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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

「・・・ここは?」
絹のような薄紫色の長い髪をなびかせ、涼しげな瞳の女性は無言で辺りを見回していた。千里はゆっくりと若桜に近づき手を差し伸べようとした。
「若桜・・・目覚めてしまったのですね。僕の事分かりますか?貴方と共に戦った千里です」
「千里・・・う゛ぅ・・・・あああああ!!!!」
若桜は千里の顔を見て、何かを思い出そうとしていた。しかし直後に激しい頭痛に襲われ、頭を押さえた。千里はすぐさま彼女の元へ駆けていき、倒れそうになった体を支えようとした。
「私に触るな!!貴様は大芹様達の敵だ!!」
若桜は目にも見えぬ速さで、腰に差している太刀を抜刀し、千里に斬りかかった。千里はとっさに後ろに避けたが、悔しさに胸がいっぱいだった。
「若桜・・・やはり、憎悪の力は消えていなかったのですね・・・・」
「千里・・・いいえ、マガツイノ神様に仇なす賊共。私がここで始末するわ」
若桜は桜の絵が描いてある扇を振り、千里に無数の風の刃を放った。モトスは千里の目の前に立ち、真空波を放ち風の刃をかき消した。
「大丈夫か、千里・・・もし、若桜と戦うのが辛かったら、俺が代わりに相手となる。だから、1人で抱え込むな」
「モトスさん・・・すみません。また助けていただいて・・・魔改造戦士となった若桜は強いです。僕が戦わなければ・・・」
「これは面白くなりましたねぇー。ですが、千里には私の相手をして貰いますよ。若桜ちゃん、森精霊をズタズタに切り裂いちゃってくださいねー♪」
「く・・厳美。貴様らを倒して若桜を自由にさせます!!」
再び、千里と厳美、モトスと若桜の戦いが始まった。
桜龍は若桜が目覚めてしまい、卑弩羅の駒として使われている事に怒りを覚えた。
「もう止めろよ・・・これ以上、千里や皆んなを傷つけるな!!」
桜龍の体からは凄まじい気が放たれ、普段の優しい瞳は、龍のような鋭い瞳に変わった。しかし一方、左目の聖なる龍の瞳は黒く濁っていた。仁摩は彼の今まで感じたことが無い異変を止めようとしたが、球磨と湘に止められた。仲間と魔改造戦士達は驚き見ていたが、朝霧は表情を変えず様子を見ていて、卑弩羅と黒羽は喜んで見ていた。
「ほう。力を呼び起こしたか」
卑弩羅は桜龍の姿に感心していた瞬間、目の前に稲妻を帯びた刃が現れた。桜龍が彼を斜めに斬ろうとしたが、寸前で卑弩羅の太刀で止められた。
「力も速度も数段に上がっているが、それでも私の敵ではないな」
卑弩羅は受け止めている剣を振り払い、桜龍を吹き飛ばした。しかし桜龍も直ぐに体勢を整え、術を唱え手の平から光線を放った。卑弩羅は避けること無く素手で光の力を感じていた。
「マガツイノ神様と互角にぶつかり合うには、まだ力は足りぬな」
「そのマガツイノ神とやらを復活させる前に、貴様を倒してやる!!卑弩羅!!!」
桜龍はひたすら卑弩羅に剣撃を繰り出した。桜龍は卑弩羅を倒す事だけが脳を支配していた。敵の動きを止めている球磨と湘は桜龍の力の暴走に驚愕していた。
「これが、聖なる龍の力か・・・」
「だが、悪い方向へ行っているな・・・卑弩羅は全く焦っていない。むしろ奴の思うつぼではないか」

「これ以上は卑弩羅様の手を煩わさぬ。私が相手だ!!」
大芹は異形の腕を桜龍に振り上げ、切り裂こうとした。
「邪魔をするなー!!貴様のような極悪非道の魔改造戦士、成敗してやる!!」
