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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

東北地方の地底世界『八幡平』にある五行の祠の間。球磨と弟の紅史郎は炎の祠の扉を開けると、そこは辺り一面に湯気でかすむ、海地獄や血の池地獄など、別府地獄巡りと呼ばれる聖地であった。
「ここは・・・現実の別府だよな・・扉を空けたら溶岩地帯とか想像していたぜ」
球磨は予想外の光景を見て呆気に取られながら、池に近づくと熱い!!と感じ、これは夢でも幻でもないと実感した。
「修行場所は何で別府なんだ?」
「この地に呼ばれたのは確かだよ、兄さん。別府は鬼の一族が住んでいるくらいだし・・・」
別府や九重連山付近には鬼の一族がひっそりと暮らしている。彼らは九州の大一揆の際、球磨たち勇士に協力してくれた頼れる種族である。
球磨と紅史郎が首を傾げながら歩いていると、眼鏡をかけた快活な女性に声をかけられた。
「球磨さん、紅史郎さん!!お久しぶり!!」
「胡桃(くるみ)か!!久しぶりだな。別府に来ていたのか?」
胡桃とは筑前国博多出身で、歴史学者を目指す女性で球磨とは遠距離恋愛をしている。過去に起きた九州の大一揆事件に巻き込まれたが、それを機に球磨と親密度が高まり、それ以降は九州で歴史の研究をしながら、闇の者達についても調査している。
「あれから父と一緒に、人造戦士と魔改造戦士の研究をしていたの。太宰府にある書庫で本を探したりしたけど、彼らの記録が見つからなくて・・・」
胡桃はこれまでの経緯を2人に話した。学者仲間と共に、九州に居る平家の子孫が暮らす村や町を訪れ、源平合戦の伝承や記録を聞いていた。すると先祖代々、琵琶を弾いて平安の終わりと鎌倉時代の始まりを語り続けている法師が居た。胡桃は貴重な話を聞けた。
「琵琶法師様の話しだと、鎌倉時代に入り、北条政権になった途端、人造戦士が現れなくなったと聞くわ。それと・・・」
胡桃は話を続けた。平家に力を貸していた『アナン』という海洋族が、平家滅亡後、武蔵国多摩川で魔改造戦士に挑んだが、圧倒的戦力で敗れたと。その後、彼は平家に危険を及ぼさぬよう、落人の村を回り続け、注意を促していた。しかし、魔改造戦士は平家に危害を加える事なく何百年も現れなかったと。
「法師様が言うには、魔改造戦士は最初から平家など眼中に無かった。清盛亡き後はどうあがいても滅びる運命だと知っていたみたい。それと、源氏の滅亡と同時に人造戦士も魔改造戦士も消え、人々から彼らの記憶が消えていったそうよ」
球磨は闇の者の中に予言者がいるのだろうと推測していた。
「そうだったのか・・・その時から歴史の流れが分かっていたんだな。魔改造戦士共は、平家よりも千里や土竜(どりゅう)族が作った人造戦士を滅ぼしたかったって事だな」
「軍記物や歴史書にも人造戦士や魔改造戦士の事は抹消されていたわ。おそらく日ノ本の脅威となる者を無かった事にしたのでしょうね。法師様が民衆に語っていたのも、おとぎ話だと誰も信じてくれなかったみたいなの・・・」
胡桃は考えをめぐらせていたが、ふと気になったことを言った。
「ところで、2人はどうして別府に?確か球磨さんは、東北へ行ったと・・」
「ああ、ちょいと訳があって、ここに着いたんだ」
球磨と紅史郎は胡桃に今までの事を話した。胡桃は過去に起きた出来事を身に感じていたので、直ぐに状況を理解していた。
「それにしても、土竜族が本当に居たなんて。高度な文明と魔力を持つ種族だから、地底世界の祠に導かれてここに着いたのも納得ね。でも、鬼の温泉地が覚醒場所なのかしら?」
3人は池を眺めながら考えていると、後ろから気高い女性の声が聞こえた。鬼の一族の長、由布(ゆう)である。
「そなた達、久しぶりだな。鬼の温泉地へよう来たのう」
「由布殿。ご無沙汰しております。実は炎の祠から」
球磨は理由を言おうとしたが、彼女は存じていたのか、手を口に当て止めた。
「言わなくても分かっておる。聖地はここでは無い」
由布は遥か遠くに見える煙が浮き上がっている山に目をやった。そこは、九州の中心『阿蘇山』だった。紅史郎は阿蘇の活火山を見て納得した。
「阿蘇は火山信仰の山、炎の神を祀る聖地とも言い伝えられていますね」
「そうだな。それに、あの山からとてつもない強い気を感じる。まるで、俺が戦いを挑むのを待っているかのようだ」
球磨は興奮を抑えながら阿蘇山を見ていると、由布は不敵な笑みを浮かべ球磨に問うた。
「その者と戦う事により、そなたは強くなる。だから相手が誰であっても、全力で戦うのだぞ」
「由布殿?相手を知っているのですか?」
「それは、お主達の目で確かめると良い」
由布は阿蘇で待つ者が誰だか分かっていたようだが、球磨達は追究せず向かう事にした。
「どんな強敵が待っていようと、俺は負けないぜ。魔改造戦士にも自分にも打ち勝つように」
「球磨さん、紅史郎さん、阿蘇は活火山だから火山灰が飛んできたり、いつ噴火するか分からないわ。気をつけて行ってきて!!」
「おう!!強くなって帰ってくるからよ!!胡桃も研究頑張ってな!!」
球磨は胡桃の細い腰を持ち上げ抱きしめた。紅史郎と由布は微笑ましいと思いながら見ていた。
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