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第4章 鬼神の怒りと魔改造戦士の涙

翌朝、千里は遠くに見える栗駒山を見ていた。山を越えた先には因縁の地『平泉』がある。モトスは千里の様子が気がかりでならなかったので、声を掛けた。
「道衡殿を見るなり動揺していたが、何か心当たりはあるのか?」
心配するモトスに、千里は正直にモヤっとした気持ちを話した。
「信じたくはありませんが、彼は藤原泰衡に似ています。平家が滅んだ後、大芹と厳美に毒薬漬けにされ、義経様を襲撃した者です・・・」
「もしかしたら、泰衡が道衡殿の姿で魔改造戦士にされたと思うのか?だが、まだ様子を見なければ解らぬな。この辺りに魔改造戦士が潜伏しているか、見て回ろうか」
モトスは忍び装束に早着替えし、村の内外を見回った。


その頃、桜龍と道衡は居間で話していた。
「そうですか・・・父親は心不全で亡くなったのですね・・・」
「元々、体が丈夫でなかったうえ、無理をして村の為に頑張っていたから、体が限界だったのでしょう」
「医者には見てもらわなかったのですか?」
桜龍は、まさか大芹や厳美の魔の手により被害にあったのではないかと思い、確認した。
「医者は一つ峠を超えた所にしか居ないので、世話にはなれなかったのです」
「道衡さん・・・この村は戦女神を探す輩がもうじき来ます。どうされるのですか?」
「前は村人が追い返したけど、今回は私が彼らと話し合いで解決しようと思っています」
桜龍は頭を悩ませながら、道衡に言った。
「説得して分かる奴らだと良いんですが・・・」
「そうですよね・・・ですが、僕は父のような皆に慕われ、頼りになる村長ではないです。せめて、誰も傷つけ合わず解決したいと思っています」
すると、村長の家の玄関から村人の声がした。
「道衡!!おめぇーも村の侵略者を追い出す様、ガツンと言ってやれ!!」
「おら達はこの村が好きだ!!おめぇなんかいなくったって、おら達が村を守るべさ!!」
「く・・・村人は僕が村長になった事を認めていない・・・」
道衡は涙を堪えていた。桜龍は黙って外に出た。


仁摩と湘は玄関で罵声を言っている村人を落ち着かせていた。
「皆さん!!落ち着いてください!!道衡さんだって、必死に対策を考えておりますよ!!」
「道衡殿は争いが起きぬよう最善の方法を考えているに違いない!!」
大騒動になる前に、球磨が2人の前に現れ、ガツンと言った。
「こんな所でグダグダ言ってねーで、言いたいことがあるなら直接、道衡さんに言えよ!!」
「客人風情が、道衡に肩を持つのか!!道衡は前に発掘者が来た時、何もしなかったんだぞ!!」
すると、桜龍が玄関から出てきて、冷静に説得した。
「球磨の言う通りだ。道衡殿はまだ村長になって迷いがある。皆で助け合うべきだと思う」
「だが・・・道衡はまだ未熟・・・」
「未熟だからこそ、皆で手を取りあい、助け合おうぜ。大丈夫だ、俺達も村を護るから」
「桜龍・・・」
村人は桜龍達の説得で帰っていった。


夜、道衡は廊下を歩きながら深く悩んでいた。
「やはり、争いになるならこの村を手放すべきか、村人と協力して発掘者を追い払うか・・・」
道衡がこれからの事を悩んでいると、後ろから妖気を感じ振り向いた時、口を塞がれた。
「静かにしてくださいねー。私は貴方を暗殺しに来た訳ではありません」
「だ・・誰だ・・・」
道衡は問おうとしたが、先に男が耳元で囁いてきた。
「貴方には藤原泰衡サマの面影を感じさせます。もしかして、生まれ変わりとか?」
厳美はあたふたしている道衡を無視し話を進めた。
「戦女神を探しに、発掘者が来ることを心配されていますね。村を手放すか、村人と共に戦うか。それなら、この薬を差し上げます。あなたは、村長の重圧から解放されますよー」
男は黒い液体が入った小瓶を彼の懐に入れた。すると、小刀が彼に飛んできたが、男は素手で弾いた。
「貴様は!!厳美!!道衡殿に何をしている!!」
千里は鎖鎌を構え、桜龍は太刀を抜き戦闘態勢に入っていた。
「これはこれは千里君と桜龍君、お久しぶりですねー。私はただ道衡さんの相談に乗っていただけですよ。今日のところは見逃してくださいよ。村で騒動を起こしたくはないでしょう?」
千里は鋭い目を厳美に向け、怒りがこみ上がっていたが、周りの気配を察知した桜龍に止められた。
「・・・千里。この村は魔改造戦士に囲まれている・・・。気持ちは分かるけど、今戦ったら村人も巻き込まれる」
「賢い選択ですねー。安心してください、ここで私を見逃してくれれば、魔改造戦士達も村から出て行きますから」
「厳美・・・貴様は絶対に許せない・・・次に会った時は、一切の容赦はしませんよ」
「ふふ、勇士が揃ったところで私達には勝てませんよ、千里君。では、私はこれにて」
厳美は闇の中に消えた。千里は真っ先に道衡の傍に駆け寄った。
「道衡殿!!厳美に何かされましたか?」
「あ・・・千里殿と桜龍殿・・・今の男は・・?」
道衡は小瓶を渡された事は隠した。桜龍は険しい表情で厳美について説明した。
「あいつは、東北を闇に染めようとする魔改造戦士だ。おそらく、道衡さんをそそのかそうとしたんだろう」
「そうだったのか・・・僕の事を藤原泰衡に似ていると言われたのだが、奥州藤原氏は鎌倉時代前に滅びたから、子孫は居ないかと・・・」
「いいや、藤原氏の生き残りが鳴子に村を建てたそうだよ」
湘も異変に気づき、銃剣を装備し現れた。彼は村の老人から鳴子の伝承を聞いていたようだ。すると、モトスと球磨も現れた。
「今さっき、村に潜んでいた魔改造戦士を退治した。その時、明日に発掘者共が襲いに来ると言っていたぞ」
「おそらく、明日は厳美も現れるかもな。魔改造戦士共はモトスのダンナと倒したが、まるで倒されることを前提とされた捨て駒のように見えたぜ・・・」
「魔改造戦士は生産され、壊され、また生産されの繰り返しです・・・」
湘は少し青ざめた顔で言った。
「何ともおぞましい・・・根源を倒さなければ無限に湧いてくるな」
「とりあえず、居間に戻って話そうぜ。仁摩殿も心配している」
桜龍が動揺している道衡に手を貸していると、彼は細い声で返答した。
「・・・そうだな、そうしよう」
(あの時と同じ眼だ・・・道衡殿に泰衡と同じ迷いがある・・)
千里は泰衡の迷いの瞳を思い出していた。

仁摩は厳美が館に現れた事に驚いたと同時に、皆の無事にホッとしていた。
「宣戦布告をされたのね・・・明日本当に村を襲いに来るのかしら」
「上等だ!!迎え撃ってやろうぜ」
球磨は気合い満々だった。一方、湘とモトスは相手の出方に疑問を抱いていた。
「しかし、厳美の目的が分からぬな。わざわざ襲撃を言いに来るとは。もしや、私達が平泉へ行く前の足止めか?」
「いずれにせよ、明日は戦いになるな。敵がどう出るか、警戒しなければな」
「・・・ああ。村人を傷つけさせない」
道衡の声は少し震えていた。千里は今度こそ、彼が闇に引きずり込まれないよう、護ると決意していた。
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