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番外編 モトスの話 森の精霊忍者への道

数日後、モトスと数人の少年精霊は、甲府の武田家へ向かっていた。河口湖から御坂峠を抜け、甲府盆地が見えて来た時、皆は辺り一面に広がる桃の花に瞳を輝かせていた。
「良い香りずら〜。これが甲府の桃源郷ずら」
「桃の蜜を飲みに行きたいずら」
うっとりしているモトス達に、エンザンは呆れながら注意した。
「こらこら、甲府散策は信玄公達と会ってからだぞ!」
モトス達は反省し、信玄の居城『つつじが崎館』へ向かった。
数時間後、モトス達は甲斐国の中心部、甲府の町に到着した。エンザンは皆が居ることを確認し、館へ続く城下町を歩いた。森で育った精霊達は商店が並ぶ広い町屋に感動していた。
「これが甲府の城下町・・・大都会ずらー!!!!」
「あんまりキョロキョロしていると、田舎者に見られるぞ。まぁ、俺もだけどな」
そして、綺麗に整備されたお堀と、強固に造られた門の前に着いた時、またまたモトス達は感動していた。
「すごいずらー。オラ達はここで修行するずら!!」
「お前達は、武田家の忍びとして修行するが、それ以外にも兵法や学問も教えてくれるから、軍師を目指すのも良いぞ」
「凄いずら!!おら、忍術も兵法も極めたいずら」
「お前達なら一人前の忍びや侍になれるよ。俺達大人の精霊も、お前達の成長を見守っている」
「よし!!皆んな頑張るずら!!」
『おー!!ずら!!』


エンザンとモトス達は『つつじヶ崎館』に入り、武田信玄と家臣団が待つ大広間で謁見した。信玄は体格が良く威厳とした姿だが、話し方は穏やかで緊張を和らげさせてくれた。
「よく来たな、エンザンと精霊の童達よ。ここにおる森精霊達も立派に活躍しておる。皆に武術や兵法を教えよう」
「信玄公、家臣の皆様、今年も森精霊を立派な忍びや侍として修行させてください」
信玄はエンザンに喜んで頷き、家臣達も朗らかに受け入れた。しかし、1人だけ苦虫を潰した顔をしていた。その人物は武田家24将の1人、穴山信友(のぶとも)だった。
(ん?あのおっちゃん、オラを睨んでいるずら?)
モトスは気のせいかなと自分に言い聞かせながら、信玄の話を聞いていた。


数日後、モトスはつつじヶ崎館の敷地内を覚えるため、屋敷内を散策していた。すると、上質な羽織と袴を着た少年に声を掛けられた。少年は上品で落ち着いた雰囲気だが、年相応の笑顔と明るさでモトスに挨拶した。
「君は、武田家に来た森精霊のモトスだね。父上から話は聞いている。僕は信玄の息子『勝頼』だよ、よろしくね」
「信玄公の御子息、勝頼様!!おら・・いいえ私は、モトスです。よろしくお願いします!!」
モトスは背筋に緊張が走り、声色が高くなりながら自己紹介した。
「肩の力を落としてよ、モトス。僕はまだまだ父上や家臣の下で修行している身なのだから。歳も同じくらいだろうし、かしこまらなくて良いよ」
「勿体なきお言葉を・・・私は来て間もなく、分からないことだらけですが、少しずつ武田家について学んでいきたいとおもっていますずら」
「ふふ、モトスは真面目だな。家臣の子供にも君と同じ歳の子がいるから直ぐに皆と仲良くなれると思うよ」
勝頼が気さくな笑顔でモトスと話していると、モトスと勝頼よりも少し年上の少年に声を掛けられた。少年は紫がかった黒髪と、左耳に濃い紅色の紅玉の耳飾りをしていた。
「ここにおりましたか、勝頼様!!・・・ん?何だ貴様は?」
少年はモトスの姿を怪しげに見た。モトスは慌てて自己紹介した。
「お・・おら・・私は、鳴沢の森から武田家に修行に来ました、モトスです。よろしくお願いします・・・」
モトスはお辞儀すると、梅雪は鼻で笑いながら小馬鹿にした返答をした。
「ふん・・・森で育った野生児か。勝頼様、こんな芋臭い者に声を掛けることなんてありませんよ」
梅雪の失言に勝頼は怒った。
「梅雪!!なんという無礼な事を!!」
モトスも意味を間違えて反論した。
「芋臭い・・・?毎日お風呂に入って、装束も綺麗に洗っているずら!!森精霊は清潔ずら!!」
「・・・天然ボケというのもウザったいな・・・。勝頼様、信玄公と家臣団が集まっております。お急ぎ広間へ向かってください」
「分かったよ・・・梅雪、モトスと仲良くするのだぞ」
「・・・君、梅雪と言うずら?家臣の御子息ずら?」
梅雪はモトスの無邪気な顔を見て、嫌々名乗った。
「・・・信玄公に仕える穴山信友の息子、梅雪だ。良く覚えておけよ、野生児」
モトスは梅雪に改めて自己紹介しようとしたが、背中を向けられそそくさと去ってしまった。モトスは気を落としていると、後ろから同年代位の賢そうな少年に声を掛けられた。
「相変わらず、梅雪は愛想が無いなー」
「君も、家臣の御子息ずら?」
「僕は、信玄公に仕える真田幸隆(ゆきたか)の息子、昌幸(まさゆき)だよ」
「おら・・私は、モトスです。昌幸様、よろしくお願いします」
「ははは、昌幸って呼んでよ。勝頼様も言っていたけど、僕達歳も同じ位だし。家臣やその子供は皆、優しくて良い子なんだけど・・・梅雪だけ浮いているんだよね・・・。モトスに限らず、僕や他の子にも態度悪いから気にすること無いよ」
「そうだったんずら・・・てっきりおらが気に障ることをしたのかと思って、心配していたずら」
「モトスは真面目に考え過ぎるから、もっと軽く考えて良いんだよ。武田家や甲府での暮らしで分からないことや不安なことがあったら相談に乗るよ」
「ありがとうずら、昌幸」
こうして、モトスは勝頼や昌幸と出会い、不安な気持ちが取り除かれ、武田家で修行に励んだ。
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