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番外編 モトスの話 森の精霊忍者への道

モトスは、溶岩石の道を過ぎ、草原地帯に入り、万病の花を探していた。地面が微かに揺れ、浅間山の火山活動が盛んになる予兆をモトスは感じていた。
「早く探さないと、火山が噴火するずら・・・でも、手ぶらでは帰れないずら」
モトスは必死に周りを探していると、白い天狗のような青年に陽気な口調で声を掛けられた。
「よう!!俺は飛天族の長、蕨(わらび)だ。秩父出身だが、ちょいと俺も浅間に用があってな。君は何か探しているのか?」
「少数民族、飛天族の長ずら?凄いずら!!エンザン棟梁から伝説を聞いたことがあったけど、今ここで会えて御利益ずら!!」
モトスは瞳を輝かせながら蕨の白い羽などを見ていた。蕨は自信満々に色々な姿勢を取り、格好付けた。
「御利益とは嬉しい事言ってくれるじゃねーか。ところで少年、名前は?」
「おら・・・あ、私はモトスです。甲斐の大名、武田信玄公の御子息、勝頼様を助けたくて、万病の花を探しに来ましたずら」
モトスは蕨に事情を話した。すると蕨は快く協力しようと応えた。
「万病の花が咲いていそうな場所は知っているが、今年は浅間山の噴火で草原が火山灰に覆われている。もし、見つからなかったら、妙義や秩父でも探してみるよ」
「蕨様、一緒に探してくれるのですか?」
「おう!!ここで長居するのは危ないし、早く勝頼殿の熱病を治さないとな。それとモトス、俺相手に敬語なんて必要ないから、気軽に話しかけてくれ」
「よろしくお願いしますずら、蕨兄ちゃん」
こうして蕨とモトスは、兄弟というより父子のような感覚で、万病の花が咲く草原を回った。


数時間後、高原の風が心地よい草原で懸命に探していると、ついに万病の花を見つけた。花は鞠の様に丸く、無数の花弁が重なり合い、その色は淡い赤から紫まで7色に彩られていた。
「これが万病の花・・・虹みたいな色ずら」
「1輪見つかっただけでも大収穫だぜ。この花は限られた環境で育つ上、繁殖率も低い。しかし、噴火や火山灰が来る中、良く綺麗に育ったものだぜ」
「このお花から強い生命力を感じるずら。これは、お花の蜜を飲むと病が治るずら?」
「森精霊なら蜜だと思うが、人間だと水に花弁を浸して、虹の薬にして飲ませると良いぜ」
「蕨兄ちゃん、一緒に探してくれてありがとうずら。おら1人じゃあ辿り着かなかったずら」
「いいや、探すのはモトスの方がずっと頑張っていたぞ。それに、甲府から信州を通って浅間まで来たことに感服したぜ」
「おらは、大自然の中で育ったずら。走るのと山登りは得意ずら」
「それもそうだな」
モトスと蕨が顔を見合わせながら笑っていると、浅間山が噴火した。勢いよく溶岩が草原に迫って来た。
「これはまずいぞ!?噴火時期がいつもより早い・・・浅間に異変でも起きているのか?」
「この、万病の花が咲く、美しい草原を護りたいずら!!」
モトスは小さな手を合わせ、呪文を唱え嵐を起こした。嵐の勢いが溶岩石の落下を防ぎ飛ばした。
「まだ小さいのに、強い魔力だな。だが、一人じゃあ無理だ。俺も火山活動を止める。麓の村に被害を出すわけにもいかないからな」
「蕨兄ちゃん、ありがとうずら」
蕨は呪文を唱え、封印の力で浅間山の噴火を止めようとした。しかし、噴火の勢いは止まらず、次々と溶岩石が降りかかって来た。モトスは風で吹き飛ばし、蕨も念力を唱え、溶岩の流れる威力を鎮めていた。
「く・・・浅間の神もお怒りなのか、それとも何か不吉な事が起きる前触れなのか、いずれにせよ噴火を抑えないとな・・・」
「おらは、風と自然を司る勇士になるずら!!浅間の神様におらの力を認めて欲しいずら!!」
モトスは浅間山に向かって、自らの志を唱えた。すると浅間山はモトスに向かって巨大な溶岩石を放った。蕨は、こいつを喰らったらひとたまりも無いと、モトスを助けようとした。しかし
「蕨兄ちゃん!!これは、浅間の神様からの挑戦ずら!!だから、おらは絶対に勝つずら!!」
モトスは全神経を集中させ、翡翠色に輝く光を両手に溜めた。すると少年を包み込むように凄まじい風が吹き始め、力が最大限に溜まった時、モトスは巨大な岩石目掛け、翡翠の光を放った。一瞬、翡翠色の蝶の羽が出現した風に見えた。蕨は少年の隠された力に驚いていた。
「こいつは驚いたぜ・・・まだ、ひよっこかと思っていたが、とてつもなく強い魔力と精神力だ・・・。」
光の弾は風の刃に変り、溶岩石を跡形も無く粉々に引き裂いた。これ以降、浅間山の溶岩石は飛んでくること無く、噴火活動も収まった。
「ふぅ・・・浅間の神様はおらを勇士として認めてくれたのかな?」
「そうみたいだな。それにしても、モトス凄いな!!こんなに強い力を秘めていて。お前ならきっと、立派な精霊忍者、いいや、日ノ本を護る勇士になれるぞ!!」
「日ノ本を護る勇士、おらの最終目標ずら!!」
モトスは笑顔で蕨に言った。蕨は飛び跳ねているモトスと、遠くの氷柱に封印されている青年の姿を思い出した。
「きっと、あいつが眠っている状態でも、無意識に大地の力で浅間山を操っていたんだな。モトスを試すように。人造人間の鬼神と呼ばれた男はおっかねーな・・・」
蕨はいずれ、氷柱に封印されている青年とモトスは出会い、最強の仲間になるだろうと予想していた。その後、蕨は小諸までモトスを見送り別れた。笑顔で手を振るモトスに蕨は、また数十年後に会えるだろうと思い、手を振り返した。モトスは軽快な足取りで甲斐の国まで帰った。


