赤い星かぁ、熱そうだが浪漫があるな。世界は日ノ本やこの星だけでは無く、無限大にあるってことだな」
球磨と紅史郎はこれから戦いに行くとは思えないほど、落ち着いていた。阿蘇の炎の力が球磨の心を落ち着かせていたのか、それとも火口の近くに懐かしい人物の気を感じていたのか。
(そういえば、益城(ましき)院長の気配を感じるな?もしかして、俺の覚醒を応援しに来ているのか?)
球磨は首を傾げながら、中岳の麓を目指した。
球磨と紅史郎は草原地帯から砂千里ヶ浜という草木が生えない火口跡を通っていた。この辺りから溶岩地帯で気温も高くなり、高低差が激しい岩肌を歩くのにも苦戦していた。
「やはり、ここからは行く手を阻むね・・・」
「そう簡単に決戦場所には行かせないようだが、これも1つの試練だ。紅史郎、付いてきてくれるのも、引き返すのも自由だぞ」
紅史郎は首を横に振り、凜とした眼差しで兄に返答した。
「僕は、兄さんと強敵との戦いを見届けたい。だから付いていくよ」
「そうか。それならここで立ち止まってはいられねーな!!」
球磨は紅史郎の腕を掴み、岩肌の段差を一気に超えた。途中、紅史郎が岩肌に滑り落ちそうになった時、球磨は強い腕力で掴み上げ、助け合いながら目的地に進んだ。そして中岳の噴火口に到着した。
火口は、青緑色に輝く湖水で熱気に覆われており、岩肌も熱く炎の中にいる感覚だった。球磨と紅史郎が湖水の周りを歩いていると、人影が見えた。その人物は球磨の恩師だった。
「あの方は、兄さんを天草の孤児院で育ててくれた、益城殿だよね?」
(ここには益城院長以外誰もいない・・・まさか、阿蘇で待つ強敵は・・・)
球磨は紺色の神父服を身にまとった、銀髪の男性を確信し、ゆっくりと近づいた。
「久しぶりです、球磨、紅史郎。1つの試練は達成されました。険しい火山地帯を越え、阿蘇の中心部までたどり着きましたね」
「試練という事は、益城院長が聖地の番人なのですか・・・」
球磨は一瞬戸惑ったが、臆すること無く尋ねた。
「番人というより、私は炎と戦を司る鬼です」
益城の透き通った銀色の髪から2本の鋭い角が生えた。球磨は驚き声が出なかったが、心のどこかで彼が人とは違うと感じていた。
(益城院長・・・会ったときから不思議な雰囲気だったが、鬼の一族だったのか・・・)
「ということは、益城殿は由布殿の身内になるのですか?」
紅史郎は緊迫した表情で彼に聞いたが、軽くはぐらかされた。
「それは、戦いに勝ってから教えますよ」
「まさか、益城院長・・・九州の戦鬼と呼ばれた『紅蓮の増鬼』だったのですか?」
球磨が質問した時、益城の神父服は数々の戦を経験した鋼鉄の鎧に変り、優しい風貌から剛毅な姿となった。
「そうです。私が増鬼です。私は球磨が成長したら一戦交えたいと思っていましたが、ついにその時が来ましたね」
球磨は胸の鼓動が高まり、増鬼に鋭い瞳を向けて言った。
「俺も、増鬼と戦えるなんて夢にも思わなかったぜ。・・・だが、俺に槍を教えてくれた師匠が憧れていた戦鬼だったとは驚きだぜ」