桜龍は大芹の腕を払い、彼の側頭部を掴んだ。すると大芹の左傷が熱を帯び苦しみ始めた。その時、桜龍は脳裏に幼い少女と男の叫び声が聞こえた。
「父ちゃん!!熱いよー!!苦しいよー!!」
「止めてくれー!!芹美は傷つけるな!!」
皮膚が腐りかけた男が少女を抱き抱えながら、炎に包まれている姿が映った。桜龍は我に帰り、手を離した。
「これは・・・俺は何を。あの光景は・・この間見た・・・・」
「お・・おのれー!!よくも俺の顔を醜くしてくれたな!!」
大芹の顔は左の傷跡から火傷の痕が剥き出しになっていた。大芹は顔を片手で隠しながら桜龍を殴り倒した。
「く・・・」
桜龍は気を失い、卑弩羅の前に倒れた。卑弩羅は闇の力を桜龍に当て、苦しめた。球磨と湘は卑弩羅に攻撃しようと向かったが、同じ技を喰らい吹き飛ばされた。
「所詮、覚醒したところでこの程度か。聖なる龍を扱えるのではなく、暴走しただけか」
卑弩羅は冷たい目線を桜龍に向けていた。
「大芹、奴らの始末は任せる。もう私はここに居ても無意味だ。帰るぞ、朝霧」
「かしこまりました。モトス、貴殿がいくら世のために力を奮っても無駄だ」
「く・・・待て・・」
モトスは朝霧に風の刃を放ったが、若桜の太刀さばきで消されてしまった。そして、卑弩羅と朝霧は闇の中に消えていった。
「貴様の相手は私よ」
若桜は再びモトスに速く鋭い剣撃を繰り出した。千里は若桜の攻撃を止めようとしたが、厳美の大鎌や影から出る刃が妨害し、苦戦していた。
「桜龍の覚醒は暴走して無意味でしたねぇ。まぁ、大芹さんには気の毒でしたが」
「・・・卑弩羅に桜龍が覚醒するのか試したのか・・・」
「そのようですねー。正直、聖なる龍の瞳を奪ってしまえば良いのに、桜龍無しでは意味が無いと言うのですよ」
(卑弩羅は聖なる龍を破滅へ導かせる為に桜龍を成長させていたのか・・・)
千里は歯を食いしばりながら厳美の鎌を受け止めていた。
「桜龍!!貴様は絶対に生かしてはおかぬぞ!!」
大芹は奇声を上げながら倒れている桜龍の腹を蹴り続けた。桜龍は力の暴走の反動か、立ち上がることが出来なかった。仁摩は桜龍を助けようと矢を放とうとしたが、氷雨の水の鞭に縛られてしまった。
「そうはさせないわよ。大芹さんを傷つけたあの坊やには死んでもらうわ」
「く・・離しなさい!!」
「お望みならお嬢ちゃんも坊やの元へ送ってあげる」
氷雨は仁摩の体をキツく縛り始めた。まるで大蛇に巻かれたような感触と苦しさだった。
「やめたまえ!!」
湘は銃口から氷の刃を出し、水の鞭を切り裂いた。そして、仁摩を救出し球磨に託した。
「球磨!!仁摩殿を頼む!!」
湘は素早く桜龍と大芹の間に入り、大芹の腹部を氷の刃で刺し、さらに右目を銃弾で潰した。
「あーあー!!!・・・ゔぅおのれぇ・・」
湘は桜龍を庇うような形で銃剣を連射させた。しかし大芹は片目を潰され、深傷を負わせてもなお平然と立っていた。
「残念だったな。私はこの程度では死なんぞ。だが、私の顔を忌々しい姿にした罪を償ってもらうぞ」
大芹に続き、厳美、若桜、氷雨、豹剛も再び攻撃体制に入った。勇士達は彼らが本気を出すと分かっていた。皆もここで敗れるわけにはいかぬと武器を構えた。高見の見物をしている黒羽は冷たい笑顔で勇士達を眺めていた。
「ふふ、まだ抗うのですね。勇士達。良いでしょう。若桜も目覚めた事ですし、もう少しお相手をいたしましょう」
「桜龍が倒れて、俺達に武が悪いが、平泉や日ノ本を護る為、俺達は戦うぞ!!」
再び刃と魔術がぶつかり合った。
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