その頃梅雪は、万病の花を武田家の皆と、父信友に見せていた。
「でかしたぞ、梅雪。採るのが難しい万病の花を手に入れられるとは」
「採るのは簡単でした、父上。たまたま城下町で見かけた商人が売ってくれたのですよ」
梅雪は得意げな顔で、父や武田の者達に褒められた。
(ふん、馬鹿なモトスは今頃、花が採れなくて泣きながら甲州街道歩いているだろうな)
梅雪が嫌らしく笑っていると、勝頼の寝室に誰かが入って来た。梅雪と信友はその少年を見て不快になった。
「騒々しい野生児だな。花はもう息子が摘んできたぞ」
「勝頼様、万病の花で虹の薬を作りましたずら!!」
「戻ったか、モトス!!」
信玄や武田の者達はモトスの生還にホッとしていた。モトスは笑顔で信玄に虹色に輝く液体が入っている小瓶を渡した。
「なんとも美しい。これを摘むのに大変苦労したろう」
「浅間山の噴火に驚きましたが、飛天族の蕨兄ちゃん・・・蕨殿も一緒に探してくれたから、難なく見つけられました」
モトスは浅間山に封印されていた青年の事も話そうかと思っていたが、今は黙っておいた。
「ほう、滅多にお目にかかれない、飛天族か。モトスと勝頼を助けてくれた事に礼をしたいものだな。きっとお主にまた縁があろうな」
信玄はモトスの頭を撫でた。

その後、信玄は勝頼に薬を飲ませると、直ぐに熱病は治った。勝頼はモトスに礼を言った。
「ありがとう、モトス。あれだけ苦しかった熱が下がって今は気持ちが良いぞ」
「勝頼様、元気になって良かったです!!」
モトスは笑顔で勝頼様に抱きついた。
「調子に乗るな!!野生児!!俺だって万病の花を手に入れたのだぞ!!」
梅雪は2人の間に割り込むかのように、花を差し出した。しかし、モトスは花を見て、横に首を振った。
「それは、良く見ると白い菊を染料で塗っただけずら」
モトスの言葉に、信友や皆は一斉に梅雪に問うた。
「それは真か!!梅雪!!」
「ば・・馬鹿な!?偽物だっただと!!」
梅雪は戸惑い、あたふたとし始めた。モトスは冷静な口調で梅雪に教えた。
「豪商人でさえ偽物を売ると、昌幸が教えてくれたずら。簡単に手に入れるのは難しいずら」
「く・・・」
「梅雪!!高い金使って騙されたうえ、信玄公や勝頼様に恥をかかせおって!!」
「う・・申し訳ございません。父上・・・」
信友はバツが悪そうな顔をし、梅雪の腕を引っ張りながら部屋を出た。モトスは少し気の毒だと思っていた。


その後、鳴沢の森に住むエンザンは信玄から届いた文を読んでいた。内容はモトスの活躍により、勝頼の熱病が治った事の礼文だった。
「そうか、ひとつ成長したなモトス。この者ならきっと、闇に堕ちた森精霊を倒す・・・いいや、救うことが出来るな」
エンザンは、これから現れる強敵をモトスなら打ち勝てると希望を持っていた。


数年後、モトスは少年から青年に成長し、長身で精悍な忍びとなった。
「これから、信玄公は川中島で謙信殿と戦うのか。上杉は軍略も隠密も優れるから、遅れを取らぬよう努めるぞ」
モトス達忍軍は信濃の山道を通りながら川中島を目指した。途中、浅間山が見え、モトスは昔の事を思い出していた。
(そういえば、あれから蕨殿とは会えぬが、またいつか会えるだろうな。それと、浅間山に封印されていた青年も直に目覚めるのかな?)
モトスは未来の事を考えた後、浅間山から目を逸らし、戦場へ向かった。


数年後に起こる武田家の滅亡や、これから出現する強敵など決戦の時が待っている。しかし、頼もしい勇士達と出会い、どんな苦難も乗り越えていく。風の守護者、モトスの活躍はこれから始まる。


                   精霊忍者への道 完



おまけ モトス11歳、武田家で修行している時、仲間達は

桜龍 2歳 赤子時の病で左目は失明しているが、元気いっぱいに隠岐の島で暮らしている。

湘 7歳 母凪沙が海に帰った後、三浦を離れ、相模原の津久井城下町で父真鶴と暮らしている。

球磨 4歳 肥後国の武士の一族で、体は弱いながらも槍の稽古や勉学に励んでいる。

千里 浅間山の鬼押し出しにある氷柱に封印されている。23年後の武田残党狩りで目覚める。
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