「兄さん!!お世話になった孤児院の院長でもあり、師匠でもある益城殿と戦えるのか?」
「紅史郎、なにも増鬼の命を取るなんて一切考えていない。俺にとって増鬼も益城院長も変わりねぇ。だが、俺を強くしてくれる想いと、俺と戦いたいという願いを裏切るわけにはいかねぇ。だから俺は増鬼に挑む!!」
「・・・兄さん」
「それに、同じ師弟なら、桜龍の方がずっと悲惨だ。卑弩羅(ひどら)が桜龍を強くした理由が、聖なる龍と厄神をぶつけさせ、日ノ本を消滅させる為なんて師匠のする事じゃねぇ・・・。それに比べて、院長は今でも厳しく優しい師匠だ」
紅史郎は、桜龍が師匠に裏切られ、怒りで力を暴走させてしまった話を聞いて複雑な思いでいた。兄が桜龍や仲間達の助けとなる為に強くなろうと決めていたのも十分理解出来た。
「兄さんの意志、しっかりと伝わったよ。だけど、火口での激しい戦いは危険だから、2人に溶岩とかぶつかりそうになったら、僕の魔法で防ぐ位はさせてもらうよ」
「そのような心配は無用ですよ、紅史郎。ですが、球磨が危なくなったら手助けしても構いません」
「俺は、増鬼と一対一で挑むんだ。紅史郎は手を出すなよ」
「分かったよ、兄さん。健闘を祈るよ」
火口の目の前で、球磨と増鬼は互いに鋭い視線を向けていた。球磨は炎をまとった西洋槍を構え、増鬼も長い槍に左右太い刃が付いた槍斧(そうふ)を軽々と持ち、炎をまとわせた。溶岩が吹き出したと同時に2人の武器が交わった。
阿蘇山は、九州地方の中央部に位置する広大な火山地帯。火口を円形に囲む外輪山と呼ばれる。球磨と紅史郎は数日かけ、豊後国から肥後国に続く高原を通り、阿蘇地域にたどり着いた。目の前に噴煙が吹き出る中岳や、最高峰の高岳などが見えていた。2人は烏帽子岳麓の草千里ヶ浜で休息していた。目の前に火口があると信じられないほどの美しい緑の草原が続く麓で、烏帽子岳の先にそびえ立つ中岳を見ていた。
「阿蘇山は初めて登ったけど、空気が気持ち良いね兄さん。ただ、火口付近は煙が吹いているから気をつけないとね」
「ああ、そうだな。あそこに、強敵が待ち構えているな・・・。中岳は阿蘇の中でも火山活動が盛んだからな」
球磨と紅史郎は溶岩が流れた跡が残る岩肌を見ると、別世界に来たような感じになっていた。
「・・・何だか、別の星に来たみたいだね。昔、南蛮人の天文学者から聞いたことがあるよ。広い宇宙には赤い星があって、そこも火山がある赤い大地に違いないと言っていたなぁ」
「赤い星かぁ、熱そうだが浪漫があるな。世界は日ノ本やこの星だけでは無く、無限大にあるってことだな」
球磨と紅史郎はこれから戦いに行くとは思えないほど、落ち着いていた。阿蘇の炎の力が球磨の心を落ち着かせていたのか、それとも火口の近くに懐かしい人物の気を感じていたのか。
(そういえば、益城(ましき)院長の気配を感じるな?もしかして、俺の覚醒を応援しに来ているのか?)
球磨は首を傾げながら、中岳の麓を目指した。
球磨と紅史郎は草原地帯から砂千里ヶ浜という草木が生えない火口跡を通っていた。この辺りから溶岩地帯で気温も高くなり、高低差が激しい岩肌を歩くのにも苦戦していた。
「やはり、ここからは行く手を阻むね・・・」
「そう簡単に決戦場所には行かせないようだが、これも1つの試練だ。紅史郎、付いてきてくれるのも、引き返すのも自由だぞ」
紅史郎は首を横に振り、凜とした眼差しで兄に返答した。
「僕は、兄さんと強敵との戦いを見届けたい。だから付いていくよ」
「そうか。それならここで立ち止まってはいられねーな!!」
球磨は紅史郎の腕を掴み、岩肌の段差を一気に超えた。途中、紅史郎が岩肌に滑り落ちそうになった時、球磨は強い腕力で掴み上げ、助け合いながら目的地に進んだ。そして中岳の噴火口に到着した。
火口は、青緑色に輝く湖水で熱気に覆われており、岩肌も熱く炎の中にいる感覚だった。球磨と紅史郎が湖水の周りを歩いていると、人影が見えた。その人物は球磨の恩師だった。
「あの方は、兄さんを天草の孤児院で育ててくれた、益城殿だよね?」
(ここには益城院長以外誰もいない・・・まさか、阿蘇で待つ強敵は・・・)
球磨は紺色の神父服を身にまとった、銀髪の男性を確信し、ゆっくりと近づいた。
「久しぶりです、球磨、紅史郎。1つの試練は達成されました。険しい火山地帯を越え、阿蘇の中心部までたどり着きましたね」
「試練という事は、益城院長が聖地の番人なのですか・・・」
球磨は一瞬戸惑ったが、臆すること無く尋ねた。
「番人というより、私は炎と戦を司る鬼です」
益城の透き通った銀色の髪から2本の鋭い角が生えた。球磨は驚き声が出なかったが、心のどこかで彼が人とは違うと感じていた。
(益城院長・・・会ったときから不思議な雰囲気だったが、鬼の一族だったのか・・・)
「ということは、益城殿は由布殿の身内になるのですか?」
紅史郎は緊迫した表情で彼に聞いたが、軽くはぐらかされた。
「それは、戦いに勝ってから教えますよ」
「まさか、益城院長・・・九州の戦鬼と呼ばれた『紅蓮の増鬼』だったのですか?」
球磨が質問した時、益城の神父服は数々の戦を経験した鋼鉄の鎧に変り、優しい風貌から剛毅な姿となった。
「そうです。私が増鬼です。私は球磨が成長したら一戦交えたいと思っていましたが、ついにその時が来ましたね」
球磨は胸の鼓動が高まり、増鬼に鋭い瞳を向けて言った。
「俺も、増鬼と戦えるなんて夢にも思わなかったぜ。・・・だが、俺に槍を教えてくれた師匠が憧れていた戦鬼だったとは驚きだぜ」
「兄さん!!お世話になった孤児院の院長でもあり、師匠でもある益城殿と戦えるのか?」
「紅史郎、なにも増鬼の命を取るなんて一切考えていない。俺にとって増鬼も益城院長も変わりねぇ。だが、俺を強くしてくれる想いと、俺と戦いたいという願いを裏切るわけにはいかねぇ。だから俺は増鬼に挑む!!」
「・・・兄さん」
「それに、同じ師弟なら、桜龍の方がずっと悲惨だ。卑弩羅(ひどら)が桜龍を強くした理由が、聖なる龍と厄神をぶつけさせ、日ノ本を消滅させる為なんて師匠のする事じゃねぇ・・・。それに比べて、院長は今でも厳しく優しい師匠だ」
紅史郎は、桜龍が師匠に裏切られ、怒りで力を暴走させてしまった話を聞いて複雑な思いでいた。兄が桜龍や仲間達の助けとなる為に強くなろうと決めていたのも十分理解出来た。
「兄さんの意志、しっかりと伝わったよ。だけど、火口での激しい戦いは危険だから、2人に溶岩とかぶつかりそうになったら、僕の魔法で防ぐ位はさせてもらうよ」
「そのような心配は無用ですよ、紅史郎。ですが、球磨が危なくなったら手助けしても構いません」
「俺は、増鬼と一対一で挑むんだ。紅史郎は手を出すなよ」
「分かったよ、兄さん。健闘を祈るよ」
火口の目の前で、球磨と増鬼は互いに鋭い視線を向けていた。球磨は炎をまとった西洋槍を構え、増鬼も長い槍に左右太い刃が付いた槍斧(そうふ)を軽々と持ち、炎をまとわせた。溶岩が吹き出したと同時に2人の武器が交わった。